第24話 メガネを捨てる子供たち


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ヤサコ「天沢勇子の言葉によると、人と人とを繋ぐ心の道は、細く途切れ易いそうです」

ヤサコ「あ……」

ヤサコ母「優ちゃん!?もう、心配したんだから!」

ヤサコ「私、どうしたの?」

ヤサコ母「そうだ、先生呼ばなきゃ。先生!あら、先生はどちらですか!?すみません先生!?」

ヤサコ「あ」

おばちゃん「メガネなら、お母さんが持ってるわ」

ヤサコ「おばちゃん」

おばちゃん「あなたに似て、そそっかしい人ね。でも、いい人だわ。
よかったわ。あなたまで戻ってこなかったら、どうしようかと思った」

ヤサコ「天沢さん。そうだ、私天沢さんと学校に行って。

天沢さんはどうしたの?おばちゃん!」

おばちゃん「全てのリンクが切断されたわ。多分、リンク先の空間も」

フミエ「よかった。本当によかった」

ヤサコ「うん」

フミエ「もう本当に心配したのよ。その……あっちに連れてかれたんじゃないかって」

ヤサコ「あっち?」

フミエ「みんな噂してるわ。イサコは、連れて行かれた、って。ミチコさんに。ともかく、元気だしてね。あ、ちょっと京子ちゃんの様子見てくるから、切るわね」

ヤサコ「京子がどうかしたの?」

フミエ「ヤサコ、デンスケが」

ヤサコ「デンスケ?」

フミエ「昨日の騒ぎで巻き込まれて、それで」

ヤサコ「あ」

フミエ「さっき、メモリアルがヤサコのうちに届いたって」

キョウコ「うええええ、うええええええ!」

フミエ「また京子ちゃん騒いでる。また電話するから。しっかりするのよ、ヤサコ」

ガチャ。ツーーーーー

キョウコ「びえええええええ!やーだー。京子のメガネがー」

フミエ「ああもう、困ったなぁ。ヤサコのお母さん、京子ちゃんのメガネまで取り上げたのねー」

ピンポーン

フミエ「ん?あら、誰かしら」

ガチャ

フミエ「お母さん?」

フミエ母「ここにいるって小此木さんから聞いて。」

フミエ「はあ?
あっ、か、返してよ、何すんの?」

フミエ母「ダメです。もうメガネ遊びは許しません」

フミエ「なんでよー?」

フミエ母「なんで、じゃありません。聞いたわ。クラスの子、メガネが原因で大怪我したって」

フミエ「え?」

フミエ母「ぜーんぶ知ってるのよ?天沢って子。夜中に学校に入り込んで、メガネで遊んでて階段から落ちたんでしょ?」

フミエ「ち、違うの。あれは!」

フミエ母「違いません。ほら、ご迷惑だから帰るわよ」

フミエ「でーもー」

フミエ母「あんたもミチコさんに連れて行かれるわよ?」

ダイチ「か、返してよ!」

ダイチ父「バーカモーン!」

ダイチ「ひぃぃ!」

ダイチ父「前から言っていただろう。ずーっとこんなものしているから、本物と偽物の区別がつかなくなるんだー!」

おばちゃん「今日中には退院出来るそうよ。単なる貧血とか、そんなところね。昨日の出来事は、表向きの社会では何も知られずに終わる。私も事情を聞かれたけど、こんなの、オカルト話にしかならない。私が起こした、4年前の事件と同じよ。メガマスもそれを読んで、私や猫目を派遣したのね。猫目は、4年前一緒にキラバグ集めをしてた男よ。今はもみ消す側だけどね。キラバグもコイルスの空間も、もうどこにも残ってない。あるとしたら、都市伝説のはざま交差点くらいかな。イサコの意識を呼び戻す方法は、もう」

ヤサコ「なんだか。
なんだか、何にも感じないの。悪い夢か、なんかだったみたい。何もかも。」

おばちゃん「ヤサコ」

ヤサコ「そっか、デンスケ、メモリアル届いたのね」

おばちゃん「お母さん、手続きもうすぐ終わるわ。私、ちょっと外すわね。実はメガばあも昨日の騒ぎで緊急入院したの」

ヤサコ「え?」

おばちゃん「ぎっくり腰だけどね」

メガばあ「ああ、腰がぁ」

猫目「仕事中は電話するなと言ったろう、タケル」

タケル「で、でもぼく、本当にこれでよかったのか」

猫目「心配するな。今までに兄ちゃんの言う通りにして、間違ったことあるか?」

タケル「ないよお兄ちゃん。カンナのことも、ぼくが書いた話しもみんな信じてる」

猫目「ああ。怪奇倶楽部の方はまかせる」

タケル「ぼく、兄ちゃんのためならなんでもする」

猫目「ああ、分かってる。じゃ」


ダイチ「やることが、ないな」

デンパ「そうだね、ダイチ」

アキラ「クラスのみんなも、ほとんど親に取り上げられちゃったみたいです」

フミエ「はあ、これじゃ電話もかけられないわー」

ダイチ「んー?なんだお前らもかー」

ナメッチ「へい」

ダイチ「ちぇ。メガネがないんじゃ、喧嘩する気も起きないぜ」

一同「はー」

ヤサコ母「痛いところない?あなたも転んだんでしょう?」

ヤサコ「うん、大丈夫」

ヤサコ母「お父さんね、今出張で金沢。大変な時に必ずいないんだから。
お友達、天沢さんだっけ?早くよくなるといいわね。仲のいいお友達だったんでしょ?違うの?
優ちゃん、ペット会社からメモリアルっていうのが来てるわ。メガネのペット、デンスケちゃん、だったわよね。
お母さん、優ちゃんのお友達のこと、何にも知らなくて。デンスケちゃん、亡くなったそうね」

TV「電脳局のものは、各省庁のドメインにも、強制施行が出来るのです。ただ今回は特別で、午後4時までという期限付きだったようです」

おばちゃん「としたら、あれほど大規模に2.0を繰り出すことはもうなさそうね」

猫目「ああ、管理室でも大騒ぎだったぞ」

おばちゃん「猫目!来てたの?」

猫目「室長が出張で、今ぼくが室長代行だ」

おばちゃん「ね、天沢勇子の病室、どこにあるか知ってる?彼女の家族に会いたいんだけど、病院が教えてくれないのよ」

猫目「ぼくも知らないんだ。彼女の身柄はメガマスが抑えている。天沢は、1年前にも同じような通路を開こうとして失敗している。やはり、葦原かんなの1件にも関係しているようだ」

おばちゃん「間違いだと思いたいわね」

猫目「希望を捨てるな、玉子。研一くんの時だってなんとかなった。まだ手がないか、調べてみるさ」

ドンッ

おばちゃん「頼もしいねぇ。昔は私のパシリだったくせに」

猫目「おいおい、今は室長代行だぞ?じゃ、君も個人の権限で真相を探ってくれ」

おばちゃん「やってみるわ」

ヤサコ母「優ちゃん、ちょっと座って?
デンスケ、可哀想だったわね。私はあまり、メガネを使わないからよく分からないけど、お母さんも昔飼っていたのよ。1年くらいで死んじゃって、すごく泣いたわ。納得いかなくてさ。なんでちっちゃい生き物って、すぐ死んじゃうんだろうって。ペットって、大抵人間より、寿命が短いじゃない?なんでそう決まっているの?ペットが人間より長生きだったら、こんな思いをすることもないのに、って。
そしてらね、金沢のおばあちゃんがこう言ったの。飼い主がペットの死ぬところを見たくないように、ペットだって飼い主の死ぬとこみたくないんじゃないかって。だから、悲しみに耐えられる人間の方が、ペットの代わりに、その悲しみを引き受けるの。だって人間の方が、体大きいもん。
本物の、ペットの話しだけどね。
優ちゃん」

ヤサコ「あ……お母さん……」

ヤサコ母「お母さんの体、あったかい?」

ヤサコ「うん」

ヤサコ母「柔らかい?」

ヤサコ「うん」

ヤサコ母「ちょっと痛い?」

ヤサコ「うん」

ヤサコ母「わかる、優ちゃん。こうして触れるものが、あったかいものが、信じられるものなの。ぎゅっとやると、ちょっとくすぐったくて、ちょっと痛いの。わかる?」

ヤサコ「お母さん」

ヤサコ母「優ちゃん、それが生きてるってことなの。メガネの世界は、それがないでしょう?優ちゃん。
戻ってきなさい。生きている世界に。あったかい世界に。」

ヤサコ「お母さん」

ヤサコ母「だから、メガネはもうおしまい。代わりに携帯買ってあげる。退屈したら、一緒に遊んであげる。だから、だからメガネはもうおしまい」

ヤサコ「うん」

猫目「はい。当面はこちらの病室です。改装はすぐ終わります。詳しくは下で」

おばちゃん「やはり嘘か。4423?昔来た時はなかったのに」

イサコおじ「どちらさまかな?」

おばちゃん「これが、私の知っている一部始終です」

イサコおじ「そうですか」

おばちゃん「あまり驚かないですね。勇子さんは、兄を死なせたのは自分だと、そう言っていたそうです。もしかして」

イサコおじ「はい。信彦はすでに他界しています」

おばちゃん「!」

イサコおじ「この子は不憫な子で、幼い頃に父親を亡くし、信彦だけが心の支えでした。でも、母親も病気で入院することになって、2人をうちで預かることになったんです。ところが引っ越しの日に、勇子と信彦は交通事故にあって、2人とも、意識不明に」

おばちゃん「2人とも?」

イサコおじ「はい。その時勇子を治療したのが、小此木先生でした」

おばちゃん「イマーゴの、電脳医療だわ」

イサコおじ「それが、どんなものなのか、私にはさっぱり分かりませんが、勇子だけは目覚めました。その間の記憶を全て、失って」

おばちゃん「小此木先生が亡くなった頃だわ。信彦くんは、その時、どうなったんです?」

イサコおじ「それは、メガマスの契約があって、言えないのです」

おばちゃん「お願いします。どうしても!」

イサコおじ「22です」

おばちゃん「え?」

イサコおじ「今はこれだけしか」

イサコおば「ちょっとあなた!
あなた空間管理室の人でしょう?二度と近寄らないでください!」

おばちゃん「待って!22って、どういう意味ですか?」

フミエ「ヤサコ!」

ヤサコ「あ」

フミエ「元気出しなよー。あ、あたしもメガネ取り上げられちゃった」

ヤサコ「なんでだろう」

フミエ「ん?」

ヤサコ「涙が、出ないの」

フミエ「ヤサコ?」

ヤサコ「なんか、まだデンスケが死んだってピンとこなくて。それに、天沢さんのことも。私って、薄情者なのかな。文恵ちゃんの言う通りだ。感情移入したら損だね」

フミエ「ヤサコ……」

ヤサコ「でもバカみたい。この辺が痛いの。まるで、デンスケが本物の犬だったみたい。私や京子を元気づけようと、いつも一生懸命だった。さよならも言えなかった。
デンスケの毛並みに触りたいって、いつも思ってた。小さい頃、デンスケに触っても感触がないことが分からなくて、そのうち触れるようになるんじゃないかって。わかってた。デンスケは本物の生き物じゃない。だから、死ぬ時も痛くなかったと」

フミエ「ヤサコ……」

ヤサコ「だから私も痛くない。データが消えただけ。それだけ。だから……」

ウー、ワンワン、ワンワン!

フミエ「どうしたの?」

ヤサコ「デンスケ?」

フミエ「あ、ヤサコ?
一体どうしたの?」

ヤサコ「聞こえたの」

フミエ「何が?」

ヤサコ「デンスケの声がしたの!一瞬だけど」

フミエ「え?」

ヤサコ「嘘じゃない!絶対いる!この辺りに」

ワウ、ワン!

ヤサコ「あ!デンスケ!」

ワウー!ワウー!ワウー……

ヤサコ「ああ……。
死んで、しまった。ほんとに、死んでしまったのね、デンスケ……ううっ、ううーーーー」

おばちゃん「記録にあるコイルドメインは全て消滅か。残る手がかりは、せいぜい都市伝説くらいね」

ピコ

おばちゃん「ん?これは……」

ピポパポ

おばちゃん「もしもし、待って。私の話しを聞いてください。甥が解析した、カンナのメガネに、ある情報が含まれてて」

アイキャッチ

ヤサコ「なんだか全部夢だったみたい」

キョウコ「ふさふさだったよ」

ヤサコ「ん?」

キョウコ「いい匂いがしたよ?
あったかかったよ」

ヤサコ母「うん、うん、もう、だから優ちゃんに怪我はなかったんだって。何度言ったらわかるのよ。うん、今代わるわね。
優ちゃーん、お父さんよ……あ」

ヤサコ「すー」

ヤサコ母「まだ子供なのね」

カチ

ヤサコ「あ……はあ。そっか、もういないんだ。メガネも、デンスケも。」

カチャ

ヤサコ「なんだろうこれ。胸が、痛い」

イサコ「メガネで見えるものなんて、すべてまやかしだ。手で触れられるものだけを信じるんだ」

ヤサコ「天沢さんも、同じこと言ってる。この世界は皆、手で触れるもので出来ている。手で触ると、サラサラだったり、フカフカだったり。これからは、手で触れるものだけを信じて生きていこう。手で触れられないものはまやかし。だから、この悲しい気持ちも、きっとまやかし。本当は悲しくなんかない。こんな辛い気持ちも、きっとすぐに忘れる。だって、まやかしなんだもの。本当に。本物って何?手で触れられるものが本物なの?手で触れられないものは、本物じゃないの?今本当にここにあるものは何?間違いなく今ここにあるものって、何?
胸の痛み。今本当にここにあるものは、この胸の痛み。これはまやかしなんかじゃない。手で触れられないけど、今信じられるものは、この痛みだけ。
この痛みを感じる方向に、本当の何かがある」

ヤサコ母「はあー。ん?
優ちゃん」

おばちゃん「くわー。ん?
け、ケンちゃん?」

タケル「兄ちゃん、本当にぼくらがしていることは、父ちゃんの名誉のためになるんだろうか」

猫目「またその話しか」

タケル「でも、悪くない人までも巻き込んだりして、そんなの」

猫目「葦原かんなのことか?あれははっきり事故だったじゃないか。4423のハンドルで、2回も警告したのに、よりにもよって、通路を開いている最中にのこのこやってくるなんて。誰が予想出来る?それも、イマーゴを持っていたなんて。分離を起こした電脳体を避けて、電脳ナビは生身の方をはねてしまった。
痛ましいことだが、我々にはどうしようもなかった。
こっちこそ、滅多にないチャンスとキラバグを失った。そのために、どれだけ苦労をしたことか。
さあ、飯を食え。学校には病欠の手続きをとっておいたから。」

男子生徒A「2人とも、って話しだぜ」

男子生徒B「それってもしかして、」

男子生徒ABC「駆け落ち〜?はっはっはっは」

フミエ「やめなさいよ!」

男子生徒B「んだと?」

男子生徒A「てめえ、メガネなきゃ何もできねえくせに!」

デンパ「や、やめてあげて!」

男子生徒A「あ?うっさいよ!」

デンパ「ああっ」

ドサッ

アイコ「やめなさいよ!」

男子生徒A「すっこんでろ!」

フミエ「やめて!」

男子生徒B「キャーキャーうるさ
ああ?」

ダイチ「せーの!」

ドオン!

男子生徒B「あ、ああ……」

ダイチ「よし、やっぱり腰だ!なんだよ簡単じゃん!」

フミエ「ダイチ!?」

男子生徒A「何しやがんだ?こんにゃろー!
うわー!」

ドゴーン!

フミエ「あ」

男子生徒「ああ……」

ダイチ「やっぱり、腰で回す!」

デンパ「すごいよダイチー!」

ダイチ「何度も投げられると強くなるって本当だなあ!おいお前ら!」

男子生徒「うっ」

ダイチ「二度とこっちの生徒に手を出すな!?」

男子生徒「へーい」

ナメッチ「お、おやびん?」

ダイチ「何の用かね、ナメッチくん」

ナメッチ「チャックあいてます」

あはははは!

ダイチ「が!」

ハラケン「よかった。ログイン出来る」

ピロロ

ハラケン「やはり繋がらないな」

おばちゃん「2人とも、一体どうするつもりよ!」

オオン!

ヤサコ「よかった。まだ動くわ。重いなー。メールメール。あった、」

カタカタ。ピロロッ

ヤサコ「これだわ。このマンホール、やっぱり、あの時マユミが言ってた場所は、はざま交差点なんだわ!」

ガタンガタン

ヤサコ「マユミ?そんなに簡単には会えないよね。あの時のこと、いろんなことがあったから、一言では言えないけど、私会いたいの。あの時、マユミの言ってた場所、4つのマンホールが並んでるあの場所は本当にあったのよ。古い空間の中に。でもそれだけじゃない。
マユミ?あなたが私をいじめてたなんて、もう思ってない。あなたは、ミチコさんが怖かっただけで、決して」

マユミ「私がいじめてた?いじめていたのは、あなたの方じゃない」

ヤサコ「え?」


ヤサコ「次回、電脳コイル 金沢市はざま交差点 お楽しみに」