dear -Prologue 「嵐の中の苗木」


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  dear -Prologue 「嵐の中の苗木」



「とうとうこの日がきたか……」
「そうだね……」
目の前には柊家の玄関。
私達はある『お願い』をするためにやってきた。
「みんな、揃っているんだよね」
「うん……ちゃんと『大事な話がある』って言っておいたから……」

 dear -Prologue 「嵐の中の苗木」

それは、昨日の事だった。
二ヶ月前から『恋人』として付き合い始めた私達だけど、友人以外……特にお互いの親には……秘密にしていた。
でも、秘密というものは往々にして漏れるものだ。
むろん、私達の関係も……。

「こなたー、ちょっといいかー?」
鼻歌混じりに食器を拭いていると、急におとーさんから声をかけられた。
「ん~、ちょっと待ってて~。もう少しで食器拭き終わるから~」
食後のコーヒーかな?まぁいいや。さっさと拭いちゃお~。

「おまたへ~。な~に?コーヒー?」
おとーさんが待つリビングへ行くと、既にそれぞれお気に入りのマグカップにコーヒーが注がれて、テーブルの上に置かれていた。
「なーんだ、コーヒーあるんじゃん。んで、なーに?」
椅子に腰掛けてコーヒーを一口飲み込んだ。
「うぅ~ん、うまひ……。あれ?おとーさん飲まないの?」
よくみると、さっきから腕を組んで座ったままで全く口をつけていない。
「……真面目な……話……なんだ」
私がそう言うと、おとーさんは静かに頷いた。

しまった……。
私は心の中で舌打ちをした。

二人分のマグカップ
口をつけていないコーヒー
腕を組んだまま微動だにしていない。

おとーさんが真面目な……しかもかなり重いテーマの話しをする時のスタイルじゃないか……。まずいなぁ~、心構えが出来て無いよ……。

「こなた」
「は、はいっ!」
不意におとーさんが口を開いた。
「……そろそろ、俺にも話しておいた方がいい事が有るんじゃないのか?」
……それって……やっぱり……アレ……だよね……。
「それとも、親には話せないような事なのか?」
「そ!そんなことは無いよっ!」
「ふむ……。じゃぁ、改めて単刀直入に聞こう。こなたとつかさちゃんは、『友達』ではなく『恋人』として付き合っているんだよな」
「な!なんでそれを!?」
そんな!一言も話した事ないし!怪しいそぶりもしていなかった筈なのに……。
「秘密ってのはな、往々にして漏れるものなんだぞ。……まぁ、父さんがそれに気付いたのはついこの間……先週辺りなんだけどな」
「えっと……どうして気付いたの?」
「何となく、なんだけどな。ここ最近の話題の主人公がほとんどつかさちゃんだったし……」
「それだけで!?」
「あと、こなたが誕生日に貰ったプレゼントを披露するときに、つかさちゃんのを一番大事そうにしていたからな」
……しまったぁ~!プレゼントに浮かれてて、そっちまで気が回らなかったよぉ~!!
「……で、実際どうなんだ?つかさちゃんと付き合っているのか?」
おとーさんは真剣な表情で私を見つめてきた。こんなおとーさんを見るのは……受験するとき以来かな……。それだけ、大事な事、なんだよね……。
「うん……付き合って……いるよ……」


「『恋人』として、なんだな」
「うん……。出来れば、この先も……一生ずっと……一緒に居たいって……思ってる」
「そうか……」
そう言ったきり、再び口を閉ざしてしまった。
「……おとーさん……おとーさんは、私達の事……どう思うの?」
「ん……?俺の考えか?」
コーヒーを一口飲んだおとーさんは、静かに話しはじめた。

「俺は、物書きだ。それに色々なゲームをやったりアニメを見ている。だから、同性同士の恋愛ってのも理解はしている」
「……うん」
「だがな……、それは所詮『フェイク』なんだ。ゲームやアニメや小説の中だから成立する関係であって、『リアル』では決して成り立たない関係なんだよ」
「……」
「だからな、俺は二人が付き合う事に『反対』だ」
「そう……なんだ……」
そうだよね……やっぱり、理解されないよね……。
「ところで、こなた達の事をつかさちゃんのご両親は知っているのか?」
「知らない……と、思うけど……」
「ふむ……そうか……。じゃぁ、今からつかさちゃんに連絡をして、明日にでも二人の関係をちゃんと伝えなさい。もし、柊さん達が全員認めるのなら……父さんも認めよう」
へっ!?
「今……なんて……?」
「だから、もし、柊家の両親とお姉ちゃん……えっと、三人か。その五人全員が二人の関係を認めるのなら、俺は反対はしないって言ってるの」
「で、でもでも、さっき……」
するとおとーさんの大きな手の平が私の頭のにポンと置かれた。
「いいか、こなた。俺の幸せはこなたが幸せになる事なんだ。だが、今のままでは、こなたは幸せになれない……わかるよな」
「……うん……」
「だけどな、もし、つかさちゃんのご両親が二人の関係を認めたのなら、その時は柊さん達の力で幸せになる事が出来るかもしれない」
「……そう……なのかな?」
「あぁ、そうだとも……だから、もしそうなった時、俺は反対しないよ。……『賛成』もしないけどな」
「うん……わかった……」
「それじゃ、俺はこれから仕事に取り掛かるから。ちゃんと、つかさちゃんに連絡をするんだぞ」


「……こなちゃん?」
「あぁ、ゴメン。……ちょっと考え事してた」
「大丈……夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃぁ、扉、開けるよ」

私達の『想い』が、柊家のみんなに受け入れてもらえますように……。


……空気が……重い……。
居間では既に全員が座卓を囲んで座っていた。
「つかさから聞いたよ、『大事な話』があるそうだね、こなたちゃん。さ、そこに座りなさい」
おじさんが促した場所に座る。私の隣にはつかさとかがみが、正面に対峙するおじさんの隣にはおばさんが、座卓の短辺にはそれぞれいのりさんとまつりさんが座っている。
「それで、どんな話なんだい?」
いつもと変わらない口調。だけど、その顔にはいつも浮かべている笑みは全く見えず、瞳は明らかに怒りの光を放っている。
「……単刀直入に言います。二ヶ月程前から、つかささんと『恋人』として交際をさせていただいてます。本日は、それを認めていただきたく……」
「断る!」
おじさんは、私の話を最後まで聞くことなく否定の意思を明らかにした。
「ちょっとお父さん、こなたの話を最後まで聞いてあげたって……」
「聞いたところで返事は変わらないわよ」
「お母さん……どう……して?」
思わず上げたかがみの言葉を、今度はおばさんが遮った。

「どうしたもこうしたもないだろう。第一、同性同士が付き合うなんて事自体、馬鹿げている!」
「ちょっ!父さん!」
「まつりは黙っていなさい。これは私達二人とつかさ達二人の問題だ」
「……わかったよ……」
おじさんの一言で、まつりさんは黙ってしまった。

なんで……?これっておじさんとおばさん、それと私達だけの問題なの?
いのりさんは?「応援するよ」って言ってくれたかがみとまつりさんは?

……みんな……蚊帳の外、なの……?

「外野が何を言おうと関係ない。つかさとの交際は認めない。わかったね」
「ちょ、ちょっと待ってよ!お父さん!!」
大声を上げたのは、それまでずっと黙っていたつかさだった。
「なんで!なんで私達の話を最後まで聞いてくれないの!?」
「つかさの言う通りです。おじさん、どうして私達の考えすら聞いていただけないのですか?」
「ふむ、それもそうだな。じゃぁ、最後まで聞こうじゃないか。……ただし!聞いたところで考えは変わらないがな!」
「そんな……お父さん……なんで……」
涙声になったつかさの手を、そっとにぎりしめた。
「なんでも何も、さっき言ったじゃないか。こんな馬鹿げた事を認める親がどこにいる!?君の父親はどうなんだね、認めているのか!?」
「……いえ……認めたとしても、柊家の皆さんに認めてもらえるような事があれば。そう言っていました」
「成る程。あの人は小説家だから無理を承知でそんな条件を出したんだろうな」
そんな……おとーさんはわざとそんな事を言ったの?
「……さて、これでわかっただろう。お前達の味方は、ここには誰一人として居ないって事を」
「わ……私は二人の味方よ!!」
「かがみ……」
「お姉ちゃん……」
こんな状況なのに……それでも、味方でいてくれるの……?
「ほぉ、かがみは二人の味方か……。だが、残念だったな。それでも一人だけだ、他に味方は居ないぞ。……そうだよな!いのり!まつり!」
その言葉に、いのりさんは複雑な表情で頷き、まつりさんは「私は部外者なんだろ!」と言って部屋を出ていってしまった。
「こら!まつり!!……全く、後でしっかりと言っておかなければ……。とにかく、そういう事だ!わかったらさっさと帰ってくれ!もうこの家に用は無いだろう!」
「で、でも……お父さん……」
「つかさちゃんはこっちにいらっしゃい。かがみちゃん、こなたちゃんを玄関まで送ってあげて」
「母さん、そんな事しなくても良いだろう」
「お父さん、お客様はきちんとおもてなししなくてはいけないでしょう?さ、かがみちゃん、お願いね」
「……はい。こなた……」
「うん……それでは、失礼致します。……お騒がせして、申し訳ありませんでした。……つかさ、また明日、学校でね」
「うん……また明日……ね」
部屋を出る時に、おじさんの呟きが聞こえた。
「学校……か……」

玄関へ向かい、靴を履き、外に出た。
「こなた……あんまり気を落とさないでね」
「あ~、うん。まぁ、いきなり言って認めて貰えるなんて、レアモノをゲットする確率位思ってなかったからね~」
「……相変わらず、わかり辛い例えだな……」
「それに……学校で会うことは出来るから……次は、認めて貰えるように頑張るよ……」
「……そっか。こなた、私も応援するから、あんたも頑張んなさいよ」
「もっちのロンだよ~かがみんや~」
「全く……」
でもね、かがみ。かがみが『味方だ』って言ってくれたから、もう少し頑張ろうって思えたんだよ……。

「かがみ!!大事な話がある!そんなところで話し込んでないで、さっさと戻ってきなさい!!!」
「ありゃ、今日のお父さんはかなりご機嫌ななめだなぁ~」
「じゃぁ……かがみ、また明日ね。早く戻らないと今度はかがみに迷惑がかかっちゃうよ」
「迷惑ねぇ……。ま、私はたいしたこと無いと思ってるんだけどね。でもまぁ、これ以上機嫌が悪くならないうちに戻りますか。じゃぁね、こなた」
「ばいばーい!」



「ただいま~」
柊家で気力を使い果たした私は、這うようにして自宅へと戻った。
「お姉ちゃんお帰りなさ~い。……大丈夫?」
「まぁ……何とか。あれ?おとーさんは?」
「打ち合わせだって。さっき出てったよ」
そっか……じゃぁ、『報告』は夜かな……。
「……本当に大丈夫?なんだか顔色も良くないよ?」
「そんなに?」
「うん。ちょっと横になってた方が良いんじゃないかなぁ~」
うーん、そうなのか~。
「じゃぁ、お言葉に甘えてそうしてるよ。晩御飯の時間になったら起こしてね」
「うん……。晩御飯、チキンカレーなんだけど……別のにする?」
「おぉ!ゆーちゃん特製チキンカレー!そんな、別メニューだなんて殺生な!?食べるに決まってるよ~!」
「ふふっ、じゃぁ出来たら呼ぶから、それまで休んでてね」
「ほーい」


「ふぅ……」
部屋に入り、一息ついて、ベッドに倒れ込んだ。
仰向けになり、天井をボーッと眺めていると、さっきまでの事が次々と浮かんでくる。
「やっぱり……難しいなぁ……」
反対される事は、多少予想していた。
でも……。
「あそこまで完全に否定されるってのは……結構……キツイなぁ……」
晩御飯を食べて、ゆーちゃんがお風呂に入ったら、おとーさんにちゃんと『報告』しないとね……。それに、おじさんが言ったあの言葉、それも確かめなきゃ……。
全部済んだらつかさにメールで報告しておこうかな。明日会う前に教えた方が安心すると思うし。
「でも……気になるなぁ……」
おじさんが最後に言ったあの『言葉』。
あれって一体……。


「それじゃ、おじさん、お姉ちゃん、お休みなさーい」
「お休み」
「ゆーちゃんお休み~」

耳を澄ませて、ゆーちゃんが自分の部屋に入った事を確認する。
流石にこんな話を聞かせる訳にはいかないからね……よし、大丈夫。
「おとーさん、……ダメだったよ」
「ま、そうだろうな」
「……おとーさん、つかさのお父さんが『無理を承知でそんな条件を出したんだろうな』って言ってたけど……、もしかして本当にそうなの?」
「ほぉ……流石、神職に就いているだけあるな、そこまで読まれているとは思わなかったぞ」
「じゃぁ、本当に……」
「あぁ、そうだ。第一、お前達の関係が世間一般から遥かに掛け離れている事ぐらい、火を見るより明らかだろう」
そりゃぁ、そうなんだけどさ……。
思わず口を衝いて出そうになる言葉を、慌てて飲み込んだ。こんな事、今この場で言ったら、どうなるかわかったもんじゃない。
「ま、これに懲りて学生の本分に……勉学に集中するんだな。……つかさちゃんの事は、素直に諦めろ」
……ちょっと、今のは、頭にきたよ!
……でも、我慢我慢。今は下手に波風立てないほうが良い。
「諦めろって、そう簡単に諦められる訳無いじゃん。学校で毎日会ってるんだよ」
「あぁ……そうだな、毎日会ってるよな」
「だからね……」

そこまで言って、コーヒーを飲み干し立ち上がる。
「私は、諦めないから。おとーさん達に認めてもらえるまでずっと」
「ほぉ、そうか。……まぁ、足掻くだけ足掻いてみろ」
「言われなくてもそうするよ。おやすみなさい」
そう言い残して居間を出ると、後ろからおとーさんの呟きが聞こえた。
「学校……ねぇ……」
……おじさんに続いておとーさんまで……。一体何なのかなぁ。


「お、つかさかな?」
部屋に戻ると、携帯のランプが点滅していた。時計を見ると時刻はそろそろ十時半、どちらかが眠たくなるまでの『まったりメールタイム』だ。
「どれどれ……ほえ?かがみから?……珍しいなぁ~。なんだろ?」
メールを開くと、かがみらしくない事務的な文章でこう書いてあった。

 *
こなたへ
急な用事が入ったから、明日の朝はちょっと遅れる。先に行ってて
 *

「ふーん……『了解しますた。じゃぁ、つかさを頼んだよ~』っと……送信ボタンをポチッとな」
用事ねぇ……、つかさに聞いてみるかな?

 *
件名
かがみからメールもらったよ~
本文
んもぉ~、かがみにメールさせるなんて……水臭いなぁ~
ところでさ、わざわざ用事なんて書くって事は、何かあったの?
まぁ、言いにくい事なら答えなくてももーまんたいだけどね~
 *

「送信……っと。さて、返事が来るまでネトゲでもしてますかねぇ~」


「……遅い、いくらなんでも遅すぎる」
メールを送信してから約三十分。お風呂に入ってたりして遅れる事はたまにあるけど……。
「まさかもう寝ちゃってた!?」
どんなに遅れてもせいぜい十五分、これだけの時間が経っても返事が来ないって事は、その可能性がとても高い。
「まぁ、今日は色々と大変だったからねぇ~。ん~!私も早目に寝ようかな~。あ、寝る前にメール送っとこ~」

 *
件名
もう寝ちゃったかな?
本文
これを見るのは朝かな?ってことは
(ノ°Д°)おはよう~!!

でも私は今から寝るです
(.-ω-)ノおやすみ~
 *

……明日の『作戦会議』、頑張らないとね……。


Prologue End





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