旅に出よう! ~東北編~ (大宮→福島→二本松→(宿)→阿武隈川中流域)


さて。
ベッドは二つある。
手前につかさ。奥にはつかさのカバン。

で、私は?


―――――――――― 旅に出よう! ~東北編~ ――――――――――


「えっと。そろそろ寝よっかなーって思うんだ」
ベッドにちょこんと腰掛けてるつかさを見下ろしながら。考える。考えろ。
なんか、ド頭からいきなり危険方向にトびそうになってる。
「うん。明日結構早いよね」
そうでもない……とか、かがみあたり言いそうだけど。
チェックアウト、十時。
早いなぁ。
「ありのまま、今起こった事を話すぜ」
「ぜ?」
つかさが不思議そうに首をかしげる。
分かってません、べつにいいけど。

「私は飲み物買いに出て戻ってきたと思ったら、いつのまにかベッドがカバンで占領されていた」
つかさは首をかしげたまま固まって動かない。
「何を言ってるのか分からねーと思うが」
「こなちゃん」

分かってますね。まあいいけど。
顔、真っ赤だし。上目づかい、その上半分涙目。
ねらって……ない、と思うけど。
「……ベッド、半分あいてるよ」

最近のつかさ、その辺分かんなくなってきてるんだよね。

「いやいや。いやいやいやいや。つかさ、ちょっと待って」
ギリギリ……いや、でもそれ空いてるって言わないよ多分。
つかさの左に座ってみる。

あれ、なんか、全然余裕あるじゃん?
でもギリギリったらギリギリ。っと、いや、むしろ。
う、うん。いや、アウトだよ、これ。
隣に座っただけで、めっちゃ嬉しそうなつかさの顔とか。

「つかさ。ちょっと怪談でもしよっか」
「え、かい、階段?」
「うん、怪談。このまえ、つかさん家でお泊まり会したときの話なんだけど」
微妙に身体をひいて、こっちをうかがっている。
「こ、こなちゃん」
「だいじょぶだいじょぶ、そんな怖くないから。たしかあのとき、部屋には私とつかさとかがみしかいなかったはず」
「お布団、敷いてから?」
「そ。いーかんじに話疲れたから、すんなり寝られるって思ってたんだよね。電気も消して、うとうとし始めた……そのとき」
つかさはすっかり青ざめて、びくびくしはじめた。うん、怪談苦手だしね。

「ちょっとひんやりした何かが、私の布団に潜り込んできたんだ……その何かは、一晩中私の身体をぺたぺたぺたぺた」
「――起きてたのっ!?」
「寝れるわけないじゃん!」
あああ、何か思い出しちゃったよ、ぺたぺたぺたぺた……
う、ちょっと顔が熱い。


「ま、まあそういうわけで。さっさとあの荷物をどかしてください」
「そ、」
そうそうつかさ、関係ないんだけどね。
浴衣びみょーにさ、はだけてるよ。だらしないなぁ。
「あ、あの、わたしなんにもしないからっ、一緒に寝るだけ。だから、ね?」
「つかさ……明日朝早いんだよ。シャワーとか浴びたいし、8時か9時には起きたいトコだよね」
つかさって冷え性とかないのかなぁ。
脚とか細いし。裸足だし。当たり前か浴衣だしね、もう寝るんだしね。
「だからっ、なんにもしないっ。ほら、修学旅行とか、いっしょにお布団入って、ちょっと話して、それから寝て、そしたらもー朝だよ。ね、ね?」
「へー、ふーん」
ワロスワロスっと。
つーか修学旅行でいっしょに布団入ったりしないからさ。
「こなちゃぁん」
う……ぐ、そ、の声やめっ
「ま、まあね、一万二千光年ゆずってさ、つかさが朝まで、まさかひょっと我慢できたとして」
「えと、どんだけ?」
どんだけ?
「そう、そんな、太陽が西から昇るって方が何百倍も現実味があるような、超無意味な仮定の上で」
「はぅ、ごめんなさい、あのもうそのへんで」
「私がムリなん」
もー私、なに言ってるのかわかんなくなってきてるからね。
すぐ寝れるかな。ちょっとDSでもやってから寝よっかな。

「あとさ、つかさ前見えてるんだけど気づいてるかな、てか脚ふとんに引っ込めてもうそろそろアレだから私」
さっきいっしょにおフロも入ったし。つかさの胸がちょっと見えてるくらい何でもないんだけどね。
じゃなくてアレだ。アレってなんだっけ。ああそう、DSだ。どこやったっけ。

「そう……なん、だ。こなちゃん」
ちょっと緊張した、つかさの声、と。
わ、わ?
熱い。首のとこ。
つかさの息が。
聞こえる。聞こえる……あぅ。
「つ、かさ、人の話聞いてる? なんで寄ってくるの、浴衣ちゃんと着ないとダメだってのに」
見てないし何でもないけど。いや、別に見たって何でもないって。

「お、お風呂。入ってくるね」
これから、あのカタキを討ちに行ってくるね。
そんな口調で、ワケ分からないことをいわれた。
「さ、さっきいっしょに入ったよ、ね」
最上階の大きなお風呂。露天風呂とか付いてたよ、ロマンティーックでよかったよね。
「うん、でもほら、このお部屋にも、小さなお風呂付いてるし。どんなのか見てみたくって」
「だから、明日朝入れるって」
つかさのカラダが離れてく。あ、もーちょっと……
なんとなくつかさに伸ばしてた手を、そっと、握られれれ
「明日、あんまりゆっくり入れないかもしれないから」
ぜ、全然意味わかんないけどっ。
つかさは恥ずかしそうに笑ってから、お風呂場に消えた。
「……」
どーしよう。寝るかな。
いや、どこに。
だから、つかさの荷物をどけてだね。

こなちゃん……

とかやったときのつかさの顔が0.1秒でフラッシュした。
うわ、絶対ムリだよ。
ど、どーしようマジで。あ。


蛇口をひねる、音。

それから、シャワーの音。
ぱっしゃぱっしゃ、床にひびく水音。
最初ちょっと水冷たいから、手ですくってみてるんだ。上のお風呂でもそうしてたし。

すこし音がやわらかくなった。
からだ、ながしてる……あたまかな。さっきはあたまから洗ってたけど……
きれいだったなぁ、水の線が、つかさのからだをたどって、きらきら落ちていって。
つかさが、あたまをふるふる振って――
不思議そうな目でこっちに振り向いた。
……こなちゃん?
お、気づかれた。
あ、はは、ゴメンゴメン、オヤジっくな目してたかな。
……うーん。
つかさは、ほっぺたに指をあてて、ちょっと首をかしげて。
なんだかね、やっぱりこなちゃん、女の子だなー、って。思った。

どういう意味、だったんだろ……
あ、水音がとまった。
シャンプーとか?
でも、何もきこえないな。
洗ってても、ここまでは音聞こえないのかな。
目、きゅって閉じてたよね。ぱたぱた手振ってシャワー探してたけど、
……取ってあげたらよかったかな。
でも、そういうつかさも見てて楽しかったし。
それから、水音。
   蛇口をあける、しめる。
 つかさのからだ。
  しろい肩とか。おしりとか。
   くるくる落ちてく水滴水てき。
そんなおと。
ねえつかさ。……つかさ、わからないの?
私さ、なんか、あたまがジンジンして変な感じするんだけど。
まだ、少しあったかい右側のシーツ。手を当ててみる。
あたまの何処かでいろいろ浮かんでくる、きえる。

「あ……ぅ」
からだに、なにか詰まってるような。みぞおちの奥くらい、かな?
ぐるぐる回ってる……あれ、息できない。
まあいいや。そんなことより、つかさの
「こなちゃん」
あーうん、ごめんつかさ、ガン見してた。別にいいじゃんか……

「こなちゃん?」
しっとりした髪にタオルを当てたまま、ちょこん、と首をかしげた。犯罪すぎる。
「……つかさ、ちゃんとシャワー止めてこないとだめだよ」
そういうと。
なんでかつかさが、恥ずかしそうに目を伏せた。
え、リアクションの意味全然わからない。
「だいじょうぶ、だよ。ちゃんと止めてきたから」
小さな声。でも、すごいあたまにひびく、ジンジンする。だから、だからさつかさ、
「浴衣、ちゃんと着てって、いってるじゃん……」
ていうかそれ、肩にひっかけてるだけだよね?
「ごめんね、こなちゃん」
顔があつい、燃えてるみたい。のどの奥もグルグルまわる。吐き気がする。

知ってる。風邪とか引いて、熱出したときの、あの感じだ。


「つかさ……自分がなにやってるか、わかってる?」
目が合った。つかさの顔は、やっぱり赤かったけど。でも、なんだか泣きそうになってて。

「ゆ……ゆーわく」

シャワーの音、白い肌、小さな肩。水てき。水の音が、聞こえる。
あたまをブンブン振ってみる。ああもう、もーダメだっ!
つかさの手をつかんで、引っ張った。
「わ……」
かぶさってくるつかさを抱きしめ、て、ってあぅ。
そういや浴衣だったっけ、わたしも。いろ、んなトコがぴとぴとくっつくんだけ、ど。
……愚痴だけどさ、
「つかさは、わかってないよ」
つかさが顔をあげた。3センチもあいてない。ほら、わかってない。
「私の気持ちとか、そーいうの。オニだよ」
「え、と。ちょっとは、ドキドキしてくれた、てことかな」
そんなんじゃない。

「じゃ、じゃあベッドはいろっか。大丈夫、わたしちゃんとすぐ寝るから」
すぐ? ねる?
え、いやちょい待って何言って、
「あ、ううん、すぐ……はムリかも。だけど頑張って」
「そ、その前に」
「こなちゃん?」
「つかさ。ちょっと、怪談でも」
つかさの顔がはてな。
ううう、かがみだったらこのあたりで分かってくれそうなのに!
つかさは鈍い!
「だ、だから、怪談だよっ。体験、したくない? したいよね?」
く、顔みれない。私だけ不公平じゃん。
「こ、なちゃん」
よし通じた、恥ずいけど、がんばれ私。
「あの、ちょっと、恥ずかしい、ていうか」
ちょっと待って、
思わず顔が跳ね上がった。
「あんだけやっといて!?」
つかさ、なんか目あさってに向けてるけど。
えーととかでもその……とか何かいってるけど。3センチ先で。
3センチ先で。
すぐ、寝るとか。ムリ、いやもう絶対ムリだから。
「さわるだけ、だよね?」
考えてみる。さわるだけ。さわるだけ?
「それ、は、もう自信ないけど」
「え、えええ?」
「でも痛いことはしないからっ。つっ、つかさは、責任とるべきだと思うな」
「あうぅ……」


つかさは、もぞもぞベッドの上に上がって、ぱたん、と枕にたおれた。
うつぶせになって、枕に顔押しつけて、
「じゃあその。ど、どうぞ」
どうぞって言われても……
「つかさ。おーじょーぎわ悪いって」
ひっくり返そうと、つかさの肩をひっぱって、って、っくぅ
……動かんし。
「つ、か、さ」
「すぴー」
……
へー、ふーん。
ワロスワロス。
つかさの腰に目線を落とす。浴衣がふんわり被さってるけど……被さってるだけだね。
もうちょっと下……い、いや、さすがにダイレクトにソコは恥ずかしいかな。
ちょっとだけ上、よし。そっと手を伸ばして……
ぽんぽん。
「……!!」
びくん、ってはねてから、風が巻き起こりそうな勢いで回転するつかさの身体。
涙目でこっちを……なんかさっきからずっと涙目な気がするけど、私は悪くない。
「やっぱオモテがいい? まあもう、どっちでもいいけどさ」

遠くの方で、聞き慣れた歌が聞こえてくる。
夢。これ夢かな。
すこしだけ、しょっぱいアジがした。
つかさ、さっきお風呂はいってたんじゃん?
こな、ちゃんだって。汗かいてた、よ。
なんか、あついんだもん。暖房きろっかな……
いいから。こ、こなちゃん……
ん、ぁ、つか、さ?
こなちゃん。
こなちゃん、
左足が、まだ、だよ。

「っ、たっぁぁああ!?」
一瞬で目が覚めた。ベッドから飛び起きて、
うぁ寒っ!?
外ヤバイ。人間が出て行っていい温度じゃないよ。
もぞもぞ布団の中に戻
っていいんだっけ?
アレ、さっき何か、音楽が聞こえなかった? たしかケータイの……
「んんぁ」
「あ、つかさ。起こしちゃったか」
……なんかちょっとだけ、目合わせづらい、かも。
肩まで引っ張り上げてた布団をほおって、携帯をさがす。枕元、
いま、えーと。十時。じゅうじ。って聞いたことあるんだけど。なんだったっけ?
「ふぁーぅ、こなちゃん、おふぁよぉ」
「おはー。つかさ、いまさ」
いやまあ、もう過ぎたことは仕方ない。
シャワーでも、浴びてこよっか。
「つかさ、先シャワー行ってきていーよ」
「んー、あぁでもきのうたしか入ったよぅ」
「うん、でもほら、カラダ、もうべたべただからさ」


「うー、さむいね、こなちゃん」
「そーだねぇ」
風とかもつめたいけど……
「なんていうのか、ぱっと見、さむいよね」
曇り空。よく分からない鳥のこえ。よく知らない河の土手を、ほてほて歩く。
んー、向こう側とか、ぽつぽつ人いる、のかな? よく見えないな。
目を上げると、すこし遠くに大きな橋が見えた。車が、ブンブン走ってる。
どっからどこに行ってるんだろ……

「あれ、つかさ?」
ふりむいたら、つかさがぼんやりと河のほうを眺めていた。
「さびしい感じだよね」
「さすがはみゆきさんだ」
ぽちぽちつかさのほうに歩きながら、私もぐるーっと河のほうを見回してみる。
茶色い草ばっか……水もなんか、すっごい濁ってるし。
うう、あの水、すっごい冷たそうな感じがする。実際冷たいんだろーな。
「あ、こなちゃん、あそこ」「どこ?」「向こうあたりの……ほら、あの草のなか」
お、釣り竿たってる。……竿だけ?
「釣ってた人、どこいったんだろね、つかさ」
「さあ……でも、お魚とかいるんだね」
釣れるのかな? どーでもいいか。
なんとなく、横目でつかさを見上げる。
釣り竿見つめたままぼーとしてて。
「つかさ」
「あ、うんいこっか」
それは別にどっちでもいいんだけど。つかさがいるんだったら行っても休んでも。
「つかさ、これ」
首元のマフラーを半分ほどいて、つかさに差し出す。
「わたしだって、マフラーしてるよ?」
みたら分かるって。
「うん。つかさのも、半分ちょーだい」
1,2,3秒。
お、赤くなった。
でも、なんにもいわないで、するする半分ほどいてくれた。
「はい……こなちゃん」
「ありがと。……でも、もー暖かくなったかな?」
ちょっとだけからかってみる。
つかさは、む、とうなって。
わっ……抱き寄せられた。
「わ、わ」
くるくる、あっというまに私の首元に巻かれていく。つかさの……
「はい、こなちゃんも」
「へーい」
言われるまま、私のマフラーもつかさに巻いていく。

「あったかい? こなちゃん」
「うん。っていうか、むしろ熱い」
とても、熱い。


さて、今日はどこにいこっかな。
ま、駅いってから考えるか。おもしろそーな名前の駅にいってみてもいいかな。
だーれもいない道を二人きり歩く。じゃりじゃり、砂利道の音がくっきり聞こえて、なんか楽しい。
「ね、こなちゃん」
「んー?」
ひだりを見上げる。
つかさの顔は、30センチくらいのとこ。なんとか安全圏内だ。

「あたまがジンジンしてくるような……ずきずきしてくるような、そんな感じだったんだ」


じゃり。

よかった。私だけだったら、首がきゅってなって転んじゃうかもだし。
「つかさ」
「知ってた?」
「知ってる……」
つかさは何でか、私の手をひっぱって、耳にあてた。唇が小さく、そうだね、って動いた。
つかさ、わたしの手、貝がらじゃないよ。……なにか、聞こえる?
「風邪を引いたんだって、思った。体温計もってきて計ったりしてた。熱なかったけど……そんなわけないって、怖かった」
あたまがジンジンして。
なんだかくらくらして。
「わたしね、ずっと、そんなふうにドキドキしてたんだよ」
そういって、私のくちびるに、ちょん、とキス。
「こなちゃん。好きだよ」
私も。
私だって。すき、だよ。つかさ。
つかさに、つかさに、負けないくらい……
つかさは、にっこり笑って、歩き出す。

「くぇ」
そのまま、変な声をあげて止まった。
つかさが、けほけほ言いながら振り向いてくる。
ふ、また涙目だ。ざまぁ。
「こ、こなちゃん、ちゃんと歩いてよう」
「つかさの、そのよゆーしゃくしゃくな態度が気に入りません」
「え、え?」
私だって。私だって、私だって――
「つかさが好き」
「こなちゃん……」
「負けないもんね。まあ? つかさだって? 私が好きみたいだけどさぁ」
「な、」
一所懸命に睨んでるつもりみたいだけど。たれ目と涙目がプラスされて、なんかこう、ムラムラする感じ?
これこれ、これだよ。

「こなちゃんなんて、わたしがあ、あんなコトまでしないとドキドキしてくれなかったくせに!」
「なにいってんの? いっしょに寝ようとか言われたとき私マジ死ぬ5秒前だったんだけど」
「わたしは、一緒に寝たりするときだけじゃあないもん!」
「……たとえば?」
「その」
……恥ずかしくなったらしい。まあ、つかさだし。ニヤニヤしそうになったけど、ここは自重だね。
「わたしは、こなちゃんのこと考えるだけで。それで、もうなにがなんだか、分からなくなっちゃって」
で、でも、私もちょっと顔が熱くなってきたかも。
「こなちゃんは?」
つかさの足ぺろぺろしてるときとかああああ
「私なんて死ねばいいのにね」
ほんっとエロゲ脳でこまっちゃうね。

「大丈夫だよ」
まだ、ちょっとほっぺたふくらませてるけど。
でも、分かっちゃうんだな。ちょっと楽しいでしょ、つかさ。
つかさの腕が腰にまわってきて、きゅーって抱きしめてくる。
「教えてあげるから。今日もね」

たとえば。最近。ホント最近なんだけど。よく考えるんだ。
となりにいる、この人は。どーやったら、もっと私のことを好きになってくれるんだろう。
今だって、好きでいてくれる。でも関係ない、もっと……もっと。もっと。
そっか、つかさ。
今日は、つかさのすぐ側で。
お風呂とか、入ってみよう。







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最終更新:2009年01月25日 12:24