「浅き夢にも」

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*浅き夢にも **一ノ瀬 ひめ乃 珍しくわたしは早朝の図書室に趣いた。 一週間後提出のレポートを書くのに必要な文献を都営の図書館まで借りに行く暇はない。 放課後は聖書朗読部に、お稽古が二つ。 ついでに言ってしまうとお昼休みは論外なのだ。 わたしはお弁当を食べるが異様に遅い。 気付けば図書室に向かうのには遅すぎる時間になってしまうのだ。 まだ早朝7時半、誰もいないかと思いつつ、 図書室の重い扉を開けた。 誰も居ないと思っていたのにどうやら先を越された様子。 相手は同じ学年でも仲のよい、一年椿組の中司春菜さんだった。 椅子に座り、わたしに気付く様子もなく、何かを読んでいる。 わたしは春菜さんとわたししかいない図書室の中で、 小さな声で呼んでみた。 「春菜さん」 春菜さんは気付かない。わたしの声が小さいのか、 はたまた読書に熱中しているのか。 ゆっくりと近付いて 「ごきげんよう、春菜さん^^」というと、ようやくわたしの存在に気付いたらしい。 よほど熱中していたのか、すこしほけっとしながら、わたしを見上げ、 「あ、ひめ乃さんだ。ごきげんよう。随分早いですね。」と言った。 春菜さんは高等部一年生の中で一番の才女だなぁとわたしは普段から思っている。 特に歴史に関しての造詣は感嘆に値するもので、 日本史の試験では常に上位の成績だと聞いた。 髪の毛はうっとりするほど綺麗な黒のロングヘアで身長はわたしより5センチほど背が高い。 ちょうどいいバランスの身長に綺麗な顔立ちなので、素直に素敵だなといつも思っている。 「春菜さん、先ほどから熱中して読まれているみたいだけれど、何をよんでらっしゃるの?」 わたしに挨拶したあと、春菜さんは本を開いたままの状態だったので、表紙が見えない。 きっと難しい本なんだろうなぁと思いつつ聞いてみた。 「これですか?清少納言の枕草紙のいろはにほへとを引用している、四十七文字という本ですよ」 「その本は知らないけれど、枕草紙のいろはにほへと、は好きよ^^」 そういうと春菜さんは腕時計を見つつ、こう提案してきた。 「ではまだ始業までには時間、少しだけありますからそれを交互に言っていきませんか?」 わたしは少々自信がないながらも、レポート用の本を借りにきた事を忘れて快諾した。 「ではひめ乃さんからどうぞ」 ええと・・・・ 「いろはにほへと ちりぬるを われよたれそ・・・つねならむ」 わたし自身が続けられるか不安になりつつも、後手、春菜さん。 「うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす」 わたしは少々悩みながらもなんとかつかえず最後までいう事ができた。 「これ、すごいですよね。47音すべて使って文章を作ってしまうなんて」 わたしは頷きながら、頭の中で変換してみた。 色は匂へと 散りぬるを 我か世誰そ 常ならむ  有為の奥山 今日越えて 浅き夢見し 酔いもせす こうして静かな図書室でうたを詠んでいると、 まるで平安時代にタイムスリップしたかのような そんな錯覚にみまわれる。 さながら綺麗な黒髪で凛とした春菜さんは平安時代のお姫様で、 わたしはお付きの侍女のようだ。 「春菜さん、ごめんなさいね、読書の邪魔をしてしまって」 そういうと春菜さんは 「別に構いませんよ、なかなか有意義でした」と答えた。 そろそろ教室に向かわねばならない時間だ。 こうして、わたしたちはつかの間の平安時代から平成へ戻る事になる。

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