かりどめ


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「ほっほっほっほ…」
いつもの丘ももう終わる
そしたらあそこにもすぐに到着する
私はわざとらしく声を出しながら歩いてるとも走ってるともどちらとも言い難い速さで丘を歩いていく

もうここに毎日通い始めてもうすぐ3年になる
最初は歩くのが辛いと感じていたこの丘も、駅からここまでの距離も、すっかり慣れた
人間の適応能力というものは凄いな…と改めて感じた

私は丘の一番高い所で足を止めて後ろを振り向いた
ここから駅の方を向くとここの町全体が見渡せる
更に今の時期だと桜も咲いていて正に漫画のようなとても綺麗な風景を見渡せる
一番初めにここへ来たときに発見したんだ。それからは週に1回はここからの風景を楽しんでいる

「いや~ここからの光景はいつ見ても良い物だね~」
いつもより少し急いでたせいか少し疲れた
ちょこっと桜の木にでも寄り掛かってここの光景を眺めるか

そうして私は一番初めに発見した時に寄り掛かった時と同じ桜の木へと近づいて、あの時と同じように寄り掛かってみた

「…やっぱ、3年も経つと町の雰囲気も変わるな~
昔はあんな所にあんなでっかいマンションなんてなかったのに」

でも

「ここらへんはあんま変わらないね。やっぱ駅から少し離れているからかな?君もあの時と変わらないしね」
私は桜の木へと語りかけてそっと中指でコンコンっと桜の木の幹を叩いて見た

そういえば高校生の時に皆で花見に行ったな~
もう7年も前の事なのか・・・なんか実感が沸かないな
あんなにバカ騒ぎして、皆で色んな事をして遊んだ高校時代が・・・7年も前なんて
…懐かしいな…あの頃はまだ



「ぬわ!?」
少し昔の事に浸っていた所に思いっきり突風が吹き込んだ
油断していた所に突風なんて来るもんだから思いっきり吹き飛ばされてこけてしまった

「いたたたた…何いまの!春一番!?いきなり吹いてくるなよー!!」
まったく・・・とブツブツ言いながら立ち上がり、服を払いながら鞄を拾い上げた

「…あ」

いつも見慣れた鞄にふとした違和感。でもその違和感のわけは分かっている

「ない…」
いつも鞄に付けている人形がない。今の突風で飛んでしまったのか?
私はすぐに倒れていた付近を探した


やっぱりない。どこにもない

「どうしよう…あれがないと私…」

半べそになりながら必死に探す
そんなに小さくないのに文字通り草の根を分けて探していた
その時桜の木から声が聞こえた気がした

『こ…だよ』
「え?」

頭を上げて桜の木の方に振り向く
そこには誰もいない

でも確かに聞こえた。気のせいなんかじゃなかったはず
おかしいと思い、後ろに誰か隠れてるのかな?と思った私は立ち上がり、桜の木へと近づいた

「あ」
桜の木の下に探していた人形があった
鞄に付ける為の紐が切れてる
恐らくさっきの突風で飛ばされる時に幹のどっかに引っかかって千切れたのかな

「う~ん…」
こういうときって桜の木の「せい」でここに落ちたと言うべきか
それとも桜の木の「おかげ」でここに落ちたと言うべきか

…そういえば前にみゆきさんが言ってたっけ
何にでも感謝する気持ちが大切だって…よし

「ありがと、君のお陰で見つかったよ」
私はお礼を言いながら軽く幹を撫でた

でも困ったな…紐が切れたんじゃ鞄に付けられないな・・・
そうだ!

「これを使おう!」
私は自分の手に付けていた髪留め用のゴムを取り、無理やり人形を鞄に括り付けた

「まあ…気休め程度のかりどめにしかならないけど大丈夫だよね…っともうこんな時間か急がないと」

少しだけ休むつもりだったけど、思い出に浸ってたせいか大分時間が過ぎている
私は鞄をしっかり肩にかけて、目的地へと急いだ

「…んじゃまたね!桜君!」





ここの建物は私の庭みたいなものだ
自意識過剰なんかじゃない、だって目を瞑ってたって目的の部屋にたどり着く自信だってある
そのぐらい通い詰めた場所なのだから

私は入り口の自動ドアを抜け
奥にあるエレベーター乗り場へ歩き
エレベーターの中に入って3階を示す「3」のボタンを押す
ドアが閉まり、上のランプが変化していく

1…2…3…チン
ゆっくりと開くエレベーターのドアを手で押して、廊下を早歩きで歩く
廊下の途中にあるドアを一個、二個と押し開け、また続く廊下を歩く
そして私は目的の部屋に入った


[320号室 柊 つかさ]

「つかさ聞いて!私ね…」
勢いよく部屋へ入ったと同時に我ながらうるさいと思えるような声でつかさの名前を呼びカーテンを開けた
そこにいたのはつかさのお母さんのみきさんだった
「…み…き…さん…コンニチハ」
「こんにちは。こなたちゃんは相変わらず元気ね」
私の挨拶にニッコリと優しく笑いながら返してくれた

「いえ…いつも元気ってわけじゃないです…」
油断した。いくら浮き足立っていたからといってつかさの家族がいる可能性の事をすっかり忘れていた
さっきまでとはうって変わってすっかり意気消沈してみきさんの隣に座っている私の姿がそこにあった

頭を冷やしてよく考えるとあのテンションは恥ずかしい。つかさだったら見られても大丈夫だけど、つかさの家族に見られるのは・・・
あ、でもかがみだったら平気かな・・・あ~も~穴があったら入りたい

「こなたちゃんも」
「え?」
頭を抱えてうつむいているとみきさんが話し始めた
反射的に頭を上げてみきさんの方へと目を向けた

「こなたちゃんも大変じゃない?ここまで来るのに時間だって掛かるだろうし。お仕事の方は大丈夫なの?」
「あ、仕事の方は大丈夫です!私こう見えても意外と仕事速いって言われてるんですよ?それにここに来るのだって大変なんて思った事なんて・・・」
「そうなの?それなら良かったけど…」
さっきまで少し暗い表情だったけど私の言葉を聞いて安心したのか、いつもの優しい笑顔のみきさんに戻った

みきさんの笑顔を見てやっぱり親子なんだな…と感じた。みきさんの笑顔にはどことなくつかさの面影を感じる…
ってこの場合はみきさんが親だからつかさの笑顔にみきさんの面影があるが正しいのかな?
ん~…まあどっちでもいいか

「それじゃ私はそろそろお邪魔するわね?」
みきさんはそう言いながらそっと立ち上がった

「え?もう少しいても…」
引き止めようとする私の頭にそっと手を置き、そして優しく言ってくれた

「ダメよ、これ以上二人の邪魔をしたら私がつかさに怒られちゃうもの・・・それじゃあね?」
2~3回私の頭を撫で、カーテンを閉めた後そのまま部屋の外へと足音が消えていった
お母さんのいない私にとってはみきさんに頭を撫でられる・・・これは恥ずかしいながらも結構嬉しかったりする
私のお母さんも生きていたら…こういう事してもらっていたのかな…
頭に微かに残るこの感触…お父さんにされていたのとは違う感触…
何か心が暖まると言うか優しい感じに包まれる気がするな

「こんな感じになるんだったらつかさもお母さんっこになるはずだね~。そうそう今日はつかさに聞いてもらいたい事が沢山あるんだよ!
覚悟してね~?本当にたっくさんあるんだから!」


「そしたらお父さんったら鳩が豆鉄砲食らったような顔?してさ~。あの顔はつかさにも見せてあげたかったな~」
「・・・」


「でね、思ったより好印象もらってるぽくてさ」
「・・・・・」


「だから私も言ったんだよ!完成した作品を最初に見てもらう人は決めてるんだってね」
「・・・・・・・・」

「だから…だからね…」
「・・・・・・・・・・・・」
「返事…してよ…つかさ…声に出して…これ…読んで…私の書いた…小説なんだよ」

口元には酸素マスク、腕には沢山のチューブが繋がり、訳の分からない機械に繋がられ、半分開いた目からは光が失って…
例えるなら『命のかりどめ』をされベットに横になっているつかさに私は鞄から取り出した、私の書いた原稿用紙を差し出していた

「約束…したじゃん…雑誌に載る時の原稿を一番最初に見てくれるって・・・約束したじゃん!!なのに…何で…」





3年前、私達はかがみとみゆきさん達と一緒に久しぶりにご飯を食べる約束をしていた
私は久々にかがみ達に会うのが楽しみで準備が遅れたつかさを置いて雨が降るなか先に待ち合わせ場所に行ってた
そのせいで…私が焦らせたせいで…遅れちゃいけないって人よりも責任を感じやすいつかさは信号が変わったと同時に渡ろうとした

そこに

雨で見えなかったのか猛スピードで自動車が突っ込んで来て…つかさに突っ込んでいった
その時からつかさはずっと昏睡状態でいる


今の医療技術ではどんなに頑張った所でこれ以上手の施しようがなく、いつ目が覚めるか検討もつかないらしい
もちろんこのまま植物人間状態になる、最悪死ぬ可能性も視野された。いや、その可能性の方が高いとさえ言われた
例え万が一で目が覚めたとしても後遺症が発生し、まともな生活が出来る可能性が少ない事までも説明され

このまま目覚めるのを待つか、それとも安楽死をさせるか、その選択まで突き付けられた
本当ならつかさの両親は安楽死を選択するはずだったらしい
だけど私やかがみ、みゆきさん達の説得で…違う
確かにかがみ達もつかさの延命を望んでいたかもしれない
でもどちらかといえば私ただ1人の我侭にかがみやみゆきさんを巻き込んだだけ…そして月日が流れて…今に至る

「つかさ言ってくれたよね…?私が暇つぶしに書いたヘッタクソな小説見て皆が酷いって笑うものを…私自身だって酷いと感じてたものなのに
『面白いよ』、『こなちゃんなら絶対小説家になれるよ』って…私あれからずっと頑張ったんだよ?小説の書き方をお父さんに教えてもらって、大学でも文芸サークルに入って…他にも色々したんだよ?
一生懸命書いたんだよ?何度も挫折しそうになっても…いつかつかさが目覚めた時に見て貰う為に…雑誌に載るぐらいの物が出来さえすれば…目を…覚ましてくれると思って…
ずっと…頑張ってきたんだよ…?だから…目を覚ましてよ…これ…読んでよ…つかさ…また私に笑いかけてよ…いつもの笑顔見せてよ…
『こなちゃん』って私を呼んでよ…!じゃないと…私何の為に頑張ったのか分からないよ…」

涙なんて、もうとっくの昔に枯れたと思ってた。
つかさが事故にあって、こんな風になってるのに
かがみやみゆきさん、ゆーちゃん達が泣いてるのに涙の1粒さえも出なかったから
もう…流れるなんて思わなかった
なのに
どうして今更
どうして今更思い出したように涙が溢れてくるの…

「つかさから貰ったこの人形だって…ホワイトデーのお返しだって貰った人形も壊れちゃったんだよ…?
『しょうがないな~こなちゃんたら』って言いながら…直してよ…また元通りにしてよ…」

鞄に無理やり付けていた人形を取って、つかさの手の上に置き、ギュっとつかさの手を握らせそっと手を離した
ゆっくりとつかさの手が開いていってポロ、とつかさの手から人形が落ちた
それでも私は諦めず人形を拾い上げ何度も、何度も握らせては拾いを繰り返した

もうすっかり太陽も落ち始め病院の窓から見える家々には灯りが付き始めていた
つかさの病室もすっかり暗くなり、廊下から来る光がカーテン越しから漏れているのが分かった

私は落ちてしまった人形を拾おうともせずただ顔を伏せていた
「…灯り付けないと…読めない…よね」
力なく立ち上がり部屋の電気を付け、再びつかさの横へと座った
ジジ…ジジジ…と微かに音がする。上の蛍光灯からだ
こういう僅かに耳に障る様な音さえ今のつかさには聞こえているのかすら私には分からない

「原稿…しまうね?あっても邪魔だろうし…」
つかさの膝の上に置いていた原稿を取り、鞄にしまった
それでもつかさの表情は少しも変化をしない…もう見慣れたはずなんだけどな…

「…皆…この3年間夢に向かって頑張ってたんだよ?つかさがいつまでも寝ぼけている間にさ
かがみは弁護士になって、テレビとかにも出ている有名弁護士の事務所で働いてるんだよ?それであの時つかさをひき逃げした相手が
権力のある政治家の息子で、揉み消されそうになったのを頑張って有罪判決まで持っていったんだ。すごいよね~…今はいつか自分の事務所作るって張り切ってるんだよ?
みゆきさんはね~、お医者さんになったんだ。それでここの病院に来てつかさを治してくれる為に頑張ってくれてるだよ?今はまだ他の病院で勤務してるみたいだけどさ
ゆーちゃんとみなみちゃんは婦警になったんだよ?信じられる?体の弱いゆーちゃんが婦警になったなんて、ゆい姉さんに憧れてたみたいだからね~…前よりはマシになったけど多分内勤になると思うな~
そうそう!ひよりんはプロの漫画家になったんだよ!知り合いにプロの漫画家がいるなんて凄いと思わない?つかさの分もサインもらっておいたからね!
それから…それから…」


「なんでこの話しちゃったんだろうね…今の話…つかさが戻ったら話そうって…ずっと決めていたのに…」

またポタリと一粒落ちた

「私諦めちゃったのかな?つかさが戻るって事…元気になるって…思えなくなったのかな?」

どんどん溢れ落ちている

「今まで…ずっと信じて…のにね」

声が詰まってうまく話せなくなってる

「なん……どうし…」

こんなに悲しいのに


こんなになってるのに…



私には何も出来ないなんて

「…これ…さ」
私は服の袖でゴシゴシと涙を拭き、鞄の中に手を入れもう一つつかさにあげる箱を取り出し、つかさの手の上に置き、蓋を開けた

「指輪…買ったんだ。大きなダイヤが装飾されているわけでもない。カラットが何十もあるわけじゃないけどさ…けど
お父さんのパクリになるかもしれないけどさ、もし小説が出来て、つかさに読んでもらってこれが雑誌に載るって事になった…これをつかさへの婚約指輪にしようかなって…
日本じゃあ戸籍上とか法律とか、印象的にもあまり良く思われてないけど…」

無意識に声が詰まる。これ以上言ってしまったら確実に『今』が終わる…そう感じるからだと思う
だから今まで考えないように、そしてずっと言わないようにしていたんだから…
今ならまだ間に合うかもしれない。でも…もう…


「結婚…しよう?」
言ってしまった

「例えつかさが元に戻らなくても、このままでも私は構わない。一生面倒だって見る」
意識があるのかどうか定かじゃないつかさに対して告白…それは

「戸籍で一緒になれなくても私は構わないよ。ただ…つかさとずっと一緒にいられるだけで幸せだから」
私がつかさが元通りになる事を諦めた瞬間だと言う事だと思う

だから今まで言わなかった。口にしなかった。考えないようにしてきた…のに…言ってしまった

「結婚…しよう…?」

箱から指輪を取り出し、左手を持ち上げた
手が震えてる…

「あれ?おかしいな…目が…霞んじゃうよ」

もう一度袖で目を擦ってる
さっきよりも強く、長く…

「駄目だな~何回拭いてもすぐに出てきちゃよ。
…よし!気を取り直して!ちょっと失礼するよ?つかさ」

ダ…メ…

「あ…」
「…メだよ…こういうのは…ってにしちゃあ」


一瞬何が起きたのか分からなかった
指輪を持ってつかさの左手にはめようとしていた私の左手に…右手が
少し冷たいけれどそんな事は気にならない…懐かしい感触がした
そして

「そう…大事な…は」

懐かしい声が聞こえる…まだちゃんとろれつが回らないみたいだけど

ずっと聞きたかった声が聞こえる


つかさが




つかさの右手が
    私の左手を押さえていた



「ちゃんと…ちゃんと意識のある私に言って…こなちゃん」

「つ…かさ?」
幻聴かもしれない。幻覚かもしれない。
…あ~も~…すっかりネガティブが染み付いちゃってる
だから私は今何が起きているのかはっきり確認する為に前を向いた
つかさの顔を見る為に

「こなちゃんズルイよ?自分ばっかり恥ずかしい事は誤魔化そうとしてさ~。私には…何かこれ邪魔だね?」
そう言いながら自分の顔に付いている酸素マスクを外そうとしているつかさの姿があった
夢じゃない…幻でもない…つかさが…つかさの

「あ、やっと取れた」

意識が戻ったんだ

「つ…」
嬉しい筈なのに体がうまく動かない。言葉もうまく出ない
言いたい事が沢山あるのに、伝えたい事が沢山あるのに
どれから…何から話せばいいのか分からなくて頭の中が困惑している

「どしたのこなちゃん?…そうだ!」
「…?」
ポン、と両手を合わせると私に笑いかけた

「おはよう。こなちゃん…あ、『こんばんわ』…かな?何か暗いし」
「…つかさぁ!!」
「ひゃわ!?」

3年前と何ら変わらない様子を見て思わずつかさに抱きついた。いきなり抱きついたもんだからつかさも何の抵抗もなくベットに押し倒す形になった

「つかさ…つかさあ!」
「こなちゃん…ゴメンね…ずっとお話したかったのに、ずっとこなちゃんの言葉聞こえてたのに…ずっとずっとこなちゃんの事想ってたのに声が出ないし、体も…動かなくて」
「いいよ…そんな事…つかさが…もどっ…れたなら…」





「やば、約束の時間とっくに過ぎてるじゃない」
つかさの病室へと続く病院の廊下を早歩きしながら時計を見るともうすぐ7時にさしかかろうとしていた
こなたとみゆきとの約束の時間は確か6時だったはず…私とした事が遅刻するなんて…

「ったく先生もな~にが『独立したいならこれぐらい自分でやれるようにならんとな』よ!めんどくさい書類整理させただけじゃないのよ!
ここが遅くまで面会してくれる所だったからいい物を…お?みゆきぃ!」
つかさの病室の前にはみゆきの姿が見えた。そこはかとなく嬉しそうに見えるけど…何かあったのかしら?
みゆきも私の声に気づいたみたく、こっちを見てペコリと頭を下げた

「何しているの?こんな所で、中に入らないの?」
「フフフ…もう少し時間を差し上げようかと思って」
「時間?何の?さっさと」
訳が分からん…といった表情をして喋っていた私の口を人差し指で押さえ、その後ゆっくりと病室の方を指差した
何があるのか耳を澄ませていると…聞こえてきた

「これってつかさの…」
大声を張り上げる私の口を再び押さえ、みゆきは小さな声でつぶやいた

「もう少し…お二人に時間を差し上げましょう?『私達は時間に物凄く遅れた』…それでよろしいのではないでしょうか?」
「…そうね。じゃあ『物凄く遅れた』ついでに下で何か飲み物買ってこようかな…ちっちゃい方は水分足りなくなってそうだしね」
「それはいいですね。私もお供します」

あれから暫く経ってからかがみ達が来て、つかさの両親、お姉さん達へ電話で連絡し、
次の日にはゆーちゃんやみなみちゃん、ひよりんに黒井先生にも連絡をした
皆電話して直ぐに飛んでやってきた。みんなつかさの意識が戻った事をもの凄く喜んでくれていた
その後後遺症がないかどうか色々検査があり、ずっとつかさに会えないでいた

そうしてつかさが意識を取り戻して1週間が経った
私はつかさを車椅子に乗せ、例の桜の所へと来ていた

桜は散り、既に葉桜となっていたがつかさには桜も見せてあげたかったけど、ここからの景色も綺麗だからとここへやってきた

「何かあっという間の1週間だったね」
「そう?私はつかさに会えないから物凄く長い1週間に感じたよ?」
事故の後遺症でつかさが歩けなくなっていた
だけどそんなに酷いものではないらしく、リハビリをすればすぐにでも歩けるようになるらしい
こんなに昏睡状態が続いたのにこんなに軽度の後遺症だけだというのは正に『奇跡』としか言いようがないとかなんとか
でも今は歩けないから皆がこうして車椅子で押して上げている

「私もこなちゃんに会いたかったのに次から次へと検査が入るんだもん」
「3年も昏睡状態だったんだから仕方ないよ?」
頬を膨らませるつかさを私は優しくなだめた。するとつかさが不思議そうな顔で私を見てきた

「…どうしたの?」
「何か…こなちゃんが凄く大人っぽくなったな~って思って」
「そりゃ3年も経ってるんだよ?変わるよ~…つかさは前のままだけどね?」
「何か置いてきぼりにされた気分だよ~」
「まあ実際につかさは置いてきぼりになってるよ?皆もう就職とかしちゃってるもんね~。つかさはしてないけど」
「む~…こなちゃんのくせに~」
「あはは…」
「どうしたの、こなちゃん?」
「ん?ちょっとね…」

もう諦めてさえいたつかさとこうしていられる時間が今ここにあると思うと急にこう感慨深くなるというか
本当に神様っているのかなって気がしてきた。
でもつかさに言ったら「神様は絶対いるもん!」って怒られそうだな
つかさがここに入院すると決まった日からずっと見続けた
やっぱ一人で見るよりも、大切な

「つかさと…」
口に出すつもりじゃなかったのに微かに言葉が漏れた
私の声に気づいたつかさが私の方を振り向いた

「こなちゃん呼んだ?」
「ん?何でもないよ?」
つかさの頭を2,3回撫でた
それがつかさにとっては子供扱いされたと感じたのかまた頬を膨らませた

「また子供扱い?」
「アハハ、そんなんじゃないってば」
「ならいいんだけど~」

一番大切なつかさと見る景色が一番綺麗に見えるな…
なんて恥ずかしい事は口に出せそうもないや

その時病院へと続く道の途中から私達を呼ぶ声が聞こえてきた。誰だろうと思い、声の方を見るとそこにはかがみとみゆきさんが立っていた
「あ、かがみとみゆきさんだ。…そろそろ病院にもどろっか?かがみ達も待ってるだろうしさ」
「うん!」

私達は桜が舞うこの場所を後にした
来年こそは二人でちゃんと咲いている桜を見ようと約束を残し、
かがみ達が待つ病院へと続く坂道を一歩、また一歩と歩き始めた








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  • 何度も読みに来てしまう話です。GJ -- 名無しさん (2009-06-04 18:20:47)