第六章(エヴィル)

5月、ジムリアは軍を起こし、メーダン国へ侵攻した。グリトラスがこの戦いに従軍するらしい。
翌週、戦いの結果が伝えられた。グリトラス隊は敵の偽退にはまったが立て直し、本陣への突撃を敢行、見事、勝利したという。
なお、グリトラスはこの戦いの功績により上級大将に昇進した。
この日、ジムローニから出陣命令が出た。オルテンスタン国の首都、エーインハイトに攻め込むらしい。

 ジムローニ「おい、グリトラスとタヴシュ、お前らが行け。メーメッツ人の力を見てやるよ。」
 ヘサム「はい。指揮官はどなたでしょう?」
 ジムローニ「総大将はゲブハルト・パトマイヤー中将、参謀がフィリップ・アットドル少将だったかな。」
 ヘサム「アットドル殿が参謀ですか?」
 ジムローニ「ああ。アットドルを知ってるのか?」
 ヘサム「はい。彼はメーメッツ国の近衛隊長でした。」
 ジムローニ「そうか。あとメーメッツの人間ではニコラウス・ラスツェイル少将っていうのもいたな。」
 ヘサム「ニコラウス殿も…そうですか。では、行ってまいります。」
 ジムローニ「エヴィル騎兵の力を見せつけて来いよ!」

こうしてヘサムとオットーはウェスベルク城を出た。

 オットー「私も父上に負けぬ活躍をしてみせるぞ。」
 ヘサム「オットー殿、あせりは禁物です。」
 オットー「ああ、分かっているさ。」

5日後、ヘサムたちは首都ブレーノフに到着した。

今回の作戦指揮官、パトマイヤー中将は武芸に優れてはいるが、学はなく、往々にして人に利用されやすい男らしい。

 オットー「オットー・グリトラス少将、ならびにヘサム・タヴシュ少将、ただいま到着いたしました。」
 パトマイヤー「よし。では参謀から作戦の説明がある。よく聞いとけ。」
 アットドル「タヴシュ少将とラスツェイル少将のエヴィル騎兵は左翼に布陣し、敵の側面を衝け。グリトラス少将は中央に布陣し、敵の攻撃から本陣を守れ。」

アットドルが他の細かい指示を終えると、パトマイヤーは出陣の命令を出した。
パトマイヤー率いるジムリア軍9万は首都ブレーノフを出発し、オルテンスタン国首都、エーインハイトへ向かった。
国境を越えてしばらくすると、敵軍発見の報が入った。テオドール・オルテンスタン王自らが率いる軍勢9万がこちらへむかっているらしい。
オルテンスタン王は血気盛んな男で、年に一度家臣たちとともに大規模な狩りを行っているのは有名な話である。
参謀はトマス・ジークリン大将。政戦両略の老練な名将として知られている。彼は以前にも侵攻してきたジムリア軍を撃退したことがあり、油断は禁物だ。
両軍が布陣を終えると、戦場は不気味な静寂に包まれた。

 ヘサム「ニコラウス殿はこれが初陣だな。」
 ニコラウス「はい。父には無理をするなといわれていますが、正直なところ無理をしてでも功を立てたいと思っています。」
 ヘサム「功をあせるとろくなことがない。俺の初陣もそうだった。」

その時、攻撃開始を告げる角笛が鳴り響いた。ここに、後にいうエーインハイト会戦の火蓋が切られた。
ヘサム・ニコラウス隊は敵右翼を切り崩しにかかった。敵右翼最前線に布陣するのはフリードリヒ・ハノメッツ少将。叩き上げの老将である。

 ヘサム「ニコラウス殿、他の敵部隊を牽制してくれ。その間に俺はハノメッツ隊をつぶしてくる。」
 ニコラウス「了解しました。全員続け!敵を牽制するぞ!」
 ヘサム「よし、行くぞ!突っ込め!今までの訓練の成果を見せるのだ!」

騎兵隊が長い槍を揃えて突撃していき、ハノメッツ隊に接触する。突撃をまともに食らった敵兵が吹っ飛ぶ。
両部隊とも引き下がらず、死闘が繰り広げられる。そこへ伝令が駆けてきた。

 伝令「右翼、中央部隊苦戦。至急増援に向かうようにとのことです。」
 ヘサム「わかった。全軍いったん退け!」

ヘサム隊は敵の追撃を受けた。が、ニコラウス隊が敵の側面から援護突撃を敢行し、ハノメッツ隊を崩す。しかしそこへ敵の新手が増援に現れた。
ヘサムは隊を立て直すと、崩れかけたニコラウス隊の救援に向かった。ここから本陣までは遠すぎる。

 ヘサム「ニコラウス殿、中央の味方を救援せよ!ここは俺が食い止める!」
 ニコラウス「わかりました。全軍転進!本隊の増援に向かう!」

ヘサム隊の兵力はかなり消耗している。しかし士気は依然高いままだ。――まだ戦える。ヘサムはそう思った。
やがて再び伝令がやってきた。

 伝令「本隊敗走!各部隊撤退するようにとの命令です。ラスツェイル少将が殿を務めます。」
 ヘサム「了解。全軍撤退!」

ヘサム隊は全速力で駆けた。ヘサム自身も部隊の最後尾で追いすがる敵を切り伏せる。やがて敵の追撃は弱まり、ヘサムは無事にブレーノフに到着した。

城に戻ると、戦果報告があったが、そこにオットーの姿がなかった。

 ヘサム「パトマイヤー様、グリトラス少将は…」
 パトマイヤー「グリトラス少将は戦死した。」
 ヘサム「まさか…あのオットー殿が…」
 パトマイヤー「あいつは本隊を敵の猛攻から守り続けた。立派な死に様だったよ。」
 ヘサム「オットー殿…」

翌日、首都ブレーノフの神殿でオットーの葬儀が行われた。
グリトラスも含めた参列者全員が青い大きなX字の描かれた白衣を着ている。
これはエヴィルの侵略以前の乱世に現れた、「光王」セルギウス・マノリスの紋章で、彼は大陸人の間で武神として崇められており、ブルシー家はその子孫を名乗っている。

 神官「将軍カルロマン・グリトラスの甥にしてその養子、比類なき勇気の持ち主、オットー・グリトラスの葬儀をここに執り行う。」

神官が「セルギウスの書」を読み上げ、オットーの冥福と世界の平和をセルギウスに祈る。
グリトラス、ヘサムたち同僚、そしてかつてオットーの元で諜報網の構成員として働いた者たちが神官に従って祈りの言葉を唱和する。

 一同「オットー・グリトラスに死後も栄光あれ。輝ける武神セルギウス・マノリスよ、オットー・グリトラスを祝福し給え…」

やがて葬儀が終わり、参列者は三々五々帰っていく。

 グリトラス「惜しい人間を亡くしたものだ。彼は真の平和のために戦って死んだのだ。」
 ヘサム「計画はどうなるのでしょう?」
 グリトラス「続行する。この世界に真の平和が訪れるまで。私が死んだらお前たちが続けてくれ。私には時間がないがお前たちはまだ若い。」
 ヘサム「閣下はまだまだお若いですよ。」
 グリトラス「今月の戦いに出てから調子がいまひとつでな。」
 ヘサム「『病は気から』とも言います。」
 グリトラス「『病は気から』か…。わかった。もう弱音は吐かん。心配させてすまなかった。」
 召使「グリトラス様、神官様がお呼びです。」
 グリトラス「ああ、すぐ行く。タヴシュ、また会おう。」

ヘサムはその日はブレーノフの屋敷に泊まり、翌日ウェスベルクへの帰路についた。

今度から「主要人物」は載せずに、代わりにコメント欄をつけときます。質問とか要望とかあったらどうぞ。
  • いましたよアットルッツ。ヘサムの同僚でウェスベルクに配属されてます。できればこれから登場させたいと思ってます。 -- 作者 (2008-05-08 18:32:44)
  • 残念。戦死しました。これじゃ登場のさせようがないwww -- 作者 (2008-05-08 18:46:21)
  • \(^o^)/オワタ -- 中の人 (2008-05-08 21:53:09)
  • 愚かな管理人よ minatokuの神を崇めよ minatokuの神を畏れよ minatokuの神を奉れよ -- 田中謙介 (2023-06-28 00:35:08)
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最終更新:2023年06月28日 00:35
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