dear -Section3 「鉢に植えられた苗木」


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dear -Section3 「鉢に植えられた苗木」




ピーンポーン
……日下部達、来たわね。

『こんにちは……』
『二人共、いらっしゃ~い』
『まつりさん、妹、こんちは~』
『まつりさん、妹ちゃん、お邪魔します』

あらっ?今日の担当はいのり姉さんじゃなかったっけ?
『あれっ?ローテーションだと今日はいのりさんですよね?』
『あ~うん、そうなんだけどさ~、何か急に決まった会議に出なきゃいけないんだって~』
『そうなんですか~、大変ですね~』

ふ~ん、そうなんだ~。
ま、私達にしてみれば『好都合』だけどね。

『あ、おじさんこんにちは~』
『お邪魔しています~』
『やぁ、いらっしゃい。『勉強会』かい?かがみも部屋で待っているよ』

……やっぱり父さんは家に居るのか……。

dear -Section3 「鉢に植えられた苗木」

トントン
『かがみ~、開けるよ~』
「はーい、どうぞー」

「おーっす、日下部に峰岸」
「ちゃーっす、柊~」
「こんにちは、柊ちゃん」
「お姉ちゃん……お邪魔します……」

……今日はまつり姉さんと一緒だから、昨日よりは元気そうね……。

部屋の定位置(私は机、つかさ&峰岸&日下部はテーブル、姉さんはベッド)に皆が座った所で、いつもの『勉強会』が始まった。

「はい、峰岸」
私は前回のプリントを渡した。
「ありがとう、じゃぁこれが次の」
新しいプリントを受け取る。
「今回は丁寧に書いておいたぜ~、柊~」
日下部がノートを差し出す。
「サンキュー、日下部。」
それを受け取り、自分のノートに書き写す。
「妹ちゃん、はいどうぞ」
「峰岸さん……ありがとうございます」
つかさは峰岸からノートを受け取り、自分のそれに書き写す。

そう、これは決して『勉強会』などではなく、その名を借りただけの『受け渡し&書き写し』である……。


あの日、つかさが父さんに『休学』を命じられた日、つかさは泣いていた。
それを見た私は、翌日学校でこなたにその事を話した。
それを聞いたこなたは、つかさを慰めようとして、私に手紙を託した。
それを私は、密かにつかさに渡した。
つかさは、それを読んでとても嬉しそうで……でも哀しそうで……複雑な表情を浮かべていた。
私は……そんなつかさを……黙って……静かに見つめていた。


―良かった……。

そう、思っていた。

でも、そう上手くはいかなかった。
安心していたから、気付くのに遅れてしまった。
気がついたら、母さんがつかさから手紙を奪い、父さんがそれを破いて捨てていた。
そして……私の右頬に鋭い痛みが走った。
「あんな女との連絡係を務めるとは!!お前にも罰を与える!!暫く『休学』だ!!!」


……その事件があった日から、つかさには常に『介助』が就くようになった。
確かに、情緒不安定になったりするからあながち間違いではない。
だけど、どうみても

『監視』

だ。

ちなみに、『監視』の厳しさは母さんが一番で、次いでいのり姉さん、まつり姉さんの順に緩くなっていく。
元々まつり姉さんは二人の事を認めていたし、応援もしていた。
それに例の一件は姉さんの部屋の前で起こったため、その後こっそりと私達に「立場上、辛く当たる事になるけど、私は三人の味方だよ」と言ってくれた。
だから、父さんが居ない時の『勉強会』は結構楽しみだったりする。
……でも、残念ながら今日は『在宅』なんだよね……。

『監視』といえば、つかさ程では無いけれど、私にも『手伝い』という名目で、外出時には両親の二人もしくはどちらかが一緒に行く事になった。
母さんと一緒の時は、学校の話題以外で多少なりとも会話が弾むので、ある程度気が晴れる。

でも、父さんは別だ。

毎回必ず
「お前が『休学』しているのは、あの女が悪いからなんだぞ」
「あの女がつかさをたぶらかさなければ、こんな事にはならなかった」
「父さんは、二人の為を思ってこの措置を取ったんだ」
「『復学』しても、あの女とは二度と会うな」
と言ってくる。
明らかに『こなたに対する嫌悪感』を植え付ける為の『会話』。
立場上「解った」とは答えるが、常に『はらわたが煮え繰り返る』状態だ。

だから、私は『決心』した。

―二人が幸せになるのなら、私が出来る事は何でもする。例え、それが『自らの崩壊』を招いても―


部屋の中で、ペンを走らせる音だけが響く。
空気がとても重い。
窓から、爽やかな風が流れ込んで来る。
だがしかし、それを以ってしてもこの空気を軽くすることは出来なかった。
……あぁ、もう!
思わず叫びそうになるのを、何とか抑えた。
もし、今大声を上げたら、即座に父さんがやって来る。
そして、現在の状況を更に悪化させる。
それだけは、避けなくてはならない。
空気が重い、静かすぎる、叫びたい、叫べない……。
貯まってゆくフラストレーション。
この精神状態は、持っても後数分だろう。


「まつりお姉ちゃん」
不意につかさが口を開いた。
「な~に?つかさ」
「トイレ……行きたい」
「そっか、んじゃ、行こうか」
そう言って、つかさを連れて部屋を出た。

再び静まり返る室内。
私は書き写しを再開し……ようとしたら、突然目の前に紙が置かれた。

[黙って、じっとしていて]

その紙にはこんな文章が印刷されていた。
横を見上げると、いつの間にか峰岸が立っていた。
よく見ると、まだ数枚の紙を手に持っている。

[絶対に声を出しちゃダメよ]

先程の紙を仕舞い、新しい紙を置いた。
何をするんだろう……?取り敢えず、頷いておく。

[泉ちゃんから、手紙を預かっているの]

「!!」
私は慌てて口を両手で塞いだ。
手紙?預かる?でも二人は私の事で、こなたと仲違いしていたはず……、それもかなり険悪な状態だったはずだ。
それなのに、どうして?
混乱している私の目の前に、一通の封筒が置かれた。
飾り気も何も無い、真っ白な封筒だ。

[この中に入っているから、私達が帰って一人になったら読んで]

その紙を見て、思わず峰岸に問いただそうとした。

何で?
今見たらいけないの?
どうして私への手紙なの?
いつ預かったの?
何が書いて有るの?

でも、峰岸は済まなそうな顔をして、余白にこう書いた。
[ごめんね柊ちゃん]

[何て書いてあるのかは知らされていないの]

あ……そっか……、知っている訳無いよね……。
こなたの事だから、みゆき経由で峰岸に頼み込んで、これを届けてもらったのだろう。
……あれ?
一つの疑問が、私の中に浮かんできた。
もしそうならば、この『手紙』の事を日下部が知らないはずが無い。
じゃぁ、何でこの『手紙』は無事なの?

今回の『事件』の後、最初に『勉強会』をした時。
原因となった人物であるこなたに、日下部は激しい怒りの感情を顕わにしていた。
あの時の感情を思い返すと、これがここに有るなんて事は、決して有り得ない。

私が難しい顔をして手紙を見つめていると、それを見た峰岸が首を傾げたので、今度は私が書き込んだ。


[二人共 こなたと ケンカ してなかったっけ ?]

すると、峰岸は微笑みながら紙を取り出し目の前に置いた。
そこには、

[私も、みさちゃんも、泉ちゃんと、ちゃぁ~んと仲直りしたよ!!]

と書いてあった。

……峰岸……と、日下部……が、こなた……と、仲……直り、した?
思わず紙を手に取り、峰岸に向かってその部分を指で指した。「ほんとに?」と
声を出さずに尋ねると、微笑みながら頷いた。
振り返って日下部にも同様に聞いてみた、すると満面の笑みで左手の親指をグッと起てた。

ホントに……本当に……仲直り……できた……んだ……。
目頭が熱くなる。
視界が歪む。
泣いてはいけない。
泣いて……は、いけ……ない……の……に……。

「我慢しなくて良いんだよ、柊ちゃんは悪くないんだから」

耳……もとで……そんな……こ……ヒック……こと……ささや……ヒック……くなん……てっ……ヒック……は……グスッ……はん……そ……ヒック……く……グスッ……よっ……ウウッ。

「今はさ、この部屋にあたしらしか居ないんだから、好きなだけ泣いておきな」

ヒック……あ……ヒック……あた……ま……グスッ……なで……ヒック……る……な……グスッ……なん……て……ヒック……よけ……よけい……グスッ……なみ……だが……ヒック……と……グスッ……とまら……ない……ウウッ……じゃ……グスッ……ない……のっ……ヒック


「落ち着いた?」
峰岸が聞いてきた。
「ん……」
私は静かに頷く。
時間にしたら一分程度だろうか、峰岸に頭を抱えられた私は、何とか平常心を取り戻した。
本当は、大声を上げて泣きたかったけれど、それをすると確実に父さんが来るから、それだけは何とか耐えた。
「二人共……ごめんね……ありがとう」
「別に構わないって、柊だって辛いんだしさ」
「みさちゃんの言う通りよ。それに、私達の仲じゃない」

うぅっ……そ……そんな……こと……いわれ……たら……って、ダメダメダメダメ!!!
ここは耐えろ、耐えるんだ、私。

「ただいま~……おっ?何かあったの?」
姉さんとつかさが戻ってきた。
「ん?特に何もないけど」
良かった……二人が戻ってくる前に落ち着いて……。
「そっか、んじゃまぁいいや。……所でかがみ~、そろそろ終わりそう?」
「あ、ちょっと待って、あとページ半分だから」
そういや、そろそろ二人が帰る時間だわ、急いで写さないと……。


「日下部、峰岸、今日もありがと。じゃ、また明後日よろしくね」
「んじゃ、柊~、また明後日なぁ~」
「柊ちゃん、またね」
そう言って、二人は部屋を出て行った。
つかさとまつり姉さんが追いかける。


『おや、もう帰るのかい?』
『はい、おじさん。お邪魔しました~』
『それでは、失礼します』
『お二人共……今日も……ありがとうございました』
『みさおちゃん、あやのちゃん、またね~』

扉の閉まる音が聞こえる。
親が居る時、私には見送る『権利』が無い。
……別に、それくらいは良いじゃない……。
これも『こなたに対する嫌悪感』を植え付ける為なんだろう。

―でもね、父さん、母さん。
あなたたちは、本当に『娘達』の事を理解しているの?
少なくとも、私とまつり姉さんはその『計略』全てを『お見通し』なんだよ―


「じゃぁ、まつり姉さん。ノート渡しておくから、つかさの事よろしくね」
そう言って、姉さんに私が書き写したノートを渡した。
「ん、頑張ってみる。無理だったら……今日はアンタに手助けしてもらえないか……」
私は「父さんが居るからね」の一言を飲み込んで、小さく「ごめんね」と言った。
「別に、アンタが気にする事じゃ無いって。それに、ほら、あたしも少しはつかさに『姉』っぽい所を見せないとね~」
姉さんは「じゃ~ね~」と手を振って部屋を出た。

扉が閉まるのを見送って、ベッドに倒れ込んだ。

……ウッ……グスッ……
顔を枕に埋めて、声を押し殺して泣いた。
ここ最近は何時もそうだ。
二人が帰って、つかさと引き離されて、一人になって、寂しさが一気に込み上げて来る。

……ウウッ……グスッ……エグゥ……
何で、私は独りにされなきゃならないの?
『監視』が居れば、つかさと一緒に居たって良いじゃない?

……ヒグゥ……グスッ……エグッ……
私が何をしたって言うの?
つかさとこなたが付き合うのは、そんなにも『人の道を外れた』事なの?

……グスッ……ウウッ……ヒック……
わからない……わからないよ……。
なんでなのか、ぜんぜんわからないよ……。

……グスッ……ウウゥッ……エグッ……ウウッ……ヒック……ウグッ……
だれか……おしえて……よ……




Section3 「鉢に植えられた苗木」 End






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