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*restart  ――空を仰いだ双眼に飛び込んで来た日光の強さに、橘朔也はポケットから思わず黒光りするサングラスを再び取り出した。  ゾル大佐との余りに辛い別れから一時間超。僅かな時間ながら彼と歩んで来た道程を橘が一心に引き返してきたのは、彼の「回れ右」から続く最後の号令を守ると共に、取り返しのつかない過ちを侵した自分と明確に袂を分かちたい、という願望があったからだ。  G-4エリアの住宅街を通過しながら、G-3エリアの端にある住宅…いや、住宅跡を橘は臨む。  橘が現空間を「仮想現実」と判断したこの地も、戦闘の痕を色濃く残しており、彼に一息つくことを許さない。  それを感じ取ったからだろうか――瓦礫に向けられていた両目が、ふと西へ滑る。影が視界の外から、隅へ、やがては中央へ。過程を通して、視覚はそれを「塔」と呼ばれる、或いはそれに準ずる建造物と認識した。 「大佐……あなたが残してくれたこの命、俺は決して無駄にしない。絶対に生き抜いて、戦いを止めて見せる……」  そう遠くは無いと判断し、「塔」へ向けて移動を開始。勿論、周囲への警戒も怠らない。変身に詳細不明の制限が掛けられている以上、戦闘は何としても回避しなければならないという考えだ。  彼に犬死にすることは許されない。それを自覚している――させてもらったからには、戦い抜かなければならないのだから―― ◆ 「放送局…………か」  言葉ではこう言い表したが、「塔」が放送局の一部であるという予想を俺は予めつけていた。G-3の一角から視界に捉えられる範囲で、塔が存在して違和感が無い施設は放送局をおいて他には存在していない。  入口の向かい側にはご丁寧なことに駅が設置されている。てっきり水族館、ジャンクション、大学のみに駅が存在し、電車で繋いでいるものとばかり考えていただけに、嬉しい誤算だ。  水族館とこの地点の距離を考慮する。早くも潰されたF-7――禁止エリアとの間にも駅が存在することは容易に推測できる。発着時間さえ把握しておけば、有事の際に役立つのは間違いない。  俺は次の瞬間に、心做しか軽くなった両足を振り上げて、駅の時刻表を確認する為駆け出していた。目的の達成には二分も要さない。百秒も経った頃には余勢を駆り、放送局の入口へと向けられた爪先の姿があった。  いつに無く自動ドアの開閉が遅く感じるのは――俺が平常時より速く動いているからか? ……だとすれば、それは何故なのだろうか? 疑問は短時間の間に連鎖し、俺の意識へと解答を求める。  危うく両肩と荷物をドアに引っ掛けてしまうのではないか、というタイミングでくぐり抜けると同時に、安堵が全身を駆け抜ける。……成る程、これか――  この感覚を欲していたのだ、と俺はようやく自覚した。大佐との別れを終えてから、単独行動の危険性をより強く感じ始めている。 しかし……無意識とはいえ、安直に施設の内外を境界線として緊張を解いた自分に嫌気がさす。もしも他の参加者がこのロビーに居て、それが危険人物だったなら――。  ……考えたくも無い結果が待っていたであろうことは想像に難くない。幸いにも気配は感じられず、今回ばかりは自分の運に感謝せざるを得ないだろう。  一瞬の安息に別れを告げつつ、ギャレンバックルにカテゴリー・エースをセットする。バックルと自身の態度で、形だけでも臨戦態勢にあることを示しておく……気配を絶って潜伏している参加者の存在を否定不可能な現状、牽制にはなる。  本当ならレバーを引きたいところだが、制限でオリハルコン・ゲートが出現しない様な事態に陥れば、本末転倒も良いところだ。丸腰です、と証明するに等しい。  体裁を整えたところで、ロビー隅に佇むソファに腰掛ける。仮想現実という考えに変わって、これから俺は何を指針とすべきか……決定しなければならない。  この角度は室内に対する死角が実質0で、過剰な警戒を避けて思考するのにはうってつけだ。  荷物を開く。まずは腹ごしらえ。準備に時間を要するレトルトカレーはパスし、支給品の乾パンを頬張ることにする。腹が減っては軍はできぬと言われる様に、空腹で活動は出来ない。  思考という行為は、俺と主催者との戦いが幕を開けることを意味する。高望みはしないが、出来るだけコンディションを整えた方が良いに越したことはないだろう。  それでも、俺はかみ砕かれたそれらが喉を通る度に、どうしようも無く物足りなくなる。保存性を優先した非常食を食べる者の宿命か……。近隣にコンビニがあることを知っているだけに、尚更そう感じてしまう。  必死で自制をしながら、引き続き食事を続け、それと両立可能な行動を開始する。  左手を遣わした先は先程同様荷物入れだ。ペットボトル一本と四つ折になった地図を取り出し、テーブル上に広げる。更にサングラスを外すと、鮮やかになった視界に対して反射的に瞬いた自身に、俺は頬を膨らませたままで苦笑した――。 ◆  まずは、俺が現状知り得る参加者達の敵味方を判断する。  他の参加者達との接触は、今後細心の注意を払う必要があるからだ。ゾル大佐の様に頼れる存在ならばともかく、数時間前の俺みたいな奴と組む状況になれば――  ――おそらく俺は、大佐と同じ道を進むことになるだろう。当然、状況がそれを許さないのは理解しているつもりだが……。  大佐を除いて最初に遭遇した参加者は四人。  約四十年前――もっとも、俺の世界の四十年前かは不明だが――に大佐が所属していた、詳細不明の組織「ショッカー」と対立する「仮面ライダー」、本郷猛に一文字隼人。これが四人の内、一人目と二人目だ。  「大佐」という階級が存在する規模の組織に二人で対抗していたというのだから、その実力は指折りなのだろうと推測される。少なくとも俺が敵う相手ではない。  更に敵である大佐の言葉を素直に受け入れ撤退したことを垣間見るに、対話が通用する相手だとも判断可能だ。接触を図る価値は十分にある……のだが、その前に一つ気になる点が残っている。  本郷、一文字の名が俺や大佐の名簿にはそれぞれ二人分ずつ記載されていたのだ。印刷ミスか? ……いや、違う。  こんな催しの為に、変身を制限する未知のテクノロジーを使用した首輪や、再新鋭の偵察衛星、ライダーに似た外見の私兵、異なる時代への干渉、揚句の果てには島一つを用意する組織がそんなミスを起こすとは考えにくい。  順当に行けば、大佐の言う通り同姓同名の別人と考えるのが一番説明を付けやすいか。その場合次の問題は、「放送で名前を呼ばれた一文字隼人」はどちらなのか――。  大佐は彼の知らない一文字の方だと断言していたが、彼の持つ先入観を廃除して考えた場合、俺は間違ってもそう言い切れ無い。……むしろ、死んだのは「仮面ライダー」である一文字なのではないか、とすら考える。  そう思わせる要素が事実存在していた。ライダー二人の撤退に同行したあの青年――大佐に続き遭遇した四人の内、三人目だ。  彼は四人目である金居――カテゴリー・キングに殺され掛けていた。……それも、「丘から突き落とす」などという回りくどいやり方で、だ。  少なくとも俺の時代のアンデッド――白いジョーカーの出現に伴う再解放で現れた奴ならば、その場で容赦無く殺していただろう。  つまり、あのカテゴリー・キングは全アンデッド封印が完了した2004年以前の時期から召喚されたと見るのが妥当という訳だ。  そして当時の奴は、俺の知る限り無駄な殺しは行わない。アンデッドが複数体参加している以上、主催者のルールに則って勝ち残ろうともしないだろう。一人帰ったとして、もう一体のアンデッドが掟破りの死を迎えた結果、バトルファイトがどう動くか――予想は不可能なのだから。  そのカテゴリー・キングが手に掛けようとした青年なら、危険人物だとしても不思議ではない。オマケに戦闘を行っていたライダー達は、俺同様戦闘後に変身制限が掛かっていた筈であり、戦闘の疲労と合わせて考慮すれば、あの時点では一般人にも対抗手段はある。  ただその場合、新たな疑問がいくつか生まれるのだが。最たるものは「より深く疲弊していた本郷は何故死ななかったのか」という疑問。これに俺は納得のいく答えを出せないでいる。  故に、この結論は次の放送で新たな死者が発表まで先送りにする。とりあえずは「本郷、一文字、金居とはコンタクトをとる余地有り」という確定事項のみを頭に叩き込む。  ……次に出会ったのはゾル大佐を手に掛けたあのライダーに、男女一名ずつの二人組だった。  「喰ってやる」などと語っていた男の変身したライダーは、変身プロセスを見た限りではBOARDのライダーシステムに近い。変身自体は個人の能力ではなく、ベルト固有の機能と見るべきか。 (ベルトを奪えば、無力化が可能かも知れないが……再会しないのが理想だな……)  生死の確認はしていないが、出来ることならば勝利したという結果であって欲しい。  もう一度戦っても、俺はおそらく勝てないだろう。それ程までの強さや威圧感を兼ね備えており、対話の余地は皆無と言って良いだろう。  対して、それに対抗したライダーだが……どうやら俺の認識に存在する「仮面ライダー」とは完全に別物らしい。  音声を発しない腰のベルト、肉体のみの限定的な「変身」、ギャレンやブレイドに近い複眼をあしらったマスク。  ゾル大佐は彼を「仮面ライダー」と呼ぶと共に、その存在に驚愕していた節がある。姿こそは大佐の知るショッカーのライダーでありながら、その存在に疑問を抱かざるを得ない。  となれば、やはり時間軸の違いか。1971年以前に消失した、もしくはゾル大佐の死亡後に開発された、など可能性は多岐に渡る。  ショッカーが開発したのであれば、その時期次第で協力体制を結べるかも知れない。「ゾル大佐」「死神博士」という二つの名前は、大きな武器になると見て間違いない。  そして、同行していた少女。あの状況で変身しなかったということは、純粋な一般人か、単に制限が掛かっていただけなのか……判断の材料が足りない。正に同行者次第か――。  これら島内で遭遇した参加者達に、既に面識を持っている志村と城光。城に関しては金居と同様の対応で問題ないだろう。  志村は……心配する必要もないだろう。禍木や三輪の、剣崎の意思を継いで戦ってくれる筈だ。最も信頼出来ると言っても過言では無い。 ◆  無性に喉が渇く。いつの間にか、飲み込み終えていた乾パンが原因か。渇きを潤すには、水を飲むしかない。  未だ未開閉のペットボトル。右手で掴むと、透き通った液体が静かに、次第に大きく波をうつ。  その様子は、必死で島から抜け出そうと足掻く俺達参加者の様だ。  さしずめ水を封じ込めるボトルキャップ及び容器は、首輪と禁止エリアに例えられるか。そしてボトルの開け閉めを意のままにすることが出来る俺は、主催者といったところだ。  栓が開かなければ、中身はそこに居座るしか無い。俺達もそうだ。首輪や禁止エリアの問題を解決出来なければ、島に留まるしか……それも、時間の経過と共に命は危険に曝されていくというのに。  窮地を脱するには、参加者、首輪、主催者とは異なる第四の要素を用いるべきだろう。……「水の入ったペットボトル」で例えるならば、水と栓の間に存在する少量の空気。  この島にも、必ずある。脱出の鍵となる、何らかの要素が。実際に存在していると認識できる材料がある。 ――間違っても首輪を外してあげよう、なんて考えちゃ……駄目ですよ  首輪を外すのに最も有効な手立ては、言うまでもなく実物を調べることだろう。……そして、実物を最も容易に、手を汚さず入手する手段は、死者から拝借することだ。主催者はそれをするな、と牽制を仕掛けている。  これが「調べられると困る」のか、「調べて貰わないと困る」のかは分からない。確実なのは、前者ならその時点で調べようとした者が、後者なら誘いに乗って調べようとする者が存在することだ。  そして首輪を調査するには、幾つか不可欠な条件がある。  「知恵」と「技術」……二つの要素が重ならなければ、調査を進めるのは不可能だ。それを理解している知恵者が向かうのは、技術を携えた施設だろう。  ――研究所、大学。単純に考えればこれらの施設が該当する。何れも列車の路線近く、会場北部と共通点も多い。  今後の行動方針として、俺はこれらの施設へ――――向かわない。  理由は――二つある。  一つ、危険過ぎる。……この戦い、全ての参加者が脱出を願っている訳では無い。先程の思考通り、殺し合いを楽しむ明らかな外道が存在している。  最後の一人となって、スマートブレインの技術を利用しようとする者も参加しているかも知れない。  彼らにとって都合が悪いのは、この催しが中止になること。少し頭を使えば、それを企てる者が研究所等に集まることは簡単に読み取れる。読み取られれば、連中は行動に移すだろう。  敵が進んで集まってくれるのだ、襲わない道理は……無い。そんな場所へ俺が一人で向かうのは、リスクが大きすぎる。  二つ、北部に位置していること。テーブル上に広げられた地図を見た限り、指定された会場の南と西は海で、東もジャンクションから南東は海。  0時の時点で禁止エリアへ侵入――会場外へ出た禍木と三輪を襲った尖兵達は、北部に配置されていると見て間違いない。  首輪の効果で灰化する運命にあった二人を何故襲いに来たのかは分からないが、あの様な敵が控える地域に、長居はしたくないというのが本音だ。    ならば……俺はどう行動するべきなのか? 決まっている。協力者を増やせば良いのだ。  北部における問題点も、信頼に足る仲間が複数存在していれば解決される。  今は戦力の拡張と、安全な拠点を見つけ出すことに全力を傾けることにする。妥協は許されない。  ラウズカードの収集も急務だ。スペードのカテゴリージャックを他人が所持していた以上、参加者を除く全てのアンデッドがカードに封印され、島に存在している可能性もある。  思い返せば、ゾル大佐は何を支給されたのだろうか。携帯を始めとする共通の道具しか見ていない気がする。もしかしたらカードの一枚や二枚、持っていたかも知れないのだが……。 ◆  橘は静かにデイパックを開く。既に見飽きた感のある基本支給品を次々と取り出してはテーブルに並べ、奥に潜む何かを取り出そうとする。  今になるまで個別の支給品を確認していなかったのは、ある意味では彼らしいと言えるかも知れない。  半日経ってようやく迎えた対面の時だが、橘は思わず溜息を漏らした。使い道が分からないのだ。  長方形の形をした支給品はいくら弄っても動くことはなく、かといってマニュアルが用意されている訳でもない。  ……数十分使い方を模索するが、一向に答えには辿り着けず、橘はストレスを募らせるばかりだ。  気付けば時計の針が二本重なろうかという所まで近づいている。橘は悟った――放送が、近いのだと。 **状態表 【橘朔也@仮面ライダー剣】 【1日目 現時刻:昼(放送直前)】 【現在地:G-3 放送局ロビー】 【時間軸】:Missing Ace世界(スパイダーUD封印直後) 【状態】:悲しみ。顔・背中・腹部に打撲。生きる決意 【装備】:ギャレンバックル 【道具】:基本支給品一式、ラウズカード(スペードJ、ダイヤ1~6、9)、レトルトカレー、ファイズブラスター 【思考・状況】 基本行動方針:ゾル大佐への責任をとり、主催者を打倒する為、生き残る。 1:信頼できる協力者、拠点に成り得る地点、ラウズカードの捜索。 2:北部(研究所・大学)には準備が整うまで近づかない。 3:死神博士にゾル大佐の遺言を伝える。 備考 ※自分の勘違いを見直しました。仮想現実と考えるのはやめることにしています。 ※牙王の生死を確認していませんが、基本的には死んだものとして考えてます。 ※自身の知り得る参加者について以下の様に位置づけています。(※付きに関しては名前を知りません) 味方(積極的に合流):志村純一 不明(接触の余地有):本郷猛、一文字隼人、金居、城光、死神博士、※一文字隼人(R)、※ハナ 危険(接触は避ける):※東條悟、※牙王 |078:[[零れ落ちる闇]]|投下順|080:[[出たぞ!恐怖の北崎さん]]| |078:[[零れ落ちる闇]]|時系列順|080:[[出たぞ!恐怖の北崎さん]]| |075:[[牙と軍人と輝く青年]]|[[橘朔也]]|000:[[後の作品]]|
*restart  ――空を仰いだ双眼に飛び込んで来た日光の強さに、橘朔也はポケットから思わず黒光りするサングラスを再び取り出した。  ゾル大佐との余りに辛い別れから一時間超。僅かな時間ながら彼と歩んで来た道程を橘が一心に引き返してきたのは、彼の「回れ右」から続く最後の号令を守ると共に、取り返しのつかない過ちを侵した自分と明確に袂を分かちたい、という願望があったからだ。  G-4エリアの住宅街を通過しながら、G-3エリアの端にある住宅…いや、住宅跡を橘は臨む。  橘が現空間を「仮想現実」と判断したこの地も、戦闘の痕を色濃く残しており、彼に一息つくことを許さない。  それを感じ取ったからだろうか――瓦礫に向けられていた両目が、ふと西へ滑る。影が視界の外から、隅へ、やがては中央へ。過程を通して、視覚はそれを「塔」と呼ばれる、或いはそれに準ずる建造物と認識した。 「大佐……あなたが残してくれたこの命、俺は決して無駄にしない。絶対に生き抜いて、戦いを止めて見せる……」  そう遠くは無いと判断し、「塔」へ向けて移動を開始。勿論、周囲への警戒も怠らない。変身に詳細不明の制限が掛けられている以上、戦闘は何としても回避しなければならないという考えだ。  彼に犬死にすることは許されない。それを自覚している――させてもらったからには、戦い抜かなければならないのだから―― ◆ 「放送局…………か」  言葉ではこう言い表したが、「塔」が放送局の一部であるという予想を俺は予めつけていた。G-3の一角から視界に捉えられる範囲で、塔が存在して違和感が無い施設は放送局をおいて他には存在していない。  入口の向かい側にはご丁寧なことに駅が設置されている。てっきり水族館、ジャンクション、大学のみに駅が存在し、電車で繋いでいるものとばかり考えていただけに、嬉しい誤算だ。  水族館とこの地点の距離を考慮する。早くも潰されたF-7――禁止エリアとの間にも駅が存在することは容易に推測できる。発着時間さえ把握しておけば、有事の際に役立つのは間違いない。  俺は次の瞬間に、心做しか軽くなった両足を振り上げて、駅の時刻表を確認する為駆け出していた。目的の達成には二分も要さない。百秒も経った頃には余勢を駆り、放送局の入口へと向けられた爪先の姿があった。  いつに無く自動ドアの開閉が遅く感じるのは――俺が平常時より速く動いているからか? ……だとすれば、それは何故なのだろうか? 疑問は短時間の間に連鎖し、俺の意識へと解答を求める。  危うく両肩と荷物をドアに引っ掛けてしまうのではないか、というタイミングでくぐり抜けると同時に、安堵が全身を駆け抜ける。……成る程、これか――  この感覚を欲していたのだ、と俺はようやく自覚した。大佐との別れを終えてから、単独行動の危険性をより強く感じ始めている。 しかし……無意識とはいえ、安直に施設の内外を境界線として緊張を解いた自分に嫌気がさす。もしも他の参加者がこのロビーに居て、それが危険人物だったなら――。  ……考えたくも無い結果が待っていたであろうことは想像に難くない。幸いにも気配は感じられず、今回ばかりは自分の運に感謝せざるを得ないだろう。  一瞬の安息に別れを告げつつ、ギャレンバックルにカテゴリー・エースをセットする。バックルと自身の態度で、形だけでも臨戦態勢にあることを示しておく……気配を絶って潜伏している参加者の存在を否定不可能な現状、牽制にはなる。  本当ならレバーを引きたいところだが、制限でオリハルコン・ゲートが出現しない様な事態に陥れば、本末転倒も良いところだ。丸腰です、と証明するに等しい。  体裁を整えたところで、ロビー隅に佇むソファに腰掛ける。仮想現実という考えに変わって、これから俺は何を指針とすべきか……決定しなければならない。  この角度は室内に対する死角が実質0で、過剰な警戒を避けて思考するのにはうってつけだ。  荷物を開く。まずは腹ごしらえ。準備に時間を要するレトルトカレーはパスし、支給品の乾パンを頬張ることにする。腹が減っては軍はできぬと言われる様に、空腹で活動は出来ない。  思考という行為は、俺と主催者との戦いが幕を開けることを意味する。高望みはしないが、出来るだけコンディションを整えた方が良いに越したことはないだろう。  それでも、俺はかみ砕かれたそれらが喉を通る度に、どうしようも無く物足りなくなる。保存性を優先した非常食を食べる者の宿命か……。近隣にコンビニがあることを知っているだけに、尚更そう感じてしまう。  必死で自制をしながら、引き続き食事を続け、それと両立可能な行動を開始する。  左手を遣わした先は先程同様荷物入れだ。ペットボトル一本と四つ折になった地図を取り出し、テーブル上に広げる。更にサングラスを外すと、鮮やかになった視界に対して反射的に瞬いた自身に、俺は頬を膨らませたままで苦笑した――。 ◆  まずは、俺が現状知り得る参加者達の敵味方を判断する。  他の参加者達との接触は、今後細心の注意を払う必要があるからだ。ゾル大佐の様に頼れる存在ならばともかく、数時間前の俺みたいな奴と組む状況になれば――  ――おそらく俺は、大佐と同じ道を進むことになるだろう。当然、状況がそれを許さないのは理解しているつもりだが……。  大佐を除いて最初に遭遇した参加者は四人。  約四十年前――もっとも、俺の世界の四十年前かは不明だが――に大佐が所属していた、詳細不明の組織「ショッカー」と対立する「仮面ライダー」、本郷猛に一文字隼人。これが四人の内、一人目と二人目だ。  「大佐」という階級が存在する規模の組織に二人で対抗していたというのだから、その実力は指折りなのだろうと推測される。少なくとも俺が敵う相手ではない。  更に敵である大佐の言葉を素直に受け入れ撤退したことを垣間見るに、対話が通用する相手だとも判断可能だ。接触を図る価値は十分にある……のだが、その前に一つ気になる点が残っている。  本郷、一文字の名が俺や大佐の名簿にはそれぞれ二人分ずつ記載されていたのだ。印刷ミスか? ……いや、違う。  こんな催しの為に、変身を制限する未知のテクノロジーを使用した首輪や、再新鋭の偵察衛星、ライダーに似た外見の私兵、異なる時代への干渉、揚句の果てには島一つを用意する組織がそんなミスを起こすとは考えにくい。  順当に行けば、大佐の言う通り同姓同名の別人と考えるのが一番説明を付けやすいか。その場合次の問題は、「放送で名前を呼ばれた一文字隼人」はどちらなのか――。  大佐は彼の知らない一文字の方だと断言していたが、彼の持つ先入観を廃除して考えた場合、俺は間違ってもそう言い切れ無い。……むしろ、死んだのは「仮面ライダー」である一文字なのではないか、とすら考える。  そう思わせる要素が事実存在していた。ライダー二人の撤退に同行したあの青年――大佐に続き遭遇した四人の内、三人目だ。  彼は四人目である金居――カテゴリー・キングに殺され掛けていた。……それも、「丘から突き落とす」などという回りくどいやり方で、だ。  少なくとも俺の時代のアンデッド――白いジョーカーの出現に伴う再解放で現れた奴ならば、その場で容赦無く殺していただろう。  つまり、あのカテゴリー・キングは全アンデッド封印が完了した2004年以前の時期から召喚されたと見るのが妥当という訳だ。  そして当時の奴は、俺の知る限り無駄な殺しは行わない。アンデッドが複数体参加している以上、主催者のルールに則って勝ち残ろうともしないだろう。一人帰ったとして、もう一体のアンデッドが掟破りの死を迎えた結果、バトルファイトがどう動くか――予想は不可能なのだから。  そのカテゴリー・キングが手に掛けようとした青年なら、危険人物だとしても不思議ではない。オマケに戦闘を行っていたライダー達は、俺同様戦闘後に変身制限が掛かっていた筈であり、戦闘の疲労と合わせて考慮すれば、あの時点では一般人にも対抗手段はある。  ただその場合、新たな疑問がいくつか生まれるのだが。最たるものは「より深く疲弊していた本郷は何故死ななかったのか」という疑問。これに俺は納得のいく答えを出せないでいる。  故に、この結論は次の放送で新たな死者が発表まで先送りにする。とりあえずは「本郷、一文字、金居とはコンタクトをとる余地有り」という確定事項のみを頭に叩き込む。  ……次に出会ったのはゾル大佐を手に掛けたあのライダーに、男女一名ずつの二人組だった。  「喰ってやる」などと語っていた男の変身したライダーは、変身プロセスを見た限りではBOARDのライダーシステムに近い。変身自体は個人の能力ではなく、ベルト固有の機能と見るべきか。 (ベルトを奪えば、無力化が可能かも知れないが……再会しないのが理想だな……)  生死の確認はしていないが、出来ることならば勝利したという結果であって欲しい。  もう一度戦っても、俺はおそらく勝てないだろう。それ程までの強さや威圧感を兼ね備えており、対話の余地は皆無と言って良いだろう。  対して、それに対抗したライダーだが……どうやら俺の認識に存在する「仮面ライダー」とは完全に別物らしい。  音声を発しない腰のベルト、肉体のみの限定的な「変身」、ギャレンやブレイドに近い複眼をあしらったマスク。  ゾル大佐は彼を「仮面ライダー」と呼ぶと共に、その存在に驚愕していた節がある。姿こそは大佐の知るショッカーのライダーでありながら、その存在に疑問を抱かざるを得ない。  となれば、やはり時間軸の違いか。1971年以前に消失した、もしくはゾル大佐の死亡後に開発された、など可能性は多岐に渡る。  ショッカーが開発したのであれば、その時期次第で協力体制を結べるかも知れない。「ゾル大佐」「死神博士」という二つの名前は、大きな武器になると見て間違いない。  そして、同行していた少女。あの状況で変身しなかったということは、純粋な一般人か、単に制限が掛かっていただけなのか……判断の材料が足りない。正に同行者次第か――。  これら島内で遭遇した参加者達に、既に面識を持っている志村と城光。城に関しては金居と同様の対応で問題ないだろう。  志村は……心配する必要もないだろう。禍木や三輪の、剣崎の意思を継いで戦ってくれる筈だ。最も信頼出来ると言っても過言では無い。 ◆  無性に喉が渇く。いつの間にか、飲み込み終えていた乾パンが原因か。渇きを潤すには、水を飲むしかない。  未だ未開閉のペットボトル。右手で掴むと、透き通った液体が静かに、次第に大きく波をうつ。  その様子は、必死で島から抜け出そうと足掻く俺達参加者の様だ。  さしずめ水を封じ込めるボトルキャップ及び容器は、首輪と禁止エリアに例えられるか。そしてボトルの開け閉めを意のままにすることが出来る俺は、主催者といったところだ。  栓が開かなければ、中身はそこに居座るしか無い。俺達もそうだ。首輪や禁止エリアの問題を解決出来なければ、島に留まるしか……それも、時間の経過と共に命は危険に曝されていくというのに。  窮地を脱するには、参加者、首輪、主催者とは異なる第四の要素を用いるべきだろう。……「水の入ったペットボトル」で例えるならば、水と栓の間に存在する少量の空気。  この島にも、必ずある。脱出の鍵となる、何らかの要素が。実際に存在していると認識できる材料がある。 ――間違っても首輪を外してあげよう、なんて考えちゃ……駄目ですよ  首輪を外すのに最も有効な手立ては、言うまでもなく実物を調べることだろう。……そして、実物を最も容易に、手を汚さず入手する手段は、死者から拝借することだ。主催者はそれをするな、と牽制を仕掛けている。  これが「調べられると困る」のか、「調べて貰わないと困る」のかは分からない。確実なのは、前者ならその時点で調べようとした者が、後者なら誘いに乗って調べようとする者が存在することだ。  そして首輪を調査するには、幾つか不可欠な条件がある。  「知恵」と「技術」……二つの要素が重ならなければ、調査を進めるのは不可能だ。それを理解している知恵者が向かうのは、技術を携えた施設だろう。  ――研究所、大学。単純に考えればこれらの施設が該当する。何れも列車の路線近く、会場北部と共通点も多い。  今後の行動方針として、俺はこれらの施設へ――――向かわない。  理由は――二つある。  一つ、危険過ぎる。……この戦い、全ての参加者が脱出を願っている訳では無い。先程の思考通り、殺し合いを楽しむ明らかな外道が存在している。  最後の一人となって、スマートブレインの技術を利用しようとする者も参加しているかも知れない。  彼らにとって都合が悪いのは、この催しが中止になること。少し頭を使えば、それを企てる者が研究所等に集まることは簡単に読み取れる。読み取られれば、連中は行動に移すだろう。  敵が進んで集まってくれるのだ、襲わない道理は……無い。そんな場所へ俺が一人で向かうのは、リスクが大きすぎる。  二つ、北部に位置していること。テーブル上に広げられた地図を見た限り、指定された会場の南と西は海で、東もジャンクションから南東は海。  0時の時点で禁止エリアへ侵入――会場外へ出た禍木と三輪を襲った尖兵達は、北部に配置されていると見て間違いない。  首輪の効果で灰化する運命にあった二人を何故襲いに来たのかは分からないが、あの様な敵が控える地域に、長居はしたくないというのが本音だ。    ならば……俺はどう行動するべきなのか? 決まっている。協力者を増やせば良いのだ。  北部における問題点も、信頼に足る仲間が複数存在していれば解決される。  今は戦力の拡張と、安全な拠点を見つけ出すことに全力を傾けることにする。妥協は許されない。  ラウズカードの収集も急務だ。スペードのカテゴリージャックを他人が所持していた以上、参加者を除く全てのアンデッドがカードに封印され、島に存在している可能性もある。  思い返せば、ゾル大佐は何を支給されたのだろうか。携帯を始めとする共通の道具しか見ていない気がする。もしかしたらカードの一枚や二枚、持っていたかも知れないのだが……。 ◆  橘は静かにデイパックを開く。既に見飽きた感のある基本支給品を次々と取り出してはテーブルに並べ、奥に潜む何かを取り出そうとする。  今になるまで個別の支給品を確認していなかったのは、ある意味では彼らしいと言えるかも知れない。  半日経ってようやく迎えた対面の時だが、橘は思わず溜息を漏らした。使い道が分からないのだ。  長方形の形をした支給品はいくら弄っても動くことはなく、かといってマニュアルが用意されている訳でもない。  ……数十分使い方を模索するが、一向に答えには辿り着けず、橘はストレスを募らせるばかりだ。  気付けば時計の針が二本重なろうかという所まで近づいている。橘は悟った――放送が、近いのだと。 **状態表 【橘朔也@仮面ライダー剣】 【1日目 現時刻:昼(放送直前)】 【現在地:G-3 放送局ロビー】 【時間軸】:Missing Ace世界(スパイダーUD封印直後) 【状態】:悲しみ。顔・背中・腹部に打撲。生きる決意 【装備】:ギャレンバックル 【道具】:基本支給品一式、ラウズカード(スペードJ、ダイヤ1~6、9)、レトルトカレー、ファイズブラスター 【思考・状況】 基本行動方針:ゾル大佐への責任をとり、主催者を打倒する為、生き残る。 1:信頼できる協力者、拠点に成り得る地点、ラウズカードの捜索。 2:北部(研究所・大学)には準備が整うまで近づかない。 3:死神博士にゾル大佐の遺言を伝える。 備考 ※自分の勘違いを見直しました。仮想現実と考えるのはやめることにしています。 ※牙王の生死を確認していませんが、基本的には死んだものとして考えてます。 ※自身の知り得る参加者について以下の様に位置づけています。(※付きに関しては名前を知りません) 味方(積極的に合流):志村純一 不明(接触の余地有):本郷猛、一文字隼人、金居、城光、死神博士、※一文字隼人(R)、※ハナ 危険(接触は避ける):※東條悟、※牙王 |078:[[零れ落ちる闇]]|投下順|080:[[出たぞ!恐怖の北崎さん]]| |078:[[零れ落ちる闇]]|時系列順|080:[[出たぞ!恐怖の北崎さん]]| |075:[[牙と軍人と輝く青年]]|[[橘朔也]]|100:[[流されぬ者は]]|

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