dear -Section11「苗木を守る人達~柊まつり~」



dear -Section11「苗木を守る人達~柊まつり~」




「お姉ちゃん……ここ……どうやるの?」
「ぅえっ!?えっと……どこ?」
「この問題……」
ぬぅ……数学かぁ……。苦手なんだよなぁ~。
「か、母さんは出来るよね!?」
「えっ!?……こ、こんな風にやれば……って、プリント見れば良いんじゃない!」
「そりゃそうなんだけどさぁ……なんか負けた気がしない?」
「……まつり、それは言わないで……」

dear -Section11「苗木を守る人達~柊まつり~」

我が家での勉強会が無事に終わり、今は私と母さん二人でつかさの勉強を見ている。
本来ならばかがみが教えた方が良いんだけどね、的確だし教え方も上手だから。
だけど、今は残念ながらそれはできない。
なぜなら……。
「母さん、まつり、つかさが勉強しているんだからもう少し静かにしていなさい」
「あ、ごめんなさい。私ってば、つい……」
「……はーい……」
父さんがここで『監視』をしているから。

二人が休学する事になったあの日から
私は何度も父さんと母さんにそれをやめさせるように説得しようとした
でも……全く駄目だった
せめてこちらの言い分だけでも聞いてくれれば良いのに
それすら聞いてくれなかった

「……あ、そっか……じゃぁ、こう解けば良いんだ……。お父さん、お母さん、終わったよ」
「じゃぁ、私はご飯の支度始めるわね」
「あぁ」
「んじゃ、私は部屋に……あ、やっぱ今日は手伝うよ」
「あらめずらしい事。じゃぁ手伝ってもらおうかしら。つかさもお願いね」
「はい……」

家事に関しては父さんもとやかく言わない
だから私はこの時間が好きだ
……たまにしか出来ないんだけどね

「今日の晩御飯は何?」
「串カツ、豆腐と海藻のサラダ。茄子とピーマンの揚げ浸しに……あともう一品、おつまみになる物が欲しいんだけどね……」
「お母さん、納豆袋でも作る?材料は揃っているし」
「そうね、そうしましょうか。じゃぁつかさ、そっちはお願いね」
「私は何を手伝う?」
「じゃぁ……串カツの準備をしてもらえる?」
「はーい」

傍から見れば、至って普通な台所の一コマ
でも、つかさ……だけでなく、我が家の女性陣からすれば一番落ち着く事が出来る一コマ
実際、つかさは家事をしている時『だけ』生き生きとした表情を見せてくれる
だけど、その顔色は日々悪くなっている
……父さんはそれを理解しているのだろうか?
そして、もう一人……

「姉さん、ちょっといい?」
「ん?良いけど。何?」
「かがみ、まつりに話しが有るのなら、後にするかこちらで話しなさい」
「はい……じゃぁ姉さん、後で話すね……」


これだ
例の手紙の一件があってから、父さんは
『勉強会』と『食事』
これ以外でつかさとかがみが近付く事を禁じている
……その結果……
かがみの顔色はつかさ以上に日に日に悪くなっている
何故、これ程までに二人を近付けさせたくないのだろうか?
今はこなたちゃんからの手紙を受け渡す事など出来ないのに
……昨日、姉さんから聞いたみゆきちゃん一家がこの『計画』に参加した理由……
『子離れ』が出来ていないと思われる
それでこんな事をするのかな……

「納豆袋出来たよ~」
「串カツも出来たよ~。後はパン粉を付けて揚げるだけ~」
「二人ともありがとう。それじゃ、仕上げましょうか」
「は~い。じゃぁ納豆袋炙るね~」
「……ほい、衣の準備出来たよ~」
「じゃぁ揚げるわね。まつり、お皿出してもらえる?」
「は~い」

……今夜は……ちょっと違った角度から攻めてみようかな?
父さんと母さんが、本当に『子離れ』しているかどうか
それを、確かめるために


「父さん、母さん、ちょっといい?」
「何だ?またいつもの話しか?それなら……」
「あ、違う違う。それじゃない話しなんだけど」
「なら良いぞ。そこに座りなさい」

はぁ、やっぱり警戒してるなぁ……

「で、何の話しだ?」
「あのね、……父さんと母さんはさ、つかさとこなたちゃんが付き合うのは認めないって言ってたよね」
「あぁ、……結局はいつもの話しじゃないか」
「まぁまぁ、お父さん。最後までちゃんと聞いてあげましょうよ」
「……母さんがそう言うなら仕方が無いな。で、それがどうしたんだ?」

よしよし、先ずは第一段階クリア

「それって『同性だから』って言ってたよね」
「あぁ、そうだ。何度もそう言っているだろう」
「そうなんだけど……。でね、もし、もしもなんだけど……私や姉さんが男の人を連れて来て『この人が恋人なんです!』って言ったら……どうする?」

さぁ、どう出る?

「それは……相手にもよるな」
「母さんは?」
「そうねぇ……私も相手によるかしら。あんまり変な人だと困っちゃうし」
「どうして?私や姉さんが選んだ人だよ?」
「それでも、よ。相手がちゃんとした人かどうかが肝心なんだから」
「そうだな、どこの馬の骨かわからんような奴と付き合われては困るからな」


成る程ねぇ~
それじゃぁ、これはどうかな?

「そっか……。じゃぁさ、私や姉さんが『一人暮らしをしたい』って言ったら?ほら、私だって何もなければ再来年から社会人でしょ?」
「一人暮らしか……まぁ、会社が遠いのなら仕方が無いが……出来ればそれはしてほしくないな」
「そうね、近場なら自宅から通えるんだし。……あなた達が一人で何をしているのかと思うと……お母さん不安で眠れなくなっちゃうわ」
「不安でって……一応私も姉さんも成人してるんだよ?」
「成人していようがいまいが、私達の『娘』である事はかわらないだろう?そういうことだ」
「『娘』の事を心配しない親なんか居ませんよ」

じゃぁ、つかさはどうなのさ……

「あとさ、今までのとは関係ないんだけど、ゼミで『親離れ・子離れ』についてのディスカッションが今度あるんだよね」
「ふーん、そんな事もやるのね」
「うん。でね、参考までになんだけど、父さんと母さんは『親離れ・子離れ』についてどう思う?」

さぁ、どう答える?

「その質問は明らかに愚問だな」
「え!?そうなの?」
「あぁ。なぜならさっき言った通り『親』にとって『子』は何歳になっても『子』だからだ」
「そうね、『親離れ・子離れ』と言ってもそれは言葉の上だけ、あなたも親になればわかると思うけど、『子』はいつまでも『子』なのよ」
「……つまり、父さんと母さんからすれば『親離れ・子離れ』は有り得ない、と」
「そうだな。有り得ないどころかそんな考えすら無いぞ」
「私もそうよ」

……これは……手強いなぁ

「そっか、ありがと」
「あまり参考にならなくてすまないな」
「ううん、そういった意見も有るって言えるから大丈夫だよ……あ、そうだ」

最後にもう一度確認しておくか

「さっきの質問……というか言葉なんだけど、もしかがみとつかさが恋人の事とか一人暮らしの事を聞いてきたら……どうする?」
「高校生なんだし、駄目に決まっているだろう」
「あ、今じゃなくてこれから先にって事」
「……駄目だな」
「そうね」
「へっ!?何で?私達は相手によりとか勤め先によりとかでオッケーなんでしょ?」
「いのりとまつりはそれでも構わないが、あの二人は別だ。……まぁ、この先どんな人生経験をするかでさっきの返事は変わるがな」
「まだあの子達は色々な経験が少ないから。だから私も、今のところは駄目としか言えないわ」
「あ、だからといって『同性』は有り得ないからな」
「それだけはいくらあの子達……だけじゃないわ、あなた達の誰かが言ってきても駄目よ」
「まぁ、我が家の娘達はもうそんな事は言わないだろうがな」
「そうね、つかさもかがみも大丈夫みたいだし」

……言葉だけで実際には娘の事を全然見ていないんだな……
誰がどう見たって二人ともストレスで潰れそうになってるじゃん……

「やっぱり『休学』させたのが良かったのかな」
「少しは悟ったんでしょう。自分達の考えが間違っているって事を」
「そうだな。……っと、すまんすまん。それで?まだ聞きたい事が有るのかな?」
「……ううん、大丈夫だよ、ありがと。それじゃおやすみなさ~い」
「おやすみ」
「おやすみなさい」



……まさかあそこまで『子離れ』出来ていないとは思わなかったなぁ~
あ、姉さんに一応報告しておかないと


 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 姉さん

 今日、父さんと母さんに『親離れ・子離れ』について聞いてみた
 みゆきちゃんの両親が言う通り、全然出来ていない感じだったよ
 特にかがみとつかさに対しては全くだね~
 流石の私もビックリだよ

 それじゃ、残業頑張ってね~

 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


「……送信っと。……ふぅ……」

『特にかがみとつかさ』……か……

かがみとつかさ
産まれる前からずっと一緒だった二人
そして……私の大切な妹達……

そういや……この間姉さんが言ってたな……
この計画に参加したのは『かがみを守りたいからだ』って……

私は……
私は何でこの『計画』に参加しようと思ったんだろう……

こなたちゃんの『計画』を知ったから?
……いや、違う
それを見せられる前からずっと……
父さんのかがみとつかさに対する理不尽極まりない仕打ちに嫌気がさしていたんだ……
そして、私は、そんな父さんに現実を知ってもらいたくて……

そうか……
私は、父さんと母さんに
自分達の娘の『今』を
見てもらいたかったんだ……

……父さん……母さん……
私達はいつまでも『娘』のままじゃないんだよ
いずれ私達は自立し、家庭を持ち、『娘』から『親』になるんだよ
もしそうなった時……
それでも父さんと母さんは私達を『娘』として見るの?

私は……そんな風に縛られるのは……嫌だよ
私だけじゃない
姉さんも、かがみも、つかさも
みんな、そう思っているよ


いつまでも『親』で居続ける事は出来ないんだよ
いずれ、必ず、『親』でなくなる日がくるんだよ

それでも……
あなた達二人は
『子離れ』という現実から目を背け続けるの?

私は、父さんと母さんにその現実をしっかりと見てもらいたい
そして……不幸にも引き離されるかわいい双子の妹達……
私達から離れ行くつかさと残されるかがみを守りたい

それが『計画』に参加した私の理由……


「まつりねーさーん!お風呂空いたよー!!」

あれ?もうそんな時間!?
……ちょっと物思いに耽り過ぎたか……

「わかったよー!かがみー!!」

さーてと、今日は姉さんも残業だし、ノンビリと入りますか~
実行日に体調を崩さないように、しっかりと身体を休めないとね!

「ねーさーん!!聞こえたー?」
「はーい!!今行くー!!」


Section11「苗木を守る人達~柊まつり~」 End


実行日まで
あと五日





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最終更新:2010年12月19日 15:24