惑い


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 放課後、鞄に筆箱だけを放り込んだ時、斜め後ろから歩いてきた少女に声をかけられる。
「こなちゃん、お願い…… 」
 私は、鈴の鳴るような切ない声に直接答えずに、素早く周囲を見渡した。
 他のクラスメイトは帰宅したか、もしくは、部活動に行っており、窓から差し込む西日で赤く染まった教室で
影法師をつくり出しているのは、私と頭上でリボンを結わえたショートカットの女の子の二人きりだ。

「つかさ、だめっ」
 急速に接近してくる少女に対して動悸と喉に渇きを覚えつつも、私は擦れた声を振り絞って顔をそむける。
「どうして? こなちゃん…… 」
 つかさは、世話ができなくて放り出された仔犬のような表情を浮かべており、
涙を湛えて揺らめく大きな水晶のような瞳が、私を酷く惑わせる。
「だから、ここだと、誰がくるか分かんないしさ…… 」
 しどろもどろになりながら、拙い言い訳をする自分がひどく滑稽だ。
 何故、大好きな相手と唇を重ねることを恐れるのだろうか? 

「私は、みんなに知られてもいいよ。こなちゃん」
「つかさ…… 」
 私は小さくため息をついた。同性同士の付き合いが周囲の理解を得ることがいかに困難なのか、
分からないとは思えない。もしかして、私を所有していることを周囲に強烈に主張したいのだろうか?

「ごめんね。こなちゃん」
 しかし直後、彼女は私が不機嫌になる前に謝ってしまう。
 つかさは私の表情の微妙な変化を読み取ることにかけては、他の追随を許さない。
 だから私は、つかさに対して怒ることができない。

「ううん。気にしないでいいよ」
 そして、私はものすごいひねくれ者で気分屋だ。相手に引かれると押したくなってしまう。
「さっきはごめん。つかさ」
「え!? 」
 私は、戸惑う少女の反応を愉しみながら、背中に手をまわす。
「つかさ、大好きだよ」
「こな…… ちゃん? 」
 臆面もなく愛の言葉を口に出してからつま先を伸ばして、恋人のとても柔らかい唇をあっさりと奪い取った。 






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