第1話 櫻の丘


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静馬「いつからだろう……。立ち並ぶ木々が全て緑を失って見えるようになったのは。

いつからだろう……。生い茂る葉の香りを感じなくなったのは

いつからだろう……。」

タイトル:櫻の丘

渚砂「え……。うそ……。アストライアの丘って……あんなに遠いのぉ……。

うああー! 間に合わないよー!」

(鐘の音)

渚砂「はぁ……はぁ……あ!

うわぁ……はは!

あ!

(ミアトルの制服を見て)
あーこの洋服素敵!

(スピカの制服を見て)
あー綺麗~

(ル・リムの制服を見て)
この制服も可愛いかも~。

あー……あ。うわああああ! いやあああああ!

うわー!」

(茂みから飛び出る)

渚砂「いってて……。

う……あ?

う……どうしよう……。とにかく、急がなきゃ!」

(鳥のさえずり)

渚砂「うあー、ここどこなのー……はぁー……ん?」

はぁ……ん?

ああ!?」

静馬「あ……」

渚砂「あ……あの……。ああ……」

渚砂(すっごく、綺麗な人……)

渚砂「あ、えと、わたし、こちらに編入することに」

静馬「そうなの」

(キーホルダーを拾い)

静馬「どうぞ」

渚砂「あ……」

静馬「ぁ……」

渚砂「ありがとうございます。

あ、あのぉ……」

静馬「うふふ……」

渚砂「あ……」

渚砂(なんだか、体が動かない……)

渚砂「え?……えー?」

(でこチュー)

(渚砂、気を失う)

渚砂「ああ! ……なに、なんだったの? 全部夢だったの? わたし……」

玉青「ふふ」

渚砂「うわあ!」

玉青「あら、ごめんなさい。あんまり寝顔が可愛いから、思わず見惚れてしまいましたわ」

渚砂「あの……ここは……」

玉青「あ……ここは、聖ミアトル女学園の保健室ですわ。はじめまして、わたし、涼水玉青(すずみたまお)です。」

渚砂「あ、わたしは」

玉青「存じております。蒼井渚砂(あおいなぎさ)さんですよね。わたし、渚砂さんと同じ学年、同じクラス、寮でも同室なんです」

渚砂「あ、そうなんだ」

玉青「渚砂さん、具合はいかがですか?」

渚砂「全然平気です! もう、ほら、ね?」

(玉青笑いながら)

渚砂「ええー!? もうこんな時間!?」

玉青「ええ、話によると、朝中庭辺りで倒れてらしたとか。それでこちらに運ばれてからずっと寝てらしたと聞いていますわ。」

渚砂「ゆうべ緊張して、あんまり眠れなかったので」

玉青「それで、わたしが同室ということで、目を覚まされるのをお待ちしていたんです」

渚砂「授業が終わって今までずっと?」

玉青「ええ、大したことありませんわ。渚砂さんの、可愛い寝顔を眺めていたら、あっという間でしたもの」

渚砂「あ、ははは……」

玉青「とにかく、お元気で何よりですわ。編入の手続きは終わってますから、これから学校の中を少し回って、一緒に寮に参りましょう」

渚砂「はい、よろしくお願いします」

(玉青ドアをロックする)

玉青「ああ、その前に……」

渚砂「え、何?」

玉青「ちょっとお時間をいただきますわ」

渚砂「あ、え、え……ふええ!?

あ、うう、何で身体測定が必要なの?」

玉青「制服を注文するためですわ

はい、次はアンダーです。」

渚砂「はい」

玉青「制服が揃ってないなんて、よほど急な編入だったのですね。

はい、足を揃えてください?」

渚砂「あ……くすぐったいです」

玉青「動かないでくださいね?」

渚砂「はいぃ」

購買部店員「冬服夏服一式ね? えっとお名前は……蒼井渚砂、と。で、サイズは」

玉青「7号のARでお願いします

渚砂「え?」

購買部店員「はい、かしこまりました」

渚砂「あの、涼水さん、あの、サイズ……」

玉青「そんな呼び方水臭いですわ。名前で呼んでください」

渚砂「え、じゃあ、玉青ちゃん?」

玉青「はい? なんでしょう、渚砂ちゃん」

渚砂「あの制服のサイズって号数だけじゃない。さっき全身測った意味は?」

玉青「ああ、あれですか?」

渚砂「そうそう、体重とか股下とかアンダーバストとか。わざわざ測った意味が」

玉青「意味はありますわ! 渚砂ちゃんの全てのデータはわたしの大切な宝物なのですから……」

渚砂「う……」

玉青「ご両親が海外に転勤されたんですか」

渚砂「うん。わたし1人こっちに残ることになっちゃって。うちのおばさんがミアトル出身で、紹介するからって、すぐここに編入することが決まっちゃったの」

玉青「そうだったんですか。普段4年生で入ってくる方はいらっしゃらないので、不思議に思っていました」

渚砂「4年生?」

玉青「はい。ミアトルは中高一貫ですから。私たち高校1年生は、ここでは4年生と呼ぶのです」

渚砂「あ、そうなんだ……あ」

玉青「え?」

渚砂「ここからも見えるんだ」

玉青「ああ、お御堂ですね。アストライアのシンボルと言える建物ですわ。お御堂の西には聖スピカ女学院、東には聖ル・リム女学校がありますわ」

渚砂「ああ。それで今朝女の子の制服が3種類あったのね?」

玉青「ええ。白い制服がスピカ、チェックのスカートがル・リムですわ。

はい。こちらが教室です。席は明日、先生が指定してくださると思いますわ」

渚砂「わ―、落ち着いた感じ」

玉青「そろそろ、寮に行きましょう。渚砂ちゃんのお荷物が届いているかもしれませんし」

渚砂「うん」

玉青「それに、6時の門限に間に合うようにしないといけませんから」

渚砂「門限……そんなのあるんだ」

玉青「ええ、絶対厳守、遅れたら大変なことになりますわ」

渚砂「うわー……すごーい」

(マリア像に向かい)

渚砂(これから、よろしくお願いします)

玉青「お祈りしている渚砂ちゃんも、素敵ですわ」

渚砂「あ、ああ……」

女生徒A「あ、涼水さん」

女生徒B「部長がお探しでしたよ」

玉青「ああ」

(渚砂1人で歩きながら)

玉青「残念ですわ! ご一緒できなくなってしまいました。こんなことになるなんて、お詫びのしようもありませんわ」

渚砂「大げさだなぁ、玉青ちゃん」

玉青「いいえ、渚砂ちゃんに何かあったら、私は……」

渚砂「ありがとう。でも寮に行くだけだし」

玉青「とにかく、くれぐれも気をつけてくださいね」

渚砂(なんか、圧倒されちゃうんだよね)

渚砂「あ……

あ!」

あの人……。

待って!

はぁ、はぁ……

どこまで行くのかな。

あの!

くっ

はぁ、はぁ

あ! ……あれ? 消えちゃった。

あ」

玉青「門限は6時。遅れたら大変なことになりますわ」

渚砂「いっけなーい」

玉青「ギリギリになってしまいましたわ」

(ドアを開ける音)

渚砂ちゃん! すみません! ……あれ? まさか、まだ……」

(鐘の音)

玉青「あ……」

渚砂「はあ、はあ、はあ、はあ」

(門が閉まる音)

玉青「あ、待って! 渚砂ちゃんが、まだ……!」

渚砂「玉青ちゃーん!」

玉青「渚砂ちゃん!」

渚砂「はあ、はあ!」

(門が完全に閉じる)

渚砂「玉青ちゃん、開けられないの!?」

玉青「すみません」

渚砂「じゃあ、わたしもう入れないの?」

玉青「いいえ。舎監のシスターだけがこの門の鍵をお持ちなのです」

渚砂「シスター?」

玉青「はい。いらっしゃいました」

シスター「どなたですか?」

渚砂「あ……」

シスター「門限を破るような人は、このアストライア寮にはいないはずですが?」

(教鞭で机を叩く音)

シスター「残念です。いかに編入生とはいえ、初日から門限を破るとは、恥ずかしくはないのですか?」

渚砂「すみません!」

シスター「ではもう一度」

渚砂「はい!」

シスター「当寮の規則を詠唱いたしましょう。はい、1条から」

渚砂「第1条、アストライア生は……」

玉青「あ……」

渚砂「当寮生での誇りを持ち、寮生として、」

玉青「あ」

渚砂「学生の本分に則り」

玉青「六条生徒会長」

渚砂「第10条、携帯電話、ポケットベルの所持は、これをすべ……」

(ノックの音)

シスター「どなたですか?」

深雪「六条です」

シスター「入りなさい」

深雪「失礼します。この度は、シスター浜坂にお手数をおかけして、申し訳ありませんでした」

シスター「まあいいでしょう。せっかく生徒会長がお迎えにいらしたのですから。今回のことはこれまでにいたしましょう」

深雪「ありがとうございます」

渚砂「あ……」

深雪「行きましょう」

深雪「あなたもついてないわね」

渚砂「え?」

深雪「編入初日にシスターに呼び出されるなんて」

渚砂「あ、はい。その」

玉青「こちら、6年の六条深雪さま。ミアトルの生徒会長ですわ」

渚砂「あの……」

深雪「ん?」

渚砂「すみませんでした」

深雪「蒼井渚砂さんだったかしら。次から気をつけてくれればいいのよ?」

渚砂「だってだって生徒会長さんにお迎えまでさせちゃって」

深雪「気にしないで。私の仕事なんだから。それに、私なんかでそんなに緊張していたら、エトワールと会ったらどうなるの?」

渚砂「エト、ワールって何? 先生なの?」

玉青「うふふ。生徒ですわ。ミアトル、スピカ、ル・リムの3校を代表なさる方のこと」

渚砂「3校の代表って、あのシスターより怖い?」

玉青「あ……」

玉緒・深雪「ふふふっ」

深雪「別に、怖くなんかないわ」

玉青「3校で最も愛され、尊敬されている方」

深雪「一応そういうことになるわね。少なくとも、一番愛されているのだけは間違いないわね」

渚砂「なんかすごい学校かも……。舎監の怖いシスターに、生徒会長、そして生徒会長の上にエトなんとか」

玉青「渚砂ちゃん? 食堂へ行きましょう?」

渚砂「あ、うん」

(生徒の話し声)

絆奈「ねえねえ、編入生ってどんな子だと思う?」

檸檬「すっごく綺麗な子だったりして」

絆奈「えー、期待しちゃうなー」

籠女「パーシバルはー、編入生って、知ってる?」

(グラスが倒れそうになる)

檸檬「あ、すみません」

千華留「大丈夫、気を付けてね」

ミアトル生徒「編入生のお噂、お聞きになりました? 月舘さま」

千代「いえ、み、あっと……」

スピカ女生徒「編入生の噂、もう聞いた?」

蕾「私、ミアトルの編入生なんて、興味ないわ」

夜々「花莉、ダメよ、私以外の人を好きになっちゃ」

花莉「夜々ちゃん、それ誤解されちゃうよ」

天音「編入生か……」

深雪「ここが食堂よ。まず食事の前にエトワールにご挨拶した方がいいわね」

渚砂「はい!

渚砂「あ……なんかみんなの視線、厳しいような……わ!」

深雪「編入生です。エトワールにご挨拶に参りました」

ミアトル生徒「あ……」

水穂「あ、今ちょっと席を」

渚砂「あの! はじめまして、エトワールさま! 今日から編入することになりました、1年生……あ、違った、4年生の蒼井渚砂です! あの、その……よろしくお願いします!」

玉青「渚砂ちゃん、違う……」

渚砂「ふう」

静馬「またお会いしましたわね」

渚砂「え、うわ、あー! けけけ、今朝の!」

静馬「あら、覚えてくださったのね。光栄だわ」

渚砂「忘れるわけないでしょ! いきなりひとのそばに寄ってきて、そして、そして……。はぁ、だめよ、ここをどこだと思っているの! エトワールさまの前なのよ!」

静馬「エトワール?」

渚砂「そうよ、分かってる? とっても偉い人なのよ! 生徒会長より偉いのよ! だから、だからこんなところで、偉い人の前で、こんな、

だ、だめよ!」

静馬「だめじゃないわ」

(ざわめき)

渚砂「な、なんなの。なんでこの人、どうして、なんで……」

深雪「静馬、そこまで」

静馬「何故止めるの?」

深雪「時間よ」

(時計の音)

玉青「渚砂ちゃん! 渚砂ちゃん!」

深雪「みなさん、お席について」

渚砂「はぁ……」

深雪「それでは、食前のお祈りを、エトワール、花園静馬さま」

渚砂「えっ

え、えと、えと、そんな」

玉青「渚砂ちゃん」

渚砂「あ」

静馬「主よ、今いただくこの食事を感謝いたします。どうぞ、これを祝福し、私たちの体と魂を養い」

渚砂「あの人が、エトワール?」

静馬「御心に叶う良い働きが出来ますよう」

渚砂「3校の代表の、誰からも愛されてる人なの?」

静馬「精霊とのみ名に寄りて、アーメン

うふっ」

渚砂(し、し、し、し、信じられない!)

玉青「すごいデビューでしたわ。いきなりエトワールの静馬さまにあんなに迫られるだなんて」

渚砂「デビューって」

玉青「やっぱり、わたしの渚砂ちゃんがかわいすぎるのですね」

渚砂「あの、別にわたし、玉青ちゃんのものじゃ……」

玉青「動いちゃだめ」

渚砂「は、はい」

玉青「本当に綺麗な髪。これから毎日、お手入れをしっかりしないと」

渚砂「ふー」

渚砂(私、なんかすっごい学校に来ちゃったのかも……。これから、どうなるのかなぁ……)


次回予告

渚砂「ねえ玉青ちゃん、エトワール様って」

玉青「エトワール、それはフランス語で星を意味する言葉ですわ。そして、このアストライアでは3校全ての生徒達の頂点に立つお方をエトワールとお呼びするのです」

渚砂「へー」

玉青「気をつけて、渚砂ちゃん。エトワールの静馬さまに見込まれた下級生は……」

渚砂「下級生は、どうなるの?」

渚砂・玉青「次回、ストロベリーパニック。エトワール」

玉青「ああ、これ以上は言えませんわ」