☆こなゆき☆『とりかえっこ☆(6話)』


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☆こなゆき☆『とりかえっこ☆(6話)』






とりかえっこ☆6話



泉さんの家には何度もお邪魔させていただいたことはあります。
玄関から入ってすぐ右手、『こなたの部屋』と可愛らしい札がぶら下げられています。
自分の家とはまた違う、そう、言うならば『泉さんの匂い』が充満した、優しき空間。

普段なら「お邪魔します」といって入るところですが、今は私が『泉こなた』です。
泉さんなら元気いっぱいに「ただいま」と言うのでしょう。
今朝の気分が憂鬱な抜けていなかったら、恐らくこそこそと家に上がりこんだ筈です。…でも今は違います。
私は玄関の戸を開け、息を吸い込みました。

「ただい、ま~…」

勢い良く言うつもりだったのですが、普段とは違う言葉遣いが私の勇気を少し奪ったのかもしれません。
「ただいま」と全部言い切る頃には声はすっかりしぼんでしまい、なんとも微妙な空気を作り出したような気に陥ってしまいました。
果たしてこれで、家族の方―― 泉さんのお父様に、私の声は届いたのでしょうか…?

「ん……?なんだー、こなたかあー?」
「!…あ…うんっ…!」
「おかえりー」

声自体は聞こえていたようです。しかし言葉までは伝わらず、お父様に聞き返されてしまいました。
もう一度返事をすると、なんとか聞き取ってもらえたようです。
私は半ば逃げるように泉さんの、つまり『自分の』部屋へと入りました。

何度か入ったことのある泉さんの部屋。たった一人でお邪魔するのは初めてだと思います。…と言っても今朝、目が覚めたのはこの部屋ですが。
部屋は割と綺麗に片付いています。
ただ朝は気付きませんでしたが、本棚に収納されている本がいくらか抜けていて、それらは泉さんのベッドの枕の周囲に乱雑に置かれています。
きっと寝る前に読んでいたものでしょう。
また、テレビや机の上に置かれた女の子の人形がいくつも並べられています。恐らく泉さんが今、夢中になっているアニメのものでしょう。
こういったものには詳しくないので、その精巧さには感動するばかりです。
本当なら手にとってじっくり見てみたいのですが、泉さんに黙って触るのも流石に気が引けるため、見るだけです。
…スカートを下から覗き込もうと思ったのは……内緒ですよ…?

ある程度人形を観賞したところで、私は取り合えず制服の上を脱ぎ、部屋にかけました。
続いて部屋の箪笥を開き、泉さんの私服を取り出します。
それにしても本当に小さいです。私服も制服も。

ふと、自分の胸に目が行ってしまいました。
身長の方と同じでこちらも控えめなサイズです。そっと胸を撫で下ろしてみるとそれがよくわかります。
私の胸が羨ましいと泉さんに言われた事が何度かあります。
何が羨ましいのかよく分からない…と言ったら泉さんに怒られてしまうでしょうか。
…ただ、そうですね。そうやって言い寄ってくる泉さんは可愛いですね。


「こなたお姉ちゃん?いないのー?」
「ッ!は……な、何?」

小早川さんが部屋の戸をノックしてきました。
気付いてみれば下着のまま、じっと自分の姿を眺めてました。急いで服を着て小早川さんに答えます。

「な、何?…ゆーちゃん」
「今日はこなたお姉ちゃんが料理当番だよ?そろそろ準備しないと」
「え…わ、分かった!」
「私も手伝うから。先に待ってるからね~」

静かになっていく小早川さんの足音。
それを聞き届けつつ、不安に駆られてしまいます。何せ私は料理が得意ではないのです。
泉さんは小早川さんに料理を教えていると言う話ですし。
果たしてうまくやれるのでしょうか…?

恐る恐る部屋を出て、私は台所へと向かいました。
若干気が重いですが、仕方ありません。
台所では既に小早川さんがエプロンを着けてスタンバイしています。
ついでに用意してくださったのか、近くのイスにもう一着エプロンがかけられています。

しかし、次に目に入ったのがリビングの上に置かれた、小さな写真立て。
収められている写真は、泉さんが幼い頃に亡くしたというお母様。
惹かれるように手に取ったその写真。正に生き写しともいえるような程、泉さんに似ています。

…少し考えてみて、どこか理解が出来た。そんな気がします。
お母様を亡くしてからはずっとお父様と2人っきりで…、恐らく泉さんの料理がお上手なのは『自分がお父様を支えてあげなければ』と考え、料理の練習をたくさんしたのではないでしょうか?
本当のところは分かりません。
ただ以前調理実習でご一緒した時の泉さんは、いつもよりずっと大人っぽく見えたのは覚えています。
あまり料理慣れしない私に優しく教えてくれたりしましたね。
今日の学校でも、慌てふためく私をなだめてくれたのも泉さんです。そう、泉さんはまるでお母さんみたいで…。


「お姉ちゃん、何してるの?早くしよ?」
「あー、うん」

小早川さんに促され、エプロンを纏いながら考えます。

今朝、突然泉さんと体が入れ変わった時はどうしようかと思いましたけど、なんだか今日一日だけで泉さんことが少し分かったような気がします。
それは、良かったことです。色んな経験をして、辛い事だってしてきたはず。それを表に出すことはなく、とても明るく過ごしています。
近くで親友として付き合ってきたのに、こうも見落としていたことが多いと言うのは恥ずべきことかもしれません。
…でも、だから、私はもっと泉さんと付き合っていきたいです。
元の体に戻ったら、改めて御礼を言わなくてはなりませんね、泉さん…。


「お姉ちゃん!危ないよ、手切っちゃう!」
「えっ?きゃあ!!?」





つづく





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