リリアン女学園付属図書館 「七夕祭SS・肝試し1番」

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七夕祭SS・肝試し1番

大河内 香・正木 聖香



「ではこれから肝試しの組分けのくじ引きをします」
白薔薇さまこと正木聖香の一言に対し、一瞬の静寂を越えてミルクホール内の空気は一転した。
「うわっ、ドキドキする!」
「私肝試し苦手なんですよ」
「一緒の組になれるといいね」
そんな声が各方面から飛び交っている。
時計回りにくじの入った箱をまわし、一番最後の黄薔薇さま・大河内香まで箱が行き渡った頃にはすでにパートナーを探す声が飛び交っていた。
「ひめ乃ちゃんは何番だったの?」
中司春菜は隣にいた紅薔薇のつぼみ・一ノ瀬ひめ乃の手元を覗いた。
「3番よ。春菜さんは?」
「あら、私も3番よ」
春菜が答えるより先に第3者の声が割り込んだ。
「お姉さま!」
ひめ乃の一言でその人が紅薔薇さまである貴水朋子であることが知れた。
3人の後方では友人同士で同じ数字を引いた久保りなと今岡栗実が興奮した様子で手と手を握っておしゃべりをしている。
その脇で2年生二宮央がきょろきょろ辺りを見回していた。
春菜がもしやと近づいて行くと央も気付いたようでにっこりと微笑み、「もしかして、春菜さんが私のパートナー?」と『4』と書かれた紙を広げて見せた。

「よく混ぜたつもりだったのにね」
『1』と書かれた紙を見せ合う香と聖香と椎名つなみ。最後にくじを引いた3人が揃って同じ数字に当たってしまったのだ。
「でも残り福も伊達じゃありませんね。3人だったのはラッキーでしたわ。」
加えて1番バッター。後の組だと先の組がなにか悪戯を仕掛けてられたりしてる可能性も大いにあることを考えれば、十分喜ぶに値する。
肝試しが苦手な聖香が少し安心した様子を見せる中、一人が青ざめていたことに誰が気付いただろうか。


「それではこれからリリアン・七夕会のメインイベント、肝試しを開始いたします!」
ルールはミルクホールをスタート地点とし、2年桜組→音楽室→理科室と周りゴール地点は薔薇の館。
それぞれの教室にスタンプが置いてあり、配られた台紙に集めてくるというスタンプラリー方式だ。
各チームには懐中電灯が1つ配られるだけ。勿論校舎に電気など点いてはいない。
「前の組が行ったら、5分後に次の組はスタートしてね」
「はーい」という元気とも言いがたい返事の時に一人の生徒の姿が消えていることに気が着いたのは聖香だった。
「つなみ先輩は?」
その一言を皮切りにそれぞれが辺りを見回しつなみの姿を探し出そうとするのだが、どういうわけか誰もその姿を見つけ出すことが出来ない。
見つけられないと言うことは、すでにミルクホールには居ないということなわけで…。
「先に行ったのかな?」
誰もつなみがミルクホールを出て行くのに気が付かないというのも妙な話ではあるが、そう考えるのが一番妥当なところであろう。
「どうせ1番最初だし、つなみさんを探しがてら出発しようか」
彼女のことだから途中に隠れてカメラを構えているかもしれない。そう結論を出してとりあえず肝試しはスタートとなったのだった。





結局2人になってしまった香と聖香だったが、2人ともが実行委員であるからスタンプの位置も把握していた。
半分確認作業のような様子で進んでいく。
様々な伝説のある曰く付きのクラスである2年桜組も、香にとっては2年生の1年間を過ごした馴染みのあるクラスであるし、
聖香にとっても友人を訪ねて訪れることのある同じ学年の教室である。
「芽衣子と一緒じゃなくて残念だったね」
「ええ…それはちょっと思いますけど。でも香さまと一緒ですから心強いですわ」
聖香の妹の芽衣子は、家族との食事会があるからと肝試しが始まる前に帰ってしまっていた。

教室を一つ過ぎ、また一つ過ぎ…目的の2年桜組へ到着した。
この教室では教卓の中にスタンプを置いてあるはずだった。
前方のドアを開けて香が先に入室し、スタンプのある教卓に向かった。
ところがそこにあるはずのスタンプがない。教師が間違えて持って行ってしまったのだろうか?と後から入った聖香と顔を見合わせる。
教室中を懐中電灯で照らしていくと、窓際の一番前の机の上に奇妙な影が浮かび上がった。
「きゃっ」という叫び声を上げ、懐中電灯を取り落としそうになった聖香の手を香がつかみ、固定させてよく見ると、それは用意した薔薇のスタンプとピンク色のスタンプ台であった。
横から照らしたために影が長く伸びてしまっていただけらしい。
「はぁ、ビックリしたぁ」
あからさまにほっとした様子の聖香を余所目に香はスタンプを捺すと教卓の中に戻しておいた。
「でも何故あんなところにあったのかしら」
教室を出て音楽室に向かう途中に聖香が呟いた。
「さあね。さっきいなくなってしまったつなみさんか、悪戯する気満々だった紅薔薇さまかってところじゃないかな」
「あ!」
聖香は急に大声を出し立ち止まったかと思うと「つなみ先輩のこと、忘れてた…」と一転して焦りだした。
「お手洗いに電気が点いていなかったし、今のところフラッシュもたかれていない。今来た道にはいなかったと考えていいんじゃない?」
「そうですわね…。いくらつなみ先輩でも、お手洗いで電気を点けないなんてことないでしょうし」
考えただけでも恐ろしいとばかりに両腕で自身を抱き寄せるしぐさをして見せた。


音楽室ではきちんと置いた位置、ピアノの蓋の上にスタンプは置かれていた。
オレンジ色のスタンプを早々に捺して教室を出る。
ピアノが鳴ることもなければ、肖像画の目が光ることもない。なぜならリリアン女学園高等部に、肖像画に画鋲を刺すような少女はいようはずもないから。
「私は夜中にベートーベンの髪がストレートヘアになるという話を聞いたことがありますわ」
「あはは。何それ」
懐中電灯を照らしてカラカラと笑う香を見て、聖香はやはり道場で鍛えられた度胸は人一倍なんだとぼんやりと考えた。


桜組で遅れた分、次の組に追いつかれそうな時間になってきたので、2人は理科室へと急いだ。
―ペチャ
理科室へ向かう途中の曲がり角。普通には出ない音が廊下に響き渡った。
「か、香さま?」
恐る恐る横へと明かりを移動させると、そこにはムスっとした表情の香が黒っぽい四角い物体とにらめっこをしていた。
「朋子……」
最初の組ということもあり、今まで何も仕掛けがなかったので油断していたのだろう。
まだ誰がやったとわかってもいないのに既に香の中で犯人は絞られているようだ。
コースが直前に知らされたことを考えれば3人の薔薇以外に仕掛けることは出来ないし、聖香がこんな度胸のある真似を出来るわけがない。というのが主な理由だ。
更に言えば、朋子や彼女のかわいい妹には絶対に当たらない高さに設定されているということも加えられる。
聖香はこのままでは収まりがつかないとばかりに仕掛けの調整を始める香の手元を、自分にコンニャクが当たらなかったことを幸運に思いながら、懐中電灯で照らすのだった。


「あー、生臭い」
理科室の実験用具の棚にあるスタンプを聖香に任せて、香は水道の蛇口をおもいっきり捻った。
さきほど顔にぶつかってきた黒っぽい四角い物体…コンニャクの臭いに耐えかねて顔をざぶざぶと洗っているのだ。
「そんなに思いきり水を出したら聞こえてしまいますよ」
あとは薔薇の館へ行くだけ、と余裕の出てきた聖香が笑みさえも浮かべている。
「聞こえちゃまずい?」
満足したのかポケットから出したハンカチで顔や手を拭きながら答える。
「だって、理科室から水の音が聞こえてきたら怖いじゃないですか」
「ああ、そうか」
そう言うとさっき閉めたばかりの蛇口を少しゆるめた。
水がポタリポタリと音を立てて落ちるように細工をするとさあ行こうとばかりにドアへと向かう。
「香さま、水が出てますけど…」
言っても無駄かとは悟りつつも一応確認の意味も込めて言ってはみるのだが、「空耳でしょう?」とあっさり打ち切られてしまった。ここで強く言えないのは下級生の弱みである。
わかっていてもドキリとしてしまう音のする場所に置いていかれるわけにもいかず、2人は薔薇の館に向かったのだった。


「あれ?」
「あら?」
校舎を出たところでゴロンタ(であろう黒い影)に横切られたりしなががら薔薇の館の見える位置までやってきた2人が同時に声を上げたのも道理だった。
まだ無人のはずの薔薇の館の2階に電気が点いている。
カーテンは閉まっているが、隙間からかすかに光がこぼれているのだ。
もしや、とギシギシ悲鳴を上げる古い階段を2人で駆け上がり、ピスケットの扉を開いた。
扉の向こうには、スタート直前に姿をくらましたつなみがこちらを向いて椅子に腰掛けていた。
数秒テーブル越しにお互いを見つめあい、3人同時に「よかったー」とそれぞれの理由から声を発したのだった。

つなみは実は大のオバケ嫌いで、スタート地点から直接ここ、薔薇の館に向かったという。
「つなみ先輩、それならそうと……」聖香が少し呆れて尋ねると。
「ミルクホールには栗実ちゃんもいたでしょ?写真部の部長が大のオバケ嫌いだなんてバレたら、顔がたたいじゃない。この事はだまっておいてちょうだい。ね、お願いよ、聖香」
いつもは拝めないようなつなみの懇願顔に聖香が気を良くして「どうしようかしら」などと言っていると、
「そうそう、私がオバケ嫌いになった理由の小学生の時に撮った心霊写真、みせてあげるからさ~」
「ひ~いいです!いいですってば~!わかりました!このことは3人の秘密にしておきましょう」
懇願が脅迫にかわり大慌てで了承した聖香だったが、その心霊写真はとっくの昔にお寺に預けて供養してもらっているとのことだった。

「それにしてもつなみさんじゃないとしたら、桜組のスタンプは……」
香が、ぽつり呟いた。
「え、どうしたの?まさか、本当に……」
つなみの顔がみるみる真っ青になって、口に運ぼうとしていたお土産の月見団子を持った手も止まった。
「それがですね、先輩…」
「キャーキャー、何も言わないでお願い!」
両手で耳をふさいで首を左右にブンブン振るといういつもと全く違う様子のつなみに、2人とも桜組の謎の事も忘れて彼女をからかったのだった。