第四章(エヴィル)

(↑勢力図がバグったんでこっちを上げました。フリー版ですがシェア版のとmainbutaiを差し替えてます。)

8月、シュペテルクが孤立してから1ヶ月がたった。
シュペテルクはめっきり活気を失ってしまった。戦いを恐れた市民や商人たちが街を去っていったのだ。
残ったのはこの街に愛着を持つ一部の市民と、土地を離れることのできない農民。
そして、逆に流れ込んできたのは戦いで名を上げることを望む命知らずの傭兵たちだけだった。
武将たちは傭兵の編成や城壁の補強などで忙殺されていた。
シュペテルク周辺の城が攻撃されているとの報が入るがこの城を守るだけで手一杯だ。
ケスマルクから軍を送れない今、この城を空けるわけにはいかないのだ。
そうこうしているうちに東のローデンリヒトがメーダン軍によって陥落、西隣のゼニニはオルテンボルク軍に完全に包囲された。
刻々と悪化する状況の中で、将兵は妙な落ち着きを見せていた。諦めとはまた違ったものだった。

翌月、グリトラスの予言通り、ウェルハイトがジムリアに領土を差し出した。
ウェルハイトは再びジムリア国の貴族に名を連ねることになった。シュペテルクは直接ジムリアと境を接することになった。

 グリトラス「事ここに至っては他国に従属することも考えなくてはなるまい。」
 ヘサム「わが国もジムリア国の傘下に入るのですか。」
 グリトラス「ジムリア国はわが国と数代に渡って戦ってきた。我々の命は保障されても王はわからん。」
 ラスツェイル「となると頼るのはメーダンぐらいですね。」
 グリトラス「ああ。そろそろその準備をしなければな。」
 ヘサム「この城が攻められたら死守しますよね?」
 グリトラス「もちろんだ。従属はあくまでも王のお命をお守りし、無駄な犠牲を回避するためだ。王がそれをお望みにならぬなら我々はここを枕に討ち死にするまでだ。」

グリトラスが保身のために従属を考えているわけではないことがわかってヘサムは安心した。
10月、一つの朗報が入った。アットドルの近衛部隊が反乱軍の一つ、フリントレン軍の本拠を落とし、3都市に波及していた彼の反乱を鎮圧したのである。
この調子で彼が国土を平定してくれれば、シュペテルクも孤立状態から脱し、ジムリア軍と渡り合えるようになるかもしれない。
一筋の希望の光が、シュペテルクの人々の上に差した。

しかし翌月、ついにジムリア軍がシュペテルクに侵攻してきたとの報せが入った。

 グリトラス「ついに来たか。」
 ラスツェイル「なんとしてもこの城を守りぬかなければ。」
 グリトラス「城門を閉めろ。射手はそれぞれの配置につけ。大釜に水を入れろ。」

ヘサムは東門の総大将に任命された。敵の攻撃がもっとも激しいであろう南門はグリトラスが自ら指揮を取る。
ヘサムは東門の装備を確認して回った。城壁からせり出した半円形の塔には小型の投石器が備え付けられている。
また、門の上では大釜が熱湯をたぎらせている。この熱湯を門を破ろうとする敵に浴びせるのだ。
武器や食料は十分にあった。グリトラスが普段から備蓄していたからだ。3年は篭城できるだろう。
確認が終わったころ、ジムリア軍が進撃してくるのが見えた。その数ざっと3万5千。対する城兵は1万2千ほど。この城を守るには十分だ。
敵将はイムリア・フリントニ。一流ではないが、頭の切れる男らしい。将兵からは余り信頼されていないようだ。
敵は矢の届かない距離でいったん停止し、陣地を築いた。城の周りを陣地で囲むつもりらしい。
その日は敵は攻撃してこなかった。兵を休ませるつもりらしい。こちらもうかつに打って出るわけには行かない。フリントニは何を考えているかわからない。
翌日、敵の攻城兵器が到着した。フリントニはこれを待っていたようだ。早速組み立てが始まる。
城壁を破壊するための投石器や破城槌、城壁を登るための梯子、城兵を射殺すための弩などが完成していく。
こちらの矢玉はそこまで届かないのでヘサムたちはそれを眺めているほかはない。昼過ぎに組み立てが終わると、敵の投石器による攻撃が始まった。
フリントニは慎重な男のようで、城壁が崩れるまでは突入しないらしい。投石器を操る者以外、敵兵は陣から出てこない。
ヘサムたちの投石器は城壁の上にあるので敵よりも射程が長く、敵の投石器を狙うことができる。
石が数個直撃すると、投石器は壊れてしまう。ジムリア軍はこの日、投石器の半数を失った。
翌日、フリントニは投石器のみによる攻撃をあきらめ、破城槌と歩兵による攻撃を開始した。
ヘサムが守る東門にも破城槌が向かってくる。メーメッツ兵も火矢で応戦するが、皮革で覆われた破城槌には無力だった。
投石器は城壁に迫る敵兵を撃つのに手一杯だ。破城槌が門に到達した。ヘサムはすかさず大釜の熱湯をかけるよう指示した。
すぐに大釜から熱湯がすさまじい勢いで注がれる。敵兵は全身に熱湯を浴びて倒れていく。
結局フリントニは城壁を突破することができず、その日は陣に兵を戻した。投石器による攻撃を恐れたのか、操り手のいない攻城兵器はその場に放置された。
夜の間にグリトラスは敵が残した攻城兵器を残らず城内に運び入れさせた。城兵にも犠牲者が数十人出ていたが、敵の犠牲者はその数倍はいるだろう。
その日から同じようなことが1ヶ月ほど続いた。

そしてある朝、ヘサムが仮眠から覚めると、敵がいなくなっていた。グリトラスによると、夜陰にまぎれて撤退したらしい。
追撃しなかったのは、兵力の補充がままならない時に無駄な犠牲を払わないためだという。
ヘサムたちは再び城壁の修理をしなければならない。しかし戦っているよりははるかに楽だ。何より、夜はしっかり寝ることができる。
この月、テッセシスク軍がジムリア領に侵入し、撃退されたとの情報が入った。その戦いでは旧ローダン国の武将たちが活躍したらしい。
彼らがメーメッツに向けられれば、先月とは比べ物にならない苦しい戦いを強いられるだろう。
やがて、シュペテルクにも新年が訪れた。ヘサムもグリトラスの元に挨拶に向かった。すると、見慣れない若者がラスツェイルに伴われて来ていた。
そういえば、ラスツェイルにはニコラウスという息子がいた。父に似ず、武芸に優れた人物らしい。
しばらくしてグリトラスが広間に出てくると、雑談をしていた諸将はすぐに静まり、グリトラスの方へ向き直った。

 グリトラス「ニコラウス・ラスツェイル、前へ出よ。」
 ニコラウス「はい。」
 グリトラス「貴殿の成人を祝うとともに、貴殿にメーメッツ軍少将の位を与える。」
 ニコラウス「光栄に存じます。」

少将というと、ヘサムと同じだ。ヘサムもニコラウスには、その父よりも親しみを持てる気がした。
その翌週だった。諸将を愕然とさせる通達がケスマルクから届いたのは。
メーメッツ王が、ジムリア国への降伏を決定したというのだ。誤報ではないらしい。

 グリトラス「私には何の相談もなかったが、王にはそれなりの考えがあったのだろう。」
 ラスツェイル「閣下、これにはアットドル大将の思惑が働いているのでは?」
 グリトラス「むやみに人を疑うのはやめろ。今我々が内紛を起こせばこれを口実に王も含め、我々全員が処刑されるぞ。」
 ヘサム「シュペテルクもジムリア軍に明け渡すのですか。」
 グリトラス「ああ。残念だがそうなる。王の命には代えられん。」

数日後、ジムリア国の使者がやってきた。

 使者「貴国の降伏に伴い、シュペテルク城の管理権も我々に委譲される。この書類に署名していただこう。」
 グリトラス「ああ。これでいいのだな。」

グリトラスの目に涙が浮かんでいるのが見えた。署名を済ませると、中将以上の将校は2階級の降格となることが発表された。
やがて、ヘサムたちはジムリア国の首都、ブレーノフへの移動を命令された。
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最終更新:2008年04月07日 21:09
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