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けたたましく鳴り響く警報が、司令室の空気を一変させる。

張り詰めた雰囲気の中、女性オペレーター達がそれぞれの持ち場で忙しなく端末を操り、
あるいは通信の応対を始めていた。
モニターに流れる情報群。ピックアップされ、拡大される地図に赤い光点が瞬く。
「状況報告!」
入り口の自動ドアが開き、カツ、カツ、と急ぎ足の靴音が司令室の一段高い場所へ向かっていく。
「次元レーダーに干渉反応あり。空間歪曲現象と確認しました!」
澄んだよく通る声で、ショートヘアの女性オペレーターが報告する。
「位置と規模は?」
尋ねながら司令官専用シートに腰を下ろしたのは、黒髪をひっつめた知的な顔立ちの女性。豊かな胸を
窮屈そうに制服に収め、強い意志を湛えた瞳が眼鏡の奥で光る。
「D-21番ブロック、臨海工業エリア。範囲レベル“侵略”規模。──歪曲率、更に上昇!
亜空間ホール警戒値、突破します!」
オペレーターの声にも緊迫感がにじむ。
「監視ネットワーク、繋がりました。映像出します!」
別の女性オペレータの声と同時に、司令室の大型スクリーンに映像が浮かんだ。
幾つもに分割され、それぞれに違うアングルで工業地区の街並みを捉えたカメラの映像。その中に
明らかに異様な光景が広がっていた。オペレーターが即座に一つを選択し、拡大する。

まだ昼間だというのに薄暗く、赤く濁った空。太陽も雲も無く、ただ朧に光を透かす血色の天が
画面に広がっている。
その血色を背景に、中空に浮かんで蠢く黒い球体。
否、少しずつ大きさを増す歪なそれは、空間を捻じ曲げ、こじ開けた、異次元へと繋がる“穴”だ。
そして空間に穿たれた穴の中から何かが──巨大な質量を持つ何かが、姿を現そうとしていた。
「……インベーダーめ!」
映像を睨み付け、眼鏡の女性士官は唇を怒りに歪める。
画面に映る周囲の建造物群と比べても、その大きさが容易に見て取れた。
二本一対の鋏を備えた腕。六本の脚。昆虫や甲殻類を思わせる、装甲に覆われた奇怪なフォルム。
異次元から“こちら側”へ送り込まれた侵略兵器──戦闘ロボット!
もはや報告を待つまでも無い。オペレーター達に女性士官が声を張り上げる。
「総員、第一級迎撃態勢! 関係各所に協力要請急げ。クラウンジャー、出撃準備!!」

 * * *

「────ダメだ、これ以上進まん……」
パイロット待機室で自分のデスクに向かい、『伊加須ガイ』はノートパソコンの画面に見入ったまま
腕を組んで唸っていた。
「ぐぉおお~~~! どう考えても本番への取っ掛かりが掴めん! 一体どうすればああぁぁ~~!?」
ついには頭を掻き毟って身悶えする。
書きかけのテキストファイルと睨めっこ状態のまま、既に小一時間。
といっても報告書や論文の類ではない。画面に綴られているのは、歯の浮くような甘ったるい睦言と
ともに繰り広げられる、男女のあられもない性行為場面。
「くそぅ、非番が潰れさえしなければ……やっぱ自分の部屋じゃないと落ち着いて書けないぜ」

地球を守る正義のパイロットの密かな趣味。それは、インターネット上の匿名掲示板で自作のHな
ショートストーリーを発表する事だった。
本当なら今日は貴重な休養日の筈だったのだが、もう一人のパイロットが前回の出撃で負傷したために
急遽出勤と相成ってしまい、現在に至っている。
「こんな事なら、投下予告なんてするんじゃなかった……」
出るのは唸り声と溜め息ばかり。
いかなアレな趣味の持ち主とはいえ、やはり職場でこういうものを書くのには抵抗がある。この部屋に
詰めているのは自分独りきりだが、待機中はいつスクランブルが掛かるかも分からないし、もしも
こんな時に限って書類を抱えた事務の女の子がやってきたりしたら……。
予告期限の焦りも手伝って、まるで創作に集中できなかった。


「…………やべぇ……」
思わず呟きが零れる。きょうの執筆に備えて数日前からオナ禁していたのが逆に災いしようとは。
筆が進まないままあれこれとSSのエロシチュを考えているうちに、いつの間にか不肖の息子だけは
ギンギンにいきり立ち、パイロットスーツの股間を押し上げている。
(畜生、欲求不満が先に立ってSS書くどころじゃねぇ。といって、まさか此処で抜く訳にも……)

「あら、遠慮しないでスッキリなさればいいのに」

背後から聞こえた涼やかな声に、思わず「うわおぅ!?」と悲鳴を上げてガイは振り向いた。

いつから其処に居たのか。
まるで気配を感じさせる事無く、すぐ傍に一人の少女が立っていた。
「────だ、誰だ!?」
驚愕に目を剥いて、ガイは少女に問い掛ける。
その顔に見覚えは無い。少なくとも、この基地の人間ではない。
いや、そもそも少女の身なり自体がこの場にそぐわない物だ。
年齢は十代後半くらいだろうか。
複雑奇妙な紋様の描かれた袖無しの貫頭衣を纏い、ウエストを編み込みの帯で留めた細い肢体。
長い黒髪は途中で幾つかに分けて帯紐で纏められ、顔と腕には刺青かペイントか、衣服と似たような
紋様が彩られていた。
あたかも古代異郷のシャーマンを想像させるような、風変わりな出で立ち。
「君は、一体……? ここは部外者は立ち入り禁止だぞ」
訝りながら、ガイの視線は少女の顔に吸い寄せられる。
つぶらなエメラルド色の瞳と、褐色の肌。
小さく整った鼻筋に、シャープな顎のライン。
東洋系とも西洋系とも判別し難い、けれど間違いなくとびきりの美少女だった。
そして、その少女の見つめる先は……
「さっきからずっと、“ふぇらちお”シーンばかり……おクチ好きなのですね」
「!? うぉわおぉおうっ!!」
モニターのエロ文を読まれているのに気が付いて、慌ててノートパソコンを閉じる。
「だ、だ、だ、だから誰なんだ、君は!?」
ガイの問い掛けに少女はにっこりと笑い、貫頭衣の裾を摘んで淑女のように挨拶して見せた。
「初めまして、お兄様。わたくし、貴方の『禁断少女』ですわ」

「────は?」
唐突な名乗りに、ガイの思考が一瞬真っ白になった。
禁断少女。
彼が頻繁に利用するネット掲示板で囁かれている、一種の都市伝説。
オナ禁して性欲の溜まりまくっているSS書きの元に現れては、射精に導いて去っていくという……
「いや、まさか…………あれは単なる噂話で……」
「“火の無いところに煙は立たぬ”。真実はいつも目の前に──ですわ」
下げていた頭を戻し、再び微笑む。小首を傾げ、軽くしなを作り、どこか男に媚びる妖艶な眼差し。
貫頭衣を押し上げる胸の膨らみの先端に小さな突起のシルエットが浮かび上がり、思わずグビリと
ガイは唾を飲み込んだ。
「さあ、お兄様……」
少女が一歩踏み出し、ガイが椅子に座ったまま身を反らす。その膝に、たおやかな両手が置かれた。
「我慢は身体に良くありませんわ。その溜め込んだ濃い精気、わたくしにくださいませ」
少女の顔が間近に迫り、ガイの目を覗き込む。花のような香りと、膝から伝わる重さと温もり。
髪の毛一筋までハッキリと判別できるその存在感は、決して夢でも幻でもない。
「好きにしていいんですのよ、わたくしのこと。おしゃぶりでも……もっとイヤラシイことでも……」
囁いて、艶やかな唇に人差し指を宛がう。軽くすぼめたその口に、ガイの目は釘付けになった。
甘い声は耳から脳へと染み渡り、勃ちっ放しの股間がズキズキと疼いて──

 

 “ヴイイイイイッ!! ヴイイイイイッ!! ヴイイイイイッ!!”

「!! スクランブルか!?」
突然の警報に、呆けていたガイの思考が呼び戻された。
『コードC発令、コードC発令! 本基地はこれより第一級迎撃態勢に入ります。
クラウンジャー発進準備、クラウンジャー発進準備!』
基地内に響く放送に、反射的にガイは少女を押し退け、立ち上がる。
「あ!? お、お兄様?」
戸惑い気味の声を背に、壁際のシューターへと身を躍らせた。

──シューター。待機室から自機のコクピットまでダイレクトに繋がった、チューブ状の通路。
足元から上へ次々に流れ行く非常灯の明かりを頼りに滑り降り、座り慣れたシートへと“着地”する。
同時に、起動キーをシートの右側のスロットに挿し入れた。

 ──STAND BY──

正面の大型モニターに光が灯り、薄暗いコクピットを照らしだす。同時に周囲のサブモニターや各種
機器類にも電源が入り、足の下から重い唸りが響き始めていた。

『アトランティス・ドライブ』──人類に授けられた、唯一無二にして神秘のエネルギー機関。
侵略者に抗する最強の“剣”、クラウンジャーが、いま目覚める──

「──ぉにいさまぁぁ~~~~っ」
「あん?…………ぐえっ!!」
上から迫る声に見上げた瞬間、落下してきた衝撃が腹に直撃して、ガイが悲鳴を上げた。
「もうっ! ひどいですわ、わたくしを放ったらかしにして!」
ガイの膝の上に横座りになった禁断少女が、“ぷんすか”と頬を膨らませて睨み上げてくる。
「ぐほっ、ごほっ、……こ、コラッ!! なに勝手についてきてんだ!? 今は緊急事態だぞ」
「お兄様こそ、わたくしを呼び出しておいて無視しないでくださいませ」
「や、別に呼び出した覚えは無いし、無視した訳でもなくてだな……
話は後で聞くから、取り敢えず──ひょわぉうっ!?」
首筋に口付けられて、ガイが素っ頓狂な声を上げた。
「呼ばれた以上は、自分の務めは果たさせていただきます。お兄様はお兄様で、わたくしに構わず
お仕事に励んでくださいませ」
甘い香りを狭いコクピットに振り撒きながら、白い指がパイロットスーツのジッパーを引き下げる。
「だあああぁっ! 待て、止めなさい!! んなことされたら仕事の邪魔!」
「あら、そんな事言ってよろしいんですの?」
慌てふためくガイに悪戯っぽく笑って、禁断少女はもう片方の手に持っていたものを差し出した。
「はい、忘れ物」
「!? ヘルメット──そ、そうか、つい気が動転して…」

『ちょっとガイ! なにやってんのよ!?』
正面モニターにウインドウが開き、茶色いウエーブヘアのオペレーターが映った。
『さっさと機体チェックの報告済ませてちょうだい。カタパルトの用意は出来てるんだから』
「それどころじゃない! この子を降ろすから、誰かコクピットハッチの前によこしてくれ!」
ヘルメットを被りながら、ガイはオペレーターに言い返す。
『…………なに、それ?』
モニター内の女性が怪訝そうに眉を顰めるのを見て、ガイはどう説明したものか頭を巡らせた。
その胸板にしがみついてきた禁断少女の頭に視界を遮られ、首を捻って画面を覗きながら、少女の
身体を何とか退かそうと押し合いになる。
「じ、事情は後で話す! 信じてもらえないかも知れないが、この子は普通の人間じゃなくて…」
『はぁ? この子って? それってさっきから一体なんのアホパントマイムなワケ?』
「…………へ?」
『あはは~~。ダメですよぉ、伊加須さん』
新しいウインドウが開いて、縁なし眼鏡にロングヘアのオペレーターが映し出された。
『今はスクランブルが掛かってるんですから。そーゆー悪ふざけはメッ、です』
一見笑顔で優しく語り掛けているが、その目は笑っていない。
(まさか!? 俺以外の人間には、禁断少女の姿が見えてない?)


『ああ、もう! アヤノ、面倒だからこのまま発進シーケンス続行しちゃって』
『はい~。ゲート開放確認、カタパルトロック解除。カウントダウン5、4、3──』
「ちょっ!? 待────」
突然のカウントダウンに、身体が自然と反応する。慌てて飛行翼を展開した直後に、
リニアカタパルトによる垂直方向の加速Gが全身に圧し掛かってきた。
「きゃああああっ!? お兄様! いったい何事ですの!?」
「ぐほあぁっ! 重い! 潰れるぅ!!」
二人の悲鳴とともに、クラウンジャーは基地を飛び出した。

 * * *

巨大な鋏が工場を薙ぎ払い、尖った爪を持つ脚がコンクリートを踏み砕く。
青色を取り戻した空を再び染める、紅蓮の炎。もうもうと立ち昇る黒煙と灰塵。
サソリを模したと思しき侵略ロボットが、工業地区を蹂躙する。
その尾から放たれた光条がガスタンクを貫き、新たな爆発を引き起こした。
「くそっ! 化け物め、好き放題に暴れやがって」
瓦礫と鉄骨の間を駆け抜けながら、若いレスキュー隊員が忌々しげに吐き捨てる。
「うう……」
彼の辿り着いた先には、倒れたボードの下敷きになった作業員と、先輩レスキュー隊員達の姿。
「カッター持って来ました!」
「急げ! 思ったより火の回りが早い」
作業員の口に酸素マスクを宛がいながら、先輩隊員が煙を避けて身を伏せた。
「お、俺のことはいい。あんた達こそ早く逃げないと……あの化け物が、またこっちに……」
白髪混じりの作業員が、酸素マスクを押し退け苦しげに呻く。
「大丈夫だ。大丈夫」
カッターが唸りを上げ、建材を切断し始める。その耳障りな音に負けない力強い声で、数々の修羅場を
潜ったベテラン隊員が作業員を力付けた。
「俺達には、どんな化け物もぶちのめす、どでかい“助っ人”がついているんだ」

 ────ゴオオオオオオオオォォォォ

その台詞を待っていたかのごとく、耳に届く爆音。遠く高く鳴り響くそれは、次第に近く、大きく。
「──来た」
確信に満ちた声でベテラン隊員が頷く。
「来た!」
作業の手を休める事無く、若い隊員が笑みを浮かべる。
「…………おお」
上体を捻って天を仰いだ作業員が、目を見開いた。

今、まさに。
太陽を背に舞い降りる──それは『巨人』。
轟音と共に着地し、『化け物』の前に立ちはだかる。
「あれが…………あれが!」

日輪受けて輝く王冠

胸に翼のエンブレム

雄々しくそびえる鋼の巨躯は

揺るがぬ正義と力の具現

見よ あれが僕らの絶対守護神

スーパーロボット クラウンジャー!!

 

「痛てててててて…………」
「あうぅ~~……」
強制発進のドサクサでシートベルトを忘れていたガイは、着地の衝撃で禁断少女ごとシートから
ずり落ちかけた。
『伊加須さ~ん、周辺の避難と救助がまだ完了していません。戦闘には十分注意してください』
『敵ロボットに過去の該当データなし。武装は鋏と尾っぽのレーザー以外詳細不明。気を付けて!』
敵の姿を映し出す正面モニター。視界の邪魔にならないよう、隅っこに開いたウインドウから
オペレーターが情報を伝える。
「応!!」
ガイはシートベルトを締めながら素早く視線を巡らせた。
正面と左右の大型モニターが、巨神の視点で外界の情報を伝えてくる。周囲の状況を読み取り、
瞬時に頭の中で幾つもの戦闘パターンを組み立てていく。
機体コンディションは正常。オプション武装選択は、周辺被害を極力抑えることを優先して剣と盾。

破壊活動の手を休めていた敵ロボットが、こちらに正対した。
鋏を振り上げ、六本の脚で踏ん張ったまま動きを止める。
「!?」
不意にその背が──正確には機体の前端部分を支点に、背面中央の隆起部分が展開し、起き上がった。
サソリ型の胴体から生えた、それはヒトの上半身を模したもの。
折り畳まれていた細いウエストが真っ直ぐに立ち上がり、上に乗ったT字型の胸部から鋏付きの腕が
伸びている。
そして平たい頭部に不気味に輝く、赤い四つの目。
『あの変形機構は、EU軍の戦車型陸戦機と酷似しておる。敵は我々の技術を吸収しておるぞ!』
男性の声で飛び込んできた通信は、スーパーバイザーを務める博士のものだ。緊張を孕んだその声に、
ガイは左右の操縦桿を握り直し、不敵に笑った。
「ハサミの生え所を高くした程度で、このクラウンジャーに勝てると思うなよ。これ以上テメェの
好き勝手にはさせねぇ……速攻でブッ潰す!!」

 ジジジィ~~~~……

「──ん? のわあ゛あ゛あ゛ああぁァッ!!?」
股間に奇妙なくすぐったさを感じて視線を向けたガイが目を剥いた。
いつの間にか膝から下り、ガイの両足の間に潜り込んだ禁断少女が、ジッパーを開けてナニを
引っ張り出そうとしている。
「うふふふふ。こんにちわぁ」
トランクスの引っ掛かりからブルン、と飛び出したペニスに、少女が頬を赤らめて挨拶する。
「こ、コラ! やめなさい、退きなさい、この非常時にナニを暢気にコンニンチワなんて──」
ガイの気が逸れた一瞬に、敵が動いた。右腕の鋏を大きく振りかぶって突進してくる。
気付いたガイが、こちらも機体を動かそうとするが────
「ど、退け! マジやばいって! アクセルに足が届か──」
『ガイ! なに棒立ちになってんの!?』
『伊加須さんウイング! 飛行ウイング収納してくださいぃ~』
着地してからまだ何の準備もしていなかった事をようやく思い出した。
「クッ!」
ペダルが踏めず、脚部は動かせない。咄嗟にレバーを引いて盾を構えたのと、敵が鋏を突き出して
きたのは殆ど同時だった。

コクピットを襲う衝撃。

「きゃああああっ!」
構えた盾ごとクラウンジャーが弾き飛ばされ、禁断少女が悲鳴を上げる。
「ぎえええええええっ!!」
握られていた肉棒をあらぬ方向にへし曲げられ、ガイが絶叫する。
クラウンジャーの巨体が宙を舞い、背中から仰向けに倒れこんだ。倉庫を押し潰し、土煙が舞い上がる。


「うう……痛いです」
シートごと仰向けに倒れたガイの胸に乗り上げる格好で、禁断少女が身を起こした。
「それは、ほれのせりふらっ!」
鼻血を垂らしながらガイが怒鳴った。ひっくり返った彼の顔面に、少女のエルボーが降ってきたのだ。
「頼むから大人しくしててくれ! 俺の後ろにサブシートがあるから、そっちに座ってじっと──」
「そうはまいりません! わたくしにも“禁断少女”としての責任と矜持がありますわ」
「こんな時にいらんプロ根性発揮すな!!」
股間から飛び出したままのペニスに再び手を伸ばしかけた少女の向こう──モニター画面の中で、
サソリの尾がこちらを向いた。
「ヤバイ!」
機体を起こしている余裕は無い。横倒しのままスロットルレバーを掴んだ。
轟くジェット音。
レーザーが放たれる寸前、クラウンジャーが大地を“滑る”。
まだ展開したままだった飛行用ユニットを使っての緊急回避。青白い光条が、足の下ぎりぎりを
掠めていく。ブースターの推力で機体が引きずられた際に車両を轢き潰したり、ウイングが
煙突やらパイプやらを薙ぎ倒したりしたがこの際そんなことに構ってはいられない。そのまま腕で
上体を起こし、推進ベクトルを上方に向けながら地面を蹴って飛び上がる。

着地し直してウイングを畳み、あらためて正義の巨人は敵と向かい合った。
『周辺区域の避難と救助完了。もう遠慮は要らないわよ、ガイ!』
『あ、でも近くに大型の化学薬品タンク群がありますから注意してくださいね~。ところでさっきから
そちらの通信が“SOUND ONLY”になってますけど、どうしたんですかぁ?』
「い、いやぁ何でかなぁ。ちょっと調子悪いのかなぁ。アッハハハハハ……だからそこ邪魔だって」
『──はい?』
「や、違う。こ、こっちの話。とにかく仕切り直しだ」
クラウンジャーが、盾を持つ左腕を前に半身に構えた。
同時に、敵ロボットも両腕の鋏を肩の高さに構えたまま、互いに隙を窺う。
戦いの舞台に一瞬訪れる、緊迫した静寂──

「もう! この体勢じゃあ、わたくしのお仕事が思うようにいきませんわ」
ガイの膝の間に強引に座らされた禁断少女が、正面モニターを向いたまま唇を尖らせた。
「文句言うな。ここで死んじまったら仕事もナニも無いだろが」
自分の胸に預けられた柔らかな身体にドギマギしつつ、ガイは少女を嗜める。
「いいか、邪魔すんなよ。このまま大人しくしてろよ」
「ぷぅ」
「いや、“ぷぅ”でなくって……」
頭一つ分小さな温もりに、つい我を忘れて抱き締めたくなる衝動をグッとこらえ、
「ええぇい! こうなったら、さっさと終わらせて帰還するぞ! くらえ!」
右の操縦桿を、付属レバーに指を掛けながら前へ倒す。
同時にクラウンジャーが引いていた右腕を突き出し、その肘部分から先が爆発した──否、凄まじい
排気炎と轟音を伴い、肘から先が撃ち出された。
ロケットエンジンの噴射煙をたなびかせ、鋼の拳が砲弾と化して敵の胸元目掛けて跳ぶ。
耳をつんざく激突音と火花。
半人半蠍の敵ロボットは両手の鋏を交差させて楯と成し、拳を受け止めた。だが、巨人のパンチも
その程度では怯まない。しばし互いの押し合う力が拮抗する。
時間にして数秒の力比べは、最後に敵が押し勝った。パンチが弾き返され、ガイが小さく舌打ちする。
戻ってきた腕を肘にドッキングさせようとしたその時、

 さわり。

「うひゃぉう!?」
ペニスを撫でられる快感に思わず変な声が出て、手元の操作が狂う。

 ゴイン!!

帰ってきたパンチが、前屈みになってしまったクラウンジャーの頭に命中した。


「むぅぅ~~……背中の方を手探りだから、うまくオチンチンが弄れません…」
「だーかーら! じっとしてろっちゅうに!!」
のけぞって天を仰いだ機体を戻しながら、ガイが怒鳴った。
「くそぅ、腕! 飛んでった腕はどこ行った!?」
「腕でしたら、あそこに」
少女の指差す方向。可燃性化学薬品タンクの間を縫うようにして、地面に拳がめり込んでいた。
思わず背中を伝う冷や汗。
回収に向かおうと動きかけたその瞬間──
「!!」
クラウンジャーが飛び退いた場所を、青いレーザー光が焼き払う。
「取りに行かせないつもりか」
落とした右腕への進路上に回りこんだ敵ロボットが、尾を振り回してレーザーの乱れ撃ち。
クラウンジャーは素早いステップでビームの軌道を避け、かわしきれない攻撃は楯で防いで隙を窺う。
「ん……しょっと。この格好なら」
「わ!? おい、邪魔すんなって!」
揺れるコクピットもなんのその。戦いに集中しているガイにお構いなしに、禁断少女はもぞもぞと
身体の向きを変えて再び横座りの格好に納まった。
「ふふ。さっきから私に注意してばっかりの割には、ココは正直ですわよ、お兄様」
「!? あふぅんっ」
しっとりと柔らかな手にシャフトを扱かれ、思わず力が抜ける。クラッチレバーの操作がすっぽ抜けて
カクン、とクラウンジャーがその場に膝をついた。
「しまった!」
動きの止まった巨人にレーザーが降り注ぐ。咄嗟にかざした楯も、熱線の一点集中で見る間に
赤熱し始めた。
『シールド温度上昇、耐久限界! まずいわよガイ』
「こっちもすっかり熱くなってますわ。素敵」
「ふうぉぉぉぉ……やめ……やめろって」
細い指が張り詰めた亀頭を優しく包み込み、カリの裏側をくすぐる。気持ち良さに膝が震えた。
「だぁあああ!! こうなったら強行突破だ!」

左腕が火を噴く。レーザーを受け止め続ける楯ごと、残るパンチも撃ち出した。

 ──ゴガンッ!!

完全に意表をつかれた蠍ロボは、ガードもできず真正面から楯の直撃をくらう。背筋が軋みを上げ、
六本の脚がわずかに後ずさった。
だが、意外性の一撃も大したダメージにはならない。
高熱に炙られ続けた楯は激突の衝撃で脆くも大破し、殆ど無傷の敵は再び赤い四つの目で、

 ……いない。

さっきまで膝をついていた筈のクラウンジャーを、一瞬のうちに見失ってしまった。
戸惑うように周囲を見渡す蠍ロボの頭上で、日が翳る。
「でりゃああああああ!!」
見上げた頭を、鋼鉄の足が踏み砕いた。
楯による攻撃は単なる目くらまし。
パンチを撃ち出すと共にダッシュしたクラウンジャーは、敵の頭上高くジャンプして自由落下の
勢いを加えた飛び蹴りを喰らわせたのだ。
更にそのまま蠍ロボの頭部を踏み台にして敵の背後へと再度跳躍。着地と同時に戻ってきた左腕を
ドッキングさせ、
「クラウンソード!!」
腰の剣を引き抜いて、尻尾のレーザー砲台を斬り飛ばした。

 

「やりました、伊加須さん!」
「まったく。最初からチャッチャッと本気出しなさいよ」
鮮やかな逆転劇に、クラウンジャーの戦いぶりを見守っていた司令室が沸く。
だがオペレーター達の歓声をよそに、指揮官席の女性は無言でスクリーンを睨んでいた。
机に両肘をつき、口元を隠すように指先を組んで、眼鏡の奥の瞳が不審そうに細められる。
「どう思うかね、司令」
一段下の席から、スーパーバイザーの博士が口髭を撫でながら問い掛けてきた。
「…レーザーも鋏も、それなりに強力な武装ではあるが──クラウンジャーを相手にするには
いささか決定力に欠ける……博士も同じ考えなのでは?」
「うむ。いまさらこの程度のロボットを単体で送り込んでくる意図が分からん。やはり何らかの秘策が
有るとみるべきであろうな」
「それに、さっきからクラウンジャーの動作が妙にぎこちないのも気になる。一体何が……?」
一抹の不安を胸に、女性司令官は組み合わせた手を解き、背凭れに身を預けた。


返す刀でクラウンジャーがもう一太刀浴びせようとした時、
「お見事ですわ、お兄様! ご・ほ・う・び」
少女の舌が鎖骨をなぞった。
「にゅふほほほほぅ!?」
くすぐったい快感にガイが奇声を発し、剣先は空を切っただけ。
空振りに姿勢を崩したクラウンジャーの胸を、先端を失った尾っぽが打つ。
よろけた隙に蠍ロボは六本の脚で素早く前へ逃げ、クラウンジャーも、身を翻すと右腕を落とした
場所へと一気に駆けた。剣を大地に突き立て、左手で拾い上げた腕を右肘にドッキングさせる。
繋がった腕の動きを確かめるように拳が開き、再び力強く握り締めた。

「よし! 一気に決めるぞ」
「んふぅ。おにいさまぁ……」
ふわり、と一際甘い香りが思考を遮り、少女の手がガイの頬を撫でた。
「わ、馬鹿! 視界を塞ぐなって何回──ど、どうした?」
先程までとは、明らかに少女の様子が違う。
荒い呼吸に潤んだ瞳。赤みの差した頬はまるで熱病のようだ。
「ごめんなさい。わたくし、お兄様の胸に抱かれてオチンチンにご奉仕してたら、なんだかとっても
イケナイ気分になってきちゃって……」
切なげな吐息と共にガイの唇を指で撫で、蕩けるような猫撫で声で

「 し ま せ ん か ? 」

「こんな時にナニを発情しちゃいやがってますか、この娘は~~~ッッ!!」
「あぁん、この狭い部屋が悪いんですぅ。お兄様の匂いが篭って、頭がクラクラしますのぉ」
パイロットスーツの前をはだけ、アンダーウェアの胸元にすりすりと顔を押し付ける。心なしか少女の
首筋もうっすらと汗ばみ、乳首が布越しにポッチリと存在感を増していた。
「ね、お兄様。お願い」
ガイの膝を跨いで座り、少女が正面から顔を向ける。
「ダ~~~ッ!! だから帰るまで我慢しろと……こ、こら、待ちなさい!
メットを脱がすな。首に腕を回すな。そんなに顔を寄せ──むっぷ!?」
桜色の小さな唇に、言葉を封じられた。
「ふぅ、ん……」
甘える鼻声と共に舌が侵入し、柔らかなそれが口内をくすぐる。ふくよかな乳房は胸板に押し付けられ、
むき出しのペニスに当たっている下腹が淫らにくねって刺激を送り続けていた。
「ンーーッ!! ンンンーーーッッ!!」
「ん……ぷぁ……ほにぃさまぁ……」
くぐもった抗議の叫びもお構いなしに、はた迷惑な禁断少女はより激しくキスを求める。


アップでぼやけた褐色の輪郭の向こう。辛うじて見えるモニターの端で、こちらに向き直った蠍ロボの
胸部装甲板が開いた。剥き出しの内部に覗くのは────無数の弾頭。
「!?」
反射的に操縦桿のトリガーボタンを押した。

 ──ヴォオオオオオオオオオオ!!!!

クラウンジャーの頭部バルカンが唸りを上げ、蠍ロボがマイクロミサイル群を一斉発射。
機銃に迎撃されたミサイルが空中で次々と爆発し、二体の巨大ロボの間に無数の炎の花が咲く。
爆風の衝撃が地面を裂き、建物を吹き飛ばし、他のミサイルを巻き込んで連鎖爆発を引き起こした。
が、さすがに全てのミサイルを撃ち落とすのは不可能。
クラウンジャーのボディに、その周囲に、次々と火柱が噴き上がる。
『腹部被弾、装甲ダメージ40%。同じく右脚部、35%!』
『いけません伊加須さん! 化学タンクに引火しました』
正義の巨人の背後に並ぶタンクの一つが、黒煙と一緒に猛然と炎を上げていた。
「まずい! 急いで消火剤を……」
ガイが無理矢理に少女を引き離す。
「やんっ!?」
突き飛ばされる格好で少女がバランスを崩し、正面コンソールに尻餅をついた。幾つものスイッチが
小振りなヒップの下敷きとなる。

 モイーン、モイーン、モイーン
 ギッション、ギッション、ギッション、ギッション
 ピッカアアアアァァーーーーー

突如回転を始める首。その場で屈伸しだす脚部。輝く肩のサーチライト。
『うわわ!? そ、そこに座るんじゃな~~い!!』
そして外部スピーカーから大音量で響くガイの叫び声と、意味もなくワタワタ振り回される腕。
「頼む! その辺のスイッチに触らんでくれ。そ~っと、そ~っと戻って来い」
コクピットのガイの動作に合わせ、虚空に向かってクラウンジャーが手招きする。
スーツ各所のセンサーとリンクして、パイロットの動作をダイレクトに入力・再現する
“トレースモード”が起動していた。
「んもぅ! お兄様の意地悪! 強情っ張り!! そっちがその気なら、こうですわ!」
「にゅふぉあああっ!?」
コンソールに座ったまま手早く革のサンダルを脱ぎ捨てた少女が、ガイの股間に足先を潜り込ませる。
「ふおおおおぉぉぉ……こ、これは……」
「うふふふ。いかがです、わたくしの足コキは。……ああん、お兄様のコレ、凄く熱いですぅ」
ガニ股気味に腰を引いたクラウンジャーが、両手の指をワキワキと動かしながら巨体を震わせる。
蠍ロボはそんなクラウンジャーの動きを警戒してか、その場を動かない。ひしゃげた頭部が傾げられ、
四つのうち一つだけ残った目が明滅していた。

「あらあら、お兄様ったらどうしたのかしら? 手でしてた時よりずっとカチカチで、先っぽから
ヌルヌルしたのが垂れてきてますわよ。クスクス……手より足でされた方が興奮するなんて……
お兄様の、ヘ・ン・タ・イ」
小悪魔のような微笑みを浮かべ、少女が両足の指でシャフトを挟み込む。
「くぉおおおおおああああ!? や、やめ……」
『もたもたしてんじゃないわよガイ!! 消火! はやく消火を!!』
「わ、分かって──ヒュワォエォヤァッ!」
へっぴり腰で燃え盛るタンクににじり寄った途端、股間のメンテナンスハッチがフルオープン。
“じょろろろろ~~”と冷却水が炎に引っ掛けられた。


「何をやっている伊加須ッ!!」
堪りかねた司令官が、デスクを叩いて怒鳴った。
「貴様、今がどういう事態か認識しているのかッ!?」
『す、スミマセンッ!! け、けど、こっちものっぴきならない状態で──アヘェェェッ!』
ビクン、と巨人が身を仰け反らせた。両腕が下へと下がり、不思議なジェスチャーを始める。
「…………い、伊加須さん……?」
「…………サイッテー」
クラウンジャーの掌が、何か丸いものを両手で掴むように形作られたまま股間の前で前後する。
やけに生々しくてリズミカルなその動作は、そう、例えるならば男の竿に口唇奉仕する女性の頭を
包み込むような……
『うぉぉ……そんな……舌でくるみこんで転がすなんて……くぅっ! い、今吸われたら……
アヒィンッ!! らめぇ! そんなことしちゃらめええぇぇっ!!』
スクリーンの中で内股気味に股間を押さえ、イヤイヤと首を振るクラウンジャー。
見たこともない光景にオペレーター達はそれ以上声も無く、ただ呆然と見上げるだけとなっていた。

「あ、あの、その、司令」
それまで殆ど発言していなかった三つ編みのオペレーターが、遠慮がちに口を開く。
「パイロットの──伊加須隊員の脳波と脈拍にかなりの乱れが。発汗量も増大しています」
「博士! いったい何が起こっているんですか!?」
「む、むううぅぅ~~……」
困惑する指揮官の問い掛けに、博士が顔の皺を一層深くして唸った。
「これは……もしや敵は、クラウンジャーではなく中のパイロットに狙いをつけ、精神的に破壊して
操縦不能に陥れようと目論んでいるのでは……」
女性司令の瞳が、驚愕に見開かれる。
「精神攻撃!? まさか……敵はそんなテクノロジーまで有していると?」
「あくまで可能性の話じゃ。だが、もし儂の推測が当たっておるならば、今の我々に
これを防ぐ手立ては無い!」
「────くぅッ!」
焦燥に歯噛みしながらスクリーンを睨む。

 ──どうする?
 クラウンジャーを撤退させ、航空支援を要請するか。
 いや。それでは支援機がクラウンジャーの二の舞となる危険性が高い。
 かといって、陸自の火砲支援では周辺被害が大き過ぎる。
 そもそも精神攻撃の実体が掴めない以上、距離を取ったからといって安全である保証は無いのだ。
 こうして迷っている間にも、状況はどんどん深刻さを増しているというのに──

見守る画面の中で、また蠍ロボがクラウンジャーに迫る。鋏を振り上げ、再度格闘戦の構え。
対する巨人も剣を引き抜いて構えるが、相変わらず腰は引けたままだ。
最初の袈裟斬りは上体を引いてかわされ、続く横一文字斬りは硬い鋏で弾かれる。
そして三の太刀。上段から真っ直ぐ振り下ろした斬撃を、二本の鋏に掴まれた。
「いかん!!」
博士の叫び声に重なるように、捉えられた刀身がへし折られ、砕け散る。
そのまま横薙ぎに振られた腕に弾き飛ばされ、正義の守護者はまたしても大地に引っくり返った。
「ガイ!?」
「伊加須さん。応答してください、伊加須さん!」
舞い上がった土砂が巨人の身体を灰色に染める。オペレーターの呼び掛けにも、クラウンジャーは
ピクリとも動こうとはしなかった。
勝利を確信したのか。
蠍ロボは止めを刺すべくゆっくりと六本の脚で這い寄り、クラウンジャーに覆い被さっていく。

「──ッ!?」
女性司令が息を呑み、苦悩の表情で席から立ち上がった。

 ──駄目だ。いまクラウンジャーを失う訳にはいかない。
 例えどのような犠牲を払おうとも──

支援要請を指示しようと口を開きかけた、その時。

「うろたえてんじゃねぇぇッ!!」

突如響いた大声。
全員の目が声の主を探して司令室入り口を向けば、そこに一人の男が立っていた。
肩から吊られた左腕。右腕に松葉杖を抱え、右足には大きなギプス。頭にも真っ白な包帯を巻き、
満身創痍といった風体でありながら、瞳だけはギラギラと熱い闘志を燃やしている。
「鎌瀬さん……」「ケン? あんた入院してたんじゃ……」
前回の戦闘で負傷した、もう一人のロボットパイロット──『鎌瀬ケン』が、懸命に杖を突きながら
スクリーンに歩み寄っていく。
「この程度のピンチでクラウンジャーは、ガイの奴は殺らはしねぇ。
あいつは、この俺が唯一認めた永遠にして最強のライバル! 精神攻撃だかなんだか知らねぇが、
そんなモンに屈するような奴じゃあねぇ。みんな、あいつを……クラウンジャーを信じろ!!」
「……クラウンジャーを……」
「信じる……?」
じっと見据える瞳に促されるように、オペレーター達は再びクラウンジャーの姿を見上げた。

 

頭が痛い。ズキズキする。
何が起こったんだ、と、朦朧としながら伊加須ガイは考える。

 ──ああ、そうか。あの蠍メカに吹っ飛ばされたんだ。

クラウンジャーが倒れた拍子に後頭部をしこたま打ったらしい。
全高数十メートルの巨体が転倒したのだ。パイロットの身体には、ビルから落っこちたにも等しい
落下速度が加わることになる。いくらコクピットの緩衝機構が優秀でも、ヘルメット無しでは無事に
済むはずがない。

「ふふ……お兄様……」
さらり、と頬を撫でる髪の感触。コクピットに、自分以外の誰かがいる。
シートに固定されたまま無様に仰向けとなっている視界。モニターの向こうには煙混じりの空。
それを遮ってこちらを覗き込む、小柄で優美なシルエット。褐色の肌に、エメラルドの瞳。
少女だ。……なぜ、こんな所に?
「我慢のしすぎで、さぞお辛いでしょう? そろそろイきたいんじゃありません?」
……そうだ。この子は“禁断少女”。突然自分の前に現れて、勝手にスクランブルに付いてきて……。
悪気が在ってか知らずか、散々っぱらに戦闘の邪魔をしてくれて、挙げ句にこの始末。
そういえば、敵はどうなった? 機体の状態は?
「もう観念なさってくださいな。……わたくしが、たっぷりと逝かせて差し上げます……」
禁断少女が淫靡な微笑を浮かべ、首筋に手を伸ばしてくる。
頭が痛い。ムカムカする。もう、考えるのも面倒くさい……。

 

六本の脚でボディを跨ぎ、蠍ロボはクラウンジャーの胸元にまで圧し掛かってきた。
人型の上半身をわずかに屈め、壊れた目が足元の顔を見下ろす。正義の巨人は動かない。
その首に伸ばされた鋏が、開いた。鈍く光る刃はギロチンの如く。人類の“希望”に終わりを
もたらすべく、狙いを定めながら腕を引き絞る。
「ダメェ! 伊加須さん!? 早く逃げてください、伊加須さん!!」
「そんな……嘘でしょう? ガイ!! お願い、応答して! ガイ!?」
悲痛な叫びに、返事は無い。

そして。彼女達に成す術も無いまま。凶刃は、無情に振り下ろされた。

「!? 伊加須さんッ!」
「ガイィィィッッッ!!」
「イヤァァァァーーッッ!!」

 


……全ては、終わった。

人類の切り札・クラウンジャーを以ってしても、インベーダーには抗いきれなかった。

頭を打ち落とされ、四肢を刻まれ、正義の巨人は、ここに息絶える。

誰もがそう思った結末は──────訪れなかった。

 


「ふ……ふふふ……クククククク……」
「お、お兄様?」
少女の両手首を、グローブに包まれた男の手がガッチリと掴んでいた。
鋼鉄の両手もまた、首筋に振り下ろされた刃を寸前で捉え、掴み取っていた。
トレースモード。
ガイの動きに巨人が応え、その目に再び光が灯る。
「……ったく。こっちが下手に出てりゃあ調子ぶっこきやがって、このイタズラッ娘がぁ!!」
血走った男の目が、“くわっ”と見開かれる。
それはまさしく血に飢えた────もとい、女に飢えたケダモノの目だ。
「そういう悪い子には、オシオキじゃあああああああっっ!!!!」

クラウンジャーが、鋏を掴んだ両腕をブン回した。
引っ張られるように相手の重心が右に傾いだところで左半身を跳ね上げれば、あっけなく蠍ロボは
下から掬い上げられて横転する。
『ガイ!?』『伊加須さん!』『信じてたぜ、ガイ!!』
通信機からの歓声も、今の男には聞こえていない。
クラウンジャーは素早く身を起こし、脚をばたつかせてもがく蠍ロボに跳び掛かった。
「なんじゃあ、このエロい格好は!? 年頃の若い娘っ子がノーブラでこんな薄着しおってからに!
誘ってんのか!? 誘ってんだなコンチクショーーーーッ!!」
完全に理性を失ったガイは、コンソールの上に投げ飛ばして押し倒した禁断少女の服をビリビリと
引き裂いていく。いつの間にやらシートベルトを外して、ガブリ寄りのカブリ付き状態。
「いやぁ! ダメッ! お兄様、乱暴なのは嫌ですぅ!!」
「うひゃひゃひゃひゃひゃ! そりゃそりゃそりゃぁあああああッ!!」

 

「……な、何が起きているんだ?」
スクリーンに繰り広げられる光景に、司令官は困惑しながら呟くしか無かった。
それは、格闘戦とも呼べないようなプリミティブな闘争。
転倒して腹側を晒した蠍ロボに馬乗りになったクラウンジャーは、装甲の継ぎ目に指を捻じ込み、
強引に“殻”を毟り取っていく。
あまりに乱暴な遣り口に指先のジョイントが捩れ、顔や胸に返り血の如くオイルや正体不明の青黒い
液体が飛び散ってもお構いなし。凄惨な光景にオペレーターもドン引きする中、めきり、めきり、と
外板を折り曲げ、捻じ切り、引き裂いていく。
鋼の指は時折りあちらこちらと探るように撫でまわし、そして敵の体内から何かを抉り取った。
丸い球状のそのパーツは、心臓の鼓動のようにオレンジ色の光を明滅させている。
クラウンジャーが正体不明のパーツを高々と掲げ、日にかざした。

「おんやぁ~~、この染みは何かなぁ~~」
禁断少女から剥ぎ取った紐パンを、ガイは高々とかざして眺めた。股布の部分がじっとり濡れている。
「このエロ娘め。俺のチンポ弄りながら、こんなにマン汁垂らして興奮してやがったな。ンン~~?」
鼻先に持って行き、クンカクンカと胸いっぱいに香りを吸い込む。
「いやぁん! お兄様の悪趣味! 匂いなんて嗅がないで!!」
禁断少女は恥ずかしそうに両手でポカポカとガイを叩くが、そんなものは痛くも痒くも無い。
「クケケケケケケ! こんな物は、こうしてくれるわぁッ!!」
存分に匂いを堪能したパンツを、シートの後ろへ放り投げた。

やにわに立ち上がったクラウンジャーが、鮮やかなフォームで明滅する球体を放り投げた。
空中高く飛ばされた球体は次第に明滅のサイクルを早め、最高点に達した瞬間────

 ──目もくらむ閃光。轟音。衝撃の余波に、スクリーンの画像もブレる。

「爆弾!?」
「なんと!? 敵の真の狙いは、クラウンジャーもろともの自爆であったか!!」
司令官と博士が、驚愕にシートから身を乗り出した。
「おおう!? インベーダーめ、姑息にも俺がやられたのと同じ手を使ってくるとは!」
「……キミはドジ踏んで誘爆に巻き込まれただけ」
憤るケンに、ショートヘアのオペレーターが冷静につっこむ。
「それにしても、敵の精神攻撃を跳ね返した上に自爆作戦まで見抜くとは……。
フッ……伊加須ガイ。やはりお前こそ、選ばれた戦士だ!」
司令官の口元が、微かに笑みを浮かべた。

クラウンジャーが離れた隙に、蠍ロボが上体と尾を反らせて身を起こす。足元がやや覚束ないものの、
戦意が衰えた様子は無い。槍の穂先のように鋭く構えた鋏をクラウンジャーに繰り出した。
だが、今のクラウンジャーにその程度の攻撃は通じない。
無造作とも思える踏み込みで自ら前へ出ると、軽く身体を捻って鋏を避けつつ敵の懐へ潜り込む。
勢い込んで敵の頭部に頭突きをかまし、そのまま密着した状態で相手の両肘を左右の脇に抱え込んだ。
「そこだ! いけぇ!!」
ケンの叫びに応えるように、

 “オオオオオオオオオオオオオォォンッ!!”

クラウンジャーが咆哮する。
神秘のエネルギー機関『アトランティス・ドライブ』が出力を上げ、巨人の全身に力を漲らせる。
両足がググッとたわめられると同時、蠍の節足が重圧に軋み音を上げる。


 ────ドンッ!!

下肢に溜め込んだ力を一気に解放し、巨人が駆けた。敵の両肘をがっちりと極めたまま、暴れようが
踏ん張ろうが抵抗の一切を力で捻じ伏せ、押し退ける。工業地区を駆け抜け、港の倉庫群を横切り、
目指すは────海。
そしてコクピットでは、
「うへへへ~~。そぅら入るぞ~~。挿入っちゃうぞぉ~~」
「やぁん、やぁん! お兄様、焦らさないでぇ」
禁断少女の太腿を両脇に抱えたガイが、彼女の秘唇にヌルヌルと怒張を擦り付けていた。
アクセルはベタ踏みだ。
「聞こえんなぁ~。そんなに欲しけりゃ、自分でマンコぱっくり拡げておねだり──どわぁっ!?」
ガクン、とコクピットが縦に揺れ、ガイが身体をつんのめらせて正面モニターに顔面を強打した。
タンカー用の岸壁から海へと踏み込んだ途端、その深さにクラウンジャーがバランスを崩して
敵もろとも海中にコケる。
盛大に上がる水柱。

「よしっ!!」
工業地区から敵を排除したのを見届けて、司令が頷いた。制服の懐に手を差し入れて内ポケットから
取り出したのは、シガレット入れにも似た金色の薄型ケース。
親指のワンプッシュで左右に開いた中には、重厚な造りの一本の鍵が収められていた。
同時にデスクの一部がスライドし、モーター音と共に横一列に並んだ五つの“鍵穴”がせり上がる。
キーを手に取り鍵穴の一つに滑り込ませれば、デスク上の端末画面に「CALL PASSWORD」
のメッセージ。
そして、ルージュを引いた唇が開封のキーワードを唱え、同時に錠を回す。
「伍号封印解除! 『ワーク=テッカー』の使用を許可する!!」

 

「あひ……あ……お兄、さまぁ……」
ビクン、ビクン、と禁断少女がアクメに全身を震わせる。
汗ばんだ褐色の肌はうっすらと紅潮し、端正な顔は恍惚に半ば呆けて、口からは涎まで垂らしていた。
そして力なく開かれた両脚の付け根──黒い翳りの下には、桃色の秘肉を割り開いて凶悪な肉棒が
“ぬっぷり”と根元まで捻じ込まれている。
割れ目に擦り付けられていたガイのモノが、クラウンジャー転倒の勢いでそのまま挿入ったらしい。
ずっと焦らされ続けたところを奥まで一気に貫かれ、少女は殆ど失神状態だった。

「……くらぁっ!! 誰じゃあ!? ヒトのお楽しみタイムを邪魔する奴ぁッッ!!」
モニターから顔を引き剥がし、ガイが吼える。
『ガイ! 聞こえる? フィニッシュコードは発令済みよ!』
『敵が起き上がります。気を付けて!』
「…………あん?」
モニターに、波を掻き分けて迫り来る蠍ロボの姿。
「そうか、テメェか。……いいトコロで水差しやがって、このフナムシモドキがぁ!!」
「いやぁん!?」
繋がったままの禁断少女を抱きかかえ、ガイがシートにどっかりと腰を下ろした。
「お兄様…………はぁぁん……」
禁断少女は夢心地のままにガイの胸に縋りつき、ガイは両手に操縦桿を握る。
既にトレースモードは解除済みだ。
「立て、クラウンジャー!!」


海を割り立ち上がる、その勇姿。
日輪受けて輝く王冠。
胸に翼のエンブレム。
震撼せよ、闇からの侵略者どもよ。
我等が守護神・クラウンジャーの前に、敵は無い!!

「ウオオオオオオオオッ!」
蠍ロボを迎え撃つべく、クラウンジャーが駆けた。
「ひゃうん! 凄いぃ。ズンッ、ズンッて、奥まで突かれちゃうのぉ」
走る振動がペニスを通して膣に響き、禁断少女が自らも腰を使い始める。
クラウンジャーは突き出された鋏を左手で掴み取り、敵の肩口に右拳の狙いを定めた。

 ──爆音。粉砕。

撃ち出されたパンチが、敵の片腕をもぎ取る。そのまま奪った腕で蠍ロボの頭部を横殴りに連打。
「うりゃ! うりゃ! どうだ!? どうだぁ!!」
「あん! あん! もっと! お兄さま、もっとぉ!!」
「この程度じゃ足りないか、この欲張りめ! なら、これでどうだぁッ!!」
渾身の力で蠍型の下半身を蹴り上げる。巨体が水飛沫を上げて浮き上がり、引っくり返った。
「仕上げだ!!」
戻ってきた右腕をドッキングさせ、クラウンジャーが両手を胸元で交差させる。
「ファイナルコード確認! エナジーチャージ」
アトランティス・ドライブが唸る。湧き上がるエネルギーが周囲の空間を揺らめかせ、光の粒子が
クラウンジャーを包んでいく。
「エネルギー充填……60、70、もう少し……」
「んっ、んっ、私……わたくしも、もう少しでぇ……」
ガイの膝の上で、少女は懸命に腰をくねらせる。
クラウンジャーを包む輝きが収縮し、産み出したエネルギーの全てが胸のエンブレムに集約される。
「よっしゃあぁ!! チャージ完了! いくぞぉおおおおおおッ!!」
「あん! イ…イク! わたくしも、またイっちゃいますうううぅぅ!!」

『ワアアアァァク────テッカァアアアアアアアアア!!!!』
叫びと共に腕の交差を解く。大きく反らされたクラウンジャーの胸から、羽ばたく鳥の如く、強大な
エネルギーの奔流が解き放たれて敵ロボットを貫いた。

 ──ドォオオオオオオオオオオンッッ!!!!!

「あああああぁぁん!! イックウウウウウウウゥゥゥゥ!!」
爆発と同時に禁断少女も二度目のエクスタシーに昇り詰め、ガイもまた、限界を超えて
溜めに溜め込んだ精を少女の胎内に放った。


 * * *

『ガイ。大丈夫? ガイ?』
「……う……」
オペレーターの通信に意識を呼び戻され、ガイは目を開いた。
「あ……俺は…………」
深呼吸を一つ。弛緩した身体に活力を漲らせる。見回せば、海上にはかつて敵のロボットだった残骸が
煙を上げ、
「禁断少女は…………帰った、のか?」
コクピットに自分以外の人影は無い。小さく息を吐いて、通信機を通常状態に戻した。
「こちら伊加須。敵機の完全撃破を確認、戦闘モードを解除する」
『了解、お疲れ様。……て、なにその格好?』
開いたウインドウの中で、茶髪のオペレーターが吹き出した。
いまのガイの姿ときたら、ヘルメットを脱いで顔には打撲と鼻血の跡。髪はボサボサでパイロット
スーツはだらしなく腹まで開かれ、全体的にぐったり憔悴した雰囲気を醸し出している。
「いろいろ大変だったんだよ、今回は。……それより、工場地区の火災は?」
『幸いにも施設の自動消火システムが生きていました。今のところ延焼の危険性はありません』
『とにかく良くやった伊加須。状況終了、帰還せよ』
「────了解」
司令官の言葉に短く返答し、背面のウイングを展開させる。
「それにしても……禁断少女の奴……」
轟くジェット音と共に巨人の身体が浮き上がり始めた。
「いきなり押し掛けてムチャクチャやらかしたと思ったら、知らないうちに黙って帰りやがって。
挨拶の一つ位して行きやがれ……」

 “────うふふ……”

ふと、耳元をくすぐるような少女の笑い声が聞こえた気がした。

 “この次は、もっと優しくしてくださいね。お・に・い・さ・ま”

ふわり、とコクピットに漂う甘い香り。

一筋の飛行機雲を残し、クラウンジャーは青空の彼方へと消えていった。

 


ちなみに──帰還後のメディカルチェックで尿から蛋白が検出されたガイは、後日改めて精密検査を
受けるハメになったという。

(おしまい)