dear -Section15「苗木を守る人達~泉そうじろう~」


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dear -Section15「苗木を守る人達~泉そうじろう~」




「ふぅ……。今日はこのくらいにしておくか……」

時計を見ると、針はとっくに日付を跨いでいた。

「流石に……締切が重なると……辛いなぁ~っと」

同じ姿勢のままで強張った身体を伸ばしながら、そんな事を呟く。

「さてと……おやすみ、かなた」

仏壇に声をかけ、既に敷いてある布団に潜り込み、目を瞑る。
連日の夜更かしが祟ったのか睡魔は即座に訪れ、俺は眠りの世界へと導かれていった……。

dear -Section15「苗木を守る人達~泉そうじろう~」

―……う……ん、そ……くん
まどろみの中、誰かの声が聞こえる。
……うるさいなぁ……
―そう……ん、そうくん
……誰だぁ?俺の名前を呼ぶのは……
―そうくん、そうくん!起きて!!締切は今日でしょ!!!

「ぬぁぁぁっっ!!!」
『ふふっ、やっと起きた』
「あ?……なんだ、かなたか……もう少し寝かせてくれよ……」

全く……相変わらずヒヤヒヤさせる起こし方するんだもんなぁ~、まいっちま……えっ!?

俺の思考はそこで一時停止した。
目の前に座っているのは、少女と見間違えそうな程幼い顔立ちの女性。
独特のくせ毛と泣き黒子が無いだけで、外見はこなたそっくりだ。
だが、その女性がここに居るはずがない。
かなたは……遥か前に……この世を去っている。
こなたの変装かとも思ったが……それは有り得ない。
どんなに言い方を似せたとしても……あの声や微妙な言い回しは、物心つく前に母を失ったこなたには……真似出来ないからだ。
ならば……まさか!

「本当に……かなた……なのか?」

怖ず怖ずと問い掛ける俺。
すると女性は満面の笑みで答えてくれた。

『はい、そうですよ。……久しぶりだからわからなかった?』
「いや……わからなかったんじゃなくて……意外というか……驚いちまって……」
『……ま、それもそうよね。死んだはずの人間が目の前に居るんだし……』
「……てことはだ、やっぱり……幽霊……なのか?」
『幽霊……なのかな?やっぱり……』
「……でも、なんで今?お盆にはまだ早いだろう?」
『……わからない……でも、どうしてもそうくんと話さなきゃならない気がするの……』

話さなきゃならない……?

「話した方がいい、じゃなくてか?」
『うん……でもその理由がわからないのよね……』
「理由……か」


……本来、霊魂というものは何かの未練がある場合にさ迷い出ると聞いたことがあるが……
理由も無く出てきたと言う事は、もしかしたら……

「理由は……俺が呼んだからかもしれないな……」
『呼んだから?』
「あぁ……ちょっとな。こなたの事で悩んでいて……な」
『こなたの?……一体何があったの?』
「……少し……込み入った話しなんだ……。始まりは……」

俺はこなたとつかさちゃん、二人に起こった事を淡々と話した。
かなたはその間、黙ってじっと聞いていた。

『……そんな事が……。でも、なんでそうくんは悩んでいるの?』
「……俺は最初、柊さんが言った『二人を会わせないようにしたいから、つかさを暫く休ませます』って言葉を鵜呑みにしていたんだ」
『鵜呑み……?でも実際つかさちゃんは……』
「スマン、言葉が足りなかったな。俺は柊さんの言葉を『一週間程度、何らかの理由をつけて休ませる』って意味だと思っていたんだ」
『そうだったの?』
「あぁ。実際柊さんも『少し会わない期間を設ければ共に頭を冷やすでしょう』と言っていたからな。だが……」
『一週間どころか一ヶ月以上……』
「それに、本来は関係の無いかがみちゃんまで……」
『そうくん……』
「俺はこなたからそれを聞いた時、流石に耳を疑ったよ。それでこなたが家を出た直後に電話をしたんだ」
『……柊さんは、なんて?』
「『これが我が家の方針だから、余計な口出しをしないでいただきたい。それに、うちの娘をたぶらかしたのはお宅の娘さんじゃないか』と言われたよ」
『そんな……酷い……』
「だろ?第一これはこなたとつかさちゃん二人の問題なんだから、かがみちゃんは無関係じゃないか!」
『そうよね、そうくんの言うとおりだわ』
「それに!俺が『こなたの大切な友人だから、せめてかがみちゃんだけは』って食い下がったらなんて言ったと思う!?」
『そうくん、落ち着いて……』
「『私はそんな友人など認めない!』って言ったんだぞ!有り得るか!?有り得ないだろう!?なんだよその言い草は!!」

俺の怒りは止まることを知らなかった。
だから、気付かなかった。
扉の向こうで聞き耳を立てている小さな影が有ることに。

「二人はこなたにとってとても大切な友達なのに!なんで、なんでそれを引き離すんだよ!?そりゃあ、俺も最初同意したさ!!でも、だからって!だからって……!」
『……そうくん、辛かったのね……』
「俺が……!あの時……!そこまでしなくてもと一言言っていれば……!そもそも二人の仲を認めていれば……!こんな事には……」

俺は年甲斐も無く涙を流していた。
自分の不甲斐無さ、それがとてつもなく悔しかった。
俺のせいで……そんなことを呟いていると、身体が不思議な感覚に包まれた。

『ダメよ、そうくん。自分を責めちゃ……』

気付くとかなたが俺を優しく抱きしめていた。
……幽霊の触感ってこんな感じなのかな?

「だってそうだろ?俺がもっと寛容な気持ちで二人の仲を見守ってあげていれば……、ちゃんと二人を信頼していれば……」
『それはそうだけど……でも、過ぎてしまった事を悔いても仕方が無いわ』
「かなたぁ……俺はどうしたら良いと思う?俺はこなたに謝りたいんだ。でも……あの一件からこなたはずっと俺を避けていて……」
『まぁ、こなたからしたら当然でしょうね……。少なくともそうくんは柊さんと共に「敵」とみなしているだろうし……』
「……そう考えるのが妥当だよな……」

俺はずっとその事で悩んでいた。
おそらくかなたが此処に来た理由はこれなんだろう。


「どうしたらこなたに話しをすることが出来るんだろう……」
『……あ!ね、そうくん。話しじゃなくて手紙なんてどうかしら?これなら取り敢えず目を通すくらいするんじゃない?』
「そうか……手紙か……盲点だったな……。それじゃ、ひとつ書いてみるとするか」

そう意気込み、かなたから身体を離して机に向かおうと……思ったんだが、かなたが右腕をしっかりと握って離してくれない。

「かなた……スマンが腕を離してくれないかな」
『そうはいきません。だって今、そうくん手紙を書こうとしてたでしょ?……今はまだ書いちゃダメよ』
「今は?……なんでだ?」
『なんでって……そうくんが私に書いたラブレター、覚えてる?徹夜で書いたって言って渡してくれた……』
「……覚えてる……そういや誤字脱字だらけで支離滅裂だったなぁ……」

そういやあれは恥ずかしかったな……
一世一代の名文だ!なんて思っていただけに……

『でしょ?だから……』
「あぁ、そうだな。一眠りしてこなた達が学校に行ったら書くよ……ふぁ~あ……」
『あ、もうこんな時間……それじゃ、おやすみなさい』
「……かなた……ありがとうな……」
『どういたしまして……私こそ、こなたの事を相談できて嬉しかった……そうくん、ありがとう……』
「……そろそろか?」

見ると、かなたの濃度とでもいうのか、それが先程よりも薄くなっている。

『うん……でも……そうくんが眠って、こなたの顔を見てからだけどね』
「そっか……『次』は……あるのかな……」
『もし又何か困ったら、その時に……かもね……』
「……まぁ、いずれは会えるからな……遠い先になるとは思うが」
『そうよ。少なくともこなたが大人になって、独り立ちをして……ってこれじゃもう条件を満たしているわねぇ~』
「おいおい……勝手に死期を決めないでくれよ」

相変わらずというか……死んでもというか……生前の茶目っ気はそのままだな……

「ま、少なくともあと60年位は生きるから、ちょっとだけ待っててくれないか?」
『はーい。……あんまり早く来たら……承知しないからね……』
「あぁ。肝に銘じて長生きするよ……それじゃ、また」
『うん……またね、そうくん』

かなたの声を聞き、俺は再度布団に潜り込む。
どうやら話した事で多少なりとも胸のつかえが取れたようだ。
俺は十数える間もなく、眠りに落ちていった……。


「おじさーん!朝ご飯ですよー!!」
「……ん?……ふぁ~ぁ……朝か……」

それにしても……今日の夢はリアルだったなぁ~
手紙か……それも有りだな、うん

「おじさーん!起きてますかー?」
「あ、あぁ。今行くよ」

洗面所で顔を洗い、居間に入るとこなたとゆーちゃんが朝食を食べていた。


「こなた、ゆーちゃん、おはよう」
「おはようございます」
「……おはよ」
「あ、今コーヒー煎れますね」
「あぁ、すまない。……こなた、ちょっといいか?」
「……ごちそうさま。ゆーちゃん、私先に学校行ってるね」

……今日も変わらず……か
例の一件から、こなたはあからさまに俺を避けるようになっていた。
当たり前と言われれば、その通りなのだが……。
……やっぱ手紙しかないかなぁ~

「はい、コーヒーどうぞ」
「ありがとう、ゆーちゃん」
「どういたしまして」

コーヒーを一口飲んだところで、扉の音が聞こえた。
……行ってきますくらい言ってくれても良いと思うんだがなぁ~

「あの……おじさん。ちょっといいですか?」
「ん?なんだい」

そう言ったゆーちゃんは何故か小難しい顔をしている。

「えっと、単刀直入に聞きます。……夜中に言っていた事は、本当ですか?」
「……えっ!?夜中?」
「はい。喉が渇いて目が覚めたので、飲み物を取りに台所に向かう途中におじさんの部屋から声が聞こえたんです」
「声?」
「そうです。それで……悪いとは思ったんですが、盗み聞きを……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ゆーちゃんは『声』って言ったけど……それって俺の声かい?」
「はい。ただ……会話をしているような感じだったので……つい」
「……なんてこった……それじゃぁ、あれは『夢』じゃなかったんだ……」
「『夢』?」
「あぁ……かい摘まんで話すと……」

俺は昨晩の出来事をざっと説明した。
流石にゆーちゃんも驚きを隠せないようだ。

「かなたおばさん……だったんですか……」
「おそらくね。いやー、てっきり『夢』だとばかり思っていたんだがな~、世の中色んな事があるもんだなぁ」
「そうですね……っと、それはそれとしてですね、おじさんが言った言葉、あれは本当の事なんですか?」
「……本当だよ……まぁ、謝って済むような問題じゃない事は重々承知しているけどね」
「……でも、少なくともおじさんがお姉ちゃん達の事を認めているのなら、お姉ちゃんも少しは心強いと思います!」
「……心強い?どうして?」
「それは……あ!もうこんな時間!おじさん、細かい事はメールしますから!」
「あ、うん。わかった」
「それじゃす、みませんけど後片付けお願いします!行ってきまーす!!」
「いってらっしゃ~い」

……はて?一体何が『心強い』んだろう……?



「……なんてこった……」

予告通りに送られてきたメール。
一通目には『つかさ先輩とかがみ先輩の現況です』のタイトルと、つかさちゃんとかがみちゃんが現在置かれている状況が書いてあった。
そして……二通目には『驚かないで下さい』のタイトルと、こなたが……こなた達が実行しようとしている『計画』が書いてあった。

「俺は……こなたをそこまで追い詰めていたのか……」

やはりあの時……いや、やめておこう。昨日かなたにも言われたしな
ふぅ……取り敢えず手紙を書くか。そして……こなたにしっかりと謝って……
そんな事を考えていると、メールの着信音が響いた。

「ん?……そうか、わかったよ」

件名には『おじさんにしか出来ない事があります』、本文には『詳しい事は帰ってから話します。もしまだ手紙を書いていないのなら、そのまま書かずにいてください』と書いてあった。

「俺にしか出来ない事……か。なぁ、かなたは何だと思う?」

仏壇に問い掛けても、昨晩のように答えが返ってくる事は無かった。

「……考えていても仕方ないな、ゆーちゃんが帰ってくるまでに今日のノルマを終わらせておくか~」


「なぁ、ゆーちゃん……『俺にしか出来ない事』って……何なんだい?」

俺は向かい合わせに座るゆーちゃんに問い掛ける。
こなたは入浴中だ、聞くチャンスは今しかない。

「その前に……おじさん、誓ってもらえますか?お姉ちゃんの『計画』を止めさせないという事を」
「……もし俺が止めたとしても、こなたはなにかしらの手段を用いて実行するだろうからな……わかった、誓うよ」
「それじゃぁ……先ずはこの紙にサインをしてください」

目の前に差し出された紙には『誓約書』と書いてあり、その下に文言と記名欄がある。

「……それだけ『本気』だって事か」
「はい……そうです。そして、『計画』に参加する人全員がこれにサインをしました」
「そうか……」

俺がこれにサインをするという事は、つまるところ俺自身 が『俺の下から駆け落ちする』という事を認める意味になる。
……矛盾だらけだな……
だが、仕方ないか。これ程の『本気』を我が子から見せ付けられたんだからな……
親として、もう二度と娘をあんな目に会わせる訳にはいかないからな
俺は名前を書き込み、ゆーちゃんに渡した。

「……これで良いかな?」
「はい……ありがとうございます。それで……おじさんにしか出来ない事なんですけど……」
「うん。それは一体……」
「えっと、その前に……本来の計画で明日おこる事をお話しますね……」

それは俺が思っていた以上に綿密な計画だった。
もしこのまま明日を迎えていたら……俺は恐らく平常心を保つことなど出来なかっただろう。


「凄いな……まるでドラマか何かのワンシーンじゃないか……」
「まぁ、これは今おじさんに話した時点で実行されなくなりましたけどね。それで……ここからが本題なんですけど……」
「うん」
「お姉ちゃんを抱きしめてあげて下さい」
「……へっ!?」

その言葉に俺は思わず驚きの声をあげてしまった。
抱きしめる?どうやって?
……ゆーちゃんにはなにかしらの策があるのだろうか……?

「なぁ、ゆーちゃん。それは……かなり難しいんじゃないのかなぁ」
「あ、もちろんその前にちゃんと謝ってもらいますよ。ちゃんとセッティングもするから安心してください」
「そ、そうか……じゃぁ、頼むよ。……でもさ、なんで『抱きしめる』なんだい?」
「それは……お姉ちゃんが安心出来るかな……って思ったから……」
「……安心?」
「えぇ。ほら、なんか不安な時とか親がギュッってしてくれると……なんか安心するじゃないですか」
「安心……か」

そういえば……こなたが落ち込んだり、悩んだりした時は……抱きしめて、頭を撫でて、俺なりの励ましをしていたんだっけな……

「そうだね……うん、わかったよ」
「ありがとうございます。……っと、そろそろお姉ちゃんがお風呂から出てきますね。じゃぁ私、部屋に戻っていますね」
「あ、あぁ。今日は色々とありがとうな、ゆーちゃん」
「どういたしまして……それじゃ、明日は頑張って下さいね」

居間を出て自室へと向かうゆーちゃんを見送ると、俺は仏壇の前に座り線香を上げた。

……かなた……

俺は心の中で呟く。

……ゆーちゃんの手前、ああ言ったけど……俺に出来るかな……
……もし、出来たとしても……俺の気持ちが伝わらなくちゃ、意味がないよなぁ
……気持ち?伝える?おぉ!そうか!!

突如として沸き上がったアイデアに、俺は慌てて仏壇に背を向け机の引き出しから便箋を取り出す。

ゆーちゃんには済まないが、これだけは書かせてもらおう

こなたに、俺の『本当の気持ち』を伝えるために。

Section15「苗木を守る人達~泉そうじろう~」 End


実行日まで
あと一日







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