第22話 最後のコイル

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第22話 最後のコイル」(2015/07/16 (木) 10:30:21) の最新版変更点

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ヤサコ「業界の噂によると、イマーゴ機能を外すことの出来なかったメガマスは、空間の方を改良したそうです」 イサコ「この世界を、壊してはならないの。誰かが、そう願った。必死に。だから私は生まれた。この世界を、この気持ちを永遠に守らなくてはならない」 イサコ「うっ」 ヤサコ「それっ。 天沢さん、こっちよ」 放送「電脳局のフォーマットは、緊急性の高い強制装置です。一般の個人データは保存されません。ご自宅に待機するか、メガネの使用を禁止してください」 電話「現在、使用制限中です。しばらくしたら、またお掛け直しください」 おばちゃん「ちっ、ついに強制措置に出たか」 放送「メガネは終了してください」 男性「そんなにすぐに切れるか!」 「うわっ」 猫目「例の電脳体さえ見つかれば。しかし、勇子に情報をリークしたのは何者だ」 ヤサコ「来たわ! あれって、アナウンスでやってた新型サッチー。大変!」 イサコ「あ」 ヤサコ「怪我してるわ」 イサコ「あ」 ヤサコ「よかったら、上がって。天沢さん、泣いてたの?とにかく、傷の手当しましょ?」 イサコ「あの時。お前と初めて会ったあの時、騙して悪かった」 ヤサコ「え……ああ、デンスケを」 イサコ「あの犬はどうしてる。元気か?」 ヤサコ「うん、元気よ」 イサコ「中のイリーガルが必要だったんだ」 ヤサコ「キラバグを、お兄さんを取り戻すために」 イサコ「そうだ」 ヤサコ「ごめんなさい。余計なこと聞いちゃって。救急箱取ってくるわ」 イサコ「でも、全部無駄だった。あたしは、誰の役にも立てない。何もできない。ダメだな。ごめんね、お兄ちゃん。私、私……、お兄ちゃんを助けようとして、ずっと。それなのに。うわーーーーー」 ヤサコ「あっ、天沢さん。どうしたの?ねえ! 痛い?もし、もしよかったら、私に話して。誰かに話すと、ちょっとでも楽になるかもしれない。私、ハラケンを天沢さんが一緒に助けてくれて、思ったの。みんなのしてる噂は本当じゃない。カンナちゃんのこととか、あのヌルってイリーガルを呼び出したとか、全部嘘なんでしょ?一緒にみんなの誤解を解きましょう?ねえ覚えてる?越してきてすぐ、下駄箱で私に言ったこと。悔しかった。でも、それからずっと気になってた。あなたとお友達になりたい。気安い気持ちで言ってるんじゃないの。天沢さんにどんな秘密があっても、絶対逃げずに受け止めるから」 イサコ「大した、話しじゃ、ない」 ヤサコ「そう。もし、もし天沢さんがその気持ちになったら、話して」 ヤサコ「その子、天沢さんのペット?」 イサコ「ペットじゃない。」 ヤサコ「あ、傷を負ってるわ。治療用のメタタグなら、まだ残ってるから」 イサコ「お前じゃ無理だ」 ヤサコ「え」 イサコ「あ、いや、違うんだ。これは、普通のペットじゃないから」 ヤサコ「そうなの」 ヤサコ&イサコ「あ」 ニュース「空間局による、大黒市の一斉フォーマットは、あと数時間続くもようです。以前から……」 ヤサコ「まだしばらく続きそうね。ちょっと外の様子みてくるわ」 イサコ「すまないな。こんなになるまでずいぶん仕事をしてくれた 痛いか?今はこのくらいしかできない ん?」 キョウコ「暗号のお姉ちゃん。暗号って、デンスケ治せるの?」 イサコ「え? あの時の犬か?」 キョウコ「おばけから守ってくれたの」 イサコ「ヌルにやられたのか」 キョウコ「ねえ、治せる?」 イサコ「普通のペットは、自動修復で」 キョウコ「もう死ぬって書いてあるの」 イサコ「ええ?」 キョウコ「ねえ、治せる?お姉ちゃんの暗号は、なんでも出来るんでしょう?」 イサコ「普通のペットは、私の暗号では治せない。私になんか、何一つ出来やしない。ペットを治すことも、お兄ちゃんを助けることも」 キョウコ「うぃぃぃぃー」 イサコ「あ、わかった。わかったから、だまれ」 キョウコ「うん、うんちぃー」 イサコ「やってみるから、泣くな」 キョウコ「あ」 イサコ「安心しろ。治療しやすくするためだ」 ヤサコ「天沢さん。こんなところにいたの?き、京子、ここで何やってるの?」 イサコ「嘘をついたな。この犬はもう」 ヤサコ「どういう意味?」 イサコ「知らなかったのか?」 ヤサコ「キョウコ、デンスケがどうかしたの?」 キョウコ「デンスケ、もうすぐ死ぬんだよ?」 ヤサコ「ええっ」 アイキャッチ イサコ「まるでイリーガルに感染したような傷だ」 ヤサコ「そんな……。でもおばばはすぐ治るって」 イサコ「落ち着け!これは、ペット会社の、犬の生命データをもとにした告知にすぎない。細かく修復すれば、撤回されることもある」 ヤサコ「本当?」 イサコ「ああ、やってみる」 猫目「ん?この家は、まさか。数奇なものだな。勇子のやつ、ここに逃げ込むとは。やはりな。タケル、いるんだろ?何故こんなことをした?勇子に信彦のことをしゃべったのはお前か?」 タケル「メガマスの人に言われたんだ。こうしないと、兄ちゃんと天沢を、告発するって」 猫目「馬鹿なことを……。表沙汰になって困るのは、奴らの方なんだぞ」 タケル「そう。全部兄ちゃんのためなんだ! 兄ちゃん、もう止めよう?兄ちゃんにはぼくがいるだろう?なんであんな女を使うんだよ!」 猫目「お前には、イマーゴがないから」 タケル「あ」 猫目「いいか、通路を開くには勇子が必要なんだ。」 タケル「でも、もうキラバグは残っていない。改造したイリーガルでちょっとずつ集めたのに、あいつが」 猫目「まだ手はある。もう余計なことをするな。ぼくの言う通りに動け。それが父さんのためなんだ」 タケル「兄ちゃん」 猫目「例の電脳体さえ見つかれば、終わる」 イサコ「大事な犬なのか」 ヤサコ「うん、ずっと一緒。家族と同じよ」 イサコ「家族か。ずっと、兄を探してた。とても優しい兄で、仲がよかった。幸せ、そう幸せだったと思う。兄と暮らした間。でも、兄のリンクなどなかった。はじめから」 ?「お前の兄、天沢信彦は、数年前に死んでいる」 イサコ「なん、だと」 ヤサコ「待って。私前ちゃんと言えなかったけど、昔4423って人と会ってるの」 イサコ「え?」 ヤサコ「デンスケと迷った時に。それに、夢でも」 イサコ「夢?」 ヤサコ「メガネをかけたまま寝ると、時々声が聞こえて自分は4423だって。でも、夢の話しだし」 イサコ「続けろ、何て言ってた」 ヤサコ「こっちにきちゃいけない。その道は、違うって」 イサコ「メガネをかけたまま……夢……まさか!その時いつも、この犬がそばにいなかったか?」 ヤサコ「いたわ。でもそれって」 イサコ「もしかして、このペットは」 タケル「本社の人が言ってた。もしまた死者が出たら、かばいきれないって」 猫目「単なる揺さぶりだ。連中はキラバグの存在すら把握していない」 タケル「ぼくだってそうさ。兄ちゃん、キラバグって本当は何なの?」 猫目「ある実験があったんだ。そこで呪われた生き物たちが生まれた。コイルドメインのな。その生き物は、コイルドメインにつながったまま、電脳空間に居座って、自分達の生存を要求した」 タケル「その生き物が」 猫目「そう、ミチコだ。コイルス倒産後、メガマスは何度もコイルドメインをフォーマットしたが、どうしても消滅しなかった。キラバグは、その時発生した異常空間の欠片なんだ」 タケル「ミチコさんは、今も生きているの?」 猫目「それは……誰も知らない。誰もな」 イサコ「やはりこいつは普通の電脳ペットじゃない」 ヤサコ「どういう意味?」 イサコ「こいつはおそらく、私のモジョと同じく、誰かが改造したものだ。ん?これは……まさか」 ヤサコ「あ」 イサコ「反応がある。しかし」 ヤサコ「消えてゆくわ」 イサコ「鍵が合わないのか」 ヤサコ「なにこれ?」 イサコ「この犬は、普通の方法では治療できない。この首輪が全てを封印していた。あの時私でさえ気づかなかったのは、そのためだ。精巧な改良だ。互換性も普通のペットと変わらない」 ヤサコ「精巧な改良?」 イサコ「ああ。しかしどうしてこんな。この犬を誰からもらった?」 ヤサコ「おじじよ」 イサコ「おじじ、そいつはどこにいる?すぐに連れてこい」 ヤサコ「亡くなったわ。5年前に」 イサコ「そ、そうなのか。悪かったな」 ヤサコ「んーん。あ、そうだ。でも、おばばの部屋の奥に階段があるの。多分、その上がおじじの部屋だわ。行ってみましょう?」 イサコ「いいのか?勝手に上がっても」 ヤサコ「おばばに入るなって言われてたんだけど」 イサコ「おばば?」 ヤサコ「うん。私のおばあちゃん」 イサコ「お前は、家族が多いな」 ヤサコ「え?」 イサコ「いや、なんでもない」 ヤサコ「やっぱりここだわ。見覚えがある。そう、ここでデンスケに初めてあったの」 イサコ「あ……これは……」 ヤサコ「4423」 イサコ「どういうことだ!これはカルテ?」 ヤサコ「おじじはお医者さんだったの。あの病院に勤めてたわ」 イサコ「あ、電脳メガネ」 メガばあ「ワシの夫が使っていたメガネじゃ」 ヤサコ「おばば!」 メガばあ「お主が最近街を荒らしている小娘じゃな?」 イサコ「あんたが、古流の親玉か」 メガばあ「最近の子は挨拶もロクにできんようだなあ」 ヤサコ「ちょっとおばば失礼でしょう?私のと……クラスメイトの天沢さん」 ヤサコ「教えろ、お前の祖父は何者だ。何故兄のカルテを持っている!」 メガばあ「メガマスと契約して、ある仕事を請け負ったのじゃ」 イサコ「メガマスと契約した医者?まさか!もし宗助のいう先生だったとしたら、この辺りに。やっぱり」 ヤサコ「な、なにこれ」 メガばあ「こんな装置が隠れておったとは」 ヤサコ「天沢さん、どうしてパスワードを?」 イサコ「やはりこの人が宗助の言ってた先生だ」 メガばあ「ううむ、こりゃ古い空間じゃぞ」 ヤサコ「なんでこの間サッチーに消されなかったのかしら」 イサコ「空間ごと封印されていたからだ」 猫目「勇子……いつの間にぼくのデータベースからパスワードを。手癖の悪い女だ」 タケル「ヤサコ、ヤサコの家だったんだ」 猫目「知り合いか?」 タケル「うん」 猫目「では、あの子が先生の孫か。それにしてもこのペット。この反応は……まさか!」 メガばあ「おお……こ、これはワシもみたことのないメタタグじゃ」 イサコ「間違いない。これらはコイルスのデバイスだ」 ヤサコ「コイルスって?」 メガばあ「うん、最初のメガネ会社じゃ。おじじはメガマスの依頼で、コイルスのメガネ技術を調べておったのじゃよ」 イサコ「そしてその犬も、おそらく、コイルス製だ」 ヤサコ「なんですって」 猫目「やはりそうか。コイルスノードだ」 タケル「コイルスノード?」 猫目「ああ、コイルスが作った実験電脳体。コイルドメインに接続する力を持った電脳体だ。見つけたぞ」 イサコ「今までわからなかったのは、おそらくお前の祖父が、メガマス仕様に改造したからだ」 メガばあ「そ、そうか。もしかしてここにある資料を調べれば」 イサコ「ああ、治せるかもしれない」 キョウコ「本当に?」 全員「あ?」 猫目「まずい。勇子のアクセスを嗅ぎつけたのか」 全員「ああっ」 イサコ「逃げろ!」 ヤサコ「京子逃げて!」 メガばあ「デバイスが! ふっ!ああ、おお!効きよるぞ!持ってけ!」 イサコ「分かった!」 メガばあ「キョウコを追うのじゃ」 ヤサコ「あ! キョウコ!」 イサコ「くっ!」 ヤサコ「天沢さん? あれ?」 イサコ「くそお、どっちに行った」 メガばあ「あのサイコロめがワシをスルーしおって。年寄りを軽んじると後が怖いぞ」 おばちゃん「一体どうなってるのよ?え?天沢とヤサコが?分かったわ。ああ、2.0のプリコトルは把握している。すぐに追跡班を編成するわ。追跡班、出動よ!」 ダイチ「はいー?」 メガばあ「どうじゃ?京子は見つかったか?」 ヤサコ「まだよ」 メガばあ「残ったデータに治療法らしきものがあった。しかしその治療は、コイルスの空間でしかできん。調べたところ、古い空間は屋外の広域用とは別に、狭い実験用の領域があるようじゃ」 ヤサコ「広域用と実験用?」 メガばあ「お主らが今まで見つけたものは、おそらくコイルスが初期に作ったその空間じゃろう。おじじの部屋にあったのは、きっとそのコピーじゃ。このオリジナルの電脳空間と設備がもし生き残っておったなら!」 ヤサコ「そこにデンスケを連れて行けば、助かるのね!」 イサコ「妹を見つける方が先だ! 小此木、あの子が行きそうな場所を知っているか?」 ヤサコ「わからないけど、多分神社に逃げ込むと思う」 イサコ「まずいな」 ヤサコ「何が?」 イサコ「あの新型は、神社にも入れるんだ」 キョウコ「ああっ。あああっ」 猫目「折角見つけたのに、みすみす壊されてたまるか! チッ、バレないように邪魔できるのは数秒だけか。それなら! 仕事を増やしてやるだけだ!」 ヤサコ「また電波障害だわ。この近くなのは確かなんだけど。あ……」 イサコ「やはりな」 ヤサコ「どうしたの?」 ヤサコ「あ、あ」 イサコ「思った通りだ。古流と暗号は互換性がある。暗号として組み込めば、連続して使えるぞ」 ヤサコ「じゃあ、私も!」 イサコ「だめだ!どのみち、お前には使えない。このレベルの暗号は、自分の電脳体に暗号路を組み込まないと使えないんだ」 ヤサコ「暗号路?」 イサコ「ああ、イマーゴたちを結して、思考から直接暗号を取り出す構造体だ。これを使える人間は、ほとんどいない」 ヤサコ「でも、噂で聞いたわ。黒客のみんなは暗号を使ってるって」 イサコ「いいから、私の言う通りに動け! やつらのは、イマーゴを使わないコピーにすぎない。お前、確かイマーゴがあったな。イマーゴには危険な副作用があるんだ。使いすぎると、肉体や神経を傷つける。お前は、メタタグの状態で使え。いいか、あと1枚しかないから、大事に使え。それまでは、私が守ってやる」 ヤサコ「わ、分かったわ」 イサコ「!うっ、くっ……」 ヤサコ「天沢さん!どうしたの?ああ!」 キョウコ「あっあああ……」 ヤサコ「茅野神社だわ!」 ダイチ「ういや〜!」 ヤサコ「京子、京子ー!」 イサコ「うっ!くっ!」 ヤサコ「だ、大丈夫?」
ヤサコ「業界の噂によると、イマーゴ機能を外すことの出来なかったメガマスは、空間の方を改良したそうです」 イサコ「この世界を、壊してはならないの。誰かが、そう願った。必死に。だから私は生まれた。この世界を、この気持ちを永遠に守らなくてはならない」 イサコ「うっ」 ヤサコ「それっ。 天沢さん、こっちよ」 放送「電脳局のフォーマットは、緊急性の高い強制装置です。一般の個人データは保存されません。ご自宅に待機するか、メガネの使用を禁止してください」 電話「現在、使用制限中です。しばらくしたら、またお掛け直しください」 おばちゃん「ちっ、ついに強制措置に出たか」 放送「メガネは終了してください」 男性「そんなにすぐに切れるか!」 「うわっ」 猫目「例の電脳体さえ見つかれば。しかし、勇子に情報をリークしたのは何者だ」 ヤサコ「来たわ! あれって、アナウンスでやってた新型サッチー。大変!」 イサコ「あ」 ヤサコ「怪我してるわ」 イサコ「あ」 ヤサコ「よかったら、上がって。天沢さん、泣いてたの?とにかく、傷の手当しましょ?」 イサコ「あの時。お前と初めて会ったあの時、騙して悪かった」 ヤサコ「え……ああ、デンスケを」 イサコ「あの犬はどうしてる。元気か?」 ヤサコ「うん、元気よ」 イサコ「中のイリーガルが必要だったんだ」 ヤサコ「キラバグを、お兄さんを取り戻すために」 イサコ「そうだ」 ヤサコ「ごめんなさい。余計なこと聞いちゃって。救急箱取ってくるわ」 イサコ「でも、全部無駄だった。あたしは、誰の役にも立てない。何もできない。ダメだな。ごめんね、お兄ちゃん。私、私……、お兄ちゃんを助けようとして、ずっと。それなのに。うわーーーーー」 ヤサコ「あっ、天沢さん。どうしたの?ねえ! 痛い?もし、もしよかったら、私に話して。誰かに話すと、ちょっとでも楽になるかもしれない。私、ハラケンを天沢さんが一緒に助けてくれて、思ったの。みんなのしてる噂は本当じゃない。カンナちゃんのこととか、あのヌルってイリーガルを呼び出したとか、全部嘘なんでしょ?一緒にみんなの誤解を解きましょう?ねえ覚えてる?越してきてすぐ、下駄箱で私に言ったこと。悔しかった。でも、それからずっと気になってた。あなたとお友達になりたい。気安い気持ちで言ってるんじゃないの。天沢さんにどんな秘密があっても、絶対逃げずに受け止めるから」 イサコ「大した、話しじゃ、ない」 ヤサコ「そう。もし、もし天沢さんがその気持ちになったら、話して」 ヤサコ「その子、天沢さんのペット?」 イサコ「ペットじゃない。」 ヤサコ「あ、傷を負ってるわ。治療用のメタタグなら、まだ残ってるから」 イサコ「お前じゃ無理だ」 ヤサコ「え」 イサコ「あ、いや、違うんだ。これは、普通のペットじゃないから」 ヤサコ「そうなの」 ヤサコ&イサコ「あ」 ニュース「空間局による、大黒市の一斉フォーマットは、あと数時間続くもようです。以前から……」 ヤサコ「まだしばらく続きそうね。ちょっと外の様子みてくるわ」 イサコ「すまないな。こんなになるまでずいぶん仕事をしてくれた 痛いか?今はこのくらいしかできない ん?」 キョウコ「暗号のお姉ちゃん。暗号って、デンスケ治せるの?」 イサコ「え? あの時の犬か?」 キョウコ「おばけから守ってくれたの」 イサコ「ヌルにやられたのか」 キョウコ「ねえ、治せる?」 イサコ「普通のペットは、自動修復で」 キョウコ「もう死ぬって書いてあるの」 イサコ「ええ?」 キョウコ「ねえ、治せる?お姉ちゃんの暗号は、なんでも出来るんでしょう?」 イサコ「普通のペットは、私の暗号では治せない。私になんか、何一つ出来やしない。ペットを治すことも、お兄ちゃんを助けることも」 キョウコ「うぃぃぃぃー」 イサコ「あ、わかった。わかったから、だまれ」 キョウコ「うん、うんちぃー」 イサコ「やってみるから、泣くな」 キョウコ「あ」 イサコ「安心しろ。治療しやすくするためだ」 ヤサコ「天沢さん。こんなところにいたの?き、京子、ここで何やってるの?」 イサコ「嘘をついたな。この犬はもう」 ヤサコ「どういう意味?」 イサコ「知らなかったのか?」 ヤサコ「キョウコ、デンスケがどうかしたの?」 キョウコ「デンスケ、もうすぐ死ぬんだよ?」 ヤサコ「ええっ」 アイキャッチ イサコ「まるでイリーガルに感染したような傷だ」 ヤサコ「そんな……。でもおばばはすぐ治るって」 イサコ「落ち着け!これは、ペット会社の、犬の生命データをもとにした告知にすぎない。細かく修復すれば、撤回されることもある」 ヤサコ「本当?」 イサコ「ああ、やってみる」 猫目「ん?この家は、まさか。数奇なものだな。勇子のやつ、ここに逃げ込むとは。やはりな。タケル、いるんだろ?何故こんなことをした?勇子に信彦のことをしゃべったのはお前か?」 タケル「メガマスの人に言われたんだ。こうしないと、兄ちゃんと天沢を、告発するって」 猫目「馬鹿なことを……。表沙汰になって困るのは、奴らの方なんだぞ」 タケル「そう。全部兄ちゃんのためなんだ! 兄ちゃん、もう止めよう?兄ちゃんにはぼくがいるだろう?なんであんな女を使うんだよ!」 猫目「お前には、イマーゴがないから」 タケル「あ」 猫目「いいか、通路を開くには勇子が必要なんだ。」 タケル「でも、もうキラバグは残っていない。改造したイリーガルでちょっとずつ集めたのに、あいつが」 猫目「まだ手はある。もう余計なことをするな。ぼくの言う通りに動け。それが父さんのためなんだ」 タケル「兄ちゃん」 猫目「例の電脳体さえ見つかれば、終わる」 イサコ「大事な犬なのか」 ヤサコ「うん、ずっと一緒。家族と同じよ」 イサコ「家族か。ずっと、兄を探してた。とても優しい兄で、仲がよかった。幸せ、そう幸せだったと思う。兄と暮らした間。でも、兄のリンクなどなかった。はじめから」 ?「お前の兄、天沢信彦は、数年前に死んでいる」 イサコ「なん、だと」 ヤサコ「待って。私前ちゃんと言えなかったけど、昔4423って人と会ってるの」 イサコ「え?」 ヤサコ「デンスケと迷った時に。それに、夢でも」 イサコ「夢?」 ヤサコ「メガネをかけたまま寝ると、時々声が聞こえて自分は4423だって。でも、夢の話しだし」 イサコ「続けろ、何て言ってた」 ヤサコ「こっちにきちゃいけない。その道は、違うって」 イサコ「メガネをかけたまま……夢……まさか!その時いつも、この犬がそばにいなかったか?」 ヤサコ「いたわ。でもそれって」 イサコ「もしかして、このペットは」 タケル「本社の人が言ってた。もしまた死者が出たら、かばいきれないって」 猫目「単なる揺さぶりだ。連中はキラバグの存在すら把握していない」 タケル「ぼくだってそうさ。兄ちゃん、キラバグって本当は何なの?」 猫目「ある実験があったんだ。そこで呪われた生き物たちが生まれた。コイルドメインのな。その生き物は、コイルドメインにつながったまま、電脳空間に居座って、自分達の生存を要求した」 タケル「その生き物が」 猫目「そう、ミチコだ。コイルス倒産後、メガマスは何度もコイルドメインをフォーマットしたが、どうしても消滅しなかった。キラバグは、その時発生した異常空間の欠片なんだ」 タケル「ミチコさんは、今も生きているの?」 猫目「それは……誰も知らない。誰もな」 イサコ「やはりこいつは普通の電脳ペットじゃない」 ヤサコ「どういう意味?」 イサコ「こいつはおそらく、私のモジョと同じく、誰かが改造したものだ。ん?これは……まさか」 ヤサコ「あ」 イサコ「反応がある。しかし」 ヤサコ「消えてゆくわ」 イサコ「鍵が合わないのか」 ヤサコ「なにこれ?」 イサコ「この犬は、普通の方法では治療できない。この首輪が全てを封印していた。あの時私でさえ気づかなかったのは、そのためだ。精巧な改良だ。互換性も普通のペットと変わらない」 ヤサコ「精巧な改良?」 イサコ「ああ。しかしどうしてこんな。この犬を誰からもらった?」 ヤサコ「おじじよ」 イサコ「おじじ、そいつはどこにいる?すぐに連れてこい」 ヤサコ「亡くなったわ。5年前に」 イサコ「そ、そうなのか。悪かったな」 ヤサコ「んーん。あ、そうだ。でも、おばばの部屋の奥に階段があるの。多分、その上がおじじの部屋だわ。行ってみましょう?」 イサコ「いいのか?勝手に上がっても」 ヤサコ「おばばに入るなって言われてたんだけど」 イサコ「おばば?」 ヤサコ「うん。私のおばあちゃん」 イサコ「お前は、家族が多いな」 ヤサコ「え?」 イサコ「いや、なんでもない」 ヤサコ「やっぱりここだわ。見覚えがある。そう、ここでデンスケに初めてあったの」 イサコ「あ……これは……」 ヤサコ「4423」 イサコ「どういうことだ!これはカルテ?」 ヤサコ「おじじはお医者さんだったの。あの病院に勤めてたわ」 イサコ「あ、電脳メガネ」 メガばあ「ワシの夫が使っていたメガネじゃ」 ヤサコ「おばば!」 メガばあ「お主が最近街を荒らしている小娘じゃな?」 イサコ「あんたが、古流の親玉か」 メガばあ「最近の子は挨拶もロクにできんようだなあ」 ヤサコ「ちょっとおばば失礼でしょう?私のと……クラスメイトの天沢さん」 ヤサコ「教えろ、お前の祖父は何者だ。何故兄のカルテを持っている!」 メガばあ「メガマスと契約して、ある仕事を請け負ったのじゃ」 イサコ「メガマスと契約した医者?まさか!もし宗助のいう先生だったとしたら、この辺りに。やっぱり」 ヤサコ「な、なにこれ」 メガばあ「こんな装置が隠れておったとは」 ヤサコ「天沢さん、どうしてパスワードを?」 イサコ「やはりこの人が宗助の言ってた先生だ」 メガばあ「ううむ、こりゃ古い空間じゃぞ」 ヤサコ「なんでこの間サッチーに消されなかったのかしら」 イサコ「空間ごと封印されていたからだ」 猫目「勇子……いつの間にぼくのデータベースからパスワードを。手癖の悪い女だ」 タケル「ヤサコ、ヤサコの家だったんだ」 猫目「知り合いか?」 タケル「うん」 猫目「では、あの子が先生の孫か。それにしてもこのペット。この反応は……まさか!」 メガばあ「おお……こ、これはワシもみたことのないメタタグじゃ」 イサコ「間違いない。これらはコイルスのデバイスだ」 ヤサコ「コイルスって?」 メガばあ「うん、最初のメガネ会社じゃ。おじじはメガマスの依頼で、コイルスのメガネ技術を調べておったのじゃよ」 イサコ「そしてその犬も、おそらく、コイルス製だ」 ヤサコ「なんですって」 猫目「やはりそうか。コイルスノードだ」 タケル「コイルスノード?」 猫目「ああ、コイルスが作った実験電脳体。コイルドメインに接続する力を持った電脳体だ。見つけたぞ」 イサコ「今までわからなかったのは、おそらくお前の祖父が、メガマス仕様に改造したからだ」 メガばあ「そ、そうか。もしかしてここにある資料を調べれば」 イサコ「ああ、治せるかもしれない」 キョウコ「本当に?」 全員「あ?」 猫目「まずい。勇子のアクセスを嗅ぎつけたのか」 全員「ああっ」 イサコ「逃げろ!」 ヤサコ「京子逃げて!」 メガばあ「デバイスが! ふっ!ああ、おお!効きよるぞ!持ってけ!」 イサコ「分かった!」 メガばあ「キョウコを追うのじゃ」 ヤサコ「あ! キョウコ!」 イサコ「くっ!」 ヤサコ「天沢さん? あれ?」 イサコ「くそお、どっちに行った」 メガばあ「あのサイコロめがワシをスルーしおって。年寄りを軽んじると後が怖いぞ」 おばちゃん「一体どうなってるのよ?え?天沢とヤサコが?分かったわ。ああ、2.0のプリコトルは把握している。すぐに追跡班を編成するわ。追跡班、出動よ!」 ダイチ「はいー?」 メガばあ「どうじゃ?京子は見つかったか?」 ヤサコ「まだよ」 メガばあ「残ったデータに治療法らしきものがあった。しかしその治療は、コイルスの空間でしかできん。調べたところ、古い空間は屋外の広域用とは別に、狭い実験用の領域があるようじゃ」 ヤサコ「広域用と実験用?」 メガばあ「お主らが今まで見つけたものは、おそらくコイルスが初期に作ったその空間じゃろう。おじじの部屋にあったのは、きっとそのコピーじゃ。このオリジナルの電脳空間と設備がもし生き残っておったなら!」 ヤサコ「そこにデンスケを連れて行けば、助かるのね!」 イサコ「妹を見つける方が先だ! 小此木、あの子が行きそうな場所を知っているか?」 ヤサコ「わからないけど、多分神社に逃げ込むと思う」 イサコ「まずいな」 ヤサコ「何が?」 イサコ「あの新型は、神社にも入れるんだ」 キョウコ「ああっ。あああっ」 猫目「折角見つけたのに、みすみす壊されてたまるか! チッ、バレないように邪魔できるのは数秒だけか。それなら! 仕事を増やしてやるだけだ!」 ヤサコ「また電波障害だわ。この近くなのは確かなんだけど。あ……」 イサコ「やはりな」 ヤサコ「どうしたの?」 ヤサコ「あ、あ」 イサコ「思った通りだ。古流と暗号は互換性がある。暗号として組み込めば、連続して使えるぞ」 ヤサコ「じゃあ、私も!」 イサコ「だめだ!どのみち、お前には使えない。このレベルの暗号は、自分の電脳体に暗号路を組み込まないと使えないんだ」 ヤサコ「暗号路?」 イサコ「ああ、イマーゴたちを結して、思考から直接暗号を取り出す構造体だ。これを使える人間は、ほとんどいない」 ヤサコ「でも、噂で聞いたわ。黒客のみんなは暗号を使ってるって」 イサコ「いいから、私の言う通りに動け! やつらのは、イマーゴを使わないコピーにすぎない。お前、確かイマーゴがあったな。イマーゴには危険な副作用があるんだ。使いすぎると、肉体や神経を傷つける。お前は、メタタグの状態で使え。いいか、あと1枚しかないから、大事に使え。それまでは、私が守ってやる」 ヤサコ「わ、分かったわ」 イサコ「!うっ、くっ……」 ヤサコ「天沢さん!どうしたの?ああ!」 キョウコ「あっあああ……」 ヤサコ「茅野神社だわ!」 ダイチ「ういや〜!」 ヤサコ「京子、京子ー!」 イサコ「うっ!くっ!」 ヤサコ「だ、大丈夫?」 イサコ「ああ、居たか?」 ヤサコ「いないわ」 イサコ「うっ、くっ……」 ヤサコ「もう心当たり。大丈夫、天沢さん!天沢さん!あ! ううっぐ……はっ!ああ!天沢さん!」 イサコ「お前、何故暗号符が!」 ヤサコ「あっ」 ヤサコ「次回、電脳コイル 叶えられた願い お楽しみに」

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