dear -Section6 「倒れかけた苗木」


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dear -Section6 「倒れかけた苗木」




晩御飯の食卓で、高良ゆかりは悩んでいた。
母親である自分だから気付く程度なのだが、帰宅した娘のみゆきが明らかに気落ちしているのである。
―確か、こなたちゃんのお家に行ったのよねぇ……。

dear -Section6 「倒れかけた苗木」

今から一ヶ月余り前の夕方、居間にいたゆかりは帰宅したみゆきから突然の知らせを聞いた。
「お母さん……つかささんが本日より『休学』となりました……」
その顔は暗く、受けたショックの大きさを物語っていた。
「まぁ……つかさちゃんが……?何か、病気なの?」
「……わかりません……理由は聞かされていないので……」
「そう……早く『復学』出来れば良いわねぇ……」
「……そうですね……じゃぁ、私は部屋に行ってます」
そう言い残して、みゆきは自室へと向かった。
ゆかりは閉められたドアを見つめながら呟いた。
「みゆき……大丈夫かしら……」

だが、翌日、ゆかりはさらに衝撃的な知らせを聞いた。
「お母さん……かがみさんまで……本日から『休学』だそうです……」
「えぇっ!?かがみちゃんまで……?」
「……はい……」
「理由は……わからないわよね……。でも、一体どうしたのかしら?こんな連続で、しかも姉妹で休学するなんて尋常じゃないわよね」
「……取り敢えず、暫く待ってみます。もしかしたらそれ程経たずに『復学』されるかもしれませんし……」
「そう?わかったわ。でも、何かあったらちゃんとお母さんに言いなさいね」
「はい……では、着替えてきますね」

だがしかし、その後も二人が『復学』する気配は全くなかった。

それから数日が経った頃、みゆきはこなたと共に帰宅してきた。
「あら、お帰りなさい。こなたちゃん、いらっしゃい。……みゆき、お友達を連れて来る時は言っておいてって言ったじゃない……」
「すみませんお母さん、急に決まったので……。これから暫くの間、週に数日程度泉さんと勉強会をすることになりました」
「そうなの?……じゃぁ、仕方が無いわねぇ」
「今日、詳しい曜日を決めるので、後でお知らせしますね」
「わかったわ~」
そこまで話した所で、こなたが口を開いた。
「えと、ゆかりおばさん、ご迷惑をかけ……」
「もぉ~『おばさん』なんて言わないでぇ~!『ゆかりちゃん』って呼んでぇ~!」
『おばさん』という単語が気に障ったのか、こなたの発言を遮り、駄々っ子のようにゆかりが叫んだ。
「あ、え、えーと、じゃぁ……『ゆかりさん』……で構いませんか?」
「えぇ~、私としては……『ちゃん』のほうが良いんだけどなぁ……」
人差し指を唇に当て、子供がせがむような目線をこなたに向けた。
「えと……あの……その……」
「なぁ~んちゃって、『さん』で構わないわよ、うふふっ」
真っ赤になったこなたを見て満足したのか、ゆかりは含み笑いをしながらそう言った。
「もぉ~、お母さん、あまり泉さんを困らせないで下さい……」
「はいはい……じゃ、勉強会頑張ってね~」
「では、泉さん、行きましょうか」
「あ、うん、じゃ、じゃぁ……ゆかりさん、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「い~え~、お構いなく~」


その晩、みゆきから「火曜日が私の家、金曜日が泉さんの家、土日のどちらか都合の良い日にどちらかの家と決まりました」と聞かされた。
今日は金曜日、泉家で勉強会をしてきた筈なのだが……。

「みゆき……どうしたの?具合でも悪いの?」
「えっ!?い、いえ……特別体調を崩したりはしていませんが……」
「そう?……なら、良いんだけど……困っている事があるのなら言いなさいね」
「はい……」
みゆきはそう言ったきり黙ってしまった。
―どうしたものかしらねぇ……
そう思いながらも、決して顔には出さない。
高良家では『個人の自主性』を大事にしているからである。
例え、誰かが明らかに困っていたとしても、本人が言い出すまでは何も言わずに待つことにしているのだ。
「……もし、話したくなったら、何時でも言ってちょうだい」
「はい……すみません……」

結局、その日も翌日も、みゆきの口からその悩みが話される事は無かった。


ピンポーン
「はーい」
インターホンを取ると、元気な声が聞こえた。
『あ、こなたです~、峰岸さんと日下部さんも一緒です~』
「どぉぞ~」
暫くして、玄関が開いた。
「こなたちゃん、あやのちゃん、みさおちゃん、いらっしゃ~い」
「「「お邪魔しまーす」」」
そこには、いつになく真面目な表情の三人が居た。
「……どうしたの?三人共……随分と真面目な顔をしているけど……」
「え!?えと、……そんな感じ、します?」
ゆかりの問いに、少々慌てた感じでこなたが答えた。
「ええ、……なんだか、一昨日からのみゆきちゃんみたいよ~」
すると、それを聞いたこなたの表情が曇った。
「やっぱり……そうですか……。あの、みゆきさんは、部屋、ですか?」
「居るわよ~、後でお茶を持って行くから、行ってて~」
ゆかりに促され、三人はみゆきの部屋へと向かった。
「……さて、どんなタイミングで『様子見』に行こうかな……」
それを見送ったゆかりは、一人呟くのであった。


―カチコチカチコチ……

時計の音だけが響く。
まるで、先日この部屋でこなた達がお互いに謝罪した時のようだ。
ただ、その時と違うのはその『重い空気』の中心にみゆきが居るという事である。

こなた達が部屋に着き、『手紙』の受け渡しをし、約束通りこなたはその『手紙』を皆に見せた。
手紙の内容は、他の三人にとってはある程度予想していた通りだったので、特に驚きの声があがる事も無かった。
だが、二枚目の『誓約書』を見せた時から、この場の雰囲気が徐々に変わっていったのだ。

『誓約書』には、三人の署名と共にそれぞれからのメッセージが添えられていた。
それを見たこなたは満足げに頷くと、鞄から一枚の紙を取り出した。
「ん?ちびっこ……これって……」
「『私達の分』って事?泉ちゃん……」
「う、うん……そうだよ……、みゆきさんから聞いているかもしれないけれど、この『計画』はみんなの『賛成』が無いと出来ないからね……」
そこまで言って、こなたは目を伏せた。

「アタシはかくよぉ~」
「私も、書かせてもらうわね~」
「……」
こなたに快い答えを返した二人とは対照的に、みゆきは俯いたまま黙っていた。
「高良ちゃん……どうしたの?」
それを見たあやのは、思わず声をかけた……が、みゆきはそれが聞こえていないのか、返事をすることなくそのままの姿勢を崩さなかった。

「……みゆきさん……一昨日、おとーさんと会って駅まで送ってもらったんだよね……」
誰に聞かせるでも無く、こなたが呟いた。
「はい……それで……私……私……」
すると突然、みゆきは顔を手で覆い泣き出した。
「……ウウッ……わから……エグッ……なく……グズッ……なって……ヒック……しまった……グスッ……んです……」
「わからなくなったって……高良~、一体何があったんだ?」
「高良ちゃん……もしよかったら、私達に話してもらえないかな?」
「……ヒック……はい……グスッ……すみません……取り乱してしまいまして……」
涙を拭ったみゆきは、一昨日の車内で話した事全てを皆に話した。

「そんな事があったんだ……おとーさんからは『みゆきさんを送った』としか聞かなかったよ……」
「……ちびっこ、本当にそれだけか?」
「本当だよぉ~、もう隠し事はしないって決めたもん……。でも、おとーさんが『ご機嫌』だったから、何か重要な話しをしたんだとは思ったけどね~」
そう話すこなたの眼差しは真っ直ぐで、嘘など全くついていないのがよくわかった。
「……泉さん……本当に、良いのですか?」
「みゆきさん……言いたいことはわかるけど、『私自身』はもう戻る気など全く無いよ」
「高良、ちびっこが『決心』した事なんだから、アタシらは全力で応援すれば良いんじゃないか?」
「ちょっと、みさちゃん……」

―峰岸さんは、この『署名』の意味がわかっているようですね……、日下部さんは……気付いていませんか……。
みゆきは心の中で呟いた。

「日下部さん、失礼ですが……この『署名』の意味は……理解されていますか?」
「ん?ちびっこと柊の妹が駆け落ちするのを認めるって意味じゃないの?」
「……確かに……日下部さんと峰岸さんの『お二人』に限って言えば、その通りですね……」
「へっ!?高良にとっても同じじゃぁ……」
「みさちゃん!!!」
尚も言葉を続けようとしたみさおを、目に涙を浮かべたあやのが怒りを含んだ強い口調で制した。
「な、なんだよあやの……アタシ何か悪いこと……」
「もっと高良ちゃんの事を考えなさいよ!!……だって……だって……高良ちゃんにとって……」
「そうです……私は……『署名』……する事で……『親友』……を……二人……同時に……う……失い……ま……す……」

みゆきは、子供のように泣きじゃくっていた。
あやのも、みさおに抱き着き泣いていた。
みさおは、自分の不甲斐無さに腹を立てていた。

「わたっ……グズッ……どう……ウウッ……どうしたら……エグッ……」
みゆきは、自分が何を話しているのかでさえわからなくなっていた。
「初め……ウグッ……初めて……ヒック……の……ウグゥ……しん……ウウッ……親友……グズッ……いなく……エグゥ……なっちゃ……」

高校に入学するまで、みゆきには本当の意味での『親友』は居なかった。
『博識が有る』『運動が得意』等の理由で親しくなる友人は居たが、それ以上の関係を持つ事は無かった。
そんなみゆきにとって、先程の理由など関係無しに接してくれたこなた達は、初めての本当の意味での『親友』なのである。

「……」
こなたは、何も言えなかった。


自分が考えたこの『計画』
実行するためには、必ずなにかしらの『困難』が有ると認識していた
ただ、その『困難』がどれ程かを認識していなかった
この『計画』が、これ程『非情』で『残酷』な物だということを

「みゆきさん……」
こなたが声をかけたが、みゆきにはその声ですら届かないようだ。

―カチコチカチコチ……

時計の音だけが響く。

『重い空気』の中心であるみゆきは、既に泣き止んでいた。
誰も、何も言えなかった。

暫くの間、沈黙が続いた。

「……どんなに考えても、どの『選択肢』を選んでも……」
不意にみゆきが口を開いた。
「……私は……『親友』を……失うのですね……」

『そんなことはない』と、こなたは言いたかった。
だが、言えなかった。
本当に『そんなことはない』のか、自分でもわからなかったからだ。

バタン!!!!!

突然、大きな音をたてて、部屋のドアが開いた。

「みゆき!そんなことはないわよ!!あなた、一つ勘違いをしているわ!!!」

そこに立っていたのは……

「お……お母さん……」



Section6 「倒れかけた苗木」 End







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