リリアン女学園付属図書館 「あなたの定位置」(慧理奈さん&志保子さん姉妹)

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あなたの定位置

月城 玲



「志保子の声はきれいだわ。その声で聖書を朗読するなんて素敵な贅沢ね」
 夕日が差し込む聖書朗読部の部室。
 慧理奈さまは微笑みながら志保子に言った。
「そんなことはないですわ。お姉さまの声だってとってもきれいですもの。私なんてかすんでしまうくらい」
「そんなことないわよ、…って。これじゃ志保子と同じ事を繰り返してることになるわね。少し間抜けだわ」
 夕日が慧理奈さまの髪をすり抜けてきらきらひかる。整った顔立ちに光のお化粧がほどこされて、一層美しかった。志保子は思わずそれに見とれ、聖書のページをめくる手を止めた。
「どうしたの? 志保子」
 心配そうな顔で志保子を見つめる慧理奈さま。
「いえ、なんでもありませんわ。続けましょうか?」
「そうね」

 志保子の、姉妹制度の「姉」である慧理奈さまが、唐突に聖書朗読部を訪れたのには驚いたけれど。
 気を利かせた2、3年生のお姉さま方が慧理奈さまと志保子を二人きりにしてくれて、もう随分時間が経つ。姉妹になったばかりの二人だけれど、志保子も、そして慧理奈さまも、二人だけでこうしていられるのが、何よりも嬉しいのだとわかったから。志保子はひそかに嬉しかった。


「――ねえ、志保子。マリア様の定位置って、どこなのかしら」
「…はい?」
 唐突な質問に、志保子は答えられなかった。
「いえ、どうでもいいことなのだけれど。マリア様の像はたくさんあるでしょう? それこそ数えるのが面倒なくらいたくさんあるわよね。 でも、それ全部にマリア様がいらっしゃるのかしら。もしかしたらマリア様は、バチカン市国とか、そういうキリスト教の国にいつもは居て、ほんとうは日本なんかにはいらっしゃらないのではないかしら――って思って」
 いつになく慧理奈さまの瞳は真剣だった。
どうしてそんなことを急におっしゃられたのだろう、と志保子は考え込んでしまった。敬虔なクリスチャンである志保子には、まったく思いつきもしない質問だった。
「何か、お嫌な事でもありました?」
「そうね。少し…悩んでいるのよ」
 慧理奈さまは大きくため息をついた。
「だから、マリア様の存在を疑うようなことを言ってしまったのね。ごめんなさい。そんなつもりではなかったのよ」
「いいえ」
「そう」

 慧理奈さまは目を伏せて、手元の聖書を読み始めた。
 お姉さまは、マリア様に助けていただきたいのだろうか。志保子は不意にそう思った。

「あの、お姉さま。マリア様の定位置はここだとおもいますわ」
「どこ?」
 志保子は慧理奈さまの座る椅子をそっと指差した。不思議そうに首をかしげる慧理奈さまに、志保子はゆっくりと言った。

「ここです。 …少なくとも、私のマリアさまは―――ここにいらっしゃいますの」

 言いながら頬が熱くなった。ちらりとのぞき見ると、慧理奈さまも同じように頬を赤く染めていた。
「…ありがとう、志保子。大好きよ」
 慧理奈様はそっと手を伸ばして志保子の頬に触れた。
「ええ、私も…お姉さまが、大好きですわ」
 志保子もゆっくりとお姉さまを見つめ返した。

 マリア様はいつだって、そこで私を見守ってくださるのだ。志保子は優しいその存在を全身で感じ、ひどく嬉しくなった。


あとがき



最近誕生した姉妹。お祝いは別に贈ったのだが、幸せな姉妹になって欲しいと思う。
口調や行動など「これは私じゃない!」という点もあるかもしれないので、何か訂正したい点があったら、遠慮なく言いつけてくれ。
それでは。楽しんでいただければ幸いだ。