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「あ。幸せ捕まえたー!」
真宵が何もない空間で両手をパチンと合わせた。
穏やかな春の午後、「成歩堂法律事務所」は平和だった。
「何やってんの?真宵ちゃん」
デスクの書類から目を離さずに成歩堂が声をかける。
「幸せを集めてるの」
「・・・・・・ふうん」
意味が分からない。
「最近はナルホドくんのお陰で大量だよ」
「は?何でぼく?」
「だってナルホドくん、溜め息ついてばっかだもん」
「え」
顔を上げると、真宵が上目遣いににやりと笑った。
「無意識なの?年だねぇ」
「うるさいな。まだ二十五だよ」
冷めかけたコーヒーを口に運ぶ。隣で真宵が「悩みなら真宵お姉さんに・・・・・・」とか言い出したのには「はいはい」と御座なりな返事をする。
真宵の「幸せ集め」とやらは恐らく、「溜め息をつくと幸せが逃げる」というあれに由来するものだろう。
それにしても、
(そんなに溜め息ばっかりなのか・・・・・・?)
悩み事といえば心当たりがなくもない。無論、真宵に相談するつもりは無いが。
(相手が男じゃなぁ・・・・・・)
はぁ、と溜め息が出て、「あっ」と二人同時に気づく。
「いやぁナルホドくん、悪いねぇ」
あはは、と真宵が笑った。勿論、両手のパチンも忘れない。その動作によって幸せを捕まえたことになるのだろう。
「あたし向こうで掃除してるから、用があったら呼んでね」
パタパタと軽い足取りが所長室から出て行くのを確認して、成歩堂はもう一度溜め息をつく。
窓の外に目をやると、向かいのホテルが見える。あのボーイはどんな広報活動をしたのか、「ホテル・バンドー」は相変わらず盛況だ。
ふと、先の事件を思い出す。
「ホテル・バンドー」の新館で一人の俳優が殺害され、その実行犯によって真宵が誘拐された事件。
実行犯の逮捕には至らなかったものの、殺人の依頼人は有罪になり、真宵は無事に保護され、一応は解決した。
それは恐らく、御剣怜侍がいたからこそ。
(その御剣がなぁ・・・・・・)
成歩堂は頭を抱える。御剣こそ、彼の溜め息の原因だった。


自分はどうやら御剣怜侍のことが好きらしい。
そのことに気づいたのはついこの間のことだ。なんとなくぼんやりして、気がつくと御剣のことを考えている。
睡眠時間は確保できているのか、とか、きちんと食事は摂っているのか、とか、花粉症は大丈夫なんだろうか、とか。
最初はそんな自分に苛々した。確かに御剣は大切な友人ではあるが私生活の心配までしてやる必要は無い。
けれども、どうしても彼を意識の外に追いやることが出来なかった。
そして、それが恋愛感情なんだと分かった瞬間、妙に納得した自分がいた。
同性同士ということに戸惑いはあったが嫌悪感は無かった。
御剣がどう思うかは知らないが。
つまり、問題はそこだ。
成歩堂の知る限り、御剣は性格に多少の問題はあるものの、それ以外はいたって正常な男だ。顔も収入もいいから女の方が放っておかないだろうし、御剣だって女がいいに決まっている。
きっと自分は想いを告げないまま、彼との友情を続けていけばいい。結果がどうであれ、今の関係に波風を立てるのは得策ではないだろう。そのうちに、この恋心も思い出になる、と成歩堂は考えた。
どうせ彼も自分も忙しくて、たまに会うといえば法廷で、私生活では何の接点も無くて。少しの時間があればすぐに気持ちの整理ができるだろう。
そう思って、一瞬、愛しい姿を思い出して、成歩堂は無意識に溜め息をこぼした。









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