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コントラスト」(2008/07/09 (水) 22:42:01) の最新版変更点

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*コントラスト 引き戸に嵌められた磨り硝子から漏れるぼんやりとした陽光が、旧式の家屋の一室を照らしている。 そこに座り込み、何事かを思案するように黙ったままの男女。 美しい顔立ちにどこか獰猛な雰囲気を纏った女―――城光は疎ましげに腹部の包帯を見つめる。 研究所で出会った男に付けられた傷。不死生物である彼女にとって致命傷にはなり得ないが、じくりとした痛みが体を苛む。 幸いなるかな、民家にあった救急箱で出来る限りの手当てはしたものの、完治には時間が掛かるだろう。 驚異的な生命力を持つアンデッドも、首輪の制限の元では人間の治癒能力と大した差はない。 光は赤い唇を噛み締めた。つくづく、あの男に北條の身柄を取られたのが悔やまれる。 圧倒的な堅さに目視出来ないほどの素早さを兼ね備え、自分と息吹鬼、そして傍らの男を相手にしてあしらって見せた。 現状唯一とも言える、忌々しい首輪を外す方法を断たれた事に苛立ちを覚えながら、同じくありもので手当てを施している男を見やる。 男は手際よく包帯を巻き終えると、まっすぐに光の目を見つめ返して口を開いた。 「……それで、貴方はこれからどうするんですか?」 「聞いてどうする。お前こそ何か目的はあるのか」 「俺は、研究所にいたあいつを倒します。 俺たちの代わりに捕まったあの人を助けないと」 黒い重たげな前髪から覗く双眸は、先ほどあれだけ痛めつけられたにも関わらず強い決意を宿している。 その事が、僅かに光にこの男へ興味を抱かせた。 「言っただろう、無茶は止せ。今の私たちが向かっても勝てるとは思えん」 この事実を口に出す事は光の矜持を少なからず傷つけた。 だが、放送に聞くブレイドの死、北條の言葉、そして何よりも対峙した研究所の男の強さに認めざるを得ない。 「ありがとうございます……それでも、行かなくちゃいけないんです。もう、誰の笑顔も失いたくないから…」 微笑んでみせる男。―――その笑みは、全身に負った怪我の痛みに少々歪んでいた。 光は嘆息する。そんな状態で、一体どうやって戦えるというのか。 自分の強さを過信するのは愚かな事だ。その力に引き摺られて自らを失うのならなおさら。 ふと、光の脳裏に少年の姿が浮かぶ。闇の力と本来の自分の持つ甘さに惑わされる弱い存在。 だが、自分の弱さを自覚してなお、向かっていくのはもっと愚かだ。 「……なら、少なくとももう少し休んでいく事だ。あの様子なら、すぐに殺されるということもあるまい」 そんな光の言葉に、男は優しさを感じて笑みをいっそう深くした。 「そういえば、自己紹介がまだでしたね。俺は五代雄介。いつもは名刺があるんですけど……」 「名刺? そんなものはどうでもいい。 ……城光だ」 ひとなつっこく告げる五代に対して、ぶっきらぼうに返した光はおもむろに自分のデイパックを引き寄せて中身をあさり始めた。 つかみ出した乾パンを少し日に焼けた畳の上に放り出し、溜息をつく光を見て五代が尋ねる。 「いらないんですか?」 「こんなものでは腹の足しにもならん。お前にやる。私は他の餌を探す」 そう言って立ち上がろうとした光の目に、デイパックから覗く白地に金の浮き彫りが施されたカードデッキ―――ファムのデッキが映った。 儚げな佇まいの少女、長田結花の顔が思い出される。イブキと共に脱出はしたが、彼女の変身手段はここにある。 ―――最も、あのようにかよわいただの人間が、変身した所で戦えるとは思えないが。 「お前、私にどうするつもりかと尋ねたな」 「え? はい」 「私は研究所に居た他の人間を探しに行く」 唐突な光の言葉に五代が目をしばたたく。光は目線をデッキに注いだまま言った。 単独行動は危険だと知った光は、おそらくまだ研究所周辺にいるだろう二人を捜索する事を選んだ。 結花はともかく、イブキは多少なりとも戦力になる。 それだけが理由ではない。光は縋るような結花の態度に我知らず庇護欲を抱いていた。 「じゃあ、俺も一緒に探しますよ。二人一緒の方が危険が少ないでしょう?」 申し出る五代に、勝手にしろと言わんばかりに立ち上がる光。 「あ、食べ物探すんですか?俺も……」 「お前は休んでいろ」 ぴしゃりとそう言い捨てて、光は部屋を出て行った。 ※※※ 光の背中が見えなくなって、五代は部屋に一人残された。 研究所で行われていた戦闘に思わず加勢したが、少女を庇い戦う光はやはり優しい心の持ち主だった。 虎に似た異形の姿に変化した事には少し驚いたものの、こうして出会ったばかりの自分にも口は悪いが労わりの言葉を掛けてくれる。 自分を助けてくれた彼女の力になりたい。五代はそう思っていた。 ふと、投げ出されたままの光のデイパックに目が止まる。口が開いたままのそれ。中身が僅かに見える。 五代ははっと目を見開き、デイパックにいざり寄った。 見えたものは、少し大ぶりのカード。 繊細な縁取りの中に、意匠化された様々な生き物が描かれたもの。剣崎が持っていたカードと同じ種類の物だ。 思わず手に取り眺める。二枚あるうちの一枚には、青と金に輝く甲虫様のものが描かれており、嫌が応にも剣崎を思い出させた。 「これは……」 「何をしている?」 頭上から降ってきた声に五代が弾かれたように顔を上げる。 ビーフジャーキーの袋を抱えた光の鋭い眼差しが五代を見下ろしていた。 手に持っているカードに気が付いた光が、目を細めて尋ねる。 「お前、それを知っているのか?」 「……はい、俺と……一緒にいた、剣崎さんが持っていたものと同じ類のカードです……」 「剣崎……ブレイドか」 「!? 剣崎さんと知り合いなんですか!?」 今度は五代が勢い込んで光に尋ね返す。光が僅かに頷くと、五代は俯き、カードを握り締めて呟く。 「剣崎さんは……俺と、殺し合いを止めるために戦っていたんです。笑顔を守るために……それが『仮面ライダー』なんだって。  でも、俺が……あの人を殺してしまった……俺の力が足りないせいで……!!」 切れ切れに、低く呟く五代の言葉に光は眉をひそめる。 五代はそれを、剣崎を守れなかった自分への憤りだと解釈した。自分のしてしまった事を悔やむのは簡単だ。それでも。 「それでも、俺はあの人の思いを無駄にしたくない! だから、辛くても、戦い抜くって決めたんです」 再び顔を上げ、強い決意を込めてそう告げる五代。悲しみと痛みの果てに導き出した自分の道。 不屈の精神が瞳に輝く。 「―――どういう事だ?」 だが、その瞳をまっすぐ見つめたままの光の声は、あくまで冷ややかだった。 「ブレイドは『白い怪物』と共にこの殺し合いに乗っている、と私は聞いた」 光の言葉が耳を打った瞬間、自分の心が凍りつく音がしたような気がした。 こめかみがズキリと痛み、見開いた目が乾く。どくん、どくん、という胸の鼓動がやけに大きく聞こえる。 剣崎さんが、殺し合いに乗っているだって? 「……一体、誰がそんな事を」 自分でも驚く程硬い、冷たい声だった。光はそんな五代の様子を訝しみながらも答えを返す。 「研究所に来る時に私に着いて来た、結花という人間だ。そいつも、誰か他の者から話を聞いたと言っていた」 「そう……ですか」 五代は拳を握り締める。動揺を治めようと目をきつく閉じるが、瞼の裏の闇の中に、『白い怪物』―――ダグバが浮かぶ。 ダグバと対峙した時に流れ込んできたイメージを続けざまに思い出し、五代は戦慄する。 黒い姿のクウガ。それが一体何を意味するのかは、今の彼にはわからない。 ただ、その闇の色が自分の心を侵食していくような感覚がひたすらに恐ろしかった。 夜空の元、ダグバの蹂躙と剣崎の死を前に感じた絶望と憎悪が五代の胸に蘇る。 『仮面ライダー』として人を守るために戦い果てた剣崎が、『白い怪物』と組んで殺し合いに乗っている。 何者かが故意に、そんな情報を流したのだとしたら。 その『誰か』に対して湧き上がる、様々な負の感情を歯を食いしばる事で押さえつけ、不信がる光に無理に笑顔を作ってみせる。 「……剣崎さんは、そんな事はしていない。剣崎さんと俺は、その『白い怪物』と戦っていたんです。どこかで、何か誤解があったに違いありません」 目を伏せたまま、それでもきっぱりと断言する五代。光は何も言わずに座り、持っていた袋を開ける。 ばりっ、という乾いた音が部屋に響いた。 ※※※ 五代はそれきり黙ったまま、背を向けて手元のカードを見つめている。 無論、光は額面通りに五代が剣崎を殺したなどとは思っていない。 彼女が不信に思ったのは、こちらで手に入れた剣崎の情報と、五代の語る話が全く異なっているという点だった。 光はアンデッドである。BOARDの仮面ライダーとは敵対関係にある。 そのため、ブレイドである剣崎の事を特に知っている訳ではなく、多少の違和感を感じつつも光は結花からの情報を受け入れていた。 先の発言も、五代を頭から疑ってのことではない。 結花は動揺していたし、彼女に剣崎の事を伝えたその人物も、こういう状況なら偽りの情報を流し漁夫の利を得んとする事も充分ありえる。 だからこそ、実際に剣崎と行動を共にしていたという五代へと純粋な疑問を投げかけただけの事だった。 対する五代の反応。力及ばず剣崎を守れなかった自分と、殺した相手への怒りにも見える。 だが、それだけではない。光は、五代がそれを不自然な形で心に閉じ込めている事を察していた。 (何かに怯えている……?) 怯えているとしたら、剣崎を殺したという『白い怪物』に? ―――違う。先ほど見せた強い決意は嘘ではない。ならば、一体何に? しばし五代の背中を見ていた光だったが、考えても仕方がないと目線を外した。 五代の言う『白い怪物』。ブレイドを下したというその強さは気がかりではあったが、現在の問題ではない。 今なすべき事は、出来うる限り早くイブキと結花と合流し、戦力を増強する事。 そして、研究所にいる男を倒して北條を奪還する。首輪を外して、このゲームから脱出するために。 「光さん、そろそろ行きましょう―――俺はもう大丈夫です」 光の思惑が伝わったのか、五代が口を開く。その顔にはまた何時ものように、頼もしげな笑顔が浮かんでいた。 笑顔の下で自分を殺し、望まぬ戦いに身を投じる男と、戦うために存在する誇り高い獣の化身。 二人の交わりが何をもたらすのかは、まだ誰にも解らない。 **状態表 【城光@仮面ライダー剣】 【1日目 午前】 【現在地:B-7 研究所西の民家】 [時間軸]:40話、トライアルについて知った後 [状態]:膝などに軽い擦り傷。腹部に裂傷(中程度:応急手当済み)。 [装備]:カードデッキ(ファム) [道具]:基本支給品・トランシーバー・ラウズカード(スペードQ/K) [思考・状況] 基本行動方針:このゲームから脱出し、金居とは正統なバトルファイトで決着をつける。 1:長田結花・イブキとの合流を目指す。 2:首輪解除にもっとも近い道を選ぶ。五代と共に、北條の奪還。 3:他の参加者とは必要以上に関わる気はない。邪魔ならば排除するが基本的に放置。 4:剣崎の死、北條の言葉、乃木との戦闘から首輪制限下における単独行動の危険性を認識。 5:五代の態度に僅かに興味。 【五代雄介@仮面ライダークウガ】 【1日目 午前】 【現在地:B-7 研究所西の民家】 [時間軸]:33話「連携」終了後 [状態]:全身打撲、負傷度大(応急手当済み)、疲労中程度。小程度の動揺。 [装備]:警棒@現実、コルトパイソン、ホンダ・XR250(バイク@現実) [道具]:警察手帳(一条薫) [思考・状況] 基本行動方針:絶対殺し合いを止め、みんなの笑顔を守る 1:北條(名前は知らない)を救出。 2:城光に協力。そのため、共に長田結花・イブキと合流する。 3:白い未確認生命体(アルビノジョーカー)を倒す。 4:金のクウガになれなかったことに疑問。 5:ダグバを倒す。 6:長田結花の剣崎への誤解を解きたい。 ※第四回放送まで、ライジングフォームには変身不能 ※ペガサスフォームの超感覚の効果エリアは1マス以内のみです。また、射撃範囲は数百メートル以内に限られます。 ※ドラゴン、ペガサス、タイタンフォームには変身可能。ただし物質変換できるものは鉄の棒、拳銃など「現実に即したもの」のみで、サソードヤイバーやドレイクグリップなどは変換不能。 ※葦原涼の「未確認生命体事件」の終結を聞き、時間軸のずれに疑問を持ちました。 |060:[[僅かばかりの不信]]|投下順|062:[[泣く少年]]| |060:[[僅かばかりの不信]]|時系列順|063:[[休息]]| |050:[[指し手二人(後編)]]|[[城光]]|000:[[後の作品]]| |050:[[指し手二人(後編)]]|[[五代雄介]]|000:[[後の作品]]|
*コントラスト 引き戸に嵌められた磨り硝子から漏れるぼんやりとした陽光が、旧式の家屋の一室を照らしている。 そこに座り込み、何事かを思案するように黙ったままの男女。 美しい顔立ちにどこか獰猛な雰囲気を纏った女―――城光は疎ましげに腹部の包帯を見つめる。 研究所で出会った男に付けられた傷。不死生物である彼女にとって致命傷にはなり得ないが、じくりとした痛みが体を苛む。 幸いなるかな、民家にあった救急箱で出来る限りの手当てはしたものの、完治には時間が掛かるだろう。 驚異的な生命力を持つアンデッドも、首輪の制限の元では人間の治癒能力と大した差はない。 光は赤い唇を噛み締めた。つくづく、あの男に北條の身柄を取られたのが悔やまれる。 圧倒的な堅さに目視出来ないほどの素早さを兼ね備え、自分と息吹鬼、そして傍らの男を相手にしてあしらって見せた。 現状唯一とも言える、忌々しい首輪を外す方法を断たれた事に苛立ちを覚えながら、同じくありもので手当てを施している男を見やる。 男は手際よく包帯を巻き終えると、まっすぐに光の目を見つめ返して口を開いた。 「……それで、貴方はこれからどうするんですか?」 「聞いてどうする。お前こそ何か目的はあるのか」 「俺は、研究所にいたあいつを倒します。 俺たちの代わりに捕まったあの人を助けないと」 黒い重たげな前髪から覗く双眸は、先ほどあれだけ痛めつけられたにも関わらず強い決意を宿している。 その事が、僅かに光にこの男へ興味を抱かせた。 「言っただろう、無茶は止せ。今の私たちが向かっても勝てるとは思えん」 この事実を口に出す事は光の矜持を少なからず傷つけた。 だが、放送に聞くブレイドの死、北條の言葉、そして何よりも対峙した研究所の男の強さに認めざるを得ない。 「ありがとうございます……それでも、行かなくちゃいけないんです。もう、誰の笑顔も失いたくないから…」 微笑んでみせる男。―――その笑みは、全身に負った怪我の痛みに少々歪んでいた。 光は嘆息する。そんな状態で、一体どうやって戦えるというのか。 自分の強さを過信するのは愚かな事だ。その力に引き摺られて自らを失うのならなおさら。 ふと、光の脳裏に少年の姿が浮かぶ。闇の力と本来の自分の持つ甘さに惑わされる弱い存在。 だが、自分の弱さを自覚してなお、向かっていくのはもっと愚かだ。 「……なら、少なくとももう少し休んでいく事だ。あの様子なら、すぐに殺されるということもあるまい」 そんな光の言葉に、男は優しさを感じて笑みをいっそう深くした。 「そういえば、自己紹介がまだでしたね。俺は五代雄介。いつもは名刺があるんですけど……」 「名刺? そんなものはどうでもいい。 ……城光だ」 ひとなつっこく告げる五代に対して、ぶっきらぼうに返した光はおもむろに自分のデイパックを引き寄せて中身をあさり始めた。 つかみ出した乾パンを少し日に焼けた畳の上に放り出し、溜息をつく光を見て五代が尋ねる。 「いらないんですか?」 「こんなものでは腹の足しにもならん。お前にやる。私は他の餌を探す」 そう言って立ち上がろうとした光の目に、デイパックから覗く白地に金の浮き彫りが施されたカードデッキ―――ファムのデッキが映った。 儚げな佇まいの少女、長田結花の顔が思い出される。イブキと共に脱出はしたが、彼女の変身手段はここにある。 ―――最も、あのようにかよわいただの人間が、変身した所で戦えるとは思えないが。 「お前、私にどうするつもりかと尋ねたな」 「え? はい」 「私は研究所に居た他の人間を探しに行く」 唐突な光の言葉に五代が目をしばたたく。光は目線をデッキに注いだまま言った。 単独行動は危険だと知った光は、おそらくまだ研究所周辺にいるだろう二人を捜索する事を選んだ。 結花はともかく、イブキは多少なりとも戦力になる。 それだけが理由ではない。光は縋るような結花の態度に我知らず庇護欲を抱いていた。 「じゃあ、俺も一緒に探しますよ。二人一緒の方が危険が少ないでしょう?」 申し出る五代に、勝手にしろと言わんばかりに立ち上がる光。 「あ、食べ物探すんですか?俺も……」 「お前は休んでいろ」 ぴしゃりとそう言い捨てて、光は部屋を出て行った。 ※※※ 光の背中が見えなくなって、五代は部屋に一人残された。 研究所で行われていた戦闘に思わず加勢したが、少女を庇い戦う光はやはり優しい心の持ち主だった。 虎に似た異形の姿に変化した事には少し驚いたものの、こうして出会ったばかりの自分にも口は悪いが労わりの言葉を掛けてくれる。 自分を助けてくれた彼女の力になりたい。五代はそう思っていた。 ふと、投げ出されたままの光のデイパックに目が止まる。口が開いたままのそれ。中身が僅かに見える。 五代ははっと目を見開き、デイパックにいざり寄った。 見えたものは、少し大ぶりのカード。 繊細な縁取りの中に、意匠化された様々な生き物が描かれたもの。剣崎が持っていたカードと同じ種類の物だ。 思わず手に取り眺める。二枚あるうちの一枚には、青と金に輝く甲虫様のものが描かれており、嫌が応にも剣崎を思い出させた。 「これは……」 「何をしている?」 頭上から降ってきた声に五代が弾かれたように顔を上げる。 ビーフジャーキーの袋を抱えた光の鋭い眼差しが五代を見下ろしていた。 手に持っているカードに気が付いた光が、目を細めて尋ねる。 「お前、それを知っているのか?」 「……はい、俺と……一緒にいた、剣崎さんが持っていたものと同じ類のカードです……」 「剣崎……ブレイドか」 「!? 剣崎さんと知り合いなんですか!?」 今度は五代が勢い込んで光に尋ね返す。光が僅かに頷くと、五代は俯き、カードを握り締めて呟く。 「剣崎さんは……俺と、殺し合いを止めるために戦っていたんです。笑顔を守るために……それが『仮面ライダー』なんだって。  でも、俺が……あの人を殺してしまった……俺の力が足りないせいで……!!」 切れ切れに、低く呟く五代の言葉に光は眉をひそめる。 五代はそれを、剣崎を守れなかった自分への憤りだと解釈した。自分のしてしまった事を悔やむのは簡単だ。それでも。 「それでも、俺はあの人の思いを無駄にしたくない! だから、辛くても、戦い抜くって決めたんです」 再び顔を上げ、強い決意を込めてそう告げる五代。悲しみと痛みの果てに導き出した自分の道。 不屈の精神が瞳に輝く。 「―――どういう事だ?」 だが、その瞳をまっすぐ見つめたままの光の声は、あくまで冷ややかだった。 「ブレイドは『白い怪物』と共にこの殺し合いに乗っている、と私は聞いた」 光の言葉が耳を打った瞬間、自分の心が凍りつく音がしたような気がした。 こめかみがズキリと痛み、見開いた目が乾く。どくん、どくん、という胸の鼓動がやけに大きく聞こえる。 剣崎さんが、殺し合いに乗っているだって? 「……一体、誰がそんな事を」 自分でも驚く程硬い、冷たい声だった。光はそんな五代の様子を訝しみながらも答えを返す。 「研究所に来る時に私に着いて来た、結花という人間だ。そいつも、誰か他の者から話を聞いたと言っていた」 「そう……ですか」 五代は拳を握り締める。動揺を治めようと目をきつく閉じるが、瞼の裏の闇の中に、『白い怪物』―――ダグバが浮かぶ。 ダグバと対峙した時に流れ込んできたイメージを続けざまに思い出し、五代は戦慄する。 黒い姿のクウガ。それが一体何を意味するのかは、今の彼にはわからない。 ただ、その闇の色が自分の心を侵食していくような感覚がひたすらに恐ろしかった。 夜空の元、ダグバの蹂躙と剣崎の死を前に感じた絶望と憎悪が五代の胸に蘇る。 『仮面ライダー』として人を守るために戦い果てた剣崎が、『白い怪物』と組んで殺し合いに乗っている。 何者かが故意に、そんな情報を流したのだとしたら。 その『誰か』に対して湧き上がる、様々な負の感情を歯を食いしばる事で押さえつけ、不信がる光に無理に笑顔を作ってみせる。 「……剣崎さんは、そんな事はしていない。剣崎さんと俺は、その『白い怪物』と戦っていたんです。どこかで、何か誤解があったに違いありません」 目を伏せたまま、それでもきっぱりと断言する五代。光は何も言わずに座り、持っていた袋を開ける。 ばりっ、という乾いた音が部屋に響いた。 ※※※ 五代はそれきり黙ったまま、背を向けて手元のカードを見つめている。 無論、光は額面通りに五代が剣崎を殺したなどとは思っていない。 彼女が不信に思ったのは、こちらで手に入れた剣崎の情報と、五代の語る話が全く異なっているという点だった。 光はアンデッドである。BOARDの仮面ライダーとは敵対関係にある。 そのため、ブレイドである剣崎の事を特に知っている訳ではなく、多少の違和感を感じつつも光は結花からの情報を受け入れていた。 先の発言も、五代を頭から疑ってのことではない。 結花は動揺していたし、彼女に剣崎の事を伝えたその人物も、こういう状況なら偽りの情報を流し漁夫の利を得んとする事も充分ありえる。 だからこそ、実際に剣崎と行動を共にしていたという五代へと純粋な疑問を投げかけただけの事だった。 対する五代の反応。力及ばず剣崎を守れなかった自分と、殺した相手への怒りにも見える。 だが、それだけではない。光は、五代がそれを不自然な形で心に閉じ込めている事を察していた。 (何かに怯えている……?) 怯えているとしたら、剣崎を殺したという『白い怪物』に? ―――違う。先ほど見せた強い決意は嘘ではない。ならば、一体何に? しばし五代の背中を見ていた光だったが、考えても仕方がないと目線を外した。 五代の言う『白い怪物』。ブレイドを下したというその強さは気がかりではあったが、現在の問題ではない。 今なすべき事は、出来うる限り早くイブキと結花と合流し、戦力を増強する事。 そして、研究所にいる男を倒して北條を奪還する。首輪を外して、このゲームから脱出するために。 「光さん、そろそろ行きましょう―――俺はもう大丈夫です」 光の思惑が伝わったのか、五代が口を開く。その顔にはまた何時ものように、頼もしげな笑顔が浮かんでいた。 笑顔の下で自分を殺し、望まぬ戦いに身を投じる男と、戦うために存在する誇り高い獣の化身。 二人の交わりが何をもたらすのかは、まだ誰にも解らない。 **状態表 【城光@仮面ライダー剣】 【1日目 午前】 【現在地:B-7 研究所西の民家】 [時間軸]:40話、トライアルについて知った後 [状態]:膝などに軽い擦り傷。腹部に裂傷(中程度:応急手当済み)。 [装備]:カードデッキ(ファム) [道具]:基本支給品・トランシーバー・ラウズカード(スペードQ/K) [思考・状況] 基本行動方針:このゲームから脱出し、金居とは正統なバトルファイトで決着をつける。 1:長田結花・イブキとの合流を目指す。 2:首輪解除にもっとも近い道を選ぶ。五代と共に、北條の奪還。 3:他の参加者とは必要以上に関わる気はない。邪魔ならば排除するが基本的に放置。 4:剣崎の死、北條の言葉、乃木との戦闘から首輪制限下における単独行動の危険性を認識。 5:五代の態度に僅かに興味。 【五代雄介@仮面ライダークウガ】 【1日目 午前】 【現在地:B-7 研究所西の民家】 [時間軸]:33話「連携」終了後 [状態]:全身打撲、負傷度大(応急手当済み)、疲労中程度。小程度の動揺。 [装備]:警棒@現実、コルトパイソン、ホンダ・XR250(バイク@現実) [道具]:警察手帳(一条薫) [思考・状況] 基本行動方針:絶対殺し合いを止め、みんなの笑顔を守る 1:北條(名前は知らない)を救出。 2:城光に協力。そのため、共に長田結花・イブキと合流する。 3:白い未確認生命体(アルビノジョーカー)を倒す。 4:金のクウガになれなかったことに疑問。 5:ダグバを倒す。 6:長田結花の剣崎への誤解を解きたい。 ※第四回放送まで、ライジングフォームには変身不能 ※ペガサスフォームの超感覚の効果エリアは1マス以内のみです。また、射撃範囲は数百メートル以内に限られます。 ※ドラゴン、ペガサス、タイタンフォームには変身可能。ただし物質変換できるものは鉄の棒、拳銃など「現実に即したもの」のみで、サソードヤイバーやドレイクグリップなどは変換不能。 ※葦原涼の「未確認生命体事件」の終結を聞き、時間軸のずれに疑問を持ちました。 |060:[[僅かばかりの不信]]|投下順|062:[[泣く少年]]| |060:[[僅かばかりの不信]]|時系列順|063:[[休息]]| |050:[[指し手二人(後編)]]|[[城光]]|066:[[リング・オブ・ローズ]]| |050:[[指し手二人(後編)]]|[[五代雄介]]|066:[[リング・オブ・ローズ]]|

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