「高温の冷気と溶けそうな白雪」(玲&かずら姉妹)

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「高温の冷気と溶けそうな白雪」(玲&かずら姉妹)」(2006/01/27 (金) 20:00:13) の最新版変更点

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*高温の冷気と溶けそうな白雪 **月城 玲  いつだって――ふわりと明るくて、さりげなく優しくて、そして時々脆くて。  私を姉と認めてくれた、  そんな淡雪のような、不思議な存在。    マリア像の前でお祈りをすませ、もう帰ろうと校門へ向かうと、霧のように細かい雨が降ってきた。 雪ではなく、雨だ。もう冬は終わりなのだとあらためて実感する。そういえば中学の頃読んだ枕草子でも、冬のくだりが一等好きだった。どちらかといえば徒然草の方が好みではあったのだが。  やはり雪が降らないことが残念だった。しんと冷えて張り詰めた、あの不思議な強い空気が私は好きだったのだ。  そしてそれ以上に、そんな凛とした空気が生み出す、ふわりとした白雪が私の心を強く惹いてやまない。   「あ、ごきげんよう、お姉さま…!」 突然。 静かなのに確かな明るさを秘めた声が、私の背後から聞こえてきた。はっとして振り返ると、そこにはややクセのあるショートカットの、私の妹が立っていた。コートを羽織っているから、私と同じく、帰宅しようとしているところだったのだろう。 「ごきげんよう…かずら。今日はまだ暖かいようだな」  知らぬ間に、口元に笑みが浮かぶ。これでは姉馬鹿と言われても仕方はないと、内心で苦笑した。 「そうみたいですね。でも、雨ですよ。濡れてしまいます」  かずらは上を向いて、さらさらと降ってくる雨を指ですくうような仕草をした。 「これくらいの雨ならば濡れても平気だ」 「でも、お姉さまは徒歩通学でしょう? 平気ですか。この頃は、暖かくなったからといってもまだ冬なのですし」  かずらは急いで鞄を開け、何かを探し始めた。 「あった!」  その手に握られていたのは、小さな折り畳み傘だった。 「私は電車とバスですから、濡れる心配は無いんです。お姉さま、使ってください」  その純粋な眼差しに思わず頷きそうになってしまう自分が怖い。私は努めて厳しい表情で言った。 「駄目だ。私が使うわけには行かない。電車とバスだと言っても、それに乗るまでに濡れてしまうだろうに」 「いいえ、それくらいなら全然平気ですっ。お姉さま、どうぞ」  そんな押し問答が数回続いた。やがて雨足が強まってくるのに気づく。 「本格的に濡れてしまうな。…では、このくらいで帰るとしよう」  私がため息をつきながら傘を受け取ると、かずらはにっこりと笑った。  私は傘を開くと、かずらの肩をそっと抱き寄せた。 「あっ…!あの、お姉さま?!」  驚いたような表情と赤みがかずらの顔にあらわれる。 「―――二人で一緒に入れば濡れないだろう?」  自分の目元が急速に熱くなって来るのに気づいた。そのせいで怒ったような表情になっているのがよくわかる。ああ、何なのだろう。自分は何か昔と違う。  前はこんな顔をしなかった。いや、できなかったのに。 「…さすがに少し、気恥ずかしいものだな」  少しばかり頬が熱い。隣にあるかずらの顔を見つめたら、やはりその頬も赤くなっていた。 「……あの、お姉さま」 「なんだ?」  かずらは背伸びをして、私の耳元にそっと、内緒話でもするように囁いた。 「―――少し恥ずかしいんですけど、私もお姉さまと一緒に帰れるのは嬉しいです」  そうして私を見て、照れたようにくすっと笑った。  私の頬はますます熱くなった。それを隠すように俯いて歩き出すと、かずらが一歩遅れてついてくる。  私たちのあいだには、少しいびつだけれど、確かに誰よりも負けない強い絆があるのを知った。  …だが、不器用すぎるのは何とかしなければ。私は透明な雨の降り注ぐ空を見上げながら、小さなため息をついた。 **あとがき 私とかずらの姉妹のSS。 やはり気恥ずかしいものだな… あまり多くは書かないが、楽しんでいただけたなら幸いだ。

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