さくら姉ちゃん 最終回 Bルート

Bルート

どうにかして声を出さないと
このままじゃ不安にさせたまんまだ
……こうなったら
「~!~ッ!」思い立ったがすぐ
喉元を右手で思いきり絞り空気孔をふさいだ
苦しいけど、これで声が出るはず
「……大波くん、よく、聞いてね」
喋りだしたことで少し大波君は顔を明るくしてくれた
これなら聞いてもらえるかな
……
「大波君はいい子だから、今から言うことをちゃんと聞けるよね」「……うん」よし、よかったよ…ヒューヒュー喉がなるけど、ちゃんと聞いてね
「……大波君、私は大波君が世界一大事よ」「……そんなの当たり前だよ」
なにかに感ずいたか、大波君は口調を重くする
「……人間の喉はね、そんなに強くないから、圧迫したらすぐに大動脈が破裂するかもしれないんだ」……そう
これは私から大波君へのラストメッセージ
「もう手遅れだから、全部伝えたいことを伝えるね、多分このまま喋らなかったら大波君がおかしくなっちゃうから……ちゃんと聞ける?」「…………」ポロポロと大きな涙粒をこぼしてるのが見えるよ
お別れなんて、悲しいもんね
でも、きちんと話しないといけない
「……私がこうなったのは、大波君に全く責任ないからね、そこは心配しないでほしい、まずこれがひとつ、わかった?」「うん…うん」ひくついてる、肩がガタガタ震えてる
こんなときに話をするのはなんだとも思うよ、本当ゴメンね
でもしっかりと聞いて……
「大波君はこれからずっとずっと人生が続いていく、その過程で私を思い出してくれても全然構わない、けれども…新しい出会いには決して目を背けないで」「……お姉ちゃん以外の女の子とかと、付き合えるわけないじゃないか…」お姉ちゃんはその言葉がとっても嬉しいよ、嬉しいけど
ふと私からも涙がつつりとほほをつたり落ちていく
「お姉ちゃんは大波君が幸せでいてほしいの、でも過去ばかり振り向いていちゃ幸せには出会えないから…お願い…未来には何千何万の可能性があるから、ゲホッ!!ゴホッ!!」くっ、もう喉が限界なのかな、口から吐血しちゃった、大波君が怖がってないといけど…どうやらそれどころじゃないみたいね
「お姉ちゃん、死なないで……」
「……私も大波君と未来に行きたかったよ…宇宙から帰ってきたらね、お祝いのケーキを作ってあげて、それからいつものようにのんびりして、ガハッ…結婚して…子供は何人がよかったかな、孫も…」「そうだよ、一緒にいようよ、俺やだよ」私も未練たらたらなんじゃないか、ハッと気づかされる

死ぬってこと

お父さんやお兄ちゃん
小波くんやガンバーズのみんな
会社の人たちとかともお別れなんだ
いろんな人との繋がりでここまで来たんだな…
「……でもね心配しないで、私は大波君とは違う道でちゃんと未来についていくから」「……違う道?」
そう、私はひとつの可能性を知っている、天国地獄の概念
ボール親父さんやジナイダさんが示してくれた大きな希望
「あのね、死んだあとには天国があるんだ、そこから私は……」「天国なんて本当にあるわけないじゃないか!神様なんて嘘っぱちだ!神様がいるならお姉ちゃんが死ぬはずないんだ…」
そうだよね、それが当たり前なんだよ
「……私が死んだら、小波って言う人にあってみて?それで…ゲホッ……わかるから」だんだんと吐血の周期が短くなる、死へのカウントダウン
あと数分ですべてを伝え終えられるだろうか
「人の寿命は平等なんだよ…私が短い分は…大波君へのプレゼント…」「俺への…プレゼント」
「ゲホッ…ゲホッゲホッ!!」
もう押さえる腕の感触もなくなってきた、だけどあともう一言だけ…
「その分…生きた分で…私の出来なかったことを…代わりにやってくれる…?それが終わったら、会いに来るから絶対…」「……わかった、俺お姉ちゃんの分も生きるから、結婚したい相手を見つけて、家族を作って、幸せになるから!絶対お姉ちゃんが迎えにきてね」……よかった、大波君がわかってくれて…
その途端、私の視界はブラックアウトし、首から下の感触は全く無くなった
……大波君の声が聞こえる
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
「大波君……」ホンフーさんの声もする、そうだ…
ホンフーさん、生きてる間の大波君をお願いします…
「……やれやれ、最後まで世話が焼けますね」
「…………みゃはは……じゃあね」

「お姉ーーーちゃーーん!!ううっ…」
…………
そこから先の事は全く覚えていない
気がつくと私は首元の傷が治ってて
目の前にはボール親父さんとわんこちゃんがいた
「わんこちゃん?」「お久し振りだワン♪ずいぶん大きくなってるから驚いたワン」あの頃の、いなくなった頃のまんまのわんこちゃんが私の目の前にいる…ってことは、ここは天国なんだろう
「随分と大冒険したなあ、さくらちゃん」「ええ…そりゃあもう……大波君は何してるのかなあ」
一番の気ががりは大波君の事…
あのとき納得してくれたはずだけど心配だなあ…
「まずは死んだあとから説明するワン、さくらちゃんのお葬式にはたくさんの人が来たワン」
自分のお葬式の話を聞くのもおかしな話だな…思わずクスッとしてしまった
「まず大波君はちゃんと来たワン、偉かったワン、ちゃんと泣かなかったワン」「俺もありゃあ肝の座ったやつだと驚いたね」大波君が普通にしていてくれたことにまずはひと安心
すると胸がほーっと撫で下ろされる
「他にはカズさん来たワン、だいぶやつれたような顔をしてたけど…」「ホンフーって人も来てたな」それから私は来た面々に驚かされることとなる
なんとオオガミとNOZAKIの社長さんが献花しにきたらしい
「よくよく考えたら野崎さんカレー屋で会ってたんだ…」
しかも私のファーストを奪ったあの人も来ていた、どうやら野崎さんの秘書らしい
他には小波くんたちや会社の人たち
ジナイダさんはその場に現れると会場が大騒ぎになったと言う
「……ほんと、いろんな人と関わったんだなあ…私」
「幸福者の証だよ」「そうだワン!」
「おーいわんこ、さくら来た?」
遠くから自転車で男の人が駆けてくる
「……!?」近づくにつれ姿がはっきりとして来た、にのみやくんだ
「ちょうど今来たワン」「うわあ…大人になったんだなあ…」にのみやくんは少し私より幼いくらい
死んだのが十年くらい前だからね…
「ボール親父さんに頼まれてたもの届いたからやるよ、頑張ったさくらへのプレゼントだそうだ」
そう言ってにのみやくんが渡してくれたのはポケットサイズのテレビ
スイッチを押すとそこには大波君が映っていた
「これは…!」「そう、下界を覗けるテレビだよーん」ボール親父さんが自慢げに跳ねている
「これで大波君を見てられる…?」
画面を覗いていると大波君が一人になってから、空を見上げている
どうしたのかと見ていると
「……!」「……ワン」「……」
じわりと涙を浮かべてそれから大声で泣き始めた
「大波君……っ」私もつられて涙が出てしまった、大波君はわんわん泣いた
私は膝から崩れて顔をおおって泣いた
「……こいつは強い子だよ…さくらちゃん」ボール親父さんがポンと肩に乗って画面を見るように言う
画面を覗くと、泣いていた大波君が涙を拭いて歩き出していた
「さくらの見立ては悪くなかったな」「この子はいい子だワン!」
私もすぐ涙を拭き、画面に向かって声きをかける
きっと通じてくれるだろう
だって私たちは恋人だから
「……頑張れ、大波君」


あれから何年たっただろうか
大波君がいよいよ天に召されるときが来た
「……あれから本当に結婚して、子沢山に恵まれて、スゴかったよ大波君」
正直少し妬けちゃった
隣にいる人が私じゃないことに
「さて、そろそろ干渉できる時間かな」
ふわりと地上に降りる


俺はもうすぐ死ぬ、お姉ちゃんもこんな気持ちだったのかな?
さっきまでの苦しさから一気に解き放たれる感覚
「……さくらちゃんの声がする」
「……大波、僕はそっちには行けないけれど…どうやら心配なさそうだね」
お姉ちゃんと同じくらい愛したヒカル
先に逝くことを許してくれ
「ヒカル…迷惑をかけたな」
「僕の方こそ、楽しかったよ」
ピーピーピー……ツー
真っ暗闇に放り出される
その暗闇から暖かく優しい手の感触がする
「……大波君……おかえり」
……ああ、あの頃のまんまの優しい笑顔だ、頑張ってよかった…
「……ただいま!」

Bエンド「悲しいもんね」