第八章(エヴィル)

ウェスベルクには、ローダンをはじめジムローニの反乱に参加する武将たちが兵を引き連れて続々と入城し、反乱軍の兵力は40万を数えた。
しかし、ウェスベルクとその周辺のみという領土では、その兵力を維持することはできない。一刻も早くジムリア領を切り取り、兵力を養えるだけの領土を得ることが必要だった。
そんな時、ジムリア軍が早速反乱鎮圧のための兵を向けてきたとの情報が入った。
それを受けてローダンをはじめとする4人の元帥やルーベサムソンが22万の兵力で迎撃に向かった。
ジムリア軍の指揮官はローフェン宰相。メーメッツ公とグリトラス上級大将らがそれに従う。
ジムローニ軍は地の利を活かして戦い、10万という多大な被害を出しながらもメーメッツ公と12万の兵を葬り去った。
しかし、この犠牲は戦いを続けるには少し大きすぎた。ジムローニは諸将の反対をよそに、ジムリアとの停戦条約に合意した。
ジムリアの狙いは兵力を維持できないジムローニ軍の弱体化にあるというのに…。
ところが、諸将やジムリアの考えは外れた。ジムローニの人望により、安い給料に愛想を尽かして去っていく兵士があまりいなかったのだ。

2ヵ月後、ジムリア軍がメーダン国に侵攻した。この戦いは消耗戦となり、戦力でわずかに勝るメーダン軍が辛勝した。
結果、メーダン国とジムリア国の間には和平条約が結ばれ、ジムリア軍とジムローニ軍の条約は破棄された。
また、この戦いではジムリア軍のウェルハイト公が戦死した一方で、グリトラス上級大将が元帥に昇進した。
翌103年1月、ジムリアは進まない統一事業に苛立っていた。
軍の重鎮ジムローニの反乱、オルテンボルク軍の予想以上の抵抗、メーダン・オルテンスタン連合軍との泥沼の戦い…。
さらに、多くの重臣を戦いで失い、国境付近は政情が安定せず、続く戦争により兵力も100万を割った。
ジムローニの反乱に対して考えどおりエヴィルの殺戮を行おうにも国民には不満が募っており、不可能だ。
それでもなおジムリアは周辺国に侵攻しては消耗戦を繰り返し、そのたびに敗北ないしは引き分けであった。
6月、ローフェン宰相の脅迫によりオルテンボルク国がついにジムリア国の傘下に入った。
秋、オルテンスタン国とメーダン国の関係に亀裂が走り、それを好機と見たジムリアはメーダン国に軍を進めた。
メーダン国は善戦したものの、国境を大きく後退させることとなった。
104年4月、ついにメーダン国が崩れた。相次ぐ戦いで優秀な武将を失っていたうえに、領土を南北に分断されたのだ。滅亡は時間の問題と思われた。
ジムリア軍は大陸東北部に猛攻を開始し、メーダン国やブルシー国旧領の三国の領土を蹂躙し始めた。
ジムリア軍の圧倒的な物量の前に東北部の地図は次々と塗り替えられていった。
翌105年にはどの国も疲弊し、ジムリア軍に対抗できなくなっていた。
3月、ジークシスク大公国がジムリア国の傘下に入る。その翌週、メーダン国が首都フルデリンを制圧され、滅亡。メーダン王、市中引き回しの上斬首。
4月、ジークシスク侯国がジムリア国に滅ぼされる。アマデウス・ジークシスク侯、父のヨハン大公の手で斬首。
6月、バートシー伯国滅亡。バートシー伯、磔刑。
こうしてジムリア軍は東北部の平定を完了した。大陸に残る抵抗勢力は、オルテンスタン国とジムローニ軍のみとなった。

10月、ジムリア軍がオルテンスタン国首都エーインハイトに22万の大軍で侵攻し、迎撃したオルテンスタン王以下4万の軍勢は玉砕、オルテンスタン国は滅亡した。
これによりジムリア国の大陸平定は目前となった。
年が明けた2月、ジムリア軍が侵攻して来たとの報せが入った。

 ジムローニ「よし、俺が行って奴らの出鼻をへし折ってやる。」

ジムローニ自らが率いる9万の軍勢がウェスベルクを出発した。対するジムリア軍は19万。ヘサムはジムローニの武運を祈りながら城の守りを固めていた。
ウェスベルク城は山上にあり、二重の城壁を持っている。市街地や農村は山麓にある。
ヘサムは弓隊を城壁の上に並ばせ、歩兵隊には丸太や岩を落とす準備をさせた。また、市民や農民から義勇兵を募り、防戦に当たらせる。
夕方になると、使者が駆け込んできた。背中には数本の矢が立っているが、幸い軽傷のようだ。
使者「申し上げます!わが軍大敗、四元帥をはじめ、公以外の武将は全員討ち死になさいました。」
城内の諸将はショックに打たれたが、すぐに防戦の準備に戻った。ぐずぐずしているわけにはいかないのだ。
やがてジムローニと生存者が城に戻ってきた。ジムローニは腕に傷を負っていた。

 ジムローニ「くそったれ!俺としたことが…。防戦だ!なんとしてもこの城を守るんだ!」

しばらくするとジムリア軍が勝ち戦の余勢を駆って山を上ってきた。

 ヘサム「弓隊、狙え…、放て!」

矢が敵兵に降り注ぐが、矢をしのいだ敵は城壁に取り付こうと上ってくる。

 ヘサム「まだだ…、よし!綱を切れ!」

轟音とともに岩や丸太が敵兵を巻き込んで転がっていく。
敵軍は一旦怯んだが、数を頼りに攻め寄せる。
やがて梯子が城壁に取り付けられた。城兵は梯子を外そうとするが、うまくいかない。
梯子を上る敵に大きな石や矢を浴びせ、撃退するが、敵兵は仲間の死体を乗り越えて向かってくる。
数時間に渡る攻防の後、ヘサムとは反対側の城壁にジムリア軍の旗が翻った。

 ヘサム「総員退避!内城壁へ!」

内城壁の櫓からヘサム自身も矢を放つ。すでに外城壁は敵軍に占拠され、内城壁にも敵が迫りつつある。

 ヘサム「射て!矢がなくなるまで射つんだ!」

敵軍は丸太を使って城門を破ろうとしている。

 ヘサム「熱湯を浴びせろ!」

敵兵の頭上に熱湯が降り注ぎ、敵はもがき苦しんでいるが、それでも敵は雲霞のごとく押し寄せる。
破壊音とともについに城門が破れた。

 ヘサム「くそっ、こうなったら討ち死にするまで!」

ヘサムは城壁を降り、乱戦の中に突入した。
敵兵の突き出す槍を盾で防ぎつつ、剣を振るう。
突然、ジムローニの絶叫が聞こえた。

 ジムローニ「ええい、これまでか…。見ろ!これが猛将ジムローニの最期だ!」

ジムローニは深手を負っていた。震える手で短剣を抜き、喉に突き立てた。

 ヘサム「ああっ、ジムローニ様!」

ジムローニの死を知った城内の武将たちは抵抗をやめ、そのまま捕らえられた。ヘサムも縛についた。

俘虜たちは、そのままジムリア国首都、ブレーノフへと連行された。

 ジムリア「ふっ、これが反逆者どもの成れの果てか。無様なものだ。」
 ヘサム「罵りたければ罵るがいい。俺たちのしたことは間違っていない。」
 ジムリア「ふん、目障りだ。殺せ。」
 執行人「お覚悟召されよ。」

ヘサムは目を閉じ、深呼吸をした。
大刀がうなりを上げて落ちかかる。
流れる意識の中で、ヘサムの脳裏に今までに出会った人々が群像のように浮かんだ。
グリトラス、ルーベサムソン、オットー、ゲリク、ジムリア、ニコラウス、ジムローニ…
鈍い衝撃とともに、ヘサムの意識は途切れた。23歳だった。

  • この後どうしましょう?誰かの視点で続けるか、このままエピローグか…。私はどちらでも構いません、というか迷ってます。 -- 作者 (2008-06-15 19:18:42)
  • シナリオ1はジムリアが統一するのが決定的でしたからね。お疲れ様です。今後は…統一後に何か面白いことがあったら続けてもいいとは思いますがそうでないのならエピローグでいいのでは? -- 名無しさん (2008-06-15 21:08:40)
  • なるほど、ではもう少し動かしてみます。ジムリアは暗殺やクーデターで死ぬ可能性も高いですし。ご意見ありがとうございます! -- 作者 (2008-06-15 21:10:35)
  • 愚かな管理人よ minatokuの神を崇めよ minatokuの神を畏れよ minatokuの神を奉れよ -- 田中謙介 (2023-06-28 00:37:42)
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最終更新:2023年06月28日 00:37
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