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色―イロゴト―事

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rainsound

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愛しい相手を抱きしめるということは、その存在との物理的に一番近い距離を手に入れるということだ。
抱きしめて、それでもまだ残る隙間を埋めていくようにキスをした。
御剣の額、御剣のこめかみ、御剣の鼻の頭、御剣の唇、喉、首筋、鎖骨、胸、脇腹、臍、腰、太腿、膝、脹脛、くるぶし、爪先。全身に。丁寧に。時々、うっとりするような溜息が降って来て、御剣が僕のことを感じてくれてるんだと思うと嬉しくなる。
だけど、どうしてだろう。


それでも君を遠くに感じるのは。




色―イロゴト―事




繋がると、いつもどこか欠けている君の、その欠けている部分を埋めることが出来るような気がして僕は満足感を得る。それは暖かくて甘い何か蜜のようなものになって溶けてしまいそうな感覚だ。
何処までが僕で何処からが君なのか、混ざって分からなくなって、君の側より他に行く場所がなくなれば良いと思う。


「御剣……、苦しくない……?」
「大……丈夫、だ」
きっと半分は嘘だ。だって御剣は男なんだから無理をしてない筈が無い。だけど彼が僕を求めてくれるのも事実で。だから僕はせめてこれ以上苦しくないようにゆっくりと動き出す。御剣から甘い声が漏れる。
御剣の全てを知りたい。本当に僕を愛してくれているのか確かめたい。何度でも繰り返したい。曖昧にはしないで。誓えなくても、側にいて欲しい。
「御剣……」
名前を呼ぶと、閉じられていた目蓋がうっすら開いて色素の薄い瞳が僅かに覗いた。僕の声に反応してくれたことが嬉しくて口付ける。背中に腕が回されて、さらに深く繋がる。
「ん……っ、なる、ほ……ど」
「うん……?」
「あ……成歩堂……っは、あ……!」
「……うん」
御剣が僕の名前を呼ぶのは、限界が近い証拠。うわ言の様に何度も、何度も。
その度に、僕の熱も昂ぶって開放を求める。
溶けて混ざって分からなくなって腐っていきたい。耳元で君の喘ぎ声が響いて、もう何もいらないとさえ思う。
「御剣……っ!」


好きなんだ。
側に居たいんだ。
全部欲しいんだ。
感じたいんだ。
君じゃなきゃダメなんだ。
僕だけじゃなきゃ嫌なんだ。
愛してるんだ。
愛してほしいんだ。


僕達には何の意味も持たない白濁より、君に注ぎたい気持ちが僕の中にはあるのに、こんなに近くにいてそれが届いたかどうか、どうして知ることが出来ないんだろう。
その一瞬に、二人が同じ気持ちでいればいいと、祈りにも似た切なさを君も味わっているんだろうか。
「御剣……大丈夫?」
「ん……」
まだ息の整わない体を少しだけ起こすと、御剣の吐き出したそれが僕達の間で白く糸を引く。弛緩した腕が滑り落ちると同時に、背中に鈍い疼きを感じた。御剣の、多分、無意識の癖。次に会えるのは、この傷が消える頃。
「苦しかった?」
「いや……」
そう言って、君が僕にしか見せない顔で笑ったら、これが覚めない夢であればいいのにと、いつも思うんだ。









<後書>
表現的にはぬるめですが、内容的には徹頭徹尾致しているので(笑)、制限つき。
幸せの中にも、ふと感じる切なさを表現できればいいなぁ、と。

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