わんことまた会える日

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わんことまた出会える日 「ワンって言ってないよね?あたし…」 あの日、わんこは確かに俺の腕の中で安らかに眠りについたはずだった。 ユニフォームに染み付いた涙のあとは、今でも心に残ったまんま。 ……だったはずなのに 「……わん!」「……へ?」 時間は遡ること大体二時間前になる。 俺は一人買い物に出掛けた、 雨が降っていたからめんどくさかったんだが食料が底をついてしまってな… その帰り道に、ふといつも練習をしてた空き地に立ち寄ってみると、土管の中がごそごそしてるから、なんなんだと覗いてみたら… 「わん!」……これは、夢なのか? そうか、きっとめんどくさくなって本当は外に出てないんだな、俺は全く面倒くさがりなんだなあ… 「わん!」きっとこの声も近所の野良犬の声なんだろう、うんきっとそうなんだ。 「……噛みついていいわん?」 「ごめんなさい…」夢じゃ、ないのか… とりあえず家にあげてみる、嬉しくなると耳をパタパタさせるしぐさは昔から変わってないんだな… 「……なんで今まで教えてくれなかったんだ?生きているって」「こないだまで天国にいたわん」……? どう言うことだ?つまりわんこはこの間までは死んでいたってことなのか? ならなんで今ごろ生き返ったんだ? 「……わんこ、よくわからないわん」 この会話、昔したことがあるなあ… ほんと、懐かしいよ、わんこは昔と変わってないからな。 「……行く宛てとかないんだろ?」「……正解だわん」 落ち込むと今度は耳が垂れ下がるんだよな…本当に正真正銘、わんこなんだ。 なんでこんな事が起きてるんだ? 最近じゃ魔球なんてものも出てきてるし、世の中おかしくなってきてるんじゃないか? こんなとき頼りになるのは… 「わんこ、先にシャワーとか浴びてこいよ」「?わかったわん」 「(プルルルピッ)あ、もしもし、おのくん?実は…」おのくんも最初は驚いていたけど、すぐに状況を理解してくれた、本当に頼りになる。 「最近そういうことがよく起きてるのでござるよ、拙者にはあまり理解できないのでござるが…そう言うことなら、この間知り合った女性を紹介するでござるよ」「ほんと!ありがと!」 「あがったわん、なんの話してたわん?」「い、いや何でもないよ、それより、明日どこか出掛けないか」 翌日、俺は武内さんに会いにおのくんの寺まで歩いていった。 久しぶりにわんこと歩く、わんこも楽しそうだ、なんせ…何年も前のことだからな… 「小波とデートするのは楽しいわん!」「……変わらないなあ…」 「わん!わん!」 急に舞い込んできた出会いだけど、案外悪いものではないのかもしれない。 「……本当にわんこ殿だとは…」 おのくんはなんどもワンコの足を確認してるけど、わんこの小麦色の筋肉質な足は、当時と変わらない姿でしっかりと地面についている。 「失礼、あなたがわんこさんですか?」「わん?」そこへ褐色の肌をした美しい女性が現れた、思わず見とれてたら噛みつかれてしまう、痛い 「……なるほど、確かに聞いていた通り、この人の情報、戸籍謄本はありません、つまり、蘇ったと言って間違いないでしょうね」「やっぱりでござるか……しかし、わんこどのはこの世に未練を残して死んだのでござるか?」 「いや、それはない」 あのときわんこは、ありとあらゆることをさらけ出して、俺に看取られて、安らかな顔で死んでいった、そのわんこに未練なんて見当たるはずもない。 「私は、この現象が起こった理由を知っています」「なんですと?」 「……具現化、と言うのがありまして!例えば「なにかがほしい」と強く願うと、それが手にはいる、普通ならあり得ないですよね」「ああ」 「……今、それが手に入るようになっているのですよ、極端に言えばですがね」「……まさか」 一般には信じがたい話だ、そんなことが許されていいわけがないんだ、 不安がるわんこを横目に、俺はミーナさんの話に食い入っていった。 「……それを願った人間がいないと、具現化は成り立ちません、恐らくは、あなたの願いかと思われますが」 「小波どの…」 「……願わないわけ、無いじゃないか」 あの日からずっと、片時すらわんこのことを忘れられずにいたんだ。 毎年神社にいくと、初詣に一緒にいった思い出がよみがえって、つい 「わんこがここにいたら…」と思っていた。 野球をしているときだって、外野にわんこがいたら、もっと速く球が投げられるのに、とか思ってた。 「俺の身勝手な思いで、わんこを蘇らせちまったのか…」 「……さて、それはどうでしょうかね?」 自戒の涙を流す俺の顔を、懐かしい感触が触れてくる、わんこの舌… 「…わんこは、嬉しいワン!」 「わんこ…」 「わんこだって、小波と会いたかったんだワン!天国に行ってからしろくしじゅー、ずっとわんこは小波を見てたワン!」「なるほど…二人の思いが共鳴したのでござるな」 わんこ…わんこも俺のことを… あれからもう何年たったんだろうか、 それでも俺はわんこの事を忘れないで、わんこも俺のことを忘れないで、互いに年月を重ねていってたんだな、おんなじ気持ちで… 「まったく、俺もお前も大馬鹿野郎だよ…ははは」「あれ?笑ってるのになんで泣いてるワン?おかしな小波だワン!」「泣いてなんかねえよ……泣いてなんか」「(そう言えば、わんこどのがいなくなってからの小波どのは、少し影が濃くなっていたでござるな、それが今、ようやく晴れた、これを奇跡としてなんと言おうか…)」 「おのくんも泣いてるワン!みんなおかしいワン!」「ははは…わんこさん、これからの時間、大事にしてくださいね、私もこれで失礼します」 それからの俺たちは色んなところに行った、今までの時間を取り戻すかのように。 遊園地、いつもの公園、バッティングセンター、 わんこがいなくなってからは一人で回っていたところ、今はとなりにわんこがいる。 ガンバーズのみんなにも会いにいった。 さくらちゃんは、驚く前に泣いてたな 「何年間も、どこいってたのよ!わんこちゃんのバカァ!」「ごめんだワン…さくらちゃんも泣いてるワン?」 「あったりまえじゃない!何年探したと思ってるのよ!」 さくらも、わんこがいなくなってからしばらく探し回っていて、思い出の場所を一緒に探した。 諦めてからは、少しおとなしくなってしまったが、また元に戻るだろう。 「わんこお前…キャプテンの俺に言わないでどこに言ってたんだこの野郎!」「ご、ごめんだワン」 「ったく…その速い足で、追い付けないところに消えていってしまったんじゃないかって…心配したんだから…」 「なつみも、泣いてるワン」 晴川キャプテンは立場上、大騒ぎすることはなかったけれど、貼り紙を作ったり、神社にお祈りにいったり、同級生の行方不明をとても心配していた。 他のみんなも、驚いてから、泣いてその度にわんこは「泣いてるワン?」と不思議な顔をしたけど、 お前が消えてから 俺らはお前の事を忘れたことなんて、みんなみんな、無かったんだぞ。 大会で優勝したときも、お前が住んでる土管に、記念撮影に来たんだ。 晴川キャプテンが「優勝旗につられてやって来るかもしれんだろ」って言ったから、みんなもそう思って、あの土管で写真を撮った。 お前はみんなの宝だったんだ。 「……なあわんこ」 「なんだワン?」「もう、消えるなよ?」「当たり前だワン!」 こうして、わんこはみんなのもとへ帰ってきました、みんなみんな、喜びました。 わんこは今、小波の家で二人…いや三人仲良く暮らしています、 とても幸せそうです、小波もまた、幸せそうでした。

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