dear -Section2 「拾われた苗木」


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 dear -Section2 「拾われた苗木」



「すみません、峰岸さん……少々お話したい事が有るのですが、よろしいでしょうか?」
放課後、委員会の用事で残っていた私は、同じく残っていた峰岸さんに声をかけました。
「あ……ええ、大丈夫よ。……人が少ない所で話したほうが良い話し……かしら?」
……やはり警戒していますね……。
「そうですね……、なるべくなら他の人には聞かれたくない話しですから……」
「じゃぁ、場所を移動しましょうか」
「あ、あの……日下部さんにもお話したいのですが……」
「みさちゃんにも……?わかったわ、多分もう少しで部活が終わるから……、その後、何処かで話せば大丈夫でしょ?」
「はい、それで問題ありません」
「じゃぁ、みさちゃんを迎えに行きましょう」
そう言うと、峰岸さんは警戒を解かずに早足で昇降口へと向かっいました。

大丈夫、きっと二人はこの計画を理解してくれるはずです……。

dear -Section2 「拾われた苗木」

ここは、通学路の途中にある公園。夏が近く日が長いとは言え、流石に5時近くにもなると人影もまばらですね。

「で、あたしとあやのに何の話しが有るっての?」
日下部さんは、多少苛々した声で話し掛けてきました。
仕方の無い事です、私が『お二人に』話しが有ると言うことは、間違いなく『泉さんとつかささん』に関係の有る話しですから。
「はい……、お二人はもう気付いていらっしゃると思いますが、泉さんとつかささんについてのお話しです」
「……やっぱりちびっこと妹の事か……」
「で、どんな話しなの?」
「昼休みに、泉さんから頼まれた事なんですが……」
峰岸さんに問い掛けられ、私は泉さんから持ち掛けられた『計画』を話しはじめました……。


ねぇねぇ、みゆきさん。
―なんですか、泉さん。
あのね……。お願いがあるんだけど……、あやのさんとみさきちに『かがみとの連絡』が出来る様に……頼んで貰えない、かな?
―……でも、それなら泉さんが直接……
……あの二人は私に対して物凄い嫌悪感を持っているから……。
―そうでしたね……わかりました。ですが、それだけではお二人は納得されないと思います。泉さんはかがみさんと連絡を取った後、一体どのようなお話をされるのですか?
……言わなきゃ……駄目……かなぁ……。
―はい。
……そっか……、うん、わかった。そうだよね、頼んでいるんだから、何を話すかちゃんと言わないとね。
―では……お聞かせ頂けますか?
うん……、実はね……。


「「駆け落ちぃっっ!!!」」
「……はい、泉さんはそうおっしゃっていました」
流石に、お二人共驚かれていますね……、仕方がありません。私ですら一瞬耳を疑った位ですから。
「で、でもさぁ~、なんでちびっこはいきなり『駆け落ち』なんて言い出したんだ~?」
「私もそう思ったので、即座に理由を聞きました」


―『駆け落ち』を選択すると言うことは、かなりのご覚悟が有ると思われるのですが、その理由は一体何ですが?ご無理で無ければお聞かせ願いたいのですが……。
理由……ね……、『おとーさんとつかさの両親が許せない』って事かな……、それと『私達の覚悟を知ってほしい』ってのも有るから……、その二つだね。


「『許せない』って……ちびっこはそんなに怒っていたのか……」
「『覚悟を知ってほしい』って、一歩間違えば『取り返しのつかない事』も厭わなかったって事……?」


私は黙って頷きました。
「でも、でもさ~、ちびっこと親父さんはすんげー仲良かったんだろ~、何でそんなに怒るかなぁ~?」
「泉さんは、こうもおっしゃっていました」


私やつかさに対して何らかの罰を下すのなら、まだ許せる。
だけど、かがみを休学させて、みさきちや峰岸さん、それにみゆきさんまで苦しめた。
それだけは、絶対に、許せない。


そこまで話して、私は息を一つつきました。
お二人は涙ぐんでいました、かがみさんが強制的に休学させられてから、お二人はずっと泉さんに冷たく当たっていました。
それなのに、泉さんは『二人を苦しめた事』に対する怒りを露わにしていました。
「ごめんよぉ~……ちびっこぉ~」
「泉ちゃん……今までずっと誤解してた……ごめんなさい……」
お二人は泉さんに対する謝罪の言葉を述べていました……ですが……。
「それは、お二人が直接、泉さんに伝えるのが良いのではありませんか?」
その方が、きちんと気持ちを伝えられますからね……。
「お話の場は、私が設けさせていただきます」
「そんな……悪いわよ。自分達がしてきた事だもの、自分達できちんとけじめをつけなくちゃ」
「いえ……泉さんにこう言われているので」


みゆきさん、もし二人のオッケーがもらえたら、みゆきさんの家で作戦会議を開きたいんだ。良いかな?
―ええ、構いませんよ。
ありがとう。あ、でもね、もしどちらかがノーって言ったら、この計画は全て無かったことにするからね。
―何故、ですか?
ん……、私はね、出来ればこの計画は『おとーさんとつかさの両親』以外全員の賛成がほしいんだ。
でも、実際にはそんなこと無理だから、せめて『かがみ、みゆきさん、みさきち、峰岸さん、いのりさん、まつりさん』
そしてもちろん『つかさ』
この人達だけでも賛成してくれたら、私は計画を実行しようと思う。
―裏を返せば、一人でも反対する人がいたら……。


「この計画はパーって事か、流石ちびっこらしいと言うか何と言うか……」
「では、お二人はこの計画に、賛成して下さいますか?」
「ええ!」「もっちろん!!」
「……ありがとうございます!!」
私は深く頭を下げ、謝辞を述べました。
泉さん……貴方のお気持ちは、きちんと伝わりましたよ……。
「では、今後の事について……」
私達はお互いの連絡先や住所等を交換して、それぞれの家路につきました。


翌日の放課後。
高良家の門前には、インターホンを押す小さな影が一つあった。
『どちらさまですか~?』
「あ、こんにちは~、泉です~」
『あら~、こなたちゃ~ん、どうぞ~』

いつものように門を開け、玄関に向かう。そしていつものようにノブに手を掛けようとした瞬間!
「ぬぉうっ!!!!!」

「あ~、ピッタリだったわぁ~」
ほぼ同時に、驚愕した声とのんびりした声が、高良家の玄関に響き渡った。
「び……びっくりしたぁ~、……こ、こんにちは、ゆかりさん……」
「うふふっ、びっくりした顔も可愛いわぁ~。……次はどんな顔を見せて貰えるかなぁ~」
悪戯っ子の様な顔をこなたに近づけながら、そんなことを口走るゆかり。
流石のこなたも動揺を隠せ無いようだ。
「や、ややややぁぁぁぁ、可愛いだなんて、いや、その、あの、えと……」
「オドオドしているこなたちゃんも、かぁ~わいぃ」
ゆかりはこなたのおでこを、指で『ツン』とつついた。こなたは顔だけでなく全身を真っ赤にさせ、俯いて恥ずかしさに耐えていた。
「お母様……それくらいにして頂けませんか?先程からみんなで待っているのですが……」
その声にこなたが顔を上げると、そこには親友であるみゆきの顔があった。
「や……やふぅ~……みゆきさん……」
「あらあら、そういえばそうだったわねぇ~。さ、こなたちゃんどうぞ」
「泉さん、こんにちは。お二人がお待ちですよ」
その言葉に、こなたはやや暗い顔をして俯いた。
「うん……わかった……、お邪魔します……」
みゆきの後について、二人はみゆきの部屋へと向かった。

その後ろ姿を、ゆかりは心配そうな表情で見つめていた。
―こなたちゃん……大丈夫かしら?。


私の部屋へ向かう間、泉さんは一言も口にせず、黙って私の後ろを歩いていました。
過度の緊張、なのでしょうか、いつもより明らかに歩みが遅くなっています。
「泉さん、中でお二人がお待ちです」
私が扉の前でそう言うと、泉さんは一瞬戸惑った顔を見せましたが、すぐに緊張した顔に戻りました。
「……ドアを開いても、構いませんか?」
「うん……、お願い」

「泉さんがいらっしゃいました」
私は扉を開け、努めて平静を装った声を出しました。
「あ……お、おっす……」
「こ……こんに……ちは」
「や、やふぅ~……みさきち……と……峰岸さん」
「……では、泉さん。こちらにお座り下さいませ」
私が促すと、泉さんは表情を全く変えずにクッションの上に座り込みました。
さて……ここからが正念場ですね……。


―カチコチカチコチ……

時計の音だけが、室内に響きます。
泉さんをお部屋に案内してからもう少しで十分が経ちます。
ですが……私達の間には、全く会話が有りません。異様な緊張感の中、三人共俯いたままの姿勢で固まっています。

話し掛けたい、という雰囲気は十分に伝わっているのですけどね……。

『ふぅ』と私は心の中で溜息を一つつきました。
そういえば、泉さんは『真面目な話しをする』ということが物凄く苦手でしたね……。
いつもならば、此処にかがみさんがいらっしゃって、泉さんのフォローをされるのでしょうが……。

では、本日は私がその役を努めさせていただきましょう……。

「泉さん」
静まり返った部屋に、私の声が響きました。
三人が顔を上げて私を見ます。
「……そういえば、泉さんのお飲みものを忘れていましたね。申し訳ありません、今からお持ち致しますね……」

私は軽く頭を下げ、部屋を出ようと立ち上がりました。

もし、予想が間違っていなければ、ここで……
「み、みゆきさん!の、飲み物は……後で……良いから……そ、そこに……座っていて……貰える……かな」
ふふっ、予想通りです……。
私には『常に周囲を観察してしまう』という悪癖が有ります、これを嫌悪することが度々有るのですが……。今回は役に立ちましたね……。

「あ、あの……」
私が座り直すと、泉さんが口を開きました。そして座ったままクッションから体をずらし、床に頭を押し付けました。
「……みさきち!峰岸さん!みゆきさん!ごめんなさい!!」
泉さんはそのまま言葉を続けます。
「私が、つかさと恋人同士にならなければ、今まで通りかがみと楽しく過ごせていたのに、それを私の我が儘で奪ってしまって……。本当に、ごめんなさい!!!」
お二人は……いえ、私も含めた三人は、何も言えずに泉さんを見つめていました。
峰岸さんと日下部さんは、困惑の表情を浮かべています。
そして……、恐らく私も。

泉さんがお二人に対して謝辞を述べられるのは、泉さんの性格からすれば『当然である』と思っていました。
ですが……何故私にも?これは完全に『予想外』の出来事でした。
私は……泉さんに何かしらの『不安』を与えていたのでしょうか……。

泉さんはそのままの姿勢で「ごめんなさい……ごめんなさい」と、涙声でつぶやいています。
すると、日下部さんと峰岸さんが立ち上がり、泉さんの前に座りました。
「ちびっこ……こっちこそ、ごめん!!」
「泉ちゃん……、私こそ、ごめんなさい!!」
お二人揃って、泉さんと同じ様に頭を床に押し付けました。
「ちびっこは、何も悪くないのに、私は自分勝手な気持ちで冷たく当たってた!」
「私だってそう、何であんな酷いことを言っちゃったんだろう……、本当にごめんなさい!」
お二人共、泣いていました。
「本当は、こんな事を言えるはず無いんだけど……ちびっこ、許してくれ!」
「私も、どんなことだってするから、許して下さい!」
泉さんは静かに顔を上げ、じっと二人を見ました。
「みさきち、峰岸さん、……それは私の台詞だよ……、私こそ、二人に迷惑をかけた事、許して下さい!!」
そして再び頭を下げました。

……又、沈黙が訪れました。
三人共頭を床につけたまま微動だにしません。
「……皆さん、そろそろ宜しいのではないのですか?」
私がそう言うと、三人は顔を上げました。
「『許す』とか『許さない』のではなく、泉さんも峰岸さんも日下部さんも、お互いに『謝った』……それだけで充分では有りませんか?」
そう声をかけても、三人は納得していない様子です。

困りましたね……では、先程の様に……。
「こなたも、日下部も、峰岸も、みんな謝ったんだから、これでこの話しは終わりにしなさいよ!」
「「「!!!」」」
ふふふっ、結構、似ていましたか?

「み、みゆきさん……。んもぉ~、なんでかがみの真似なんかするかなぁ~」
「ビックリしたぁ~、柊がいるのかと思っちまった……」
「た、高良ちゃん……今のって、やっぱり……柊ちゃんだったの……?」
流石に三人共驚かれたようですね……ふふっ。
「そうですよ……自信は……結構有ったんですけれど、……似ていましたか?」
その問いに、三人共無言で首を縦に何度も振りました。
「いやぁ~、ホントに柊そっくりだったよ~」
「高良ちゃんって、そんな特技が有ったのね……なんか以外だなぁ~」
「いやぁ~、私も長いことみゆきさんを見ているけれど、こんなみゆきさんは初めて見たよ~」
そう言った皆さんの顔に、笑顔が戻りました。
良かった……これで本題に移ることが出来そうです。
「ん、でも、本当にごめんな、ちびっこ」

「良いって~、こっちこそ、ごめんね」
「良いのよ……泉ちゃん。私達、この間高良さんから聞いて、その時からずっと、泉ちゃんに悪いと思っていたんだから……」
そう言い合って、三人でクスクスと笑い出しました。
「……さて、皆さん。そろそろ本題に移りましょうか。」
その瞬間、先程とは違う緊張感が漂いました。
「で……、あたしらは何をどうすれば良いんだ?」
「『柊ちゃんと連絡を取る』だけなら、明日出来るけれど……」
「……確か、つかさとかがみには二人が定期的にプリントを届けているんだよね」
「ええ、そうだけど……」
学校の方針で、休学している生徒には可能な限り、授業内容をプリントにして渡すという制度があります。
どのような理由付けで申請しているのか解りませんが、お二人は現在『休学』という扱いになっています。
「今、二人はどんな状態なの?常に親が見張っているの?」
「ん~、妹に関してはそんな感じだなぁ~。柊はそうでもないけど」
「おばさんとお姉さん二人が、ローテーションで見ている感じよ。携帯の番号も変えられたって言ってたわ」
「あと、妹は部屋を変えられて……ってゆーか、昼間はその日の担当と一緒に居間で、夜は両親と同じ部屋で寝ているって言ってたな~」
……つかささん、随分と制限を受けられているのですね……。
「そっか……、つかさは私のせいで、随分と酷い目に会わされているんだ……」
泉さんの顔色が変わりました。
私にも、良く解ります。いくら『泉さんと引き離す為』とは言え、これはやり過ぎです。

「じゃぁさ……、明日、かがみにこの手紙を渡してくれないかな?」
そう言って、一通の手紙を取り出しました。
「これを渡せば良いのね?」
泉さんは静かに頷きます。
「一体、なんて書いてあるんだ?」
日下部さんの問いに、泉さんは静かに答えました。
「みさきち、ごめん……それは、言えないんだ」
「えー、なんでだよぉ~」
「二人を信用していない訳じゃ無いんだよ」
「じゃぁ、どうして?」
「この中に書いてある事……それをかがみが実行してくれるかどうかが肝心なんだ」
「では……、かがみさんが実行して、それを確認出来たら……」
泉さんは私達を真っ直ぐに見つめて言いました。
「うん、その時には、ちゃんと話すよ。約束する」
「そうですか……わかりました。ではその時に、お願い致します」
「ちゃんと教えてくれよな、ちびっこ」
「泉さん、お願いね……」
「うん……それじゃぁ……『指切り』しよ!」
そう言うと、泉さんは私達の目の前で小指を立てました。
「『指切り』……ですか?」
「そう、だって『約束』って言ったら、これでしょ~」
「ははは、ちびっこっぽいや~」
日下部さんが指を絡めます。
「そういえば、定番よね~」
峰岸さんも指を絡めました。
「うふふ、嘘をついたら『針千本』ですよ、泉さん」
四人の小指が絡まりました。
「「「「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのぉーます!」」」」

みんなで顔を見合わせて……。

「「「「ゆーびきったっっっっ!!!!!」」」」


Section2 「拾われた苗木」 End







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