リリアン女学園付属図書館 「ふさふさしっぽのハムスター」

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ふさふさしっぽのハムスター

一ノ瀬 ひめ乃



ああ、とても静か。

土曜日の午後、放課になり、ひめ乃はお姉さまと連れ立って図書館に訪れていた。
普段は演劇部の事で忙しいお姉さまが、ひめ乃に気を遣って誘ってくださったのだ。

館内には、図書委員を含む数名の生徒。
とても静かだ。

お姉さまは次の演劇の資料を探し、わたしも薔薇の本を探して席についた。
新しくうちの温室に植えた薔薇の栽培における注意点など、そういうものが載っている本。
新書サイズの本には小さな薔薇の写真が載せてあった。
わたしは斜め向かいに座るお姉さまを思った。

お姉さまの演劇に対する情熱は感嘆に値する。
それはけして、部長だから仕方なくやっているというものではないのだ。
ただ演劇が好きで、素晴らしい舞台にするためには努力を惜しまない。
普段は気さくでopen the doorな社交的な性格であっても、
お姉さまは行儀、作法、マナーは徹底している。
タイが曲がっていうような生徒は、親しい間柄でない限り、不快に思うタイプ。
そういう意外と神経質なところは、あえて隠しているのか、たまたま周囲に見えていないのか。
寛容ではあるけれど、締めるところはきちんと締める。
それがひめ乃のお姉さまだった。

お姉さまは、わたしが衣服が乱れているのが嫌いなところや、姿勢を正さないと気持ち悪いところや、
そういうところを買ってくれているのかもしれない。あえて聞いた事はないけれど。
だから、今まで以上にそうあるべきなのだ。これは誰に強制されるでもない、わたしの意思だ。
わざわざ誉められたいのではなく、お姉さまに隣にいて心地いいと思って欲しいから。

斜め向かいから小さく頁をめくる音が聞こえる。
わたしの手元の本には薔薇たちがたくさん咲き誇っている。
そのまま視線をずらし、お姉さまを見た。
透き通った瞳が文字を追い、長い睫毛が頬に陰を落としている。

「どうしたの、ひめ乃」
視線に気付きお姉さまが声をかけてきた。
「あ、せっかく午後一緒にいるんだし、やっぱり図書館じゃなかった方がよかったかしらね。
あとで一緒にミルクホールで紅茶でも飲みましょう」
わたしが退屈していると勘違いしたお姉さまは本に栞をはさみ、わたしを見る。
「いえ、退屈っていう訳ではないんですよ。わたしも調べたい事があったからちょうどよかったし」
気を遣わせてしまったのかしら。と思いつつ、にこやかに答えた。

一呼吸置き。

「・・・ただ、綺麗だなと思って。真剣に読んでらっしゃる顔が、綺麗だなって。」
そう言うとお姉さまは口の端を一度あげた。
「ひめ乃って、そういうところ素直だね。嘘がつけないっていうか。あれだよね、やっぱり。」
ハテナマークが頭にいっぱい浮かぶわたしをよそにお姉さまは話を続ける。

「犬みたいに構ってほしくて気を引く訳でもなく、猫というには素直だし、うーんと・・・」
どうやらお姉さまはわたしを動物に喩え始めたようだ。
苦笑しながら、ではなんですか?と問うと、にっと笑い、
「あれだね。ハムスター。そこにいるだけで和む。癒されるともいうかしらね。うん、非常によろしい。」
癒されると言われて嬉しくなりつつも、ひめ乃はハムスターに喩えた理由は、
小さいということも関係していませんか、お姉さま。と思った。

「それはよかったです。ではわたしは癒し系のひめ乃でい続けますから、
館内が閉まる前にお姉さまもう少しお読みになった方がいいかもしれませんよ。」
自分から癒し系と口にしたのが恥ずかしくて、最後の方は少しごにょごにょ言ったかもしれない。
「そうね。でも私、ハムスターが気になっちゃったから、ハムスターを連れてお茶に行こうと思うんだけど?」

ハムスター、ハムスター言っているのは多少気になったが、嬉しいわたしには関係なかった。
ただ傍にいるだけで、どうしてこんなに嬉しいのだろう。
ただほんの少しの言葉を交わすだけで、どうしてこんなに嬉しいのだろう。

でもそれはお姉さまには言ってあげない事にした。
どうせいつでもわたしの嬉しい気持ちは見えないしっぽになって、お姉さまに見えている筈だから。