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 利き手を骨折した。
 理由は簡単明確。
 車に轢かれそうにな少女を助けるため、車の前へ飛び出し。なんとか、少女は
手首を捻挫したが、他には怪我もなく。少女はもとより、その両親、轢きかけた
運転手からも感謝された。
 その時は怪我したものの、人から感謝され、謝礼金までもらい。随分良い気に
なっていた。少女の代わりに跳ねられてよかった、とすら考えていた。
 たまには良いこともするもんだ、とも。

――しかし、一つ、重大な問題があった。

 利き手が使えない。
 それはつまり様々な不便が強いられるのだが、その中でもオナニーできない事
が一番辛い。
 禁オナニーが始まってから約一週間――既に限界近い。
 三日前より夢精が続き。ちょっとしたことで勃起する。
 左手で抜こうとしたが上手くいかず、我慢汁がダラダラ流れて畳を汚すだけ。
一週間前まで毎日していた反動か、女の味を知らない俺の息子は、オナニーしろ
と分かりやすく俺に訴えかけてきている。
 それを聞いてやりたいのも山々で、今にも爆発しそうな股間の健康面を考えて
やるなら。
「よし、ソープへ行こう」
 ジャケットを羽織って、財布を掴み――絶望した。
 溜まってた家賃光熱費払って、財布の中身は飛んでいっていたことを思いだし。
俺は絶望した。
 金が無いわけではない、ただ、使えば。あっさり餓死している未来の俺が見え
る。
「ハハ……ハハハ」脚が崩れ、その場にしゃがみこむ。
 股間がきゅんきゅんと疼いていた。
 そんな時だ、ヤツが現れたのは。
 ドンドンドンッ、ドンッ。
「――おわぁっ!?」
 今時珍しい木製の扉が、破壊されそうなほど荒々しく叩かれ、
「ちわー、宅配でーす」暢気な声が怒鳴ってきた。
 チャイムあるんだから鳴らせよとは思いながら、立ち上がり、開けてやると。
そこには街を歩けば一人は居そうな、Tシャツジーンズ姿の女が立っていた。―
―高校生くらいだろうか? それにしては顔つきは幼い。
 不思議と既視感を覚える顔だった。
 まあそんなことは良いとして、「宅配って?」聞くと。
 ヤツは躊躇いもなく
「あたし」
 なんて言ったので。俺は軽やかに笑い。
「間に合ってます」
 迷い無く扉を閉めた――閉めようとしたが、扉と枠の隙間に足を差し込みやが
った。チッ、場慣れしてる。
「ちょ、ヒドくない? こんな仕打ちないって、ちょ、ちょお」


 ただでさえ、こっちは利き手を使えないというのに。女と思いたくないほどの
力で、開けようとする。
「悪いけどデリヘルは頼んでない」
「ハァ? あたしが商売女に見えるっての?」
 俺は躊躇いなくうなづいた。
「多分、住所間違ったんだろ。な?」
 手の平に汗が滲んできた。
「間違いじゃないって、あたしは――」
「なら、なんなんだよ。宗教勧誘なら余所へ行け」
「――禁断少女」先ほどとは打って変わった、妙に落ち着いた声でヤツは言った。
「禁断症状?」俺はああと納得し、「悪いがクスリなんざ、俺はやってない。金
ないんでね」
 その時、フッと扉の向こうから力が消え「あわわ」俺は勢いそのまま、扉の外
へと投げ出された。
 そこには誰も立っていなかった。
「なんだよ」
 あの女は去ったらしい。
 憤慨するように舌打ちすると、部屋の中へ戻り鍵を閉めた。
「ったく、なんなんだよ」
「まったくね」
「ああ、ホントホント……で、どこから入った」
 ヤツはそこにいるのが当然のように、ウチの数少ない高級品であるテレビの上
に腰掛け、ハーゲンダッツを食べながら。馬鹿にするように笑った。
「じゃあ、自己紹介からするね」駄目だヒトの話聴いてねぇ「あたしは禁断少女」
「……そうか」俺は頷き、ツカツカと近寄る。
「そう。八百万の神ってヤツよ。平伏なさい、この粗チン」
「ああ」女の手からハーゲンダッツとスプーンを奪うと、うず高く積まれた雑誌
類の上に置き。
「まあ神っていうより、守護霊みたいなもんだけど。同じ名前でも、様々、多様
な姿を持ち。一つとして同じ性格のない。キミだけの禁断少女、それがあたし」
「なるほど、ちょっといいか」
「んー? なになに――キャッ」
 俺は頭のオカシイ女を抱えあげると、「お姫様だっこだぁ」と喜ぶ女を、部屋
の外へ放り出し、再び鍵を閉め、チェーンをかける。
「よし」
 これでもう入ってこれないと安心して、振り返ると――居た。
「どこから……というより、どうやって入った」
 俺の疑問にも、頭のオカシイ女は電波な答えを突きつけてきた。
「キミの心から」――意味分からん。
「で、話の続きだけどね。あたしたち禁断少女の役目は一つ」女は形の良い小鼻
をぷくっと膨らませ。「キミを堕とすこと」
「…………」どうやればコイツを追い払えるんだろう?
「あっ、わからないって顔してるねぇっ」


 ああ、わからないね。
「でも安心して、チャチャッと済ませちゃうから」
 説明になっていないのは気のせいでないだろう。
 だが、一つわかった。
「つまり、その、なんだ。なにかしたら、帰るんだな?」
「イエッス!」
「で、なにしたら帰ってくれるんだよ。俺が手伝わなきゃいけないことか?」
 女は首を振り、「ベッドに座って」と指示してきた。どうやら傍観していてい
いらしい。
 何が始まるのかと考えながら、ベッドに腰掛けると。
 直後。
「んっ……む……」
 口が塞がれていた。
 眼から部屋の風景が一切消え、女のこざっぱりとした顔しか見えなかった。
 唇を割り、熱い物が押し入ってくる。舌に舌が絡み、複雑なダンスを踊る。舌
を伝ってヤツの涎が流れ込んできて、俺の涎と解け合っていく。
 わずか十秒に満たない間のキスで俺の身体は火照り、ヤツは唇を離した。
 俺はなにか言おうとして――なにも言えなかった。
 それをみてかヤツは笑う、この状況を心から楽しんでいるように。
「お前、なんなんだよ」絞り出した声、口端から涎がだらしなくこぼれた。女は
それを舌ですくいあげ、細い喉で嚥下し。
「禁断少女」いった
「キミの欲望を解き放つ存在」ニヤリと猛禽類を思わせる笑みを浮かべ、女――
禁断少女は膝を付き、いつの間にズボンを降ろしていたのか。露出した俺の陰茎
にキスをした。
「キスしただけでこんなにしちゃって、フフッ、中学生じゃあるまいし」
 笑うその声は、まるで獲物をみつけた肉食獣のようですらある。
 逃げるため後ずさりしようとしたが、女は先んじて肉棒を細い手で掴んだ。ど
くんどくんっと肉棒が脈動した。
 次に女が何をするのか、分かった。
「あーん」
 かぷっ、と女は俺の肉棒を口に含んだ。亀頭が女の上顎に触れて、びくんっと
反応し。ざらついた表面の舌の上でみじろぎ、背中を泡立たせる。
「……くっ」
 女の目が笑っている。まるで、「もう出るの?」とでも言いたげに。ゆっくり
と頭を動かし始めた。
 技巧も糞もない、そんなもの必要ないと分かっているかのように。薄いが弾力
のある唇で、熱い舌で、口全体で奉仕してくる。
 突然始まった行為――そして、始まりと同じく唐突に止まった。
 口からこぼれる涎を舌先で拭いながら「……ねぇ」と女は話しかけてきた。柳
眉をハの字に曲げ、目を半眼にして。「ちゃんとお風呂はいってる?」


「はいれるように見えるか?」湿布と包帯とでグルグルに巻かれた右腕を示す。
「そりゃそうか」女は納得したのかしていないのか、唇を尖らせ。「うーん」と
唸りはじめた。
「……なんだよ」
「いや、ね。あのさ。煮沸消毒していい? この汚いの」
「あ?」なにいいやがるこの女。「頼んでもないのに、オマエからしゃぶってき
た癖に」
「だってこんなに臭いとは思わなかったんだもん」
「…………喧嘩売ってるってことでいいな?」
「ハァ? なにそれ、イミわかんない」いいながらも女は手でピストン運動を続
け、俺の陰茎が萎えないようにしている。
 ぐるぐると部屋中を見渡して「あ、そうだ」と置かれっぱなしのハーゲンダッ
ツのカップを手に取った。既に中はドロドロになっている、白色の元アイス。
 それを
「これで少しは臭い消えるかな」
 陰茎へと垂らしはじめた。
「――っ!?」
 小さなカップから落ちる糸のような細い線が、充血した陰茎の先端に触れから
みついて、じっとりと肉棒の上を流れていく。
 熱をもったペニスを冷ますような溶けたアイスの冷たさが、背筋を震わせる。
「な、なにする」
「味付けよ、味付け」
 言うと、女は舌先を突き出し、流れるアイスを舐め始めた。
 こぼさないように舌が純白のラインをなぞりながらも、肉棒にバニラがなじむ
ように擦りつけ。かと思えば、あむっと白液まみれの肉棒を弾力のある唇で挟み、
ちゅるちゅると吸い裏筋を登っていく。濃厚なバニラを堪能する。
 楽しいのかなんだか知らないが、時折「ふふ」と笑い。相好は、おそらく年上
の俺からみても蠱惑的に感じる笑みを、亀頭へ向けている。
 アイスで冷やされた肉棒を、熱い愛撫によってぬるぬると暖めていく。顎、頬
にまでも白液を飛び散らしながらの口淫。小さそうに見える口にすっぽり肉棒を
丸飲み、ずりゅりゅりゅぅと意地汚い音をたててバニラをすすり。口唇で揉むよ
うに亀頭に残るバニラを舐めとり、ごくんっと嚥下する。
 ぺろっと唇に残った濃厚なバニラを舐めとり、小悪魔的微笑を見せ、
「このアイス、ちょっとしょっぱいね」
 俺は顎に垂れるアイスを一滴指先で拭ってやると、その指先をくわえ。
「ああ、……そうだな」つぶやいた。
 欲望が訴えかけてくるような味だった。
 女――禁断少女は男の下心を煽る微笑を浮かべている。俺の陰茎に触れたまま。
「ね、しよっか?」


 なにを、とは禁断少女は言わなかった。
 なにを、とは俺は訊かなかった
 俺は、ただ――

ピンポ――ンッ。

 先ほど存在を無視されたチャイムが、存在を強調するように鳴り。俺たちは同
時に玄関をみて、俺は無視することにした、どうせ勧誘の類だろ。今はそんなことより。
「出たら」
「……え? いや」
 禁断少女は掠れた笑みを見せた、そんな表情をする理由が俺には分からなかっ
た。
「……いいから、ほらっ」
 手を引っ張られ立たされて、禁断少女が俺のパンツとズボンを上げ、もう一度
掠れた笑みを見せて。「またね」生地越しに俺の陰部へキスすると。
 俺の背中を玄関へと押した。
 おそらく禁断少女がやったのだろう、いつのまにか鍵の開けられていた、今更
こんなことでは驚かないが――しかし。
 背中を押された勢いそのまま、俺は玄関から飛び出した。そこには、一人少女
が立っていた。
 バニラ色した半袖のワンピースを着た少女が、立っていた。その手には俺でも
知ってる生チョコで有名な洋菓子店のロゴが入った紙袋。
「……君は」
「あの、私。その、助けてもらったお礼がしたくて。えと、だから、その……」
 不思議と既視感を――ああそうだ、助けた女の子。
「うン?」
 違う、いや、違わないけど。――けど、でもどこかで……
 俺がいくら待っても、二の句は来ず。どうしたのだろう? と少女の顔を覗く
と。少女の視線が一点へと集中していた、俺の股間へと。
「え、えぇと」まさかこの子も……なわけはなく、少女の身体が俺の声に反応し
びくりとする。
 湯沸かし機のごとく一気に顔を真っ赤にすると、少女は言った。
「あの、それ」
「あ、ああ、これ? これは、アイスこぼしちゃって」
「そうなんですか」
 少女はなにごとか思案し、躊躇いがちにいった。その瞳は雨に濡れた太陽のよ
うに精一杯に輝いている。
「洗わせてください」
「……え?」
「洗わせてください」そういって少女は頭を下げた、白いうなじは、まだ少女の
ソレだった。「お願いします」
 突然の事態に俺は困り。
 困り果てて、俺の心から来たとか抜かしたあの――を振り返った。
「……あれ」
 そこには、誰もいない。
 一人暮らしの部屋にはほかにだれもいなかった。
 頬をぽりぽり掻きながら顔を戻すと、対の太陽がのぞき込んでいた。

 その相好に、何故か既視感を覚えた。

fin