dear -Section13「苗木を守る人達~日下部みさお・峰岸あやの~」
「それじゃ、失礼しまーす」
「次は金曜日に来ますね」
「はーい。んじゃね~!」
「気をつけて帰ってね」
まつりさんとおばさんに見送られた私達は、家への道を歩きはじめた。
……明後日が最後……か……。
dear -Section13「苗木を守る人達~日下部みさお・峰岸あやの~」
「なぁ、あやの」
「……何?みさちゃん」
いつもの帰り道、でも明後日で終わる予定の帰り道。
「明後日で……最後……だよな……」
「えぇ……明後日で……最後よ……」
柊の『休学』が決まってから始まった『勉強会』
『計画』が成功すれば……これも終わる……はずだ
「今日で何回目なんだろうな?」
「……わからなくなる程に、いっぱい来たわね……」
そして……
ちびっこと……妹とも……
「……色々、あったよな……」
「うん……色々と、あったね……」
妹が休学して……
ちびっこが柊に手紙を託して……
柊も休学して……
ちびっこと喧嘩して……
『勉強会』が始まって……
ちびっこと仲直りして……
『計画』がスタートして……
「あのさ……あやのは……どうして、『計画』に参加しようと思ったの?」
「どうしてって言われても……なんでそんな事聞くの?」
どうして……か
そうなんだよな~
なんでなんだろう……
「……柊が『休学』してからさ……ちびっこと一緒に居る機会が増えたじゃん」
「そうね……一緒にお弁当食べたり、昼休みに話す機会が増えたわね」
「ちびっこと話したり……一緒にお弁当食べたりしてさ……ちびっこの事が色々とわかってきたら……」
「わかってきたら?」
「……私は、なんでこの『計画』に賛成したのか……わからなくなっちゃってさ……」
「……みさちゃんも、そうなんだ……」
……ん?
みさちゃん……も?
「『も』って……もしかしてあやのも?」
「うん……。私も同じ……」
「そっか……」
あやのもわからなくなってたんだ……
「……みさちゃんは……なんであの時賛成したの?」
「ちょっ!それってさっき私がした質問じゃん!……まぁ良いけどさ」
「だって……人の意見を聞くときにはまず自分の意見を言うのが常識でしょ?」
「みゅぅ~」
確かにその通りなんだけどさぁ……
はぁ……、仕方無い、ちゃんと話すか……
「あの時……私は……ちびっこと妹が幸せになれれば良い!……って思ってさ、それで……」
「……私も……最初は高良ちゃんの事が気になっていたけど……大丈夫だってわかったら……」
「そっか……」
「……これって……賛成した理由になるのかな……」
「……わからない……」
「……だよね……」
お互い黙ったまま歩く帰り道
いつもと距離は変わらないはずなのに……
今日は、とても、長く感じる
「柊……大丈夫かな……」
「……どうして?」
あぅ……
「あやのぉ~、なんで高良が一人ぼっちになるのはすぐにわかったのに、柊の事がわからないんだよぉ~」
「え?……あ!そっか……。妹ちゃんがいなくなったら……」
「柊は……あの家で一人ぼっちになっちゃう……」
「で、でも、お姉さん達が……」
「……二人共居ない時は?いのりさんが残業で、まつりさんが飲み会だったら……柊と親しかいなくなるんだぞ!」
「あ……」
「それに!もしお姉さん達がたまたま旅行で何日か出掛けたら……」
「……その間、ずっと、一人ぼっち……」
「そんな……そんな状態で柊が普通でいられると思うか?妹とお姉さん達がいるのにも関わらず……あんな……ボロボロになって……」
「みさちゃん……」
「メイクで隠してるけど!目の下には隈が出来てるし!腕なんかも妹以上に痩せて細くなってるし!」
「……」
「柊は大丈夫って言ってるけど!どこが……どこが大丈夫なんだよ!」
「……無理してるよね……柊ちゃん……」
「だよな!……まったく……柊は中学の時から全然変わってないよな!」
「そう?」
「そうだよ!面倒な事は全部自分で抱え込んで!どんな時でも、自分が倒れない限り具合が悪くても無理をするし!」
「……そうだね……」
「なんで……なんで柊は……自分を大事にしないんだよぉ……」
「……正義感が強いから、じゃないかな……」
「……わかってる……わかってるよ……。でも!だからって……」
「柊ちゃんは……私達が注意しないと……突っ走っちゃうからね……」
「……グズッ……」
「みさちゃんは……優しいね……」
「……エグッ……」
「もぉ!これは全部終わったら……柊ちゃんに一言……言わない……とね!……みさちゃん……を……泣かせたん……だよ……って……」
「……あやのだって……」
「……」
「あやのだって……泣いてるじゃんか……」
「……グスッ……みさちゃ~ん!」
「あやのぉ~!!」
夕焼けが照らす道の真ん中
私達は人目をはばかる事無く抱き合い泣き続けた
☆
それからかなりの時間が経ったけど
涙は止まる事無く溢れ出ている
この涙は何の為に流れるの?
この哀しみは……どこから産まれてくるの……?
柊が辛い目に会ってるから?
それなのに私達は……何も出来ないから?
……多分両方なんだろうな……
柊……
正義感が人一倍強くて……
曲がったことが大嫌いで……
それが原因で人から誤解されたりするけど……
でも……
本当はとても優しくて……
いつでも他人に気を配ってて……
だから……いつでも自分は二の次で……
そんな性格だから……
私達に心配をかけないようにって思って……大丈夫なんて言っちゃうんだよな……
……そっか!
私達にしか出来ない事……あった!!
「あやの」
「……グスッ……」
「泣き止んで……。私さ、わかったよ」
「……なに……が?」
「今回の『計画』に参加した理由」
「……?」
「あのさ……さっきも話したけど……柊って正義感強いよな」
「うん……」
「そんでもって、実はとっても優しい」
「……今の台詞を柊ちゃんが聞いたら、物凄く驚くわね」
「べっ、別に言ったっていいじゃんか~。……柊だっていないんだし……」
「フフッ……そうね。みさちゃん、柊ちゃんがいない所で色々と言ってるもんね」
「みゅ~、あやのがいじめるぅ~」
「ごめんごめん……つい、ね」
「全く……。んで、えーっと……どこまで話したっけ?」
「柊ちゃんが優しい、ってところまで」
「あ、そかそか。んで、結構周りに気を配る」
「……そう、だね」
「……自分を二の次にして……」
「……」
「だからさ」
「……?」
「私達は……柊を支える役になれば良いんじゃないか?」
「柊ちゃんを……支える?」
「そ。柊が自分を二の次にしないように。……あんなにも悩んで苦しんでる柊なんて……見たくないよ……」
「……そうだね。私も……あんな柊ちゃんは二度と見たくないな……」
「やっぱ、柊は元気じゃないとな」
「そうね、それと笑顔!」
「本人は気付いてないけど、笑った柊って可愛いよな~」
「みさちゃん、それちゃ~んと柊ちゃんに言ってあげてねっ」
「そ、そんな恥ずかしいこと出来るわけないだろっ」
「冗談よ、じょ・う・だ・ん。……でも、柊ちゃんには笑顔でいてもらいたいよね……ずっと……」
「もぉ……。でも、そうだよな、柊には笑顔が一番似合うよな!」
「だよね!!」
怒った顔……
困った顔……
色んな顔があるけど
悩んで苦しんでる顔の柊なんて……
もう絶対に見たくない!!
「柊を二度とあんな顔にさせないためにも……」
「私達が頑張らないとね!!」
柊が二度とあんな顔しないように……
私達が全力で支えて、助ける
それが、私達の、理由
Section13「苗木を守る人達~日下部みさお・峰岸あやの~」 End
「ところでさ、私達って今回何も役割が無いじゃん?」
「そうねぇ」
「でさ……ちょっと耳貸して……」
「いいけど……何?」
「あのさ……ってのはどう?」
「えっ!?で、でも……」
「まぁ、ダメもとで相談してみない?」
「……そうね、今のままだと何も出来ないもんね」
「よし!じゃぁメールで……」
「オッケーしてもらえるといいね」
「『……相談に行っても良い?』っと……こんな感じで良いよな!」
「……みさちゃん、そこは『良いでしょうか』だと思うんだけど……」
「えっ!?……あ、じ、冗談に決まってるだろ~」
「……心配だからメール手直ししておくね……」
「……みゅぅ~」
実行日まで
あと三日
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最終更新:2011年01月30日 20:12