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 前

「で、君がここにいる理由は?」
 恭子は平坦な声で呟いた。
 彼女は自分の机に向かっていて、彼は床に座っていた。
「家にクーラーないの知ってるだろ」
 彼の位置からだと、彼女のデニムスカートが絶妙な丸みを帯びているのがよく見える。
「知らないわ」
 ロングヘアーが左右に揺れる。
「ないんだ。で、家にいられないからこうしてクラスメイトの好意に預かろうと思ってさ」
 彼の家から徒歩十秒。お隣さんと言った方が分かりがいいだろう。もっとも、彼女の方が三年前に越してきたから幼なじみではない。
「私、隆也くんとクラスメイトだったの、去年だったと思うのだけれど」
「……あのさ。同情してくれない?」
「無理ね」
 そう言いながら出て行けと直接言わないのは、彼女なりの優しさなのか、それともただ面倒なのか。
「その。ここにいていいか?」
「君が勝手にそこにいるんでしょ」
「う」
「まあ、いいけど」
 くすりと笑って、恭子は椅子を回して彼の方を向いた。
「あ」
 そしてもう半回転して元の位置に納まった。
「お前……何してんの?」
「宿題」
 彼は首をかしげた。
「椅子にのって一回転するのが宿題か。おもしろいな」
「見たくせに」
「はあ?」
 会話が途切れる。
 ミーンミンミン。
「麦茶取ってくるわ」
 彼女はいきなりそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
「へんなの」
 彼は呟き、ふと目にとまったデスクトップパソコンの画面をのぞき見ようとして、
「パソコン、見たら駄目よ」
 引き返した彼女の一言で、硬直した。
「ごめん」
「……」
「ごめんって」
「帰って」
「はあ?」
「いいから帰って」
「えっ、ちょっ、ホントに?」
「見たでしょう」
「え、いや、見ようとはしたけど見てないって」
「嘘」
「何で嘘つくんだよ」
「だって、」
 彼女は続きを言えなかった。
 パソコンの画面にあるテキストに書かれているのは――
 彼女の逡巡を、彼は見ていられなかった。
「分かった、帰るよ」
 彼女は思わず顔を上げ、彼の瞳を見つめようとして、できなかった。
 彼の目は申し訳なさげに伏せられていた。
「あ……」
「言えないことなんだろ」
「……ええ」
「悪かった。いきなり女の子の家に押しかけるなんて、いくら去年よく遊んだからって無神経だったよ」
 彼女も、黙ってうつむいた。
「それじゃ」

 出て行く隆也。階段を下りる音。それも段々聞こえなくなって――

 部屋は、静寂を取り戻した。


 中

 気まずい別れから一週間、温度計が壊れたかと思うほど暑い日々が続いてい
たある日の夜のこと。
 彼が部活から帰ると、部屋には、正座した一人の女の子がいた。
 彼女は襦袢一枚を身に纏い、髪を上げてかんざしで留めていた。年は一つか
二つ上に見える。瞳は、優しそうな深い鳶色。色は少し白すぎるくらいだった
が、その絹のようにしっとりと柔らかそうな肌は彼を蠱惑するに十分だった。
「で、名前も知らない貴女がここにいる理由は?」
 彼女は静かで、それでいて華やかさを感じさせる声で答えた。
「呼ばれたからです」
「呼ばれた?」
「はい」
「誰に、なぜ」
 彼女は優美に眉を寄せた。
「それが、わたくしにも分からぬのです」
「はっ?」
「わたくしは、禁断少女と呼ばれるモノです。わたくしをお呼びになるのは通
常、その、精を溜められた殿方ですので、慣例に従えば隆也様が私をお呼びに
なったはずなのですが……」
「が?」
「お見受けしたところ、隆也様は、あの、それほど精をお溜めになってはおら
れぬ御様子ですので、わたくしも困惑しておりました所なのです。……隆也様
のご質問にもお答えできぬぬような、不出来な娘で申し訳のうございます」
 彼女は深々と頭を下げた。
「いや、それはいいんだけど……」
 彼は、急速に彼女に引かれていくのを自覚していた。惹かれていくのではな
く、引かれていく。
 ごくりと、のどが鳴る。
 目の前の、真っ白な肌がひどく劣情を刺激する。
 普段の彼からは想像もできないほど――事実彼自身驚いていた――乱暴な気
持ちが、この一個の芸術品のような娘を滅茶苦茶にしてやりたいという気持ち
が、沸き上がってきていた。これも、禁断少女の効果なのかも知れない。
「隆也様? どうかなさいましたか?」
 彼女の声が震えていた。
「しようぜ。こういうこと、しにきたんだろ」
 彼は乱暴に彼女を抱きかかえ、そのままベッドに横たえた。
「あっ、隆也様、お戯れを」
 瞳は震え、身体はどうしていいか分からないかのように固まっている。
「さっき、男の精が溜まっている時に呼ばれるって言ってただろ」
「あの、それはそうなのですが、毎回わたくしは、わたくしをお呼びになる殿
方の好まれる姿に変わって参上し申し上げるのです。なので、このわたくしで
殿方と伽をするのは、その、初めてなのです」
 怯え怯え、彼女は言葉を紡ぐ。
 が、彼の目にはそのつややかな唇しか映ってはいなかった。
「隆也様に、大事にしていただきとうございま――んっ!?」
 彼は彼女を抱きしめるといきなり唇を奪い、そのまま舌をつっこんだ。
「んっ、んぁっ……ふぁ、んんっ……」
 瞳をギュッと閉じて、まつげを震わせながら、彼女は健気にそれに応える。
「ん……ぷはっ……美味い」
「あ……」
 彼女は頬を染め、目を伏せる。
 その仕草に、心臓がドクンと強く拍を打つ。
「脱がすぞ」
「あ、隆也様、お待ち下さいまし、それは」

「うるさい」
 腰のあたりで結ばれていたひもを解き、ばっとはだけさせる。
 彼女はその均整のとれた美しい裸体を隠そうとするが、彼は両手を掴んで開
かせる。
 目の前に咲く、誰も汚していないまっさらな肢体。
 その白さ故か、羞恥に震える彼女の身体は美しい桜色に染まっていた。
「……恥ずかしゅう、ございます」
 まともに目を合わせられないのか、彼女は真っ白だった頬を上気させ、顔ご
と背けて呟いた。
「綺麗だ」
「いやです、おっしゃらないでくださいまし……っ!?」
 彼は、彼女の標準より少し控えめくらいの胸の先端を、いきなり口に含んだ。
「あ、あ、隆也様、いやです、んっ、いや、です……」
 舌で転がし、つつく。
「っ……んっ……」
 彼女は、襦袢の襟のあたりを噛み、声を殺していた。
「声を聞かせろ」
 びくん、と彼女の身体が震える。そして、一瞬だけ縋るような視線を送った後、ゆっくりと口を離した。
「いい子だ」
「あ……勿体なきお言葉、有難うございまひぁっ!」」
 彼女の至福の笑みは、その原因によって打ち砕かれる。
「あっ、ああっ、やっ、ああっ!」
 大きな声を上げてから、カアッと顔が赤くなる。
「いい声だ」
「……そのようなことをおっしゃられては、んっ……困ります」
「なぜ」
「声を、我慢できなくなります……」
 顔を背けたまま、震える声で彼女は言う。
「可愛いな」
「隆也様……んっ」
 唇を重ね、下半身にも手を伸ばす。
 さわさわと茂みをいじる。
「んっ……んっ、ふっ」
 恥ずかしいのか、瞑った目を更にぎゅっと強く閉じる。
 そして、彼の指が彼女の女の部分に到達すると。
「んっ、ぷはっ! そ、そこはっ」
「ここでしないと、終わらないだろ」
「い、いえ……その、私が隆也様の精を、どのような手段であれ抜いて差し上げれば、それでよいのですが……」
「ふーん?」
「あっ……」
 指を入れると、くちゅっと音がした。既に濡れていた。
「いいのか?」
 細かく出し入れし、時折くすぐるように壁をなぞる。
「あっ、んっ、あっ、たっ、隆也、様っ……おっ、おやめくださいっ……!」
 敏感に身体を震わせ、とろけた瞳で隆也を見つめる禁断少女。
「あっ……ああっ、いやっ、いやです……んぅあっ!」
 中指で膣をいじりながら、親指で陰核を軽くつつくと、彼女は途端に大声を出した。
「あ……」
 未知の感覚だったのか、呆然と自分の口を押さえて顔を赤くしている。
 彼は笑った。
「もっと弄ってやるよ」
「そ、そんな、どうか、どうかお許しをひあっ!?」
 ビクンッっと震える身体。彼はそれを押さえつけるように身体を密着させ、責め立てる。
「ああっ! ひうっ、んっ、は、あっ!!」
「聞いてるだけで犯したくなる声だな」
 耳元で囁く。すると、彼女を責め立てている手にとろりと愛液が垂れてきた。
「お前、犯されるって聞いて興奮したのか」
 のぞき込むと、彼女は顔を背ける。
「あっ……ああっ! そっ、それはっあっ……!」
「答えろ」

「あっ、たっ、隆也様っ、おっ、お許しっ、あっ、お許し下さいっ……!」
 既に答えているようなものだったが、あえて尋ねる。
「答えろ。目を逸らすな」
 一度愛撫の手を止め、背けられた顔を無理矢理正面へ向けて、彼は言った。
「あ……その……は、い」
「どんな風に犯されると思った。言ってみろ」
「い、いえ……そこまで思い至ってはおりませぬ……」
「じゃあ、どうやって犯して欲しいか言ってみろ」
「え?」
「お前が、俺にどうして欲しいか言ってみろ。さっきからイヤイヤ言ってるんだ、希望があるんだろ?」
「いえ、そんな、滅相もございませぬ……隆也様が気分を害してしまわれたならば、もう二度といやとは」
「うるさい。言え」
「あ……あの……その、恥ずかしゅうございます……」
「お前は俺の言葉を拒否するのか?」
「あ……いえ、その」
「言え」
 びくりと身体が震えた。
「……はい」
 彼女は目を逸らして、ぽつぽつと言葉を漏らし始める。
「隆也様は……わたくしをそっと抱きしめてくださって、それからわたくしの髪を梳り、くちづけをしてくださいます。それから、怖がっているわたくしの背中を撫でて安心させてくださって、微笑まれて……」
 夢見る彼女を遮って、彼はぽつりと言った。
「お前、さ」
「は、はい」
「なんでここにいるんだ?」
 途端に、彼女の顔に後悔が走る。
「も、申し訳ありませぬ、わたくしは決して、隆也様に不満があるなどというわけでは」
「言うな、分かってる。お前は嘘をついていないだけだ」
「申し訳、ありませぬ」
「謝る必要はない。俺は俺のやりたいようにお前を犯す」
 言って、彼は彼女を見た。彼女も、じっと目の前の男を見つめる。
 わずかな沈黙。
 静かに、彼女が目を閉じた。
 彼の手が動く。
 胸を荒々しく揉み、先端を抓り、押し潰し、責めたてる。
 膣に指を出し入れし、陰核を転がし、跳ねる身体を押さえつける。
 響く女のあえぎ。息づかい。乱れる髪と、飛び散る汗。
 やがて二人は繋がり、刹那の交歓を繰り返す。
 何度も何度も。
 それだけで己を満たすように。
 それだけで全てを埋めるように。
 二人の空虚な繋がりは、いつ果てるとも知れず続いていった。

 次の朝彼がまどろみから醒めると、彼女は消えていた。
 彼の脳裏に残る彼女の胸の柔らかさ、すべらかな腰のライン、尻の揉み心地、あそこの具合、そして涙。全て、夢幻のように感じる。
 だというのに、苦しい。
 繋がっていた気持ちよさと、それを越えて余りある虚しさが消えない。
 優しい交わりを求めた彼女と、それを打ち砕いた自分。
 全て受け入れた彼女の微笑み。そして裏に隠された悲しみ。
 全てが彼を捕らえていた。


 後

 あれから四日後。
 いまだ禁断少女のことを思い続ける隆也の元に、恭子が訪れた。
「こんばんは」
 彼女は、いつか彼がそうしたように勝手に部屋にあがってきていた。
「なんだ?」
「つれないのね。この前のお詫びに来たのに」
「お詫び?」


「少し前、私が隆也くんをいきなり追い出したでしょう。悪いと思ってたのよ、これでも」
「ああ、そう」
「……元気ないわね。どうしたの」
「さあね」
「……あ、そう言えば……」
 彼女は彼に耳打ちした。
「三日くらい前、誰かここに来なかった?」
 彼の目が驚きに開かれる。
「……お前、なんで?」
「……本当だったのね、あれ……」
「おい」
「あの子、私が呼び出したみたいなの」
「『みたい』?」
「禁断少女って言うんだけど」
「っ!!」
「当たりみたいね。その禁断少女っていうのは、まあ根も葉もない噂みたいな
ものだけれど、『溜まって』いる物書きの元に現れては精を抜いていく精霊と
か妖精のようなものなのよ。それで、実は、私はインターネット上でちょっと
した小話を書いていて」
 彼女は言葉を切った。そして、一度小さく息を吸い込む。
「それで……怒られても仕方ないし当然だと思うけれど、私、君をモデルにち
ょっとえっちな話を書いていて」
「はあ? お前ちょっと待てよ」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「まあ……そのことは後でしっかり追求させて貰うとして……それがどうして、
あの子と繋がるんだ」
「その、この前私が君を追い出したとき、ちょうど『そういう』のを書いてる
ときだったのよ」
 彼の脳裏に、普段に比べて妙に冷たかった彼女が思い起こされる。
「勢い余って追い出してしまったのだけれど……その後、私、自己嫌悪でなん
となく『そういう』のからずっと遠ざかっていて。有り体に言えば、『溜まっ
てた』の」
 そして、禁断少女が呼び出された。
「で、なんでそれが俺の所に来たんだよ」
「きっと、私の願いを聞き入れてくれたのだと思う」
「願い?」
「私は、君にとても悪いことをしてしまったと思っていたわ。初めてこっちに
越してきたときから親切にしてくれて、遊んでくれて、守ってくれて……なの
に、この前は、私の我が儘で酷いやり方で追い出してしまった。だから、君に
何か償いをしたいと思っていたのよ」
「償い……」
「そして、四日くらい前だったけれど、本当に辛くて仕方ない日があったの。
それが恐らくは、君の家に禁断少女が現れた日だと思うのだけれど」
「お前」
「つまり、君にどうにかして喜んで欲しいと思った結果として、禁断少女が君
の元に現れた――
「ちょっと待てよ」
「なにかしら?」
「お前さ……都合が良すぎないか」
「そうね、私もそう思う。禁断少女なんておとぎ話――
「黙れよ」
「っ……」
 言葉の強さに思わず目を見開く恭子。
「『禁断少女』は確かに来た。いい女だった。でもな、それでなんでお前が償
ったことになる」
「それは……でも、楽しんだでしょう」
「ふざけるな!」
「え……?」
「あいつは確かに『そういうこと』のための女だったよ。お前の言うとおり、
楽しんださ。けど、虚しいんだよ……あいつは全部受け入れて微笑んで、でも

悲しんでたんだよ。なんか、正直な奴なんだろけど、必死に隠そうとする姿が、
もう笑っちゃうくらい虚しいんだよな」
「隆也、くん……?」
「なあ。禁断少女って呼び出した奴の理想の姿になるんだろ」
「え、ええ。そういう噂よ。とりあえず、もし本当に現れるなら君に迷惑をか
けないような子を、とは思ったけれど」
 彼は、禁断少女の従順な態度を思い出した。
「ああ。あいつは俺の言うことは何でもしたし、させてくれたよ」
「だったら……いいじゃない」
「良くない。あいつは従順だったが、ちゃんと意志も理想も持ってたんだ」
「理想?」
 禁断少女は、優しく抱いて欲しかった。
 誰かの願いを映す存在だとしても。
「俺はしょうがない奴だからあいつの思うようにはしてやれなかった。それは
俺が悪い。だが、勝手にあいつを呼び出したお前にも責任はある。呼び出した
奴の理想の姿になるなら、本当ならどっちもいやな思いはしないはずだった」
「ちょっと、何をそんなに怒っているのよ。たかが禁断少女でしょう」
「たかがでも、今はもういなくても、あいつが泣いたことに変わりはない!」
「……だったとしても、もういない女のことで私に怒鳴るなんて、酷いわ」
「はあ?」
「私は良かれと思って呼び出したの。私は君のために禁断少女を呼んだのよ」
「おい」
「もういいじゃない。もういない女のことにかまけてないで、私のことを考え
てよ」
「え?」
 彼女は一瞬瞳を揺らしたかと思うと、
「私はね、隆也。あなたのことが好きなのよ」
 泣きそうな顔で、そんなことを言った。
「……え?」
「泣きたいのは私の方。隆也とセックスしただけでなく、そんなに隆也の心の
内を占めているなんて。憎い。今はもういなかったとしても、禁断少女が、憎
い」
「元はといえば、お前が呼んだんだろ!」
「本当に現れるなんて思っていなかったもの! 隆也を盗られるなんて……思
っていなかったもの」
 そして、涙が一条、頬を伝った。
「あ……れ? ちょっと、なんで」
 彼女自身驚いているのだろう、両手で何度も目のあたりをぬぐう。
「やだ、こんな、うそ……ごめんなさい……!」
 彼女は、彼の前から逃れようとして、できなかった。
「待てって」
 彼女の手が掴まれる。
「いや、いやよ……離して」
「なんで」
「なんでも何もないわよ……隆也に……こんな私見られたくないの」
「こんな私?」
「嫉妬してっ! みっともなく泣きわめく姿よっ!!」
「お前」
 黒い考えが頭をもたげる。
 そんなことをしてはいけないと心の中で何かが叫ぶ。
 だが、彼の口はその言葉を発してしまった。
「……あの女の代わりになるか」
「え……?」
「俺の禁断少女になれよ」
「ふっ、ふざけないで……なんで、私が」
「お前はそれを望んでいるんじゃないのか」
「なっ、冗談言わないでよ」
「お前は、俺のことが好きなんだろ」
「……そうよ。悪い?」
「悪くなんかないさ。お前、さっき『隆也を盗られるなんて』って言ったじゃ
ないか」
「それが……何よ」
「盗られたなら盗り返せよ」
「なに、言ってるの。もう、貴方なんかもう……」
「もう?」
「い……いら、ないのに」
「本心か? 本当に俺がいらないのか」
「思い上がるのもいい加減になさいよ」
 言葉とは裏腹に、口調は弱い。
「思い上がってなんかいない。お前みたいにいい女に好かれてるんだ」
「褒めたって」
「お前は」
 ぐっと引き寄せ、顔を近づけて言う。
「俺を盗り返せるぜ」
「な、に言って」
「お前は言った。『今はもういなかったとしても、禁断少女が、憎い』と」
「だから?」
「今はもういないんだ。あいつは。お前はここにいる。俺の目の前に」
「どういう、意味よ」
「嘘をつくな。お前みたいに聡い奴が分からないわけないだろ」
「分かったとしても、そんな、あからさまに誰かの代わりにされるなんて……
いや」
「じゃあ、サヨナラだ」
「えっ」
 途端に、縋るような視線を向ける彼女。
「俺は、お前の言ったとおり禁断少女に惹かれている。これは事実だ」
 嘘だった。彼は、禁断少女としての彼女には『引かれていた』に過ぎない。
それは禁断少女としての本能とも言える、男をその気にさせる力の結果だった。
「う……」
「お前が俺の禁断少女になるなら、少なくとも、俺から彼女の幻影を消し去る
ことができる」
「でも……」
「お前は」
「っ……」
「俺が欲しいのか。欲しくないのか。どっちなんだ」
 彼女の目が見開かれ、唇がふらふらと揺れる。
 何かを言いかけ、口をつぐむ。
 そして、数秒か数分かの後、
「……たら」
 彼女は、声だけでなく身体まで僅かに震わせて、その言葉を、口にした。
「もし『そう』したら……愛してくれる?」
「あの女と同じように扱ってやる」
 禁断少女として。
 彼女は一瞬悲しそうに眉をひそめ、しかし、そしてやはり、言葉を続ける。
「……そうすることで、貴方の心からその女が消えるのね」
「お前がそう望むならば」
「なら……私は」
 とん、と彼の胸に響く、少女一人分の重さ。
 しかし禁断少女としての、本来使い捨てであるべき重さ。
「貴方だけの、禁断少女になるわ」
 そこはいつか夢見た場所と同じで、全く違う場所。
 しかし、彼女にとって間違いなく幸せな場所。