nanatan @Wiki ss@10スレ


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21 名前:長い時間 その1[sageスレタイを採用してもらったのでそのネタで] 投稿日:2005/08/30(火) 22:26:38 ID:???
複雑な心で鏡を見つめる。
時を刻む壁掛け時計の音だけが静かに響く部屋の中、
七瀬は落ち着かない面持ちで浪馬にはられた頬に手をあてた。

(どうしてやり返してしまったの、私……)

湯気の立たなくなったティーカップの中の紅茶が、
その時の流れの遅さを物語る。

ただ一つはっきりしていること……

(ドキドキが……止まらない……)

怖かった。
自分でも状況が悪い方向へと向かっていくことには気付いていた。
それよりも今、別な何かにひどく怯えている自分が居る。
不良3人組など、もう七瀬の心から姿を消していた。

(織屋君、怒っているかしら……)

両手で握り締めたティーカップを覗き込む。
赤茶色の水面に、不安そうな自分の顔が映っている。

(怒っている……わよね……)

数時間、七瀬の口から溜息がこぼれ続ける。
何も変わらないもやもや。
そして七瀬は殆ど眠れないまま朝を迎えた。


23 名前:長い時間 その2[sageごめんなさい。眠いので続きは明日書きます。] 投稿日:2005/08/30(火) 22:49:34 ID:???
(えっと……ま、まずは、ごめんなさいよね)

校門の横、長い髪を秋の風に揺らしながら、
七瀬は落ち着かない様子で浪馬の登校を待っていた。
頭の中で、口にしようとする言葉を繰り返し練習する。

「おはようございます」
「お、おはよう」
「高遠さん、おはよう」
「おはよう……」

自分へとかけられる挨拶に、ぎこちない反応をしてしまう。
心、ここに在らず。
軽く握り締めたこぶしを口元にあてて、不安そうに校門を通る人の群れを
七瀬は見つめ続けていた。


そして30分。

キーン、コーン。

「…………」

予鈴が鳴り響く。
しかし浪馬の姿は無い。

(気付かなかったのかしら……)

緊張をしていたくせに、いざとなるとがっかりする七瀬。
浪馬が遅刻をしたのでは? などという考えは微塵も浮かばない。
そればかりか、どんどん浪馬のことを考えこんでしまう。

(もしかして、昨日ケガをしてしまっていたのかしら……)
(いや……私が避けられてる!?)

七瀬は、顔面蒼白のままあわてて教室へと向かった。


48 名前:長い時間 その3[sage] 投稿日:2005/09/04(日) 17:28:53 ID:???
休み時間。
慌てて浪馬の元へと向かう七瀬は酷く緊張した面持ちだった。

そこに偶然、教室から出てくる浪馬の姿。
とたんに心臓が激しく動き出す。

(あ、あやまらなきゃ)

廊下で立ち話をしている浪馬の少し後ろで、躊躇いながら
話し掛けようとする七瀬。

でも、織屋君のおの字が出てこない。

「あ、あの……」
「よう、どうした七瀬?」
「ごっ、ごめんなさいっ!」
「は?」
「昨日、助けてもらったのにぶったりしてしまって……」
「はっはは、そんなの気にしてないぞ」
「怒っているかと思って……」
「気の強いお前のことだ。別にいいさ。それより、あれからあの3人は
 大丈夫なのか?」

浪馬の言葉に七瀬の目がまんまるになる。
(酷いことをした私のこと、おこりもせずに心配してくれてる……)

安心したのもつかの間、ふたたび心臓の鼓動が激しくなる。

「え、ええ。それよりも、本当にごめんなさい」
「気にするな。でも気をつけろよ。いつも俺が助けてやれるってわけでもないしさ。
 まあ、俺がいたらいつでも助けてやるけどな」

(俺がいたらいつでも)
(俺がいたらいつでも)
(俺がいたらいつでも)

七瀬の心にエコーがかかる。

「んじゃそろそろ授業が始まるから教室にはいるぞ」
「ええ、ありがとう……」

七瀬は教室に入る浪馬の後姿を見つめながら、溜息をついた。
しかしその溜息は、さっきまでついていたそれとは
明らかに理由の違うものだった。

49 名前:長い時間 その4[sage] 投稿日:2005/09/04(日) 17:41:42 ID:???
放課後の執行部室

2人の女生徒が仕事をしているところに、七瀬がやってくる。

「あの、あなたたちにちょっと聞きたい事があるんだけどいいかしら?」
「ええ、いいですけど……」

怒られる。
何か怒られる。
そんな不安に駆られる2人。

「実は、あ、ある人から相談を受けたんだけど、私ではちょっと
 わからないことがあって……」
「はい」

怒られないとわかって、2人がほっとする。
一方、自分の相談だということを悟られまいとする七瀬だが、
相談の仕方がまずかった。

「実は、いつもいつもある男子生徒に迷惑を掛けられていた人がいて
 でもその人がミスをしてしまって、その男子生徒に助けてもらったの。
 そしていつも怒っていたその男子生徒に逆に怒られてしまったのね。
 そこから、なぜかその男子生徒を見るとドキドキしてしまうらしいのよ。
 でもそのドキドキの理由がわからないの。
 こういうのって、あなたたちならどう思うのかな?って…」

(まるっきり織屋先輩と高遠先輩のような気が……)
七瀬に聞こえないようにぼつりとつぶやく女生徒の一人。

七瀬の方は顔を真っ赤にしながら、一生懸命考えている。

「それって、その男子生徒にときめいちゃったんじゃないですか?」
「私が!?」
「え?」
「あっ……いえ、その……そ、そういうものなの?」
「たぶんそうだと思いますよ」
「そっか……」

うつむく七瀬の目がどこかよそよそしい。

「自分の心に素直になるのが一番ですね。その男子生徒を見る自分が
 嬉しいとか好きとか、そういう感情を少しでも感じたら、
 それはまちがいなくときめいちゃってると思います」
「確かに、なんか心が温かくなったと思う……」
「もう一度その人と話をしてみたらどうですか?」
「お、織屋君と?」
「えっ?」
「あ、その……あ、ありがとう。わ、私は用事があるから行くわね」

そして七瀬が出て行ったあと、執行部室には妙な静寂が訪れていた。


53 名前:長い時間 その5[sage] 投稿日:2005/09/05(月) 03:34:01 ID:???
とりあえず謝った月曜日。
それからは浪馬との接触は無い。

階段を挟み、教室は西と東で反対側。
時間に余裕をもって登校する七瀬。遅刻ギリギリの浪馬。
お弁当の七瀬。学食の浪馬。
学園一の優等生の七瀬。学園一の問題児の浪馬。
まるで運命がそうさせたかのように正反対な2人。

そして七瀬は、何故かそのことに焦りを感じていた。
自分の心がハッキリしない。
そればかりか、自分が浪馬にときめいているかもしれないという後輩の言葉。
それを確かめたいけれども、いざ浪馬と話をしようとしても
きっかけもなく、タイミングも合わない。
まして、どこか浪馬に対しての変なプライドが邪魔をして
よりいっそう浪馬に話し掛けづらいのである。

しかし、そんな七瀬がふとあることに気付く。

それは浪馬が、週末になると家に来たり電話をくれたりしていたこと。
そして『息抜き』と称して、日曜日にデートに誘ってくれていたこと。
つまり、もしかしたら今週も……という淡い期待が七瀬の心にはあった。

溜息の火曜日。
何も手につかない水曜日。
気付けばふと、浪馬の姿を探いてしまう木曜日。
放課後の街中。浪馬とのデートを思い出す金曜日。

七瀬にとってはかなりの長い時間を過ごし、ついに土曜日が訪れる。





204 名前:七瀬、キッチンで夕食の準備中[sage] 投稿日:2005/10/06(木) 16:36:46 ID:???
浪馬「そう言や、もうすぐ七瀬の誕生日だな。プレゼント楽しみにしててくれよ」
七瀬「気を使わなくていいわ。そんな事考えてる暇があるなら勉強しなさい」
浪馬の言葉に素っ気ない返事を返したものの、内心七瀬は嬉しくて仕方ない。

(うふふ、ちゃんと覚えててくれたのね♪)(でもプレゼントと言っても、織屋君お金あるのかしら?)
(勉強で忙しいからバイトもあまりしてないはず)(あ、織屋君のことだからもしかして・・・・ぽっ)
七瀬の顔が真っ赤になり、包丁を切る速度がとたんに速くなった。

(プレゼントの代わりに、今日は朝まで寝かせないぜとか言い出すんじゃないしら?)
(きっとそうだわ。「ケーキの代わりに七瀬を食べたい」なんてキザなセリフ吐いちゃったりして)
(あ、これもありそう。「ケーキに立てた蝋燭の数だけ天国に行かせてやる!」)
(・・・・こ、困るわ、私、そんなに愛されたら次の日大学に行けなくちゃう・・・・ああ、どうしよう・・・)
火にかけられた鍋が激しく蒸気を吹き上げても、七瀬は全く気がつかない。

(ああっ?! もし・・・もしよ?)(織屋君が婚姻届を差し出したらどうしよう・・・・)
(「俺の気持ちだ。受け取ってくれ」なんて言われたら、私・・・・私・・・・・・・・・・・・・)
(まだ早いと思うのよ。だって私は収入もない学生で、織屋君はまだ浪人生なのよ。結婚なんて)
(で、でも、今でも結婚してるみたいなモノだし、いっそハッキリしてしまった方がいいのかも)
(結婚したら、織屋七瀬になるのね・・・織屋七瀬・・・うん、素敵・・・織屋七瀬・・・うふふふ)
(あ、な、なに一人で喜んでるのよっ!? 織屋君が婚姻届を持ち出すって決まったわけじゃないでしょ!)
(でも私からプレゼントに婚姻届をくれって言ったら、織屋君どんな顔するかしら?)
両手に持った包丁とおたまをブンブン振り回して、七瀬は一人妄想に身もだし続けた。

浪馬「なあ、これビーフシチューなのか?」
七瀬「えっと、クリームシチューのはずだったんだけど・・・・ちょっと焦げちゃった」
浪馬「そ、そうか・・・ぱく・・・・・う・・すごく苦い・・じゃなくて香ばしい味だ、はははは」
七瀬「ご、ごめんなさい」

浪馬への想いが膨れ上がる一方の七瀬は、最近ちょっとした事でトリップしてしまうらしい。





513 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/11/13(日) 20:04:19 ID:???
浪馬「おっかしいなあ。今朝も目覚しのが鳴らなかったぜ」
七瀬「どうせあなたの事だから、寝ぼけてスイッチ切っちゃうのよ」
浪馬「しかし参ったな。何時なったら一人で起きられる様になるんだろ?」
七瀬「一生無理なんじゃないかしら?」
浪馬「うーむ・・・・」
卒業後自堕落な生活を改め、まずは朝はきっちり起きようと決意した浪馬
だったが、夜にセットしたはずの目覚しは一度として鳴ったためしが無い。
結局、大学へ行く前に立ち寄る七瀬に毎朝起こして貰っているのだ。

七瀬「私が起こしに来なかったらどうなることか。ホントだらしないんだから」
浪馬「うぅ・・・・明日こそ絶対一人で起きてやる!」
拳を握り締める浪馬に「昨日も同じセリフを聞いたわよ」と軽くツッコミを入れ
ながら、七瀬は目覚し時計を手に取ってすんと軽く微笑んだ。

目覚しが鳴らないのは、実は七瀬のせいだ。彼女は目覚しが鳴るずっと前に
部屋にやってきて、さっさとスイッチを切ってしまう。なぜなら七瀬は浪馬の寝
顔が大好きなのだ。一秒でも長く見ていたい。

それに浪馬を起こすのもまた、七瀬の大切な儀式だった。鼻をつんつん。ほっ
ぺをむにむに。キスの雨を降らせ。脇の下をコチョコチョしてやる。寝ぼけ声を
あげてもぞもぞと動く姿が、七瀬は可愛くてしかたない。
「私の幸せを目覚し時計ごときに奪われてたまるもんですか!」
七瀬はそう思っていた。





655 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/12/09(金) 23:31:29 ID:???
浪馬「最近随分寒くなってきたな」
七瀬「そうね。そろそろ湯たんぽ出さなくちゃ」
浪馬「湯たんぽ? そういやドテラも好きだよな。七瀬ってレトロ趣味なのか?」
七瀬「電気毛布は肌が乾燥して荒れちゃうの。湯たんぽの自然な温もりが一番よ」
浪馬「なるほど」
七瀬「でも本当は、もっといいモノがあるんだけどね」
浪馬「へえ」
七瀬「湯たんぽよりずっーと大きくて、もっと暖かくて、気持ちよく眠れるモノよ」
浪馬「何だろう?」
七瀬「それはね.....あ・な・た」
浪馬「へ?」
七瀬「近頃ベッドの中で毎晩思うわ。あなたが横に居て私を抱きしめてくれてたらって」
浪馬「そ、そうか」
七瀬「ねえ、織屋君、今夜帰りたくないっていったらどうする?」
浪馬「え?」
七瀬「それとも今夜私の家に来て、一緒に寝てくれる?」
浪馬「あ、いや、それは・・・・・」
七瀬「うふふふ、冗談よ」

キラキラと悪戯っぽく輝く七瀬の瞳に、浪馬は吸い込まれそうになった。


657 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/12/10(土) 00:51:18 ID:???
》655のシチュをお借りします

浪馬「最近、毎晩寒くなってきたな」
七瀬「寒い時は人肌がいいっていうから、私と一緒に寝るのはどう?」
浪馬「毎晩一緒に寝るのはまずいだろ」
七瀬「それはそうだけど、私がそうしたいって言ったら不満?」
浪馬「いや、できればそうしたいけど」
七瀬「けど?」
浪馬「・・・やっぱりお前にとってよくない」
七瀬「私って、鬱陶しいかしら・・・」
浪馬「いや、そういうわけじゃないんだ」
七瀬「毎晩一緒にいるのはダメなの?」
浪馬「なあ七瀬」
七瀬「なに?」
浪馬「たまにっていうならわかるけど、俺と毎晩一緒に寝るってことは、
    俺と毎晩一緒に寝てることをお前の母親に知られるってことだぞ。
    それでもいいのか?」
七瀬「…」


ここから1時間ほど無言のまま、七瀬は自分の心の葛藤と戦っていた。





829 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/12/24(土) 23:47:07 ID:???
七瀬「ねえ、織屋君、ちょっと目を閉じてくれる?」
浪馬「ん? こうか?」
突然妙な事を言い出した七瀬に浪馬は特に逆らわなかった。彼女が伏目がちにきょときょと
する時は、決まって浪馬に甘えたい時なのだ。
ふぁさ.......浪馬の首元に何か柔らかいモノが巻かれた。
「あ」 驚いて目を開いた浪馬の目の前に七瀬の少しはにかんだ顔があった。

七瀬「クリスマスプレゼントよ」
浪馬「マフラー・・・これもしかして手編みか?」
七瀬「ごめんなさい。あんまり上手じゃなくて」
浪馬「そんなことないって。でもなんかこれ凄く長くないか?」
確かに長い。浪馬の身長よりも丈がありそうだ。
七瀬「それ、わざと長くしたの」
浪馬「うん、まあ、長いほうが首をぐるぐる巻きにできて暖かいもんな」
七瀬「そ、そうじゃなくて、あのね―――」
七瀬は長々と余ったマフラーを自分の首にも巻きつけた。
浪馬「・・・・・・」
七瀬「わ、私、一度してみたかったの・・・一つのマフラーであなたと・・」
浪馬「・・・・・・」
七瀬「それでね、あの・・もし良かったら明日どこかへ連れて行ってくれる?」
浪馬「・・・・・・」
七瀬「あなたと・・・・一つのマフラーを巻いて歩いてみたいの・・・・」
浪馬「・・・・・・」

浪馬は次第に真っ赤になってゆく七瀬を見つめながら、こんなに可愛らしい女の子を
恋人にしている自分は世界で一番幸せな男だ、と思った。





841 名前:没ネタ[sage] 投稿日:2005/12/27(火) 15:46:10 ID:???
「はい、織屋君。ちょっと早いけど、私からのクリスマスプレゼント」
「俺に? あ、ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「どうぞ。毎日頑張って受験勉してるご褒美よ」
ママンは近頃浪馬の部屋をよく訪れる。何かと世話を焼きに来てくれるのだ。

「七瀬にはもっと頑張れって叱られてばかりで・・・・なっ!?」
包みを開いたとたん、浪馬の目が点になった。中身は――――避妊具だった。
「イヴの夜はナナちゃんとイイコトするんでしょう? その時に・・・・ね?」
「あー、いや、そ、その」しどろもどろの浪馬にママンは更に恐ろしい事を口にした。
「これね、ぜーんぶ私が針で穴を開けてあるの、うふふふふ」
「ええっ!?」
「私の計算ではイヴの夜、ナナちゃんは危険日のはず。千載一遇のチャンスよ」
浪馬はどう答えていいかわからず。ただ口をパクパクさせた。
「織屋君、これでナナちゃんにトドメを刺してあげて♪」
「と、とどめ? とどめって、まさか」
「うふん・・あなたたちの赤ちゃん、きっと可愛いでしょうねえ・・・」
「い、いや、だからなんで赤ん坊なんですか?」
「ナナちゃんには最高のクリスマスプレゼントよ。愛する人の赤ちゃん♪」
そう言うと、ママンは浪馬の手をとってニッコリ微笑んだ。
「じょ、冗談は止めてください。まだ俺たち結婚もしてないんですよ?」
「愛があれば大丈夫♪ だからいいでしょう? 織屋君。ね? ね?」
「ね?と言われてもですね。七瀬を妊娠させるなんてできませんよ」
「まあ、織屋君ったら意気地がないのね。大丈夫、母親の私が許可するんですもの」
「は、母親だったら許可しないでくださいっ!」
「逃がさないわ、織屋君。イブの夜、あなたはパパになるのよ、うふふふふふ」
「わぁぁぁぁぁっ!」

「やっと目を開けてくれた。織屋君、何度揺すっても起きてくれないんですもの」
飛び起きた浪馬の目の前に、七瀬の母親の顔があった。


842 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/12/27(火) 15:47:59 ID:???
「お昼寝にしては長いわね。もう夕方よ。はい、目覚まし代わりにどうぞ」
「す、すいません」
ママンのいれてくれた紅茶を口に運びながら、浪馬は辺りを見回した。
(そっか勉強中にコタツで寝ちまったのか。昨日も遅かったからな)
「織屋君、クッキー焼いてきたんだけど食べる?」
「あ、はい。ごちそうになります」

浪馬が手作りクッキーを食べる様子をしばらくママンは笑顔で見ていたが、
突然ぽんと手を叩くと、何やら大きな紙袋を取り出した。
「そうそう、ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントも持ってきたのよ」
「プ、プレゼント?」先ほどの夢を思い出し、浪馬は一瞬ギョッとなった。
「ええ、気に入ってくれるといいんだけど」
「どてら・・ですか?」ママンが袋から出したモノを見て、浪馬の口から安堵の溜息が出る。
「今年は寒いでしょう? 勉強中も暖かくして風邪を引かないようにしてね」
「あ、ありがとうございます」
「ナナちゃんのもあるのよ。ほら、おそろい♪」
おそらくママンの手作りだろう。紺と朱の格子模様の二着のどてら。なぜか背中に巨大な
ハートマークが縫い付けられている。
「う、嬉しいです・・あ、あはは」

(このハート、何度見ても凄いインパクトだ)(刃や望に見せたら、笑い死にするだろう)
ママンが帰った後、浪馬は改めてどてら手に取って一人唸った。
(まあ、でも部屋の中で着るから平気だよな。大事に使わせて貰おう)
浪馬はさっそくどてらを羽織ってみた。綿がたっぷり詰まってとても暖かい。

(ホントいい人だぜ)(赤の他人の俺にこんなに親切にしてくれるなんて)
(いつもニコニコほわーんとして優しいし、なんつーか癒し系だよ)(それなのに・・)
(変な夢見ちまったんだよな。お袋さんがあんな強引な真似するわけねえのに)
ポリポリと頭を掻く浪馬は、ある恐るべき事実を忘れている。


843 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/12/27(火) 15:49:54 ID:???
自宅に戻ったママンは鼻歌の一つでも飛び出しそうなほど上機嫌だった。
「今日はおじ様に貰っておいて物が役に立ったわ、うふふ」
ママンの右手に握られた秘密兵器。それは浪馬の部屋の合鍵だった。だからこそ彼女は浪
馬が寝こけていても勝手に上がりこめた。浪馬は迂闊にもその事にまだ気づいてない。

強引な真似をしないなどトンでもない。彼女は、恋する浪馬のためならどんな過激な
愛情表現もいとわない七瀬の母なのだ。似てない親子に見える二人だが、内に秘めた
情念の激しさは、驚くほどそっくりだった。

人付き合いに不器用な娘を好きになってくれただけでも感激なのに、卒業後も気持ち
を変えず、更に同じ大学を目指してくれるという浪馬を、もはやママンは『将来義理の息
子になる人』と固く思い定め、激しく心を燃やした。「間もなく義理の親子になりますか
ら」と詰め寄り、目を白黒させるおっちゃんから合鍵を手に入れたのはつい先日の事だ。

(プレゼントも喜んで貰えて良かったわ。次はお正月にもう一押ししたいわね)
(ここに呼んでお年始周りに連れて行って、お爺ちゃんにも引き合わせて・・)
(そうだわ。いっそそのままうちでずっと面倒みちゃったらダメかしら?)
(一人暮らしは不便だし、離れて暮らすナナちゃんも寂しがってるだろうし・・)
(本当なら毎晩大好きな織屋君の胸の中で眠りたいわよねえ)
(んー、何かいい手はないかしら?)
居間のソファで七瀬と浪馬が知ったら卒倒しそうな計画をママンは次々と練っていく。

(そうね、まずはご両親にお手紙を出しましょう♪ 織屋君を引き取りたいって)
大きく頷くとママンは文面をあれこれと考えだした。両親の連絡先も既におっちゃんから
教えて貰ってある。いや、無理やり聞き出したとった方が正しいかもしれないが。

二人の写真も一緒に送った方がいいわね、と呟くママンの瞳は少女の様にキラキラと輝
いていた。





866 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/12/31(土) 19:40:24 ID:???
大晦日の夜、通い慣れた部屋のドアの前に立つ影。
初詣に行くという事で、振袖を着て、長いロングの髪の毛もアップにしている七瀬である。
トレードマークのヘアバンドも今日はつけていない。
「(久しぶりの和服だけど、大丈夫かしら?織屋君、前の時みたいにほめてくれるかしら?)」
そんな事を思いながら、七瀬はドアをノックした。
「・・・織屋君?」
少し待ってみたものの、返事がない。
「織屋君、私だけど?」
そう問いかけるながら、七瀬は部屋のドアを再びノックしてみた。
「・・・」
相変わらず、返事はない。
「・・・まさか・・・」
七瀬はそう言うと、手に提げた袋の中から合鍵を取り出し、ドアを開けた。
「・・・まさかと思ったけど、やっぱり・・・」
そう呟いた七瀬の視線の先には、コタツ上に広げた参考書やノート上で、
気持ちよさそうに寝息を立てている、浪馬の姿があった。
軽くため息をつくと、玄関で草履を脱いだ七瀬が浪馬に近づき言った。
「ほら、起きて!起きなさいってば!お・り・や・く・ん!!」
夜ということもあり、小さな声で、しかし、出来るだけ強く、浪馬の耳元で囁く。
その囁きが届いたのか、浪馬がピクッと反応し、答える。
「・・・ん~?・・・あれ・・・?今年の初夢は七瀬か・・・」
それだけ言うと、再び浪馬はコタツの上に顔を伏せようとした。
そんな浪馬を見て、七瀬は普段話すような声で彼を引き止める。
「ちょっと!初夢って言うのは、元旦の夜から2日にかけてみる夢でって・・・
そんな事は、どうでもいいの!ほら!起きてってば!初詣、行くんじゃないの!?」
豆知識(?)を披露しながらも、必死に浪馬を起こそうとする健気な七瀬。
「ん~?」


867 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/12/31(土) 19:41:51 ID:???
七瀬の願いが通じたのか、浪馬がやっと目を覚ました。・・・寝ぼけながら。
「あれ?七瀬?さっきまで・・・?あれっ?えっ?えっ?」
そんな浪馬の様子を見た七瀬が少々呆れ気味に言う。
「ほら、いつまでも寝ぼけていないで、顔でも洗って!」
「何だ・・・。あれは、夢かよ・・・」
浪馬は、まだまだ寝たいようである。
「どんな夢を見てたのかは、後で聞くから、今は準備!コラッ!寝ようとしない
の!」
隙あらば寝ようとする浪馬の腕を引っ張り、七瀬がそう言った。
「ん~、準備してもいいけど、条件がある・・・」
「なに?」
浪馬の言う『条件』が変なものでない事を祈りつつ、聞き返す。
「キスしてくれ。」
「・・・はい?」
七瀬の祈りは通じなかったようだ。
「キスだ。キ・ス。」
「な、な、な、なにを・・・!!」
浪馬の要求に、顔を真っ赤にしている。
「お目覚めのキスだ。してくれないと、準備しない。」
「・・・」
「ほれほれ!ん~~!」
浪馬はそう言うと、タコのように唇を突き出し、七瀬に迫った。
「痛ぇぇっ!!」
「目が覚めた!?まったく!!あなたって人は!!」
突き出した唇は、目的を遂げる事もなく、七瀬につまみ上げられたのであった。
・・・力一杯。
「・・・すみません・・・、調子に乗りすぎました・・・」
七瀬に怒られて、シュンとしたようだ。
「わかったら、さっさと準備なさい!」
こちらは、怒りが継続中の七瀬。
「ハイ・・・」
浪馬は七瀬に力なく返事をし、洗面所へと姿を消した。
浪馬が洗面所に姿を消すと、七瀬はコタツの上を片付けだした。
「うん、がんばってる、がんばってる」
参考書を片付けながら、七瀬が納得していると、浪馬が洗面所から顔だけを出して
、こう言った。
「あ、七瀬!今日も似合ってるぞ!着物!」
それだけ言うと、浪馬は洗面所に戻った。
七瀬の方は、少し頬が赤くなっている。
「(よかった!似合ってるって言ってくれた!)」
そんな事を思いながら、浪馬の言葉にご機嫌な七瀬は、ハミングしながら片付け終わった
コタツの上を拭き始めた。


868 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/12/31(土) 19:44:37 ID:???
「ん~と、ガス栓もOK、鍵も閉めたし、コタツも消した。んじゃ、行こうか?七瀬」
「忘れ物ない?財布は?」
「持ってる」
「ハンカチとティッシュは?」
「さっき、七瀬に持たされた」
「万が一、はぐれた時の携帯は?」
「ある。・・・なぁ、七瀬?」
「ん?なに?」
浪馬の言葉に、少し首を傾げながら、七瀬が聞く。
「こんな会話してたら、新婚夫婦みたいだぞ、俺達・・・」
『お袋みたいだぞ』とでも言うつもりなのだろうと、七瀬は思っていた。
しかし、浪馬の口から出た言葉は、七瀬の予想外のものだった。
「な、な、な、な、な・・・!!」
予想外の言葉に頬だけではなく、顔そのものが真っ赤になる。
「ぷっ!照れるなよ!」
そんな七瀬の様子を見て、吹き出す浪馬。
「て、照れてなんか・・・」
「そうか?真っ赤だぞ?」
「さ、寒いからよ!」
浪馬の攻めに強がりで答える七瀬。
「ん~?確かに寒いよな・・・」
浪馬は、少しニヤつきながら、七瀬の強がりに調子をあわせる。
そんな考えには、全く気付いていない様子の七瀬が答える。
「でしょ!?」
「んじゃ、こうするか!」
浪馬が七瀬の手をつかみ、自分の上着のポケットに入れた。


869 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/12/31(土) 19:45:24 ID:???
「あっ・・・」
「どうだ?まだ寒いか?」
「・・・(ブンブン)」
またもや予想外の浪馬の行動に、何とか首を振るだけで答える。
当然、顔は真っ赤なままだ。
「ハハハ・・・、そりゃよかった」
七瀬を優しく見つめ、ポケットの中で手をつないだまま、浪馬が話しかける。
「なぁ、七瀬・・・」
「ん?なに?」
まだ頬を赤くしながら、七瀬が浪馬を見る。
七瀬の視線から逃れるように、目をそらしながら、浪馬が言った。
「さっきの事なんだけどな・・・」
「さっきの事って?」
少し落ち着きを取り戻した七瀬が、小首を傾げて聞く。
「そ、そりゃ、その・・・」
「ん?」
あきらかに様子のおかしい浪馬の顔をジッと見つめる七瀬。
「し、『新婚夫婦みたいだな』って事だよ!」
今度は、浪馬が耳まで真っ赤になる。
「あっ・・・」
浪馬の言葉に、七瀬の顔も再び真っ赤になる。
顔を真っ赤にしながらも、真剣な顔で浪馬が続ける。
「あれな・・・」
「・・・」
「もう少し待ってくれよ?」
「・・・」
「大学に入って、司法試験に合格して・・・」
浪馬がそこまで言った時、それまで無言でいた七瀬の口から、クスッと
小さな笑い声が漏れた。
「あ、笑うなよ・・・」
「・・・いいわよ」
あっさりと答えると、七瀬は浪馬に微笑みかけた。
「えっ?」
「待っててあげる」
「七瀬・・・」
「でも!」
「ん?」
「あまり待たせ過ぎたら、おばあちゃんになっちゃうわよ?」
今度は、悪戯っぽく微笑みかける七瀬。
「おいおい!いくら俺でも、そこまで待たせないって!」
七瀬の言葉に、浪馬も微笑みながら答える。
「クスッ、そうね。そうならないように・・・」
そう言いながら、七瀬がポケットに入れられたままの手をグッと握り締めた。
それに応えるように、浪馬も自らの手に力を込め、握り返す。
「がんばりなさい!織屋浪馬!」
そう言うと、七瀬は浪馬の腕に抱きつく。
浪馬は、そんな七瀬を愛しげに見つめ、「おうっ!」と力強く答える。
寄り添った影が、駅への道を歩いていった。





889 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/01/01(日) 21:35:48 ID:???
浪馬「うぅ・・・・ちょっと頭がくらくらしてきた・・・・かな・・・」
ママン「大丈夫? 織屋君」
七瀬「このくらいれだらしないわねぇ。ほら、もっろ飲みなはいっ」
浪馬「な、七瀬、もう勘弁してくれ」
七瀬「あ~に? わらしのお酒がのへないってゆーのぉ?」
ママン「ナナちゃん、いい加減にしないと織屋君が困ってるわよ」
七瀬「うるひゃいわねえ。このひろはわらしのモノなんらから、いいの!」
ママン「これは寝かせた方がいいわね。織屋君、もうちょっと我慢してね、今用意するから」

正月、高遠家に招かれた浪馬は、せっせとお酌してくれるママンと、一緒に飲んで
スイッチが入った七瀬のツープラトン攻撃に翻弄されていた。

七瀬「おりひゃくん・・・うふふふふ・・・・んちゅ♪」
浪馬「むぅ?・・・・ぷはっ、こ、こら七瀬、口に吸い付くなって、お袋さん達が・・むぐっ」
ママン「お待たせ、織屋君。さあ、ナナちゃん、隣の部屋にお布団敷いたわ」
浪馬「わ、わかりました。俺が運びますから・・・・むぐぅぅ・・・・」
ママン「あらあら、ナナちゃんたら、本当に甘えん坊さんなんだから♪」
浪馬「ぷはぁっ・・・・・こ、これはその・・・あはははは」
ママン「うふふふふ、いいのよ。気にしなくても」
浪馬「す、すいません。ほら、七瀬、立てるか?」

くねくねと絡み付いてくる七瀬を抱き上げ、隣の部屋に運ぼうとした浪馬の体が
突然硬直した。部屋にしかれた布団には――――
浪馬「あ、あの・・・枕が二つあるように見えるんですけど・・・・・」
ママン「うふふふ、ゆっくり休んでちょうだい。二人一緒にね♪」
浪馬「!?」
その時浪馬は気がついた。微笑むママンの体が揺れている。酩酊しているらしい。
浪馬(母子揃って酒癖悪いんだ・・・ってゆーか、どうすんだよ、俺・・・・・・)

たぶんこの時、浪馬は事実上高遠家の婿になった。





960 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/01/21(土) 01:35:34 ID:???
「はい、マフラー。雪も降ってるんだから、暖かくしないと!」
「ん」
「カイロも持っていく?」
「うん」
「受験票は?」
「ある」
「筆記用具は?」
「入ってる」
「予備のは?」
「ココに」
「財布は?」
「大丈夫」
「それと、これ」
「ん?なんだ?それ?」
「お弁当と合格祈願のお守り」
「サンキュー!」
「忘れ物、ないわね?」
「大丈夫だって!」
「それじゃあ、頑張ってね!」
「おうっ!んじゃ、行って来る!」
「いってらっしゃい!」


961 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/01/21(土) 01:36:05 ID:???
うぅ~ん!終わった~・・・っと?」
試験会場の校舎を出て、雪の降る中で、伸びをしていた浪馬の携帯電話が着信を知らせた。
「ん?っと、七瀬か。もしも~し?」
電話の向こうから、七瀬の声が響く。
「お疲れ様。試験、どうだった?」
電話の向こうの七瀬は、浪馬を気遣った様子でそう言った。
「全力は尽くした」
「そう?なら、大丈夫ね」
「しっかし、凄いタイミングでかけて来るよな?今、校舎から出てきたトコ
だぞ?」
「ウフフ。愛の力かしら?」
浪馬の頭の中では、七瀬が悪戯っぽく笑いながら、舌を出している。
「ま、そういう事にしといてやるよ」
浪馬の方も、見えない七瀬に向かって優しく微笑みながら、そう言った。
「あ、ひどい!」
浪馬の冗談に七瀬も笑いながら答えた。
「で?どこにいるんだ?」
「あら、ばれちゃった?えっと、そこから、校門に行く途中に、ベンチが
あったの覚えてる?」
「・・・ん~?」
「・・・覚えてないのね・・・」
「ハハハ・・・」
「試験だったんだもの、仕方ないわね・・・」
一呼吸置いて、気を取り直した七瀬が続ける。
「とにかく、そこで待ってるわ」
それだけ言うと、電話が切られた。


962 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/01/21(土) 01:36:58 ID:???
指定されたベンチに行くと、小さく手を振った七瀬が微笑みながら浪馬の方へと
近づいてきた。
「待っててくれたのか?」
近づいてくる七瀬に浪馬が問いかけた。
「お買い物に出てきたから、そのついでですけどね。」
「おいおい、俺はついでかよ~?」
お互いが冗談っぽく笑いながらのやりとり。
少し笑った後、瞬間的に七瀬が心配そうな表情を浮かべ、浪馬に聞いた。
「それより、大丈夫だった?試験」
「さっきも言ったけど、全力は尽くした。ま、後は待つだけだな」
「そう・・・」
「そんな心配そうな顔するな!俺には、最強の家庭教師がついててくれたんだ
ぜ?」
心配そうな七瀬に優しく微笑みながらではあるが、力強く語りかける。
言い終わって、浪馬は、七瀬の様子がおかしい事に気付いた。
「そんな事より、震えてるじゃないか!?一体どれくらい待ってたんだよ!?」
浪馬の言葉通り、七瀬の体が小刻みに震えている。
「・・・そんなに待ってないわよ」
「・・・」
「じゅ、10分位かしら・・・?」
視線を逸らし、七瀬が答える。
明らかにウソを言っているのが誰にでもわかる。
当然、浪馬にも。
「・・・ウソだろ?」
「う、ウソじゃないわよ!」
浪馬のツッコミに、狼狽してしまった七瀬は、視線を泳がせながら、そう答えた。
しかし、浪馬の追求は止まらなかった。
「いいのか?検事を目指してるヤツが、ウソついても?」
「・・・」
浪馬の追求から逃れるため、視線を地面に向け、黙り込んでしまう。
そんな七瀬の様子など、お構い無しに、さっきよりも強く浪馬が質問する。
「ど・れ・ぐ・ら・い・な・ん・だ?」
しばらく黙っていたものの、浪馬の射抜くような視線に耐え切れず、
七瀬が口を開いた。
「・・・い、1時間くらい・・・」
「・・・ったく、このクソ寒い中、1時間も外で待ってたのか?」
浪馬はそう言うと、自分のマフラーを七瀬に首に巻いた。
「・・・だって・・・」
「だってじゃない!ほら!行くぞ!」
そう言うと、七飯の手を握り、歩き出す。
周りの受験生達がチラチラと見ている事も気にせずに。
「ち、ちょっと・・・」
七瀬の方は、周りの視線を気にしているようだ。
そんな七瀬の様子など、お構い無しに浪馬が続ける。
「ったく、こんなに冷たい手して、何が大丈夫だよ!っと、確か、来る途中に喫茶店が
あったな。取り敢えず、あそこに行くぞ?」
「・・・はい・・・」

963 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/01/21(土) 01:38:31 ID:???
「少しは温まってきたか?」
「・・・」
浪馬の正面に座った七瀬は俯いたまま、頷いた。
そんな七瀬の様子を気にしながら、浪馬が話しかける。
「頼むから、無茶するなよ・・・。風邪でも引いたら、どうするんだよ?」
「ごめんなさい・・・で、でも!」
七瀬は、二人が店に入ってから初めて、浪馬の方を向き、はっきりと言った。
そんな七瀬の様子を見ながら、浪馬が聞き返す。
「でも?なんだ?」
七瀬は、浪馬をしっかりと正面から見つめ、言葉を続けた。
「・・・一刻も早く、あなたに『お疲れ様』って言いたかったから・・・」
そこで、一旦、言葉を切り、次の言葉に続ける。
「織屋君、この一年、本当に頑張ってたから!だから!」
「誰よりも先に、『お疲れ様』って・・・」
最後に出てきた言葉は、七瀬自身の素直な気持ち。
そこまで言うと、七瀬は口を閉ざした。
突然、七瀬の頬に、何か暖かいものが触れた。
浪馬の手だった。
「まだ、冷たいな・・・」
七瀬の頬に触れたまま、浪馬が話し続ける。
「お前の言う事はわかるし、嬉しいよ。でもな、お前に何かあったら、
元も子もないだろ?」
「・・・」
「俺の言いたい事、わかるよな?」
「・・・」
浪馬の言葉に、七瀬が無言で頷いた。
「よし。んじゃ、お説教は終わりだ」
浪馬は、そう言うと、七瀬に触れていた手をスッと引いた。
浪馬の手が離れるとほぼ同時に、七瀬が口を開く。
「・・・心配させて・・・ごめんなさい・・・」
今にも泣き出しそうな、震える声で、それだけ言うと、再び俯いてしまう。
そんな七瀬を気遣って、浪馬がいつものように、明るい声で話しかける。
「もういいって、気にするな!なっ!?」
「でも・・・」
まだ何か言いたそうな七瀬。
七瀬の次の言葉を遮るように、浪馬が口を開く。
「んじゃ、お詫び代わりに、ご馳走作ってくれ」
「え?」
浪馬の言っている意味が分からないのか、キョトンとする。
そんな七瀬に向かって、浪馬は明るく話しかける。
「七瀬の手料理でチャラにしてやるよ」
「それな事で・・・いいの?」
「なんだ?不服か?なら、あんな事やこんな事を・・・」
七瀬の反応に、意地悪そうな顔で浪馬が反応する。
浪馬のなにか企んでいる笑顔を見た七瀬は、慌てて言葉を返した。
「ふ、不服じゃない!」
七瀬の答えに、先程までと違い、満面の笑顔で浪馬が言った。
「んじゃ、決定な!」
それだけ言うと、二人は、今夜のメニューをあれこれ相談しだした。
店の外では、雪が降り続いていた。