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冬の海 夕暮れ 愛の言葉」(2006/02/03 (金) 13:38:34) の最新版変更点

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「さむっ!」 車から出た成歩堂が身震いした。 「風が強いな」 運転席のドアを閉めながら御剣が眉を顰める。 「誰もいないなー」 「当たり前だろう。真冬にこんな所へ来るのは相当の馬鹿だな」 「怒ってるの?」 成歩堂が手を差し出す。 「・・・・・・寒いだけだ」 その手を御剣が握り。二人は歩き出した。 目の前には砂浜。そして、曇り空を映して鈍く光る海があった。 しばらくの間、言葉も無く波打ち際をぶらつく。時刻は確か三時を過ぎた頃だと思ったが、二月とはいえまだ日は短い。太陽は西へ傾き始めていた。波の音が、二人を包むように海岸に響く。カモメがあちこちで群れを作り、風をやり過ごそうとしていた。 「寒いね」 いつものグレーのダッフルコートを着た成歩堂が呟いた。 「そうだな」 御剣は仕事に着ていくトレンチコートではなく、黒いピーコートを着ていた。くすんだ背景にマフラーの赤が鮮やかだった。 「雪、降るかな・・・・・・」 「気温が三度以下にならないと雪は降らないぞ」 「今、何度?」 「知らん」 寒さが二人を無口にする。会話が途絶え、白い息が海風に流されていく。 久しぶりに二人の休日が重なった日の午後、海に行きたいと言い出したのは成歩堂だった。 「大学の二回生の時以来かなぁ。いつも家で過ごすのもアレだろ?」 たまにはドライブしようよ。 御剣は面倒だと思った。「アレ」とはどれのことだ、とも思った。 しかし、断る理由も無い。一人でわくわくしだした成歩堂を見て、仕方なく車を出すことにしたのだった。 足に伝わる柔らかな砂の感触が心地良い。 成歩堂は、視線だけを動かして御剣の顔を覗いた。俯きながら歩く彼の口元に、僅かな笑みを見つける。 (来て良かったな) そう思った。 ここ最近、余程多忙だったのか、御剣はストレスが溜まっているようだった。お互いが忙しければ会えることは滅多に無いが、電話やメールの様子からトゲトゲした空気を感じた。 行き場の無い苛立ちを自分に向けられるのは構わないが、ストレスは本人を蝕む。御剣がどうにかなってしまう前に気分転換をさせようと思い、ドライブを提案したのだった。 ふいに、眩しい光が二人の目に飛び込んできた。太陽が海に沈もうとしている。 「結構歩いたな」 御剣が後ろを振り返って言った。赤いスポーツカーが小さく見えている。 「そろそろ戻るか」 「・・・・・・そうだね」 日没と同時に気温が急激に下がってきて、名残惜しそうに成歩堂が言った。 二人はもと来た道をたどり始めた。 「寒いな」 御剣が呟く。 「そうだね」 闇が濃くなっていく。車に着く頃には完全に日が暮れるだろう。 「御剣」 呼びかけと同時に、右手に力が加わるのを感じた。振り返らずに返事だけをする。 「なんだ」 「大好きだよ」 思わず成歩堂の顔を見た。優しさに溢れた笑顔。黒目がちの瞳が真っ直ぐに見返してくる。 御剣は、彼の左手を握り返した。 「知っている」 薄闇の中なら、顔が赤くなったのはばれないだろう。 夕暮れの砂浜で、繋いだ手が暖かかった。
「さむっ!」 車から出た成歩堂が身震いした。 「風が強いな」 運転席のドアを閉めながら御剣が眉を顰める。 「誰もいないなー」 「当たり前だろう。真冬にこんな所へ来るのは相当の馬鹿だな」 「怒ってるの?」 成歩堂が手を差し出す。 「・・・・・・寒いだけだ」 その手を御剣が握り。二人は歩き出した。 目の前には砂浜。そして、曇り空を映して鈍く光る海があった。 しばらくの間、言葉も無く波打ち際をぶらつく。時刻は確か三時を過ぎた頃だと思ったが、二月とはいえまだ日は短い。太陽は西へ傾き始めていた。波の音が、二人を包むように海岸に響く。カモメがあちこちで群れを作り、風をやり過ごそうとしていた。 「寒いね」 いつものグレーのダッフルコートを着た成歩堂が呟いた。 「そうだな」 御剣は仕事に着ていくトレンチコートではなく、黒いピーコートを着ていた。くすんだ背景にマフラーの赤が鮮やかだった。 「雪、降るかな・・・・・・」 「気温が三度以下にならないと雪は降らないぞ」 「今、何度?」 「知らん」 寒さが二人を無口にする。会話が途絶え、白い息が海風に流されていく。 久しぶりに二人の休日が重なった日の午後、海に行きたいと言い出したのは成歩堂だった。 「大学の二回生の時以来かなぁ。いつも家で過ごすのもアレだろ?」 たまにはドライブしようよ。 御剣は面倒だと思った。「アレ」とはどれのことだ、とも思った。 しかし、断る理由も無い。一人でわくわくしだした成歩堂を見て、仕方なく車を出すことにしたのだった。 足に伝わる柔らかな砂の感触が心地良い。 成歩堂は、視線だけを動かして御剣の顔を覗いた。俯きながら歩く彼の口元に、僅かな笑みを見つける。 (来て良かったな) そう思った。 ここ最近、余程多忙だったのか、御剣はストレスが溜まっているようだった。お互いが忙しければ会えることは滅多に無いが、電話やメールの様子からトゲトゲした空気を感じた。 行き場の無い苛立ちを自分に向けられるのは構わないが、ストレスは本人を蝕む。御剣がどうにかなってしまう前に気分転換をさせようと思い、ドライブを提案したのだった。 ふいに、眩しい光が二人の目に飛び込んできた。太陽が海に沈もうとしている。 「結構歩いたな」 御剣が後ろを振り返って言った。赤いスポーツカーが小さく見えている。 「そろそろ戻るか」 「・・・・・・そうだね」 日没と同時に気温が急激に下がってきて、名残惜しそうに成歩堂が言った。 二人はもと来た道をたどり始めた。 「寒いな」 御剣が呟く。 「そうだね」 闇が濃くなっていく。車に着く頃には完全に日が暮れるだろう。 「御剣」 呼びかけと同時に、右手に力が加わるのを感じた。振り返らずに返事だけをする。 「なんだ」 「大好きだよ」 思わず成歩堂の顔を見た。優しさに溢れた笑顔。黒目がちの瞳が真っ直ぐに見返してくる。 御剣は、彼の左手を握り返した。 「知っている」 薄闇の中なら、顔が赤くなったのはばれないだろう。 夕暮れの砂浜で、繋いだ手が暖かかった。 [[戻る>逆転裁判]]

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