贖罪

俺がさくらを思いっきりフッてから数日がすぎた
自分のなかでは吹っ切れたと
水木のとこでのんびりしてたとき
唐突に電話のベルが鳴り出す
相手はこの間の大会で打ち倒して
アメリカへ行くといっていたはずの
才葉だった
「……!………!!」電話に出るなり才葉は強い口調で俺を怒鳴る
何がなんだかさっぱりだ
「ど、どうしたんだよ…才葉?」
深呼吸をして涙声の才葉から放たれた言葉は俺にとって一番最悪な言葉だった
「さくらが自殺未遂をしたんだ…お前のせいで…お前の…っ」
「ハァ!?嘘だろ才葉!!」
もちろん耳を疑うが
しかし心当たりがあるのも確かだった
「なんでだ…なんであそこまでさくらを追いたてた…」
才葉が言うには
さくらは髪の毛を切ったり
その辺から異変は起きていたのらしいが
才葉がアメリカ行きの準備をしている最中も言動がおかしかったと言う
「小波君は私の事なんて忘れたんだ」
「私が小波君の大切なものを奪ったんだ」
ひたすらこう言いながら壁に語りかけることもあったと言う
そして昨日の夜中
「なんだ…!?さくら!しっかりしろ!さくら!」
父のひでとが外にタバコを吸いに出たとき
屋敷の下で血まみれでうつ伏せのさくらを見つけたそうだ
遺書らしき物には
《小波くん、ごめんなさい、ごめんなさい》とだけ残されていたらしい
「……」
才葉はさらに俺を責め立ててくる
「さくらは特に目立った怪我は無かったけどな!言葉を話さなくなったんだよ!」
「わかるか!毎日虚ろな目で包帯を頭に巻いて呆けたように外ばかりを見つめるさくらが!」
……俺にだって事情があったんだ
でも、まさかそこまで傷付けるなんて思ってなかった
「お前ならきっとさくらも幸せにしてくれると思ったんだ!それをお前は踏みにじって…」
才葉の一言一言が胸に突き刺さる
「…しょうがないだろ」
思わず口からこぼれる弱音
「はぁ!?」「しょうがないだろ!さくらは俺の…いや、俺の親父を」
現状にそぐわない言い訳ばかりが口から出てくる
「……なんだよそれ…お前の親父が…さくらと付き合ってたから死んだみたいな言い方しやがって」
震える言葉はこちらにも伝わる
本当の事を言ったってわかりもしないくせに
「お前がそんなやつだったなんて!」
「はーいそこまでそこまで」
突然水木が俺から受話器を取り上げた
「なんだよ!今俺は小波と」
「小波だって動揺してるに決まってるだろ?それに小波にだって言えない事くらいあるさ」
水木は大人なだけあって才葉をあっという間に落ち着かせた
「…じゃあなんで…さくらは…」
「ふむ…なら病院で会ってみるといいさ」「ちょっ!水木」唐突な提案にあためくが、水木はそんな俺を思いきり睨みたてる
「お前は事の大事さがわかってない、ガキだからとかってレベルですまねーことだ……そして止めなかった俺にも責任がある、保護者としてな…」
「…」なんにも言い返せなかった、その通りだから
「じゃあそう言うことで明日そちらにうかがうことにする」
才葉も落ち着いたからか「わかりました」と了承
そして翌日俺は病院へと向かった
道中水木に
「お前一言目はまず謝れ、ごたくを並べるのはそれからだ、それと…どんな姿であっても決して目を背けんなよ、お前の責任だからな」水木は才葉の父親のところへいったらしい
「……」病院の前では不機嫌そうな顔をした才葉が立っている
「今ここで俺がお前にどうこう言う気はないよ、さくらに会ってこい」
ナースさんの言うがままに俺は病院の奥の「リハビリテーション」の部屋にいく
そこで俺は水木が言ったような
「目を背けたくなるようなもの」を見てしまった
紫の髪の毛にさくらんぼのアクセサリー
姿は間違いなくさくらだった
しかし
「……ぁ…」まるで別人だった
逃げ出しそうになるが水木との言葉を思い出してなんとか思いとどまる
「さ…くら?さくら?」
恐る恐る話しかけてみるが
反応は帰ってこない
こちらを見るそぶりすらない
もう言葉はこれしかでなかった
「ごめん!さくら!俺のせいで!俺の…せいで…ごめんなさい!ごめんなさい!謝って済むことじゃないなんて分かってる!でもこれしか言えないから…俺は…」
するとさくらがこちらを向いた
「こ…なみ…く…ん…」
「さくら?さくら…?」
「ご…めん…ね?私の…せ…で…」
希望は絶望へと変わる
さくらにとってもはや俺は謝罪の対象でしかなく
俺もさくらに謝ることしかできないのだ
「こなみ…くんの、おと…さん…わたしの…せいでっ…」
目には明かりも点っていない
ただひたすら「小波」に謝るだけ
「ウワアアアああ!!!!!!」
「こなみ…く」
「落ち着け!小波!」
そこに水木が駆けつけてくれた
「さくらが…さくらが」
「…こんなの耐えられねえよな…すまなかった」
「うっ…うっ…うあああ…」


…………………
水木は親父さんに洗いざらいを説明してしまったらしい
そして才葉もそれを知ることとなり
それからお互いぎこちなくなって
話す機会も少なくなっていった
さくらは時々見舞いにいくたび謝ってくる
だが俺はそれから逃げない
またいつか元のさくらが戻るまで
俺の贖罪は続くのだから