「片足だけあげて 前編」

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*片足だけあげて 前編 **雪村 芽衣子  セーラーカラーはひるがえさないのが私立リリアン女学園じゃなかったのか?  それが、芽衣子の聖香に対する第一印象であった。  日曜日の午前。いつもなら昼過ぎまで寝ている私が公園に来たのには理由があった。他でもない、従姉妹の香ちゃんがうちに来るのだ。普段なら母ひとりに言われることを今日は二人に言われてしまう。『リリアン受験』。リリアン卒の母は幼稚舎から私をリリアンに入学させるつもりだったらしい。けれど突然の父の病気、不幸が重なり受験はとりやめ。母は私に愛情を注ぐことに専念してくれた。……が。香ちゃんのリリアン女学園中等部合格の頃からだろうか。母が半ばあきらめていた私のリリアンへの進学を夢見るようになってしまった。香ちゃんは剣道というものがあってリリアンはそれなりに剣の道において過去に業績のある学校であるし満足であろう。だけど私は……。何ができるだろう。何になりたいのだろう。芸術家? そんな大それたものではない。自分の中でも答えが出ないまま、ただただ、リリアンからは逃げていた。もはや子供のだだだとわかっていながら。  クロッキー帳と鉛筆を数本もって公園に着いた私は、池のほとりのベンチへ向かった。とりあえずそこで亀がいるか探して、そのあと鳩をながめるのがいつもの習慣だった。……が。私は自分の目をうたがった。ベンチに颯爽と立ち、背もたれに片足を着いてカメラのシャッターをひたすら切る、その女性は……深緑色の制服を着ていた。自分の席をとられたことよりもその姿がショックで、しばらく唖然とその光景を見ていた。セーラーカラーはひるがえさないのが私立リリアン女学園じゃなかったのか? 周りからかなり注目を浴びているというのに気がつかない様子のその女性を私は向かいのベンチで観察することにした。鉛筆が面白いように彼女の表情をとらえていく。何枚目かにさしかかったとき、彼女がこちらを振り返った。私はあわてて次のページへめくり、適当に目の前にあった木を描いた。なにか、腰のあたりをまさぐっている。どうやら、私に気づいたわけではないようだ。すると、こちらにコロコロ……と黒いなにかが転がってきた。もしかしてこれ? 「落としましたよ」  緊張よりも好奇心のほうが強かった。私は彼女に声をかけた。

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