夢十夜(未完成)

元ネタ「夢十夜」

第一夜
白瀬と共に

俺の近くに白瀬が寄り添っている
白瀬は俺の膝元に来ると
「私はもう死ぬから」と告げた
白瀬はその銀色の髪の毛をしならせて
綺麗な瓜実色の顔を俺の膝に横たわらせている、頬の色は赤く、唇も赤く
到底死にそうになんか思えない
それでも白瀬は俺の膝元で「……もうそろそろ死ぬわ」と告げる
俺も「ああ、お前がそう言うんなら死ぬんだろうよ」と思った
ええそうよ、ようやくよと言いながら白瀬が目を開けた
その黒い眼差しは俺の姿形を写し出している、とても艶のある目に吸い込まれそうな位だ
「……お前本当に死ぬんだな?」また俺は疑問に思いたずねたら
「だって死ぬんだから、しょうがないじゃない」と言った
俺はだまって腕組みをして考える
しばらくして、白瀬がまたこう言った
「あなたの元で死ねるのだから、私にとってはなんの不都合もないわ、だからあなたと共に死なせて」
……俺も確かに死んでいる
しかし白瀬に死にそうな様子はまったくない
「寄り添っているように思えるのはあなたのお墓に寄り添っているから、膝元で寝ているように見えるんなら私はもう頭を床につけてるわ」
にわかに信じがたいことだ
だがここ数年間会えずにいた俺たちが会えたのだから、死ぬのだろうな
またしばらくすると、白瀬はふっと軽くなった
それから幾千の光が瞬いていった
膝元には誰もいなくなっていた
ついに死んだのだろうと立ち上がると
目の前には白瀬がいた
俺は静かに手を差し出す
白瀬も恥ずかしそうにだがその手を受けとる
さあ、いこうじゃないか
声をかけるとちょこちょこと後ろをついてくる
ずいぶんとあっちの閻魔さんを待たせてあるぞ
きっと地獄でしょうねと白瀬が笑う
俺も笑った、当たり前だろうと
地獄だろうと天国だろうと構わない
二人でならきっとそこが天国だろうから
これから無限の時を共に歩んでいこうじゃないか

暁の光がまたひとつ瞬いた

第二夜

小波さんの部屋を出てから
廊下つたいに自分の部屋に戻っていったら、部屋の明かりがぼんやりとついていて、不思議だなあって思っていたらぱっと明るくなったんです
そこにあったのはとあるひとつの絵
私と小波くんが笑顔で手を繋いでいる絵
床には誰かの足跡
そして微かに残る香水の臭い
それでも広い寮だから森閑として人の気はない
……シャッター音はかすかに耳に落ちる
明かりに照らされた私の影はまるで生きてるようである
立て膝をして部屋の中心でぼうっとしながら、座布団をめくった
もしかしたらと思ったがなにもなく安心
そこに突然声が聞こえてくる
「お前はどうあれどなおの家族であるのだろう?それをいつまでも否定していると聞く限りは、お前はただの頑固者」と言ってくる
ははああの人だな
と思いつつ
「悔しければ私と小波さんのなかを引き裂いて見せれば良い」と言ってぷいと向こうを向いた、大人げないかな
すると今度は写真を頭に落としてくる
それはあの屋上での事の写真
ここまで恥ずかしい目に遭ってただで済ませる訳にもいくまい
「いい加減に出てきなさい!」と叫んで見せるが反応が返ってこない
「あなたなんでしょう!?わかってますよ!写真なんてあなたくらいしかくぁせふじこ」
どたばたと動き回って探してみるが見つからない
それどころかクスクスと複数の笑い声がする
私の顔は真っ赤に燃える
「ええいいったい誰なんですかぁ!」
今夜は寝れそうにない
落ち着くために外を見ると
あの人は先生と話をしていた
……つまりこれはあの人の仕業ではない…と?
「紫杏さんですか…?怒ってないので出てきてください…」
まったくの無反応
まさか…幽霊!?
突然となりの部屋の時計がチーンとなりだした
恐る恐る隣を覗いてみると
「さぁあらぁあ…」

「ぎゃあああああああ!!!!!黒い目玉ああああ!!」

時計は二つ目をチーンと打った
……
「紫杏がこんなことに加担してくるなんて珍しいこともあるもんですねえ、ハッハッハ」
「たまにはこういういたずらも悪くない、小波にも協力を得た甲斐があった」
「さらの悲鳴が聞きたくて荷担した、反省はしてない」
「あんたら鬼畜やな…」


第三夜
こんな夢を見た

俺は背に六つにはなろうかと言う子を背負っていた
確かに自分の子である
なぜかはわからないがそうなのだろう
ただ不思議なことに子供はあっという間に髪が伸びて地面につかんとしている
お前の髪はいつ伸びた?と聞くと
なに昔からのことですと答える
声そのものは子供でも言葉使いは大人である、しかも対等
辺りはいつのまにか暗くなっていてとても不気味である
もう夜中になりましたねと子が言う
六つもいかない子にこんなことを言われては気持ちが悪くてしかたがない
もう少ししたところの電柱に置いていってしまおう
たしかここからしばらくしたら行き止まりに電柱があった
あそこならきっと優しい誰かが拾ってくれるだろう
そう考えていた途端に背中で「ふふん」と笑う声がした
「何を笑うんだ」しかし子は答えない
変わりに「お父さん、重くはないですか?」とたずねてくる
「重くなんてない」と言うと「じきに重くなります」と言う
ますます不気味になる
それからまた歩き出すと子が「ちょうど今ごろの頃か…」と独り言を呟く
「何が」とキツい声を出して聞いた
「何がって、あなたが知ってるじゃありませんか」と子供は嘲るように答えた、するとなんだか知ってるような気がしてきた
こんな夜だったような気がする
電柱に着いたらわかる気がする
わからない今のうちにこいつを捨ててしまおうと思う、安心しなくてはならないように思える
俺はますます足を早める
目標の電柱がだんだんと近づく
今俺の背中にこの先のことを寸分漏らさず知っているかのような子がある
俺はたまらなくなった
「そうだそうだ、ちょうどこの頃だ」
電柱にたどり着いたとき、背中の子が透き通るような声を出す
「お父さん、ちょうど今の頃でしたね」「うんそうだ」と思わず答えてしまった
「平成○○年だろう?」確かに平成○○年のように思えた
「あなたが私を置いて去ってしまったのは、今からちょうど百年前のことだ」
俺はこの言葉を聴くやいなや、全てを悟った
この子は沙耶さんであり、鈴音であり、彩さんで…
俺が置いていってしまった人間たちなんだと
「忘れないで」
それを自覚した途端に、背中の子が石地蔵のように重くなった


第四夜

広い土間の真中に涼み台のようなものを据
すえて、その周りに小さい将棋
が並べてある
台は黒光りに光っていた、片隅
には四角な膳
を前に置いて女が一人、酒を飲んでいる、肴は煮しめらしい
 女は酒の加減でなかなか赤くなっている、その上顔中つやつやしてシワ
と云うほどのものはどこにも見当らない
ただ死相が霊感のない私でもわかる事から死人と言う事だけはわかる、自分は子供ながら、この女の年はいくつなんだろうと思ったところへ
裏の井戸から手桶に水を汲んで来た銀髪のお姉さんが
前掛けのタオルで手を拭きながら、
「そこの亡霊さん、いつ死んだの」と聞いた、女は頬張った煮〆を呑み込んで、
「いくつかなんて昔のことだ、もう忘れた」と澄まして話す
お姉さんはそんなつんけんな女の横顔を面白そうに覗いている
女は茶碗ほどある器についだ酒を喰らい、そうしてふうと息をついた
するとお姉さんは「あなたのお家はどこなの?」とたずねる
女はニヤリとしながら「私の家は当に無い、帰る場所はあるがな」と答えた、俺にはわけがまったくわからん
そうしたうちに女が酒の酔いざましだと表に出た、腰には酒の入ったひょうたんをつけている
お姉さんと俺は「どこへ行く」とたずねたが「あっちに行く」としか答えない
女は黒いスーツにハイヒールを履いていた、スーツの胸元にはひとつ穴が空いている
女が柳の下に出た
柳の下には子供たちがたくさんいた
女はどこからともなく箱を取りだし
「この箱の中には毒けむりが入っている、そして猫が入っている」と箱の前に集まった子供らに告げる
そして「この箱の猫はどうなったか?生きているだろうよ、今にこの箱を飛び出して見せる」そう言い女は蓋の箱を開けた
しかしなんにも音沙汰ない
銀髪のお姉さんも静かに見守っている
それから一時経っても猫は出てこない
すると女はぶつぶつと呟き出す
「箱のなかを証明するのだ、あのときの答え合わせを、そしたらみんな間違ってないと認めてくれる、私は間違ってない、きっと証明するのだ」
こう言うと箱の猫が出てくると女は言うのだが箱はピタリとも動かなかった
「きっと今が夕暮れだから出てこない、夜になれば素直になる」
確かに今は夕暮れだ、俺もその言葉を信じて夜まで待つことにした
箱を上下に動かす女
そして訪れる夜長
それでも猫は出てこなかった
「きっと出る、間違ってない…きっと出る…」そしたらさっきまで見守っていたお姉さんが女から箱を取り上げた
「箱の答えはわからない、でも確かにあなたは死んだのです、箱の中身を証明できるのは、生きとし生けるものだけなのです……わかったらとっとと成仏しなさいよ!私の主がずっとさまよってるなんて許さないわよ!」
こう銀髪のお姉さんが言うと女は
「ふふふ…そうだな、私にはもう答え合わせはできないな」と胸の穴に手を当てながら悲しそうに笑った
そうしてそのまま消えていった
銀髪のお姉さんも消えていった

……「箱の中の猫は生きている?死んでいる?」



第五夜

こんな夢を見た
なんでもよほど古いことで
自分がまだ超能力を得る前のこと
自分が油断していたがために
あっという間にその回りを固められ
女と一緒に追い詰められたときのこと
相手も格闘のプロ
動かずの牽制でじりじりと間合いを詰めてくる
自分の魂を賭けてでもこの女だけは逃がそうと息巻いていた
一人、二人と目の前の敵を確実に倒す、今の自分にできる最善を尽くした
しかしそれでも数には及ばず
一寸の隙を突かれ、女を奪われてしまった
あの頃でも恋はあった
私は敵の大将格にひとつの提示をする
「私の首ひとつ差し向ければ、この女の命、救っていただけますよね?」
大将格もふうむとうなずいた
これでよいのだ、これで
降伏するよう見せかけ攻撃してしまえばいいのだからと
私はいつでも冷静だった
大将格は構えを解いて私のもとへと歩み寄る
一歩、二歩、その足音が近づく
それはあの世への階段を上る音なのだ
そう言い聞かせて
十三歩、歩み寄ってきたとき私は渾身の打撃を喰らわせた

すると大将格はたちまち崩れ落ちた
やってやったと女を見ると
女もやられていた
私の思考が大将格にのみ意識を傾けたことによる単純な失敗だった
冷静だったはずなのに
その日ばかりは悔やんでしかたがなかった
握る拳に血をにじませたりもした
今ならきっと救えるだろう
しかし彼女を救うその時まで
私は私の敵となった


第六夜

こんな夢を見た
近くの山で男と女が喧嘩をしていると聞いたので気になってその場を訪れてみたくなり、その山へと向かった
ずいぶんと見物客が増えている
恐らくみんな暇してたのだろう
ちょうど昼時で休憩時間だろうし
ちょうど山門の近くに居る二人は
人々に見られててもお構いなしに喧嘩をして居る
「絶対こっちの方だって!」「いや、俺の感がだな…」「そう言ってこないだも何もなかったんじゃん!」
どうも痴話喧嘩などの類いではなく
この先に分かれている道のどちらをいくかで喧嘩をしているらしいのだ
そんな中観客の中の一人がうーむと首を頷かせてこう話していた
「あそこまで見事に噛み合った喧嘩をするやつは俺初めて見たよ…」すると隣の男も「全くだ…」この二人はどうやら女に振り回されているご様子だった
「うちのなんて一度怒り出すとすぐに本島に行ってしまうから議論も出来ない」「うちのは子供を味方につけて責めてくる…」深くため息をついたかと思えば
「「それに引き換えあの二人はいいなあ…」」そしてキラキラとした目で二人を見つめていた
確かにこの二人は主義主張こそ違うもののはっきりと互いの意見を言い合って
互いの腹の内をすべて明かしているかのような痛快さがある
「まるで阿吽の呼吸のようだ」
「阿吽だかなんだかはわからないけど、とにかく息がぴったりだ」
ほうと思い再び耳を済ます
「あんたはいつもなにげなーく優しい道を遠回りでも進んでるんでしょう?余計なお世話よ!」「……お前はいつも厳しい道ばっかり選ぼうとして居る、強がってもなにもいいことはないぞ?」「あんただって私を弱い女って決めつけてるでしょ、知ってるんだから、毎日毎日ルートを夜遅くまで考えてるの、それで寝不足になられて体を壊されたらこっちが不安になるのよ」
「お前よりは強いから心配するな」
互いに互いを庇いあい、理解するその姿はまさに息ぴったりといった感じ
「早く次の目的地に行ってゆっくり休ませてあげたい女の気持ちとゆっくりと進んで女に負担をかけないようにしたい男の気持ち、芯では通じあってるってのが伝わるよ」
「俺も五十鈴とあんな風に…いや正面切った喧嘩はしたくないなあ…」
そのうち男が妥協する形で女の言う方向に進んでいく、しかし男も女もあと腐れなく笑顔で道を進んでいく、きっとこれからもあの二人はあんな感じなんだろうな、と誰しもが思う
そして観客たちはそれぞれ帰っていく
恐らく全員が彼女がいるんだろう
根拠はないがそう思う
かく言う俺も、先程の喧嘩を見てすぐにいつもの顔が見たくなって、帰路を駆け出していた
「……はぁ?喧嘩をするカップルがいた?」いつもの廃ビルでいつもの顔を見ながら、俺は今日の出来事を彼女に話してみた
最初ははぁ?となっていたが、やがてくるりとこちらを見てにやりと微笑む
「……私たちもそんな風になれるといいわねって思ったでしょ?」俺もそう思っていたから素直に「そうだな」と言葉を返す、そうしたら彼女はきっとんとして、一寸考えて、それからぽっと顔を赤蓮華のように赤くして小さなつぶてのような声で「……私も、そうよ」とどこともない方向に呟いたので、どうした?と聞くと赤くした顔を隠すようにしながら「なんでもないっ!」と顔を背けてしまった
俺はあの二人がどうしてあんな風に喧嘩をするのかが少しわかった気がした
そして彼女とのこれからもわかった気がする



夢十夜 第七夜

なんでも大きな船に乗っている、
この船が毎日白い帆を上げて、大海原を進んでいく。
とても早く進んでいくのだが、どこに行くのか皆目検討つかない。
ただ、波の隙間から肌を焦がすような熱い太陽が姿を見せる、それから帆の先端部分まで上っていけば、いつの間にか船を追い越して水平線の先へと消えていく。
その度に海は紫に色を変える。すると船はそれを追いかけていくように進むが、追い付かない。
ある日、私は背高の女の船乗りを捕まえ、たずねた「この船は西へ行くのですか?」
その船乗りはやがて怪訝な顔をして、私に問い返した。
「なぜそう思ったんや?」
「日が落ちる方に向かっているから…」
すると女の船乗りはフフフフと笑い、そして向こうの方へと行ってしまった。
「西に行く日の、果ては東か?それは真実か?東に出る日の、里は西か?それは真実か?身は波の上、舵枕、流せ流せ」
と囃している
船のまん中に向かうとたくさんの船員が太い手綱を手繰っていた。
自分は大変心細くなった。
いつ陸に戻れるかもわからない、その上道のりもわからない。
ただ白い帆を張って波を掻き分けていることだけは確かである。
その波はすこぶる広いもので、際限なく蒼く見える、時には紫にも見えた。
ただ船の動く周りは常に泡を吹いていた。
自分は大変心細くなった。こんな船にいるよりいっそ身投げして死んでしまおうかとも思った。
乗り合いはたくさんいた、大抵は自分とは顔つきも肌の色も違う異人ばかり。
空が曇って波で船が揺れたとき、一人の女が手すりに掴まって泣いていた、
目を拭くハンカチも、来ている服もまったくこの世の物のようには見えない奇抜なものだったが…自分と同じような気持ちもしている人もいるんだなと気がついた。
そのあと遠くから地獄からの断末魔のような歌が聞こえたが、誰が歌ったのかなんて考えるのもおっくうだ。
ある時甲板の上に寝転んで星を見ていると、見張り台の上から肌の焼けたやや露出の激しい女の異人が
「この向こうには何があると思いますか?」と言い語りかけてきた、自分は死のうとも思ってるのでそんなことには興味がないと黙っていた。
するとその女はいろんな大陸の話を始めた、そうして最後に「自分はすべての大陸を見てみたい」と語った。
自分は黙って相づちをして、空を見上げていた。
またある時サローンに入ると
男のような婦人が背の高い男とダンスを踊っていた、二人は自分達の世界に入りきっており、船の中に居るなんてことも忘れたようにしていた。
ますますつまらなくなって、いよいよ死ぬことを決心した。
それである晩、人目がいないのを確認して海に飛び込んだ
……その瞬間、自分の足が甲板を離れたその時その刹那に、急に命が惜しくなった。
心の底からよしておけばよかったと思ったが、もう遅い。
大きな船なだけはあり、足はゆっくりと、どんなにもがいても、だんだんと海に近づいていって
どこに行くかわからない船でも、乗っておけばよかった
乗っている方がよかったと悟りながら、その悟りを活かすことも出来ず。
無限の後悔と恐怖を抱きながら
黒い海へと落ちていった
……「?」
次に目覚めたとき、自分は再び船室の中にいた。
医者と、その隣にはこの間話をした見張り番
なるほど、どうも見つかったらしい。
見張り番は自分にこう言った
「終わりのない航海なんてないんですよ」
その言葉によかったなと感じ、
見張り番に感謝の意を告げ、
また自分は未知なる航海へと足を踏み出した。