ドライフラワー

    

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 寝室に入るなり、御剣はベッドに倒れこんだ。体が重い。今日の仕事自

体は然して忙しくも無かったが、日々の疲労は蓄積していく。一日、ゆっ

くり休養できる日が欲しかった。

 ふと、恋人のことを思い出す。休日の前の夜は彼と過ごすことになって

いた。幼馴染でもある、青い弁護士。彼の腕の中で迎える夜と朝は、御剣

にとって特別なものだった。強い信頼と深い愛情を感じると、何もかもが

大丈夫だと思えた。



 成歩堂龍一という人間を欲するようになったのはいつのことからだった

か。十五年の月日を経て再会して、最初に抱いたのは強い拒絶だった。

 御剣の裁判における無敗の経歴に傷をつけた男。自分に会う為に弁護士

になったという、その不純極まりない動機も気に喰わなかった。

 そして何より真っ直ぐに自分を見つめる、その視線に耐えられなかっ

た。信念に彩られたそれは、容赦なく御剣を射抜いた。

 しかし信念というならば、御剣には成歩堂に負い目を感じることなど無

いはずだった。弁護士になる夢を捨てたことに後悔はしていないし、検事

という仕事にも誇りを持っている。自分の歩むべき道は、自分が一番知っ

ている。

(自分を信じていれば、彼に対して恥じることなど一つも無い)

 そう思っていた。

 それなのに何故、彼と向き合うことが出来ないのか。

 裁判に敗れることが怖いからではない。師は完璧を良しとしたが、実際

には、自分の主張が受け入れられないことなど誰もが一度は経験するし、

それは自分の糧になることだ。第一、裁判は真実を明らかにする場であ

り、被告人が無実ならば、その事実は認められて当然なのだ。

 そこまで考えて、御剣は思い至った。成歩堂と自分の信じるものの、何

が違うのか。

 彼が信じていたのは自分自身ではなく、彼の依頼人だったのだ。成歩堂

はしっかりと、仕事を続けていく理由を見つけていた。依頼人のために。そして

真実のために・・・・・・。御剣はそのことを身を持って知った。

 成歩堂への拒絶が、信頼へと変わった。



 御剣は寝返りをうった。恋人の優しい手のひらを思い浮かべながら眠り

を待つ。

 あれから再び一年の空白を挟み、その後、ようやく彼らは互いの気持ち

を確認しあうことが出来た。もっとも、二度目の再会の時は、御剣が拒絶

される側だったのだが。

 けれども、怯むことは無かった。御剣が成歩堂に抱く信頼を、彼にも理

解して欲しかった。そしてその方法を、その時の御剣は知っていた。

(人の心は変わるものだな・・・・・・)

 毛布の中で小さく苦笑する。

 あんなにも憎かった男が、今は世界で一番愛しい。

 そう、人の心は変るもので、それが生きていくということだ。

 けれど、と御剣は思う。この自分の愛情の一つくらい色褪せない気持ち

があっても、誰も咎めたりはしないだろう、と。









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