dear -Section16「育ち始めた苗木」 Part.1


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dear -Section16「育ち始めた苗木」 Part.1



「お母さん、揚げ浸し出来たよー」
「ありがと」
「えっと、後は……」
「じゃぁ、これ盛り付けてもらえる?」
「はーい……お皿ってこれで良いかなぁ?」
「うーん……そっちじゃなくて……それ、そう。その上の」
「これ?……よいしょっと」

『軟禁』されている私にとって、唯一『自分』でいられる時間……。
でも、その生活も今日まで。
……こなちゃん……早く……逢いたいな……


dear -Section16「育ち始めた苗木」 Part.1



私が『計画』を知ったのは、昨日の『勉強会』だった。


「つかさ、大事な話があるの」

『勉強会』の途中、お父さんが居たら絶対に出来ないお茶の時間、いのりお姉ちゃんが真顔でそんな事を言ってきた。
見ると、まつりお姉ちゃんや峰岸さん、日下部さんも真顔だった。

「大事な……話?」
「そう。とても大事な話……。先ずは……峰岸さんと日下部さん、お願い」
「はい。妹ちゃん……これを読んでもらえる?」
「……封筒……手紙?」
「そ。とある人からの手紙だよ」

封筒を逆さにすると、一通の手紙がでてきた。

「誰から……えっ!?この文字って……」

久しぶりに見た癖のある文字。
こんな文字を書く人の事を忘れる訳が無い。

「こなちゃん……から?」
「そうよ。今日預かってきたの」
「取り敢えず読んでもらえる?それは回収しなきゃいけないから。……見つかると色々ヤバいし」
「う、うん……」

私は促されるままに手紙を読みはじめた。

~・~・~・~・~・~・~・~

親愛なるつかさへ

久しぶり、元気してた?
      • って、そんなワケないよね。ごめんね
あのね、いきなりだけど、落ち着いて聞いて・・・じゃなくて読んでね

突然だけど、明日の土曜日、駆け落ちしようと思うんだ
思うんだじゃない、駆け落ちするよ、つかさと

色々と考えて、これを決めたんだ
      • 勝手に決めてごめんね
でも、私なりに考えたこれからの私達が幸せになる方法ってのが、これ以外に思いつかなかったんだよ

だから、もしも、駆け落ちが嫌だったら、私はそれに従うよ。だって無理強いはしたくないから

でも、もし、駆け落ちしても良いっていうのなら・・・

お姉さん達が詳しい事を教えてくれるから、それに従って
私も、頑張ってこの家から抜け出すから

それじゃ、またね

P.S. なんか手紙の内容がグチャグチャでごめんね~
昼休みにいきなり『書いて』って言われたからさ~
しりめつれつ過ぎだよね~

それじゃ、バイニー
                  つかさの恋人 こなた

~・~・~・~・~・~・~・~

涙が止まらなかった。
それ程長い月日が経った訳では無いのに。
とても懐かしくて、愛おしかった。

「……つかさ、大丈夫?」
「グスッ……かがみお姉ちゃん……うん……大丈夫だよ……」
「それで、だ。私もあやのもなんて書いてあるかは知らない。それは高良が書いてほしいって頼んでたからな」
「ただ、大まかな事だけは聞かされたわ。そして……」

峰岸さんが一枚の紙を裏返しに差し出した。

「これを、託されたの。泉ちゃんに」
「こなちゃん……に?」
「そう。だからもし妹が手紙の内容を受け入れるんだったら……それに書いてほしい」
「書く……?」

私は恐る恐る紙をめくった。
そこには……

~・~・~・~・~・~・~・~

私、泉こなたは、柊つかさとの駆け落ちに同意します

私、    は、泉こなたとの駆け落ちに同意します

~・~・~・~・~・~・~・~

「……どうする?」
「まつりお姉ちゃん……」
「ちなみにだけど、私達は全員同意しているわよ」
「いのりお姉ちゃん……」
「私達だけじゃなく、みゆきやゆたかちゃん、それとみなみちゃんに田村さん後は……」
「高良ちゃんの両親、みなみちゃんの両親も同意しているわ、柊ちゃん」
「峰岸、ありがと。……つまりはそういうこと」
「かがみお姉ちゃん……峰岸さん……」
「あ、そうだ。これも預かってきたんだっけ……えっと……あった。これこれ」

日下部さんはそう言いながら数枚の紙を机に拡げた。

「日下部さん……これって……」
「まぁ、私達が応援しているっていう証……かな?」
「……日下部にしては良いこと言うじゃない」
「『しては』って……私だってたまには真面目な事言うよっ」
「はいはい、『たまには』、ね」
「みゅぅ~。あやのぉ~、柊がドライアイスより冷たい~」
「まぁまぁ、みさちゃんも柊ちゃんもあまり時間が無いんだから……」
「おっと、そうだった。思わずかがみとみさおちゃんの漫才に見とれてたよ」
「漫才って……まつり、あなたねぇ。……ってそれは後に置いといて、……つかさ、どうするの?」
「え……どうするって……」
「こなたちゃんと『駆け落ち』するの?」
「……」

私は答えられなかった。
『駆け落ち』なんて、そんな簡単には決められない。

「……私達は、つかさがどんな答えを出しても誰も文句は言わないわ。だって、つかさの人生なんだもの」
「かがみお姉ちゃん……」
「ただ、これだけは理解して。もし今のままで居た場合、この先こなたちゃんに会えるという確率は……かなり低いわよ」
「えっ!?なんでですか、いのりさん」

峰岸さんの驚いた声に、いのりお姉ちゃんが静かに答えた。
それは、私にとってとても理不尽な内容だった。

「……つかさは、退学させられるわ。そして……縞根のおじさんの家で暮らす事になるの。一昨日、父さんと母さんがそう話していたわ」
「ちょっ!それって本当なの?姉さん!」
「えぇ、本当よ……私と三人で決めたんだから」
「そんな!いのり姉さん!?」
「かがみ、落ち着きなさい。……勿論私は『ふり』をしただけよ。そんなの本心から認めるわけ無いじゃない……」
「……はぁ……心臓止まるかと思った~」
「本当ね、みさちゃん」
「ビックリさせちゃってごめんね。……私、絶対にそんな事は認めないわ」
「……つかさ、どうする?」
「……『今』のままじゃ、この先そう簡単にはこなちゃんに会えなくなるんだよね……」
「えぇ、確率はゼロ……とまでは言わないけれど、かなり低くなるわ」
「そうだよね……」

私は自分でも驚く程に冷静だった。
『軟禁生活』で親の本性を嫌というほど見せ付けられていたからかもしれない。

「だったら私、やる!『駆け落ち』するよ!」
「……失敗したら、確実に会えなくなるわ。それでもやるの?」
「うん。……だって、お姉ちゃん達はこのために色々と頑張ったんでしょ?」
「それは……そうだけどさ」
「それに……私は『いつか会えるかも』じゃ嫌。『今すぐ』が良い」
「……そっか。じゃぁ……」

私はいのりお姉ちゃんに促され、紙に名前を書き入れて、手紙と共に峰岸さんに返した。

「確かに、預かったわ」
「あと……こなちゃんに伝えて。『絶対に会いに行くから』って」
「……わかった。高良に伝えてメールしてもらうよ」
「それじゃ、つかさ。『計画』を説明する前に一つだけ注意」
「何?」
「明日、絶対に、父さんと母さんに気づかれないようにすること。……つまり、今日までと同じように過ごすこと。……わかった?」

度重なる親からの抑圧。
その結果、私は自らの感情を押し殺してきた。
なので、いのりお姉ちゃんからの注意も、さして難しい事ではなかった。

「うん!大丈夫だよ!」
「そう?でもくれぐれも気をつけてね。……じゃぁ、本題に入りましょうか。えっと、まず最初に……」


「さてと、明日の天気はどうかな。まつり、チャンネル回してくれないか?」
「はーい」

時刻は午後八時五十七分。
お父さんが毎日欠かさずに見ている天気予報の時間。
そして……『計画実行』の合図……。

「……あ」
「どうしたの?まつり」
「姉さん、これから録画する番組ってある?」
「得に……無いけど」
「ホント!?よかった~。私この映画見逃してたんだよね~」
「何て映画?……あぁ、これね~。えっと~、結末はね~」
「ストーップ!言わなくて良いから。OK?」
「……二人共、静かにしなさい」
「あ……はい」
「はぁ~い。……んじゃ予約しておくから」

先ずは初手。

「……カフェオレ煎れてこよっと。誰か飲む?」
「かがみが煎れてくれるの?じゃぁお願い」
「はーい。って……いのり姉さんだけ?」
「あ、私も~」
「姉さん達二人ともブラック?」
「私はカフェオレが良いわ。ミルク多めで」
「私はブラックね~」
「はーい。じゃぁ煎れてくる」

これが二手目。

時刻は間もなく九時。
天気予報が終わる。
そして……

まつりお姉ちゃんが
三手目となる
電源ボタンを押した

「キャッ!!」

爆ぜたような音が響き、台所の悲鳴と共に暗闇が訪れる。


「何!?」
「ブレーカーが落ちたんじゃない?」
「ちょっと待ってて、今上げるから。……えーっと、椅子は……アイタッ!!」
「かがみ、大丈夫!?」
「……大丈夫……暗くてぶつけただけだから……」
「母さん!かがみ!そこで待っていなさい!お父さんがやるから!」
「うん……わかった」

居間には外の光が差し込んでいるため、暫くすると目が慣れてきてきた。
お父さんが懐中電灯を片手に台所へと向かう。

「えっと……ここか。よいしょっと」

パチンという音がして、明かりが再び点灯した。

「これで大丈夫……しかし何でブレーカーが落ちたんだ?」
「さぁ……」
「明日調べてみるか……」

お父さんとお母さんの話し声が聞こえる。
その間、私は目を瞑ったままじっとしていた。
そして……ブレーカーを上げてから三十秒後……。

再び、暗闇が、訪れる。

「また!?」
「大丈夫だ、今上げるから」

パチンという音が静まり返った屋内に響く。
一度ではなく、何度も。

「……おかしいぞ!ブレーカーが上がらない!!」
「えっ!なんで!?どうして!?」
「かがみ、落ち着きなさい。考えられる理由としては……ってまさか……漏電!?」
「その可能性は高いな」
「それじゃぁ今すぐにお父さんは部屋と洗面所を見てきて!お母さんは台所!私達は自分の部屋を見てくるわ!」
「さっすが姉さん、この間会社で訓練しただけあって手際が良いねぇ」
「まつり、そんな事を言っている場合じゃ無いのよ!もし漏電だったら、火事にも成り兼ねないわ!」
「ホントに!?」
「よし、じゃぁいのりが言ったように各自急いで確認するんだ!」

よし、今だ!

「お父さん!じゃぁ私は居間を見てみるね!」
「そうだな!頼んだ!!」

皆が慌ただしく動きはじめる。
幸か不幸か、懐中電灯が一つしかないためかなり手間取っているようだ。
その隙に、私は目を開けて立ち上がり、素足のまま濡れ縁から庭に降りて、裏木戸を通り外へ出る。

停電の混乱に乗じて家を抜け出す。
これが私の初手。
二手目は、社の鳥居脇にある林の中、そこに隠れている田村さんに会う事。

素足でアスファルトの上を走るのなんて……何年ぶりだろうな
小さな頃は気付かなかったけど、結構痛いもんだね
……っと、余計なことは考えないで、今は集中!

神社の裏を駆け抜け、大回りで鳥居の所まで走り抜ける。
夜風が心地好い。
もしこれが、親から逃げるためじゃなければ……どれ程清々しい気分だったのかな……。


「ハァ……ハァ……」

流石に……動いて無かったから……体力が……辛いね……
でも!こんな所でくじけちゃダメだよね!
こなちゃんが待っているんだし!

砂利の音を立てぬよう、静かに鳥居をくぐる。
いのりお姉ちゃんの言う通りなら、右手の林の中に田村さんが居るはず……。

「―か――輩」
「?」
「つか―先―」

何処からか私を呼ぶ声が聞こえる。
……どこから?
小さな声を頼りに林の奥へと進む。

「つかさ先輩……こっちっす」
「あ、田村さん。……久しぶり、だね」
「こちらこそ、お久しぶりっす。……少しやつれましたね」
「……ずっと閉じ込められてたからね……」
「そうっすね……。ってそんな事話している暇は無いっす」
「そうだね。それで……私はどうすれば良いの?」
「えっと、先ずは……脱いで下さい」
「ほぇっ!?」

ぬ、脱ぐぅ~?

「あ、あの、えと、脱ぐって言っても、これに着替えてほしいって意味で、別にそんな、その」
「……はぁ~、ゆいさんじゃ無いけど、お姉さんびっくりだー」
「……すんません……」
「いーのいーの、私も早とちりしちゃったんだし……。で、これに着替えれば……変装すれば良いのね」
「……多少はごまかせると思うんで」

私は素早く着ていたワンピースを脱ぎ、用意されたTシャツとショートパンツに着替える。

「……サイズピッタリだね」
「まつりさんが用意したんで、そこら辺はバッチリかと」
「そっか……」

お姉ちゃん……ありがとう……

「それで、これからなんすけど……」
「うん」
「ちょっと待って下さい……よいしょっと」
「……自転車?」
「はい。これに乗って『公園』まで行って下さい。西側の入り口に泉先輩が居るはずっす」
「『公園』って……どこの?」
「……私達が言う『公園』と言ったら……一つしか無いはずっすよ」
「私達の?……あ!」


私達の言う『公園』
学校帰りにみんなでお喋りをしたり、アイスや肉まんを買って食べたりした『公園』
そして……こなちゃんから……告白された……『公園』

「わかったみたいっすね」
「うん、大丈夫。あの『公園』に行けば良いのね」
「そうっす。表通りをなるべく使わないで、裏通りを使って行けば安心っす」
「オッケー。じゃぁ……行ってくるね」

挨拶をして自転車に跨がる。
漕ぎ出す前にもう一度田村さんを見ると、とても寂しそうな顔をしている事に気付いた。

「田村さん……どうしたの?」
「……あの、つかさ先輩……一つだけ聞いても良いですか」
「な~に?」
「……さよならじゃ……無いです……よね」
「……うん。必ず戻ってくるから」
「本当……ですか?」
「本当だよ。だって……このままじゃ『逃げる』だけでしょ?私、そんなのは嫌だよ」
「じゃぁ……本当に……」
「うん。だから……みんなと待ってて。必ず、戻るから。……あ、そうだ……」

私はリボンを解いて田村さんに渡した。

「私達が戻ってくるまで、預かっててもらえないかな?」
「つかさ先輩……はい、確かに!」
「それじゃ、改めて……行ってくるね!」
「いってらっしゃい!気をつけて!」


『公園』までは約二十分。
車に気をつけながら、裏通りを走る。

流れる風景。
お姉ちゃん達と一緒に遊んでいた路地裏。
かがみお姉ちゃんや友達と一緒に歩いた通学路。
お母さん行きつけの美容院。
お父さんと一緒にパフェを食べた喫茶店。

涙がこぼれそうになる。
だけど、泣く訳にはいかない。
だから私は、それを振り切る為、脚に力を込める。

必要な物以外
全てを置いていく為に


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

さ……流石に……息が……切れて……きたよ……

「ハァ、ハァ、ハァ」

でも……もう一頑張り……

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

ここを……曲がれば……

体力不足の肉体に鞭を打ち、最後の角を曲がる。
目的地まであと僅か。
目を凝らして前を見ると、入り口と思われる場所に立つ街灯の下に一台の車。
その脇には人影が一つ。

「!!!」

近付くにつれ、人影がハッキリとしてくる。
まるで小学生の様な身長。
腰まで届く長い髪。
そして……風に揺れるくせ毛……。

視界が歪む
押さえていた感情が込み上げる

今すぐ聞きたい
その声を
今すぐ触れたい
その温もりに

私は最後の力を振り絞り、ペダルを漕ぐ脚を早め、ありったけの感情を込めた声で叫ぶ。

あの人に、届くように。

「こなちゃぁぁぁぁーーーーん!!!!!」



続く!







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