dear -Section12「苗木を守る人達~岩崎みなみ~」


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dear -Section12「苗木を守る人達~岩崎みなみ~」




「じゃぁ、いってきます……」
「いってらっしゃい。あ、折りたたみ持った?」

お母さんの言葉に私は無言で頷き玄関から外に出る。
外に出ると、昨晩の雨で出来た水溜まり。
そこには上空の梅雨空が映っている。
……少し、肌寒いな……ゆたかは大丈夫かな……

dear -Section12「苗木を守る人達~岩崎みなみ~」

~♪

駅の改札を抜けた辺りで携帯が鳴った。
……ゆたかからだ……あ、マナーモードにしておかないと……
メールの着信音に慌てて携帯をマナーモードにして、メールをチェックする。
……そっか、じゃぁ帰りにお見舞いに行こうかな……。
メールには「具合悪いからお休みします。みなみちゃんごめんね」と書いてあった。
……昨日まで暖かかったからね……仕方ないかな……。


……えっと……3ーB……あ、ここだ……。
今は昼休み、教室の中からは楽しそうな笑い声が聞こえる。
……泉先輩……居るかな?
教室の中を覗くと、泉先輩を中心に高良先輩、峰岸先輩、日下部先輩の姿が見えた。

「あの、泉先輩!」
「あ、みなみちゃん!どったの~?」
「あの……ゆたかの事で……」
「あ~、ゆーちゃんの事?まぁそんな所に居ないでこっちに来なさいな~」
「はい……失礼します」

「んで?ゆーちゃんに何か用?……てゆーかメール行ってるよね」
「ん?ちびっこ~、ゆたかちゃんがどうかしたのか~?」
「あ、今日休んでいるのだよ~。体調崩しちゃったみたいでさ」
「……大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うよ~。大抵一日休めば良くなるし」
「風邪ですか?」
「うーん、昨日の夜に雨が降った急に冷えたからね~、多分それでじゃないかなぁ」
「あの、それで……プリントを届けるついでにお見舞いに行こうかなと……」
「そう?ありがと~。ゆーちゃんも喜ぶよ~」
「あ、でも……今日は泉さん……」
「え?……あ、そっか……おとーさんも夜まで帰ってこないしな~」
「……何か不都合があるんですか?」
「ほら……今日は、みゆきさん家だから……」

……あ、そうか……今日は火曜日だっけ……。

「忘れていました……すみません、それでは帰りにプリント持ってきますので、ゆたかに渡して……」
「あ、ちょっと待って……みなみちゃんにこれを預けておくよ~」

何かを閃いた泉先輩は鞄の中から鍵を取り出し私にそれを差し出した。


「……家の鍵……ですか?」
「いえ~す!今日はおとーさんも居ないからさ、これで家に入ってもらえる?鍵はゆーちゃんに預けておいてもらえればいいから」
「あ……はい……じゃぁ、確かに預かりました……」
「ゆーちゃんの事お願いね~」

家にはゆたか一人か……早く行ってあげないとね……。


……ここを曲がって……えっと……あ、あそこだ。
何度か来たことのある泉家。
ゆたか一人の時は……初めてかな?
……鍵は……確かここに……うん、あった。

鍵には可愛らしい犬のプレート型キーホルダーが付いている。
前に、泉先輩とつかさ先輩は「お揃いなんだ~」と言って私に見せてくれた。
……泉先輩……つかさ先輩と引き離された時……どんな気持ちでこれを見ていたのかな……。


泉家に着いて、念のためにインターホンを押してみる。
……返事は無いか……寝ているのかな?
預かった鍵で中に入ると、物音一つしていない。
私は静かに扉を閉め、靴を脱いでゆたかの部屋へ向かう。……起こしたら悪いから……静かに……静かに……。
扉をノックしても返事は無い。
……熟睡しているのかな?それなら良いんだけど……。
静かに扉を開けて中に入ると、規則正しい寝息が聞こえてくる。
入るときと同様に扉を閉めてベッドの脇に腰を下ろし、鞄を置いてゆたかの寝顔を見つめた。
……顔色は悪くなさそうだね……熱は……。

「ちょっとごめんね……」

私は小声でそう呟くと、そっとおでこに自分のおでこを当てた。
……熱もなさそうだね……良かった……。
静かに体を起こして再び寝顔を見つめる。
……冷え込んだのもそうだけど、眠れなかったのかもしれないな……。

一昨日、『作戦会議』のあと、私の部屋に田村さんと三人で集まった時、ゆたかは自分に言い聞かせるように宣言をしていた。

「私、頑張るよ!お姉ちゃんのためだもん!絶対に成功させるよ!!」

……『計画』の事……『役割』の事……成功した後のゴタゴタ……全部わかった上であんな宣言をしたんだよね……。

ゆたか
私が高校に入って最初に仲良くなった、大切な……親友
体が弱いのに、クラス一負けん気が強くて……どんな時でも前向きで……
私は、そんなゆたかを見ているのがとても好きで……

「あ……そうか……」

私は……ゆたかを……。


「ん……あれ?みなみちゃん?」
「あ……ごめん、起こしちゃったね……」
「ん~ん。……あれ?みなみちゃんが居るって事は……学校終わったの?」
「うん。プリント……持ってきたよ」
「ありがと~。……よいしょ……っとと!」
「ゆたか!」

プリントを受け取ろうと体を起こしたゆたかがふらついて頭を壁にぶつけそうになったので、私は慌てて腕を掴んだ。

「あ、ありがとう……」
「大丈夫?」
「うん、みなみちゃんが掴んでくれたから大丈夫だよ」
「……良かった……」

クッションと枕で背もたれを作り、ゆっくりと掴んでいた腕を離し、起こした体をそこに寄り掛からせた。

「……私……本当に大丈夫なのかな……」
「……どうして?」
「だってさ……今はまだお姉ちゃんが居るから、今日みたいに具合悪くなってもなんとかなる……でしょ?」
「そう……だね」
「でも、お姉ちゃんが居なくなったら……今日みたいに体調崩してなんかいられないんだよ……それなのに……」
「……」
「……ほんっと、情けないよね……お姉ちゃんには『大丈夫だよ』って言って……みなみちゃんと田村さんには『頑張る』って言ったのにさ……」
「ゆたか……」
「……もぉ……グスッ……嫌になっちゃうよ……どうして……グズッ……こんなにも……私の身体って……弱いのかな……」

……そんな事は無い。
私は同じクラスになってからずっとゆたかを見てきた。

だから……そんな事は……

「もぉ……嫌だよぉ……ヒック……もっと……もっと……グズッ……強くなりたいよぉ……エグッ……」
「ゆたか!」

私は思わずゆたかを抱きしめた。
そうせずに居られなかった。

「グズッ……みなみ……ちゃん?」
「大丈夫、ゆたかは弱くなんか無いよ……」
「でも!今日だって……」
「『身体』は弱いかもしれないけど、『心』はとても強いよ……」
「ここ……ろ……?」
「うん……。あのね、一昨日ゆたかが私の部屋でさっきの言葉を言ったでしょ……」
「う……ん……」
「ゆたか達が帰ったあとに考えてみたの……もし私がゆたかの立場だったらって……」
「わたしの……たちば?」
「うん……でね、私だったら……ゆたかみたいに言えないなぁって思ったんだ」
「……そう……なの?」
「だってさ……『計画』が成功したあとって……一人ぼっちになっちゃう……でしょ?」
「……気付いてたんだ……」
「でも……ゆたかは……それをわかった上で……あの言葉を言った……だから、ゆたかは弱くなんかないよ……」
「みなみちゃん……ありがとう」
「もう大丈夫?」
「うん……」


私は抱きしめていた腕を解き、ゆたかの両肩に手を置いて真っ直ぐにゆたかを見つめた。
……これだけは……言っておきたかったから……。

「ゆたか……これだけは覚えておいて」
「な、なに?」
「私は……この先どんな事が有っても……ゆたかの味方だから……」
「……うん……ありがと……グスッ……」

ゆたかは私の言葉に涙ぐみながらも笑顔を見せてくれた。
……良かった……笑顔が戻って……。

「……やっぱりゆたかには笑顔が似合うね」
「ふぇっ!?いきなりどうしたの?みなみちゃん」
「あ……その……昨日も、一昨日も……ゆたかの笑顔を見ていないなぁって……思って……つい……ごめんね、変な事言っちゃって……」
「……ううん……嬉しいよ……そんな風に言ってもらえると……」
「そう……なの?」
「うん!だってさ、友達に『笑顔が似合う』なんて言われたら……みなみちゃんだって嬉しいでしょ?」

……以前の私なら「わからない」とこたえていただろう
小さい頃から『無表情』『暗い』ってレッテルばかり貼られていたから
……私は『笑顔』と無縁の生活を送っていた
でも今は……ゆたかのおかげで……私は自然な『笑顔』をいつしか見せられるようになっていた
だから……ゆたかの問いにも……自信を持って答えられる
最高の、『笑顔』で

「……そうだね。嬉しいよね」
「でしょでしょー?そうだ、前にお姉ちゃんとおじさんが言ってたよ『笑顔は人を幸せにする』って」
「私も……そう思うな……だって……」
「……だって?」

『ただいまー。……ってあれ?お客さんかな?』
「あれ?おじさん帰ってきた。おかえりなさーい!お仕事早く終わって良かったですねー!」
『ん?今のはゆーちゃんかい?』
「あ、はい!すっかり元気になりましたー」
『そうなの?……入るよー』

ノックの音がしたかと思うと、おじさんが部屋の扉を開けて入ってきた。

「あ……お邪魔しています……」
「あぁ、みなみちゃんだったのか。こんにちは。……ゆーちゃんのお見舞い?」
「はい……あと、プリントも……」
「そうか、いつもありがとね……ゆーちゃんもすっかり元気になったみたいだな」
「はい!お蔭様でぐっすり眠ったら元気になりました!……てゆーかおじさん、許可も無くレディーの部屋に入るのはどうかと思いますけど?」
「ん……?おぉっと!こいつぁ失礼!!」
「次からは気をつけて下さいね。……今回で三回目ですけど……」
「……三回も……?」
「あー、それについては……その……なんだ……ごめんなさい」

ゆたかの言葉におじさんは頭を深々と下げて謝った。
それを見たゆたかは何故か笑顔を見せている。


「……なんで……笑っているの?」
「え?んーっとね……いつもおじさんこんな調子だから面白くって」
「ゆーちゃーん……。ゆーちゃんまでこなたみたいな事言わないでくれよぉ~」
「はいはい……もう怒ってませんよ」
「うぅ~、かなたぁ~。ゆーちゃんまでこなたみたいに俺の事をいじめるよぉ~」
「うふふっ」

……なんか……物凄いやり取りを見ている気がする……。
でも、これがこの家の『日常』なんだろうな……。

だけど……その『日常』も……もうすぐ無くなっちゃうんだよね……

「……ところで、みなみちゃん。そろそろ帰らないとまずいんじゃないか?もう五時半だよ」
「え……?もうそんな時間ですか?」

慌てて時計を確認すると、確かにもう少しで五時半になる。

「じゃぁ……ゆたか、また明日……学校でね」
「うん!今日はありがとね!」
「よっし、それじゃ俺が車で駅まで送ってあげるよ」
「……ありがとうございます……では、お言葉に甘えて……」
「ばいばーい!また明日ねー!」


「いやー、みなみちゃんはゆーちゃんの特効薬だな~」
「……特効薬……ですか?」

駅へと向かう車の中、おじさんは突然そんな事を言った。
……どういった意味なんだろう……。

「ん?大した意味じゃないよ。ただ……みなみちゃんが来るとさ、ほぼ必ずと言って良いくらいゆーちゃんが元気になるんだよね」
「そう……ですか」
「そう。だから『特効薬』って思ったんだけどさ……嫌だったらごめんね」
「いえ……嫌では……ありません……」
「そぉ?良かった~、変なおやじって思われなくて」
「そ、そんな事……思いません……」

そこで会話が途切れた。
元々他人が苦手な私が……親友がお世話になっているおじさんとは言え……会話を続けるなんて事自体無理な話だ。

「俺さ……不安だったんだよね」

そんな心中を察してくれたのか、おじさんが再び話しはじめた。

「……不安、ですか?」
「そう。……俺が居ない間にゆーちゃんにもしもの事が有ったら……こなたも居ないのに……ってね」
「そう……ですか」
「そしたらね……なんか『こなたもゆーちゃんもいなくなったらどうしよう』って考えちゃってさ……そんな事無いのにね」

そう言うと、おじさんは自嘲気味な笑みを浮かべて話しを続けた。


「だけど一度そんな考えが頭を過ぎるとそれからが大変でさ、何をしていても手につかない」
「それは……大変ですね……」
「だろ~?……だから今日は打ち合わせもそこそこに急いで帰ってきちゃった」
「はぁ……大丈夫なんですか?」
「んー、まぁ何とかなると思うよ。それにしても……なんであんな事考えたんだろうな~。……有り得るはず無いのに……」
「……そうですよ、ゆたかが居なくなるなんて……有り得ませんよ」
「……そうだよね……最近疲れているのかなぁ~」
「……あまり無理をしないで下さいね……ゆたかが心配していましたよ」
「ゆーちゃんが?……そっか、気をつけないといけないな……」

その後も、おじさんが話して私が答えるという形だけど、他愛のない話しをいくつかした……時折、笑顔も見せたりした。
……こんな事が出来るのも……ゆたかのおかげだよね……。

「お、この先のロータリーで良いかな?」
「あ、はい……お願いします」

気が付くと、駅はもう目の前。
外はいつの間にか降り出した梅雨の雨。

「傘有るかい?」
「はい……折りたたみが」

駅に着き、外に出ると雨と共に冷たい風が私に襲い掛かった。
慌てて傘を開き、車のドアを閉める。
すると助手席の窓が開き、おじさんが顔を近付けた。

「みなみちゃん……ゆーちゃんの事……これからも頼むよ!」
「あ、はい……」
「それじゃ、気をつけてね」
「今日はありがとうございました……おじさんもお気をつけて……」

おじさんは親指を立てると、窓を閉めて自宅へと車を走らせた。
……ゆたかの事を頼むよ……か……。

一昨日、お母さん達が『計画』に参加した理由を言ってた
でも……私の理由はお母さん達とは違う

ゆたかは……私に色んな表情を見せてくれる
私は、そんなゆたかを見るのが……好きだ
ゆたかは……私を変えてくれた
一人ぼっちだった私を……
だから、今度は私の番
ゆたかが一人ぼっちにならないように……
ゆたかの笑顔が無くならないように……

ゆたかを、支え続ける

それが、私の理由。


Section12「苗木を守る人達~岩崎みなみ~」 End


実行日まで
あと四日






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