リリアン女学園付属図書館 「a picture of my sister」(聖香さん&芽衣子さん姉妹)

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a picture of my sister

月城 玲



「お姉さま、絵のモデルになってくださらない? もちろんちゃんと報酬はありましてよ!」
 放課後のことだった。私と芽衣子は、薔薇の館で、紅薔薇さまである二宮央さん、貴水朋子さま、その妹である一ノ瀬ひめ乃さん、黄薔薇さまである常盤京さま、その妹である五条慧理奈さん、大河内香さまとお茶を飲んでいた。朋子さまはひめ乃さんといちゃいちゃしているし、央さんはスポーツ新聞(きっと野球欄)を真面目な顔でスクラップしているし、香さまと京さまは難しい顔でなにやら竹刀の具合を確かめているし、慧理奈さんは剣道部のお二人に混じってお話を聞いているし、芽衣子は美術資料集を夢中で読みふけっているしで非常につまらなかったのだが。
 そのとき唐突に芽衣子が言い出したのだ。絵のモデルになって欲しいと。妹である雪村芽衣子が、その手の頼み事をしてくるのは珍しいことではなく。もちろん私は迷惑なんて思っていないし、ほかならぬ可愛い妹の頼み事だから、快く了承する。
だから報酬なんて無くたってちゃんとやるのに。
少しだけむっとしたけれど、結局嬉しいということに変わりは無いので、「いいわよ」と了承した。


「お姉さまったら! 動かないでくださいって言ったじゃありませんのっ!」
「でも、芽衣子!なんだかわからない虫が急に来たのをよけられずに居られて?無理でしょう、蜂みたいな奴だったのよ!」
「蜂でも虻でもかまいませんわっ。ここは美術部員の名誉にかけて、とびっきりの作品を描かなければいけませんのよ。しかもモデルが天下の白薔薇さまとくれば、美しく描けなかった場合みんなに責められるに違いありませんもの!」
 モデルの一軒を頼まれた翌日の、放課後。
 どうやらあのモデルの件は美術の授業で人物画の課題が出た、ということに端を発するらしい。
しかし自分たちが放課後、薔薇の館に来れないとなれば、紅薔薇さまや黄薔薇さまである4人、さらに慧理奈さんやひめ乃さんにも迷惑をかけるのではないかという懸念があったのだが。
「いいわよ。ここのところほとんど仕事も無いわけだし。たまには二人きりで仲良くしたら?」
「そうそう。しばらくみんなとずっと一緒だったし丁度いいんじゃない?」
「うん。僕らだけでも、大体のことは片付くと思うしね」
「私も聖香さんのために頑張って働きますわ」
4人の薔薇さまとも、快く了承してくれたのである。
 ということで放課後の美術室で、私と芽衣子はふたりきりでじっと向かい合い、モデルと絵描きというそれぞれの役割を務めているというわけだった。しかし、こういうときに甘い展開なんて想像したのは、私が悪いわけじゃないと思う。普通はふたりっきりで仲良くおしゃべりとか、そういうことを考えるのではないだろうか。
 芽衣子は厳しかった。選挙ポスターのときも思ったのだが、芽衣子は絵のこととなるととてつもない力を発揮するのだ。
「ちょっと! ポーズ変えないでください。今難しいところですのよ?!」とか、
「あっ、ほら、笑ってください! そんな難しい顔しちゃいい絵が描けませんわよ!」とか。
 我が妹ながら、物凄く情熱的だった。
「芽衣子って厳しいわ」
「お姉さまだって写真のこととなると凄いですわよ。自覚ありません? あ、タイが曲がってますわ」
 涼しい顔でさらりと言い放つ。私はタイを直しながら、大きくため息をついた。
「本当に口が達者なのよね。誰に似たのかしら」
「お姉さまじゃありません? いつも3年生の薔薇様方と対等に渡り合ってるんですから、それに似たんですわ」
「それとこれとは質が違うの!」
 いつもの如く漫才みたいなやり取り。これじゃ、甘い展開なんてないわね。間違いなく。
「ところで、どうしてモデルは私なの? クラスメイトでも良かったんじゃなくて? ほら、春菜さんっていったかしら、あの方とか」
「どうやって描きますの…。お互いスケッチブックを持って向き合って、自分を描いてる相手の絵を描く、とか?」
「いいわね、それ。楽しいじゃない! きっと斬新な発想だって褒めてくださるわよ」
「駄目です!」
 芽衣子が突然筆を止めて、椅子をひっくり返しながら立ち上がった。
「……課題の内容に合いませんもの。いけませんわ」
 そう言いながらもう一度すとんと椅子に座りなおして、描くのを再開し始めた芽衣子の顔は、なぜか赤かった。

  後日、芽衣子の描いた私の絵が張り出された。タイトルを見て赤面してしまったのは、きっと私のせいじゃない。
『大好きなお姉さま』というタイトルが、絵の下の説明書きに堂々と描いてあったのだ。
  …本当に、芽衣子の情熱は冷めそうもない。私は赤い顔のまま、そう確信した。


あとがき



いつも元気で楽しげな姉妹。
山百合会の中でも積極的に活動していて、頼りになる存在だ。
口調や行動など「これは私じゃない!」という点もあるかもしれないので、何か訂正したい点があったら、遠慮なく言いつけてくれ。
それでは。楽しんでいただければ幸いだ。