神聖ロタール帝国
建前は数十年〜百年周期で南部からラムクトを越えて襲って来る「対バルーザ防衛機構」の構築を口実に、野心溢れた真武帝が賢者キール・ベールを参謀として一世一代で侵略を推し進め、征服後は「実は自身の祖先から『西部域の守護』という気高い志と崇高な使命を受け継いでいた」かのように家系を数代遡って、「○○帝」・「✕✕帝」と諡号し、世代を跨いだ壮大な偉業に見せかけるため建国年を上にずらした。
それでもわずか二世紀余りしかない歴史で、最低でも三十人以上の皇帝が即位したことになっているなど、整合性がとれていない。
近年は皇帝(候補となる家も複数ある)の統制も衰え、帝都ルーフェンの周囲では有力諸侯が鎬を削り、辺境では軍事偏重な領主による近隣領主への押領にも歯止めがかからなくなっている。
皇帝には守護者として〈征夷大将軍〉の称号が付随し、バルーザ来冦の際には、最高司令官となり帝国全軍を従える権利と立ち向かう責務がある。
…のだが、実際には蛮族を一度も撃退したことはなく、彼らが量産型人馬操兵を使い潰すほど暴れ、〈龍の王〉がまだ復活していないと諦めて帰路につくまでひたすら防戦一方で、興国の名目を保つように凌いでいたに過ぎない。勿論、戦場を知らない臣民や歴史書には圧勝したことになっている。
皇位継承権を持ちつつ、忠誠心無き覇王は、子飼いの歴史学者に真実を暴かせてますます歴代ロタール皇帝を軽蔑し、唯一簒奪できる力量を持ちながら執政官が専横を極めた時期に、カスバール皇家男子の血が絶えてしまうまで帝冠や玉座への興味を無くす。
そして、それよりも以前に龍馬帝によってバルーザが臣従してしまい、とうとうその存在意義を失い滅亡への道を加速する。