☆こなゆき☆『とりかえっこ☆(7話)』


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☆こなゆき☆『とりかえっこ☆(7話)』(完







とりかえっこ☆7話 (完結)




「今日のみゆきの料理、おいしかったわね~」
「いやそれほどでも~」

一般の家庭のものにしては大きめな高良家の台所。
そこでみゆきの体となったこなたと、みゆきの母ゆかりが一緒に食器を片していた。

みゆきとこなたの体が入れ替わって丸一日が過ぎようとしている。
家に帰ってきてから、ゆかりが今日は料理をする気が起きないというので、この日の夕飯はこなたが作ることになった。
ゆかりの作る食事に少し期待していたこなただったが、まあ予想通りというか。
むしろこの人に刃物を持たせてはいけない気もするので、仕方ないながらこなたが作る事になった。
こなたが料理している横でそわそわと待っているゆかりはとても年上の女性には見えず、若いというか幼くて、正直言って可愛いとも思った。

それに何より嬉しかったのが自分の料理を物凄く褒めてくれたことである。いつもより美味しいとも言ってくれた。
みゆきには悪いと思うところももちろんあったが、料理が出来ると言うのは自分がみゆきに勝っている数少ないことであるし、自分の料理の腕にもそれなりの自信がある。
母親がずっと居なかった泉家では料理が出来ることは当たり前のことであって、それを褒められた記憶はあまりなかったのだ。

「でもちょっと味が違ったわね、いつもと」
「そ、そうですか?」
「いつもより濃いかなーって。…まあ特に気にはならなかったわ」

泉家と高良家では味付けが結構違うらしい。それでもゆかりはこなたが作った料理を平らげてくれた。
そうじろうやゆたかに「美味しい」と言ってもらうのとはどこか違う。それはきっとゆかりが母親と言う存在だからだろう。
もしかなたが生きていたら、こうやって一緒に台所に立つこともあったかもしれない。

「これもお母さんの育て方のおかげよね♪」
「あ、あはは」

まるで子供のような無邪気な笑顔でゆかりはこなたの頭を撫でてくれる。
ゆかりはあくまでみゆきのことを言っているのだが、それはある意味ではゆかりの言うとおりだろう。ゆかりの可愛さやドジなところを引き継ぎつつ、しっかり者に育ったのだ。


……そうか。これが『お母さん』か。
いつでも傍にいて優しく包み込んでくれる。一緒だな、みゆきさんと。…あー、でもこれみゆきさんに言っちゃうと怒られちゃうね、結構気にしてたみたいだし。
私はむしろ大人っぽく見られるほうが嬉しいんだけどなあ。




ようやくと言うところで洗物を片付けてこなたは自分の部屋にと戻った。
朝はよくは見れなかったみゆきの部屋は綺麗に整頓されていて埃も落ちていない。
O型の人間は大雑把で部屋が汚いとよくTVとかで言われるが、この部屋を見るとやはりあんなのはアテにならないと実感する。

(…難しい本がいっぱいあるけどラノベも結構あるなー。試しにこの英語ばかりのを開いてみても………さっぱり分かんないねー。…ん?)

あるところに目が留まった。本棚の一段を全て埋め尽くす種類の本があった。
それは以前に聞いたみゆきの将来の夢に関わる物である。いわゆる医者志望のみゆきらしく、その棚には医師関連の本でいっぱい。
一冊に何本もの付箋が貼られていて、彼女がチェックしている跡が見られる。
ページを一枚一枚捲っていく。しかしやっぱり頭には入ってこない。専門用語が多すぎると言うのもある。
十冊以上はあるだろうか。きっとみゆきは毎日勉強してたりするのだろう。それを思うと胸が痛くなってくる。貴重な時間をこんなことで無駄にさせてるのが分かったからだ。
こなたは手にしていた医学書を閉じた。
思わず出そうになる溜息をぐっと飲み込む。自分は何の将来も見えていないのに、みゆきは真剣に前を見ている。
尊敬をすると共に自分との対比を目の前に突きつけられて少し落ち込みそうにもなった。

「早く戻らないとね。…あたしじゃ医者なんかになれないし」

医学書を本棚に戻し、みゆきのベッドへとその身を沈める。
自分ちのよりも柔らかくふんわりしたいいベッドだ。さすがにお嬢様だけな事はある。
なにより凄くいい香りだ。ベッドの物ではなく、いわゆるいつも使っているみゆきの匂い。心地よい感覚に包まれて売るとまぶたが重くなる。
眠り際、こなたはベッドのシーツをぎゅっと握り締めていた。
それはもしかしたら、みゆきが遠くに行ってしまう予感がして、それがとても怖かったからかもしれない。





夕飯の支度はゆたかのおかげで何とかなった部分が多い。
料理中も指を切りそうになったりしたが、なんとか大事には至らなかった。その時ゆたかからはちょっと怒られてしまったし、同時に心配もしてくれた。
それに対してちょっと落ち込んでいたらまた心配されて、とにかく心休まることは無かった。
この事をそうじろうに言った時、血が出てるなら舐めてあげようかとも言われたが、もちろんみゆきは断った。
途惑いながらもこの賑やかさは決して嫌にはならなかった。いつも一緒に過ごしてきた母親が居ないがらも、それは楽しい一時に違いなかった。
こなたの姿をしたみゆきは今、彼女の母であるかなたの仏壇の前で静かに手を合わせていた。
体が入れ替わってからここに座ろうとずっと思っていて、さっき言った夕食の時間の時など、その思いはどんどん大きくなっていって、ようやく座ることが出来た。

(泉さんがあんな風に明るくしていられるのは、ここに住んでいるおじさんや小早川さんのおかげなんでしょうか。私は素直に尊敬します。
私は今一緒に住んでいるお母さんが居なくなったらって思うととても耐えられない。…私は彼女に出会えた事に感謝します、泉かなたさん、あなたにも。
これからもこなたさんと一緒に居ることを、どうかお許しください…)

しばらくみゆきは手を合わせたままじっとしていた。
どれくらいの間祈って居ただろう。時間さえ忘れかけていた時、突如として部屋の戸が開き、みゆきはハッとなった。

「お姉ちゃん、ここに居たんだ?」
「あ……ゆーちゃん」

どうにも慣れないと思った。この呼び名は。少しどころかかなり恥ずかしい。
そんな事を思っていると、ゆたかの視線が仏壇の方に向いてるのに気付いた。それに対して向かい合うように座るこなた(の姿をしたみゆき)。

「…本当に大丈夫?お姉ちゃん、今日おかしい…」
「そ、そんな事はないよ。大丈夫!」
「辛い事があるなら言ってね?私、力になるからさ」
「うん、ありがとう」

やっぱりこなたはみんなに愛されてる。ここに居るべきは自分ではなく彼女であることを実感する。
そして自分も彼女を愛するほうに立ちたいと思う。

「…?その教科書とノートは?」
「あ、えと…分からないところがあったから聞きたいなーって思ったんだけど…」
「見せて」

ゆたかからノート受け取り開いてみる。
自分もかつてやったことのある数式が並んでいる。何度も消しゴムで消したであろう跡が、ゆたかの真剣さが現れている。

「ペンを貸して」
「う、うん」

シャーペンの頭をカチカチ押し、間違えやすいポイント、自分が理解したときのことを思い出してみゆきはゆたかのノートにペンを走らせた。

「この式を間違えないように練習しておいたほうがいいね、後は結構楽だからケアレスミスに…」
「お、お姉ちゃん、やっぱり凄いんだね!」
「え?………あ。」

目を輝かせるゆたかを目の前に見たとき、みゆきは自分の過ちに気が付いた。
こなたは、はっきり言って勉強が得意ではないのである。
しかし今のを忘れてくれなどとも言えず、ゆたかは持っていた教科書のページをぱらぱらと捲っていき、みゆきにページを開いた。

「じゃあここも分かるかな?」
「え、ああ…ここは、ね…」

結局その日は遅くまでゆたかに勉強を教えてしまった。
みゆきは元々世話好きな性格なので頼まれるとNoとは言えないタイプなのだ。
ゆたかに勉強を教えつつ、明日元に戻っていたらこなたは大変だろうな、とみゆきは笑った。




―――――――――

――――――

―――


「う、~ん…」

もよおして来た。目覚まし時計にすら勝つことがあるこなたもこれには勝てない。
恥ずかしながら、みんなが泊まりに来ている時にやらかしてしまったこともあり、無理に我慢せずトイレに行くように決めている。
そんなわけでこなたは渋々ながらベッドからその身を起こした。

「んおっ」

まぶたが離れたがらないようで視界がぼやけ、歩きも覚束ない。
遂に足が絡まり、壁に激しくぶつかった時、ようやくハッとなった。視界がいつも通り低く、胸の辺りも軽い。…こなたは涙を堪えた。

「戻った…戻ったの?……みゆきさん!」

居ても立っても居られなかった。それまで全身を支配していた眠気はなんのその。こなたは弾かれた様にパジャマを脱ぎ、着替え、家を飛び出した。
いつもよりかなり早い登校になった。
電車やバスの待ち時間が煩わしかったが、ようやく学校に着いた。日の位置が低くてまだ少し寒い。

「みゆきさん、流石にまだ居ないかな…」

ここに来てようやく事に気付く。いくら早く学校に来たところでみゆきが居なければ意味が無い。
そう思えると急に眠気がぶり返してきた。
こなたは一際大きな欠伸をし、教室へ向かった。
教室に入ってから、やはり誰も居ないことを確認したこなたは、自分の席についてからうつ伏せになった。何を意識するまもなく、こなたは眠りにさらわれていった。





「んっ… くぁー…」

ようやく目が覚めたと同時、こなたは腕と、足を思いっきり前に伸ばした。二度寝なので多少はすっきりしてるがやっぱりベッドで寝ていたかったと思う。
辺りを見回してみると生徒が結構入ってきている。時計ももうすぐ始業ベルが鳴る時刻を刺そうとしていた。

「もう一眠りできるなあ…。一時間目は爆睡できるかも…ん?」

ふと自分の肩に上着が掛けてあるのに気付いた。でも今日は急ぎだったので着てきていない。こなたは掛けられていた上着を手に取り見てみる。
自分のものより大きい。訝しげにそれを眺めていると突如声を掛けられた。彼女に。

「泉さん」
「うわっ、みゆきさん!?」
「珍しく早かったですね。でも教室で寝ていては風邪を引いてしまいますよ?」
「う、うん」

その時になってこの上着はみゆきのものであると分かった。
しかしようやくみゆきに会えたと言うのに、いざ会って見ると何を言っていいかわからない。

「あの、みゆきさん、だよね?」
「はい!」

何馬鹿なこと言ってるんだろうと思った。しかし他になんて言っていいのか分からない。
もしかしたらあの出来事は自分だけが知っている夢の中の出来事だったのかもしれない。

「あの、泉さん」
「え?」
「今回のことで、泉さんのこと、ちょっと分かった気がしますし。何だかんだで少し…楽しかったです」
「!……夢じゃなかったんだ…」

みゆきが差し出してきた手をこなたは握り返す。

私達以外では、そしてつかさとかがみしか知らない、不思議な出来事。
一体何が作用してああなったのかは分からないけれど、この事は私とみゆきさんの仲を確かに縮めた。
いつか2人っきりの時には話してみたいと思った。お互い入れ替わって、何を見て、なにを感じたのかを。

こなたはみゆきの手を一層強く握り締めた。

「い、泉さん?」
「…。あー、みゆきさんの手、柔らかくて気持ちいいなあ…すりすり」
「あ、あの!恥ずかしいですよ…」

だがしかし、こなたはチャイムが鳴るまで、みゆきの手を自分の頬っぺたに擦り合わせ、短い間ながらその感触を嗜んでいた。





完結







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