遠い桃源郷第一巻

「・・アリス、何やっているんだ?」
「あら、リマ?ちょっとね・・。」
私の昔の名前はアリス。
友人のリマは魔女仲間だった。
「師匠に教わった魔術を、試しているのよ。」
「ふーん・・俺はそんなんどうでもいいぜ」
「リマも魔女なのだから、修行しないと・・。」
「・・・」
リマは男口調な魔女。私と同じ上級になれたのが不自然なくらいに自由きまま。
「ん?あんた達まだやってたの?」
これは巫女の瞑琥。自称、素敵な巫女、らしい。
「えぇ。復習していたの。」
「へぇ・・。・・・リマは?」
「あっちよ。」
「わかったわ。リマー!」
「・・・」
2人共、私の数少ない友人の中の2人。
今日も、私は修行に励んでいた。

「・・アリス、居るか?」
「えぇ、なんですか?」
私の師匠、レイス師匠。
「お前を、別の世界にやる事になったんだ。」
「――・・え?」
目と口が大きくまんまるに開く。
「そ・・それって、どういう事ですか?」
「あぁ・・。お前だけでも避難させなければ・・」
「な、なんの避難ですか?ねぇ師匠!」
「・・・くッ・・。すまない。」
師匠の手の平から大量の魔力が放出される。
「し・・しょ・・・」
その魔力が合体して大きくなり、私を飲み込んだ。

「・・な・・んで・・・?」

がたんっ
「お、来たかー、お前がアリスやな?」
「・・・」
きょとん、とした私にその女が話しかける。
「私は琴夜!よろしゅう!!」
「?・・??」
「えーとな・・お前は此処に避難しに来たんや。・・意味はわかるやろ?」
「・・・」
確かに、避難、の意味はわかる。
だけれど何故避難させてもらっているのかわからない。
「・・あの世界は、『幻想化』するんや。」
「え・・?・・・」
幻想化・・他には幻化とも言う。
それは、その世界が幻想になる、消えてなくなる、という事だ。
「何故・・?!何故、なんで?!」
「ぐっ、痛い痛い、襟を引っ張るな・・。多分、お前の友人もどっかの世界に避難してるはずやで?」
「だから、なんで幻想化なんか・・・」
「・・・次々と、世界が幻になってる。次は魔界の番や。」
「・・・え・・」
次々と、幻想化をしている。
それは、過去にもあった『大幻想化世界』という件に似ている。
「じゃあ・・魔界は消えるの?あの森も、あの海も、いつも魔力を回復してくれた、あの樹も・・」
「・・あぁ。・・ただし、魔界の住民は全員避難するみたいやで?」
「でも・・でも・・・あの世界は消えるのね・・。」
「・・残念やけどな。」
「ひ・・っぐ。師匠・・師匠・・っ」
泣きじゃくる私。
その巫女らしき女は私を見守っていた。

そして私は改名してロアという名前として生きる事にした。
この真新しい、『人間界』で――。
最終更新:2008年04月02日 22:45