旅に出よう! ~東北編~ (プロローグ)


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いま、どの辺にいるんだろ。
ことん、ことん……
すっかり慣れてるこの振動。もう時間とか分かんなくなってきたんだよね。
窓の外をのぞいてみる。しばらく前から、ほとんど真っ暗なんだけど。
あれ?下の方、何か白い、小さいのが浮かんでる……あ。
……という間に流れて消えた。
雪かぁ。じゃあもう、だいぶ来たのかな。
「あと少しで終点だったと思うんだけど、どーだっけ、つかさ」
つかさは、目の前でのんびりマンガをながめてる。でも……読んでないと思う。
「んー、どーだっけ……?」
まあ、知ってたけど。
今どこかとか、つかさもあんまり気にしてないよね。

それにしても……
「だーれもいないね」
「そーだねー」
ボックス席だし、まわりがそんな見えるってわけじゃないんだけど、でも。
つかさの指がページをめくる。その音。
電車が走る音。ことこと。ことこと。

目を閉じてみる。
うん……つかさの息が聞こえる。それだけだ。
目を開けた。

「ところでさ、つかさ」
「はーい」
「そのマンガだけどね、上下逆だよ」
「あ、ほんとだ」
くるん。
そうそう、そっちね。見慣れたマンガなのに何か違和感あるって思ってたんだ。
「で、つかさ今何してるの?」
「こなちゃんと、いっしょにいるんだよ」
「意味わかんない」
「そう?」
でも、つかさの顔がちょっと赤くなってるのは分かった。
うん。はずかしいセリフ禁止だから。ほんとに。
これはつかさが悪いよね。
「ちょ、ちょっとだけ失礼」
つかさのほうに身を乗り出して。
唇をかさねた。
「んぅ」
つかさの小さな声が、口の中に聞こえる。これ、好きなんだよね。
唇を放してからも、しばらくつかさは、口に手あててボーっとしてたけど。
「ねえ、こなちゃん」
「どしたの?」
「……そっち、いっていい?」


さて、と。
私は、インターホンに指押し当てたまま……ゆっくり、息を吸う。
勝手知ったる柊家。しかし今日の私はひと味違う。
要望……用件、交渉?
手みやげOK、作戦は……まだだけど。
でも、とりあえず相手はかがみだし。なんだかんだで、交渉とかしやすいはず。
よーし、いざ突げ
「あんた何やってんの?」
「おろ、かがみ」
玄関、開いてるね?
「え、いつの間に」
かがみは玄関にもたれたまま、ダルそうに手をぷらぷらさせた。
「窓から、のんびり外見てたんだけど。いい天気じゃない?」
「そだね」
最近は結構、いい感じの天気が続いてるね。
「そしたらなんか小さいのが玄関んトコで固まってるのね」
「うん」
「はやくベル押せよってずっーと念送ってたんだけど、なかなか届かないみたいだから」
「ごめんね、いまちょっとアホ毛が寝ちゃってるからさ」
かがみの手が伸びてきて、私の髪を一筋、ぴんとはじく。
「今度からちゃんと立ててきなさいね。まあ上がって」
「へーい」


格ゲー持ってきてよかった。
かがみのとこ、新しいのないんだもんなぁ。
がっちゃがっちゃ、
「ねえこなた、たまってるみたいだけっ……ど」
うん、3ゲージたまったんだけど。
どーすっかなあ、ぶっ放してもいいけど、これからかがみにお願いする身としてはなー。
「いやー、ちょっとゴキゲンとっとこうかなって」
「なに、なんかやらかした?」
なるべく、こう……さらっと。自然な感じで切り出して、後はてきとーに、かなぁ。
「これからね」
浮かし、下下、っておお、かがみもなかなかやるね。
「なに……よっと」
でもゲージの配分がなー、まあその辺慣れだし。
「つかさを私にください」
お、かがみのゲージもひとつたまったね。でもまだまだ。

がっちゃがっちゃ。
……がっちゃがっちゃ。

「私ね、将来ひとつだけ、っと、やってみたいことがあるのよ」
「異議ありっ……てやつ?」
びしぃ、ってね。おお、かがみかっこいい!
「つかさが紹介してきた恋人を……っと、おまえなんかに妹はやらーん、っていってブン殴るの」
「それお父さんの役目ね。ていうか、そんなん初めて聞いたんだけど」
「なんか……っと、今とつぜん、閃いたのよね。なぜか」
「なぜか」
「なぜか」
がっちゃがっちゃ。
……がっちゃがっちゃ。


「だー、やっぱり勝てん。やめやめ」
コントローラーをほっぽり出して、ごろん、って寝っ転がるかがみ。
おなか見えてるよ。
でも気持ちよさそう。私も。ごろん。
はぁ。
あったかいなー、もうそろそろ春かぁ。
あー向こうの方、太陽あたっててもっと暖かそう。
ごろん、ごろーんっと。
「無精ねぇ……」
いーじゃん。
うん、畳のにおいが、とっても落ち着く感じ。
「ねーかがみ」
「んぁー」
「つかさもさ、ここに寝っ転がったりしてた?」
「だったら何だ」
「いや、つかさのにおいとかが」
「だーまーれー」
あーあったかいなー、春だなー。
「でさぁ、こなた」
「ん?」
ごろごろ転がりながら、かがみのほうを見てみる。
もう起きてる。ジト目。ってことは、アレか。
「さっきのなによ」
「つかさを私にください」
「ブン殴っていいってこと?」
「いやいや、それはもうちょっと先にとっといて」
ご両親とお姉さん方に挨拶しに行くときとか。
私もそろそろ起きるかな。
よ……っと。
「今日学校でね」


「わたしはね、こんな感じがいいなって。どうかな、ゆきちゃん」
「はぁ……」
みゆきさんが困った顔をして、アスパラをかじった。
「私もそちらのほうの話はなかなか疎いもので」
「でも、私たちよりはさ。みゆきさんだし!」
「いえ、私はフリーですから。恋人っぽいイベントとか言われましても」
にっこり。
……う。
いや確かに、客観的に見て私たちはかなりウザい。
でも、みゆきさんだし。
もーちょっとだけ甘えてみよう。ダメなら謝ろう。よし。
「みーゆーきさーん」
手をあわせて、お祈りポーズとか。どうだ。
はぁ、ため息一つ。
お、これはいかにもしょうがないですね、って感じだ。OK。
「そうですねぇ……」


「よーするにさ、春休み、なにしようかなーってことで、いろいろ相談して、た、わけ、なん」
かがみさ、あの、目がね、ちょっとその。
もうね、はっきりくっきり日本語が聞こえてくるんだけど。
「いやそんな目しなくても、言いたいことはわかる、わかるって」
「いってみ」
「……ウゼー」
はー、はっきり聞こえるため息、ていうか聞かせてるんだろうな、かがみ。
「みゆきもかわいそーに」
だ、だってさ、春休みだよ、高校おわるんだよ。
バシッと甘いイベント決めたいじゃん!
「こなちゃん、お姉ちゃん。お菓子持ってきたよー」

ま、まってましたっ
ふすまがゆっくり開いて、つかさが助けに、あれ?
いや違う違う、お菓子つくっててくれたんじゃん。
「おお、ふわふわクッキーだ」
「そう。前こなちゃんが好きっていってくれたやつ」
「それ、つかさのお菓子全部じゃない」
「そうだっけ」
「そーよ」
かがみ、つかさにはそれなりに甘いよね。

「なんか出そっか。かがみ、ちゃぶ台みたいなヤツどっかあったっけ」
「いーわよ別に。そこ置いていただきましょ」
「うん、お姉ちゃん」
つかさが、持ってきたお盆を置いて、ぺたんと座る。くるくる私たちを見回してきた。
「それで……なんのお話だっけ」
「うん、今日の体重計がさ」
「違うだろ」
かがみが、クッキーを二つに割って口に放り込んだ。
「お昼休みに話してた、あれ?」
「そ」
つかさのクッキーをふたつ、両目にもってきて、
「旅行なんてどうでしょうか。この時期であれば、東北のほうなどいいかもしれませんね」
「だれか知らないけど、気が利く人ね」
「えー、わっかんないかなぁ」
「いや、全然似てないし」
なにいってるかな、まさにみゆきさんだったじゃん?
「ふひあんはふへはんはへほ」
「つかさ、ちゃんと食べてから」
つかさの口元が、ちいさく動いた。

こくり、なにか飲み込んだのが見えた。
……なんか、のど、乾いたな。お茶飲もう。
「はい、こなちゃん」
「ありがと」

「うん。その話だけどね、ゆきちゃん、こーいうのくれたの」
「ん……メモ?」
かがみ、そんなちびちびちびちびクッキーかじってたらふやけちゃうと思うんだけど。
満腹中枢がどーたらはわかるけどさ。
「観光地リスト、かな。この温泉、聞いたことあるわ」
「そこに書いてるトコ、なるべく行かないようにするといいんだって」


「北の方はシーズンでもないですし。とくに観光地を避ければ、この時期は『さびしい』感じがすると思います」
「だれだか知らないけど、さすがみゆきね」
いやもうワケわからないし。うぅ。
「雪も少ないし桜もないし、秋でもないし。さびしいかもね。つまり二人きり。北の方ってことで、ムードも出やすい?」
「というわけで、この春休み、つかさを私にください」
「おねがい、お姉ちゃん」
「とりあえず、その言い回しはやめてくれ」

かがみは、ツインテールをくるくるいじりはじめた。
みゆきさんのメモをじっと見つめて、なにか考えてるみたいだ。

「どのくらい行くつもりなの? 日程とか」
「まだそんなに決めてないけど、なるべく長いこと行けたら嬉しい」
「ふうん……」
っていっても、多分かがみ、ダメだなんていわない、と思うけど……

「まあ、いいんじゃないの? お父さんとかにも聞かないとだし、いくつか条件あるけど」
やたっ。
「ありがとお姉ちゃん!」「さんくー」
かがみは、んー、とかそんな生返事といっしょに肩をすくめて、
「子供じゃないんだし、よく考えたら私に許可とるようなことでもないしね」
照れてるね、これは。やっぱかがみはおもしろい。アト優しい。
「じゃあ、こなちゃん」
「うん、つかさ」


―――――――――― 旅に出よう! ~東北編~ ――――――――――


「一応ね、計画書? みたいなのは作らせたんだけど」
「旅行のですか」
「あの子らのことだし、計画書どおりに動いたり泊まったりするかっていったら微妙だろうけどね」
微妙? いや微妙でもないか。とにかくまあ、条件その一、ということで。
「確かに、そういうのは作る、というだけでそれなりに効果ありますからね」
「みてみる?」
たしか、昼間見送りにいったときにカバンに入れてて、そのままだったはず。
カバン。どこだ。あれか。座ったまま、ベッドの方にからだを伸ばして引き寄せる。
A4を一枚ひっぱりだして、ぴらぴら振ってみせた。
「そうですね、みてみたいです」
「ほい」
みゆきは、お茶を一口飲んでからA4をながめ始めた。
お茶を飲むって動作がこうも優雅に決まるのは凄いわ。私も見習いたいもんだ。
みゆきの様子を横目で見ながら、お茶をすすってみる。
ああ、平和だ。バカップルは星になった。

……ずいぶん真剣に見るわね。
「それ、みゆきの言うとおり、『書いた』って以上の意味ないと思うけど」
「え、ええ」
みゆきは何だかあいまいに答えて、A4を逆さまにした。
……横にした。
真剣に見つめている。
あ。
「ごめんそれ、こなた語のやつだ。がんばって解読したのがあるから」
「すみません……」
カバン、カバン……と。うん、やっぱりか。もう一枚、A4を引っ張り出して、みゆきに渡す。


「一週間と少し、でしたか」
「結構長いわよね」
春休みほぼ占有。
そもそも、こなたが私に相談なんてしたのもそれが原因だと思う。
家族旅行とか、いれないでね。
「計画書、三日分しかないんですが……」
「途中で飽きたのね」
というか、三日分も書いたことが驚きだ。

「先ほど見送りにいったときのことですけど」
「うん?」
「泊まるトコ決まったら連絡するねー、と」
「いってたわね」
みゆきがポケットから携帯を取りだして、サイドのボタンを押す。

ダダイマ、ジュウハチジ、ヨンジュウハップン、デス。

「……ちょ、ちょっと、遅くないでしょうか」
言いながら、もう一度計画書をながめた。横にする。逆にする。
「いや、どーやって見ても過ぎてるから」
適当にブラブラして、適当に泊まるってスタイルだ。
計画書なんてタダの目安。目安でさえ無い。心配ない。
「終点まで電車乗ってたら、50分くらいは遅れるわよ」
「ここの降車駅っていうのは……」
「五つ手前」
戻るにしろ、新しく宿調べなおすにしろ、そのくらいなはず。
「ま、もーちょっと待ってましょ。ヒマだったら小説とか貸すわよ。おすすめは――」
別に、いっしょに連絡待ってる必要なんてないんだけどね。
なんとなく、お祭りみたいな。イベント前、みんなでちょっと盛り上がりたい。
そんな気分かもしれない。

テーブルでスタンバイしている私の携帯。
まだ鳴らない。
ちょうどになったら、こっちから連絡しよう。
「もうすぐ、7時くらいよね」
「いえ、まだ5分くらいしか――」

ブン。振動音。

「お、やっと着いたか」
携帯をとって開く。着信『こなた』。


「もしもーし」
『はろー、かがみん。着きましたよん、私とつかさの愛の巣に! いやー、新』
ブツッ。
「あら、電波悪いのかしらね」
「今電源ボタン押しませんでした?」
妄言たれる50分前に何か言っとけよと。電車の中だったんならメールでもいい。
まあ、そんな義理……あー道理もか、ないって言ったらそうなんだけどさ。
「なんかね、変態からだった」
「と、いいますと……下着の色がどうとか、そういうアレですか」
「だいたいそんな感じ」
恥ずかしさ的な意味で。愛の巣ぅ?

また振動音。今度は、みゆきの携帯だ。
「はい」
『みゆきさーん、今着いたよー』
おお、なんかこなたの声がはっきり聞こえる。
みゆき、音量大きくしてたんだ。さすが。
「お疲れ様です。ちょっと遅かったので、心配しましたよ」
みゆきの口元が、少し。嬉しそうにほころんでるのが見えた。

『あはは、ごめーん。さっきかがみにも電話したんだけどさ、なんか突然切れちゃって』
「泉さんの電波が、ちょっとよくなかったみたいですね」
『ええー、こっちちゃんと三本立ってるけどなぁ。ってあれ、ひょっとしてかがみもそこいるの?』
「ええ、おふたりを送った後、なんとなくかがみさんのお部屋にお邪魔してのんびりと」
「そっかぁー、いいな。そう、それでね、みゆきさんに聞きたいことあるんだ」
「下着の色とかは、ちょっと……」
『へ、なにそれ? 教えてくれるの?』
おまえは、一体なにを言ってるんだ。
「教えてあげません……つかささんにアレされますよ。それで、なんでしょう?」
『そうそう、今ホテルの前にいるんだけどね、部屋、ツインっていうのと、ダブルっていうのがあるんだよ』
「……そうですね」
『どー違うの?』
「少し、待ってもらっていいですか?」
『え、うん』
みゆきは携帯を保留して、のろのろこちらに振り向いてきた。
「ツインとダブル、どう違うのか、と」
いや、聞こえてるから。
「……」
「……」
沈黙。

私は、言った。
「ツインもダブルも、そんなに違わないわ」
「はぁ」
「でも、ツインの方が少し高い……高級なんじゃない? 響きもかっこいいわね」
「そうですね」
「せっかくの機会だし、ちょっとくらい散財してもいいと思う」
「まったくもって、ツインの方がよいですね」
よし。この流れで。
私は、ぐっと親指を立ててみせた。






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