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「第一級文族試験回答 槙 雅福」(2008/05/20 (火) 14:50:31) の最新版変更点
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1級文族試験:御題「26万7000tのバナナがあります。ナスカの地上絵を描きなさい。物語で」
『NASAの発表によると、この隕石の衝突による被害は30キロトンの核1000発に匹敵すると・・・・』
『この件に関して、国連は非常事態宣言を発令・・・隕石への核攻撃が・・・』
『軌道を変えない隕石に、各地で暴動・・・・ローマ法王は神の御心の・・・』
・・・・・それから、3週間後
/ * /
「うあ、何でこんなところに居るんですか、室長」
僕のその声に、だらりと両手を垂らして机に突っ伏した、我がSF研の室長(美人)が、顔だけを面倒そうにこちらに向ける。
「キミこそ、なんで今更学校なんかにくるの?」
鈴のような声が西日の差し込む部屋に響く。
一応、僕も健全な青少年たるからには
「なんとなく、美人で素敵な室長に会えそうな気がして」とか
「最後くらい、一緒に過ごしたくて」とかとか、そんな台詞で甘い甘い展開をと思ったがこの人は言ったら絶対、鼻で笑う。
間違いなく。斜め上からの視線な感じで。
かといって、本音で「いやぁ、両親がリビングで仲良く***して、天井から揺れてまして(笑)行くとこ無いんですよ~」とは言えないよね。
よね?
僕がてきとうに言葉を紡ごうとした、その時
『ザザ・・ロ・ハロー!SFファンの諸君!終末を元気にお過ごしかな?今日は、秒速100キロの空の石コロに負けないホットな情報をお届けするぜぃ!なんとぉ、【農園からバナナの皮消失!】バナナじゃないぜ!皮だけだぜ!ラジオでは伝えられないのが残念だが、中身だけが揺れるプランテーションは正にSFぅ(エコー)、テレビは死んでるから、無駄に想像力豊かな皮の帽子標準装備の青少年諸君!想像力でカヴァしてくれぃ!』
「まだ、やってたんですね・・・この番組」
「ン、そうみたい。家じゃ電波入らなくて・・・もしかしたらなぁって思ったけど」
「にしても、バナナ版キャトルミューティレーションですか。あ、逆ですね。皮だけだから」
なるほど。いつもの会話だ。最後の終末にしては悪くない。あと1時間で終わるけど。
/ * /
一方、その頃
(一方的に)青春する少年少女の上空8000キロ。
青白い噴射炎を吐く、数千数万の小型六角形が舞踏を始めていた。
/ * /
同時刻、地上。
僕はというと、割と真剣に困っている。
どうしよう。話す・・・ネタがない。ここは明るく「最後うでごわす」と九州ジョークで和ませるか。和むか?
そんな僕を他所に、ラジオだけがしゃべり続ける。暢気だな。ちきしょう。
『なんでも、フィリピン、台湾、インドネシア、などなど推定で26万7千トンのバナナが被害にあってるってディレクターが言ってたよ。あ、彼は妻子と過ごすって帰ったんだけどネ☆まぁ、僕はプロだから、最後まで喋り続けるんだけど♪。うぁ!俺カッコヨクネ?校正無しで喋れるってサイコー!初恋の話とかぶっちゃけちゃおうかな!裕子!好きだー!』
前言撤回、プロだよ。アンタ。
心の中でるーるーと涙を流す僕に、机と一体化していた室長が声をかけてきた。
「ねぇ、屋上、いってみない?・・・たぶん、これが最後の夕日だから」
そう、もう・・・朝日は昇らないのだ。
階段を上り、錆付いた重い鉄の扉を開け、夕暮れのグラデーションに染まる空を見上げる。
月と星、いまやそれよりも大きく見える隕石が写る空。そして、猿。
・・・猿?
「室長」
「なに?」
「空に、猿というか、蜘蛛とか、あのー、いわゆるナスカの地上絵があるんですが」
「あるわねぇ。しかも光ってるわ。でも、クジラが無いわ。お気に入りなのに。」
いやいやいや、違うから。突っ込む所が違うから。
「アレ、なんなんですか?」
「あれは・・・フクロウ人間ね。マイナーキャラだけど」
だから、違うって。
/ * /
同時刻、高度8000キロ
小型六角形は内部からバナナの皮を射出。頭頂部に固定すると、ナスカ図形を保ちつつ隕石に接近を開始した。
/ * /
『NASAは今回の、隕石軌道変化を人為的な物であると発表、同時に初の人類意外との知類との接触に成功したと発表・・・・・』
『国連は、この危機回避に貢献した新たなる友人と、正式に外交をすると発表・・・・』
『隕石軌道を変えた小型ロボットが、いわゆるナスカ図形を形成した事について、彼らの代表メンバーは紀元前時代もコンタクトがあり、それが友好の意をあら・・・・』
『それでは、最後にお聞かせください。軌道変位に何故バナナの皮を使用されたのですか?』
『<我々の受信した貴星の電波にあったのだ。貴星では、【すべる】ときにはバナナの皮だという【お約束】という習慣があると。我々は他の知類の文化を尊重する。足りない分は我々の技術で補わせて貰ったが・・・・まぁ、妥協点としては良い所だろう。>」
/ * /
「しつちょー、しつちょー、まだ荷物まとまりませんかー?」
「ん、ちょっち待ってね。必要な荷物が多くて」
「うげぇ、それ全部僕が持つんですよね」
「当然でしょ。頑張れ、オトコノコ」
「ううう、宇宙にクジラを書きに行くなんて・・・・」
「あら?嫌なの?」
「・・・・・まさか。どうせ行くなら、イヌも加えて貰えるようお願いしようと思っただけですよ」
そう言うと、室長は夏の日差しのなか初めて、僕に笑顔を見せた。
そして僕は今夜も、夜空を見上げる
そこには【ナスカの天空絵】呼ばれる、月と星の横で輝き続ける猿、蜘蛛、フクロウ人間。
そして、遠くない未来、そこにクジラとイヌが加わることになるのだが
それは、また別のお話である。
おわり