リリアン女学園付属図書館 「フィオラノへ……」本編

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フィオラノへ…… 本編

正木 聖香



「さぁ、みんなピースして~!」
古ぼけた煙突の前で央さんと栗実さんを立たせて
撮影をしていると。
「そろそろ、花村さんとの待ち合わせの時間じゃない?」
央さんが、時計をながめて言った。
「そうね、早めに待ち合わせのミラノ駅に行かないといけないわね」私たちはミラノ駅へと急いだ。
「ごきげんよう」
突然、ジーパンにカメラマン・ジャケット姿の
大きな鞄を持った女性に声をかけられた。
「ごきげんよう」
とっさに、私たちはリリアンでは、当たり前の挨拶を返した。
「うふふ、制服も変わっていないのね、懐かしいわ。挨拶が遅れました、私が今日あなたたちを案内する花村順子です。ちなみにあなたたちと同じリリアンのOGよ」
「ええ!?」
思わず、私たち3人は驚きの声をあげた。
フィオラノへ向かう車内で花村さんにリリアン時代のお話を聞かせていただいた。
「私ね、リリアンの頃はテニス部でね。その頃は、F1といえばセナ選手のことくらいしかしらなかったのよ」
「ま、まさか順子さまは、あの内海順子先輩ですか!」
「そう、旧姓は内海、あなたはたしか二宮央さん?この間の総体では惜しかったわね」
「私の名前をご存知で!順子さまといえば、我がテニス部では、伝説の名選手として知らない人はいませんよ、まさか花村さんがあの順子さまだったなんて」
「私ってそんな、有名人なんだ。ああ、さまはなしよ、リリアンの伝統だけど、今は、私一先輩にすぎないから。央さんの活躍はリリアンOGで作らている同窓会誌に載っていたわ、ベスト8
立派だと思うわよ」
「ありがとうございます!!」
思わぬ所で、憧れの先輩に会えた央さん。その後もテニスについてのアドバイスを受けていた。
「あれがフィオラノサーキットよ」
順子さんの指をさす方向に列車の窓から、サーキットが見えると
「おお~!!」3人から歓声があがった。
「もうすぐ、モデナに到着ね、3人とも忘れ物のないようにね」
「は~い!」
モデナ駅を降りて、タクシーに乗り換え、4人はフェラーリの
本拠地があるマラネロへと向かった。
マラネロの街は、フェラーリの本拠地があるとは思えないほどの田舎町だった。これぞ、古きよきヨーロッパという、町並みが車窓を通り過ぎていく。そこへ、突然巨大な建物が目に飛び込んできた、そうここがフェラーリの本拠地だ。
「はい、ここがフェラーリの工場とF1チームのある本社よ」
車を降りるやいなや、私と栗実さんは、そのまるでUFOが降り立ったような建物をカメラで撮影した。
「順子さん、あの建物はなんですか?」
私が質問すると。
「ああ、あれは風洞実験室ね。実際の車を置いて空気の流れを見るの、ここの風洞は世界的にも有名な建築デザイナーがデザインしたのよ、外観にもこだわる所がフェラーリらしいわね」
3人は、さっそく取材メモにレポートを書き込む。
いざ、順子さんから、渡された「取材パス」を首からかけて、
フェラーリの門をくぐった。
中に入ると、絵に描いたようなイタリア美人の女性が私たちを出迎えてくれた。
「こちら、広報担当のカルロッタさん。みんな、ご挨拶して」
「ボンジョルノ」と緊張気味に挨拶すると
「こんにち~は。よこそ、おいで、くださました」
たどたどしいながら日本語で返してくれたので、
私たちも笑顔で会釈する。
「カルロッタさんは、5ヶ国語が堪能なの、日本語も少しならわかるみたいよ」
「はい、よろしくお願いします!」
「よろしくぅね!」カルロッタさんのお茶目な笑顔で、
緊張は一気にほぐれたのだった。
私たちは、まずF1チームの歴史を飾る、博物館に案内された。ここは各国からの観光客もたくさん訪れていて、たくさんの人が見物している。
どうやら、日本人は私たちだけのようだ、しかもリリアンの制服姿はかなり目立って、注目を集めてしまった。
「あらぁ、ごめんなさいね。忘れていたわ」カルロッタさんは、慌ててなにかを取りにいった。
しばらく、順子さんの案内で博物館をみていると。
「はい、きょうぅはさむいからこれきてね」と
赤いチームブルゾンを3人に用意してくれた。
「わぁ、ありがとうございます、グラッチェ」
「央さん、とてもお似合いよ」
「ええ、とっても」
前に写真で見せてもらった、ドラゴンズの応援ハッピ姿も似合っていたけれど、さすが、ロサ・キネンシス。この時期でも少し日焼けの残る肌に制服の深い緑、そして真紅の赤がよく似合う。
「なに、言ってるのよ、照れるじゃない!」
照れている央さんに、思い切り肩を叩かれて少し痛かった。
「うふふ、本当に仲良しさんね。おっと、そろそろサーキットに
行かなきゃいけない時間ね」

遂にこの時がやってきた、本物のF1マシンと会える
その時が……
マラネロの本社に隣接している、フィオラノサーキットへ順子さんに案内されて。一歩一歩近づいていく
そして…… 入り口からスタンドに広がっていたのは、広大な敷地にひろがる無限のトライアングル。
今日は、来シーズンのマシン開発の為の
テスト走行が行われている。
「鈴鹿もいいけど、やっぱりここは歴史が違うわね」
興奮気味の央さんと私をよそに栗実さんは、冷静に分析していた、さすがお兄様がスポーツカメラマン、鈴鹿や日本の
サーキットには何回か足を運んでいるようだ。
「さぁ、取材の前に撮影タイムよ。3人ともカメラはいい?」
ブォーーン、甲高い排気音が徐々に私たちのほうへ
近づいてきた。私と央さんは、あまりに迫力にひるんで
シャッターを押すことができなかった。栗実さんは、さっそく
最初の一枚を撮ることに成功したようだ。
「びっくりした…… 一瞬だったわね」
「音が、すごい!!赤い車は見えたのだけど……」
「あら、2人は撮れなかったの? 動く車体を撮るにはね、
こうやって向こうから来る車を捕捉するの
そして、自分の目の前に来た時にシャッターを押せばいいのよ、いわいる流し撮りという技術よ」
順子さんの指導で、2周目の車体を捕捉し。目の前に来た時に
シャッターを切った!
栗実さんと、央さんは。デジカメなので、さっそく映した車を
見せあいっこしていたのだが、私だけ銀塩の一眼レフカメラ
だったので、確認ができない。
でも自分では、たしかに捕らえた感触はある……たぶん。
「そろそろ、テスト走行は終わりそうね、ピットにいきましょうか?」
残念ながら、シーズンが終わって間もないということで。チャンピオンドライバーのミハエル・シューマッハ選手は
休暇中でテストドライバーのルカ・パドエル選手にしかお会いすることはできなかったが、チームのスタッフさんたちは、私たちを暖かく迎えてくださって、特別にピットでのタイヤ交換作業の
実演を見せてくれたりの、大サービスぶりだ。
最後にパドエル選手に、さっきもらったチームブルゾンにサインをもらったり、カルロッタさんや、チームのスタッフさんたち
みんなと記念撮影を順子さんに撮ってもらった。
「楽しい時間は、どうしてすぐにすぎるのだろう」もう帰りの
列車の時間が迫ってきて、みなさんにまた再会の約束をした。
カルロッタさんも笑顔で「またおあいしましょう、
ごきげぇんよう」とサーキットの出口まで見送ってくれた。

順子さんと私たちは、ミラノまでの帰りの列車に乗り込む。
「あなたたちの、おかげで面白い記事が書けそうよ!」
「ええ~まさか、今日の事が記事になるのですか?」
「そうよ、大丈夫、学園の許可も受けてあるし、こんな面白いこと記事にしない手はないわ」
列車はミラノへ近づいていく、順子さんと談笑していると。
「あの~さっき聞きそびれたのですが……」
央さんが、少し遠慮気味に尋ねる
「どうしたの?央さん」
「順子さんは、どうしてモータースポーツのジャーナリストになられたのですか?大学でもあれだけの成績を残されたのに
プロになっていれば、世界でも戦えるくらいの選手だったと、お聞きしていますが」
「うふふ、それがね、大学時代。彼に出会ったのよ、花村に」
「花村隼人さん!」私と栗実さんが声を揃えた、そう順子さんのご主人はTVのF1中継でも解説をしている有名なモーター
スポーツジャーナリストだ。
「彼はあの頃テニス部に、取材に訪れたスポーツ誌の記者だったの。そんな彼に一目惚れしちゃったって訳
それから、私は彼と同じ新聞社に入るために勉強したわ、カメラだってそれまでは触ったこともなかったのにね
そして、新聞社に入ったの。そしたら彼が独立するっていうのよ、ジャーナリストとして。もちろん私もついて
いったわ、押しかけ女房みたいな形でね、
それでいまに至ったのよ」
順子さんは、列車の外の遠い方を見ながら続けた。
「そうね、私もあなたたちの頃は、テニス一筋でまさか自分が
取材する側に立つとは思っていなかったけど
これも縁っていうのかしら?運命とも言えるわね」
順子さんは、苦笑いと少し照れた表情をして、答えてくれた。
そうこう話しているうちに、列車はミラノ駅に滑り込んでいく。
ついに、順子さんとも。お別れの時がやってきた。
「順子さん、本当に色々、ありがとうございました!」
3人は、それぞれにお別れの挨拶を言う。
「こちらこそ、ありがとうね。記事が載ったら、あなたたちに
送るわ、楽しみにしていてね。
それでは、また会いしましょう!」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
私たちはリリアン流の挨拶をして、次の取材先へ向かう
順子さんを見送る。
しばらく、寂しさが残るホームで3人は立っていると。
「あっ!」
栗実さんが、なにかを思い出したように、大きい声をあげた。
「聖香さん、央さん。お土産買った?」
「あ!」
「あ!」
央さんと、私は顔を見合わせ。
「忘れてた~~!!」
今日は、修学旅行最終日でもある、3人は慌ててミラノ駅で、
それぞれのお土産を探した。
そして、心にもいっぱいのお土産を詰めて
日本への帰路へとついた。

                      おわり