決起前夜

    

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最近、足繁く通うようになった店から出たところで、成歩堂に会った。
「あれ、御剣?どうしたんだよ、こんな所で」
今、一番会いたくない人物だ。
「別に……。夕食を済ませたところだ」
「へぇ。ここってさ、よく雑誌とかに載るレストランだよね。お前も来るのかぁ」
「何だ?」
「いや、高そうだな、と思って」
そう言って、へらり、と笑う。御剣は、その笑顔から目を逸らした。
いつでも真っ直ぐに投げかけられる視線。今まで彼が扱った事件の真相と同じように自分の心も暴かれてしまいそうで、御剣は居たたまれなくなる。
「御剣?顔色悪いけど大丈夫か?」
「あ、ああ……。平気だ」
努めて平静に。そんな余裕など、無いのに。
「この後、用事があるので……失礼する」
「うん……?あんまり無理するなよ」
「巨大なお世話だ」
捨てるように言って踵を返す。
ここから駅まで歩いて五分強。それから電車で四駅。三十分あれば家に帰れる。
トランクの鍵を壊された車は修理に出しているが、積み込まれたのが死体とあっては恐らくもう乗ることは無いだろう。
本当は用事なんて無い。とにかくあの場から離れたいがための嘘だった。
救われたからといって、受け入れたわけではない。むしろ、それまで確かだと信じていた足場を突き崩された気分だ。居場所を奪われて、追い詰められた。
成歩堂が何を考えているのかは知らないが、御剣にとって彼の存在は邪魔でしかない。前を見るしか能のない正義感に、してやれることなど一つも無い。十五年前の友情ごっこの続きなど御免被る。
彼は、鬱陶しい。


コートとスーツの上着、タイをリビングのソファに脱ぎ捨てる。シャツのボタンを上から二つ片手で外しながら開けた冷蔵庫の中身は、数本のワインとミネラルウォーター。自炊する気になれなくて、外食か店屋物で済ませる日が続いている。
ペットボトルからそのまま、水を体内に流し込む。冷えた液体が胃に落ちていくのを感じて、息をついた。
顔色が悪い、と言われた。
無理するな、と言われた。
その声が、その瞳が、胸を締め付ける。彼を思い出す度に。呼吸すら侭ならないほど。
力が抜けて床に座り込む。心臓を鷲掴みにされる気分とはきっとこういうものだ、と御剣は思った。
「成歩堂……」
小さく名前を呼ぶことが、こんなに苦しい。
体の奥に灯った火は、日毎に大きくなっていく。ひたすら彼を求めて。
こんな感情はいらない。だから彼も邪魔でしかない。
出来ることは拒絶だけ。
それなのに。そのはずなのに。どうして手を差し伸べて欲しいと、思ってしまうのだろう。あの腕に、包まれたいと願うのだろう。いつのまにか渇望になって。
受け入れたくないのは彼の気持ちではなく、自分自身の気持ち。
こんな感情はいらない。だから彼が鬱陶しい。
求めることは出来ない。
それが彼の望みでないことは知っている。
世の中も自分も矛盾だらけで、立っているのも嫌になる。彼だけが、見つめるべきものを知っているのも嫌になる。それに縋りたいと思ってしまう自分も嫌になる。
弱くて、小さな存在に何が出来るのだろう。何の意味があるのだろう。見たかったのはこんなことじゃなくて。知りたかったのはこんな想いじゃなくて。
ただ、信じて進むべき道。
それすら見失いそうな自分では、彼と対等な場所には居られない。


こんな自分はいらない。







<後書>
暗いです。うじうじです。
でも、いじけ期の御剣はこれくらいカビ臭くて丁度良いと思ってるんですけど。。。
その分、成歩堂とくっついてからは幸せにしてあげたい。
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