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時の波」(2014/05/26 (月) 18:54:17) の最新版変更点

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*時の波 「嘘だろ…デネブ…」 陽気にも残酷な悪魔の放送を聞き終えた時、侑斗は地に膝を付いて呟いた。 川に落ちた香川を探して、その身を濡らしながらも懸命に探していた。 しかし一向に見つかる気配も無く今度は森林を駆け巡っていた。 突然木場が香川へと襲い掛かり川へと突き落とした。何故そのような行動を取ったのか…、冷静に考えると見えてきたものがあった。 赤のゼロノスカード。あれは使用者の記憶を誰か1人から消してしまう。 自分しかゼロノスに変身したことは無かったため気付かなかったが、どうやら自分の記憶が他者から消えるわけではないようだ。 ゼロノス・ゼロフォームへと変身した香川。おそらくその影響で木場は香川を忘れた。 そしてライフルを持った香川の写真を見て誤解した。 これならつじつまが合う。実際、木場は自分の事は覚えていた。赤いゼロノスカードが使用者のみに影響を与えることを証明していたということだろう。 しかし、気付くのが遅かった。感情に駆られ“化物”と罵ってしまった。 そのまま香川を探しに行き、戻ったときには木場の姿は無かった。 木場に謝りたい。その思いを胸に抱きながら足を忙しく動かして探索を続けていた。 しかし無情にも訪れた放送の時刻。 新たに呼ばれた脱落者たち、その中に含まれていた知った名前と相棒の名前。 最高のパートナー、未来の自分と契約したイマジン・デネブ。 アンデットと呼ばれる存在であったが命を賭けて闘ってくれて、その死を見届けた金居。 ゼロノスとなった香川と共に闘ってくれた海堂なる人物。 それらが今「死んだ」と告げられた。 信じられない、信じたくない。 そんな想いが侑斗の心を駆け巡る。 持っていた後悔の念が更に増していくのがわかった。 「俺に…未来の俺になんて言えばいいんだよ…」 天を仰ぎ亡き友を思いながら呟く侑斗。 『勝手にくたばるなよデネブ…』、この戦いの始めに香川と出会った小屋で、願った言葉が思い出された。『勝手にくたばるな』、そんなことがこの戦いにおいて実現不可能なのは頭に叩き込まれてきた。しかしそれでも、そんな『勝手』を達成して欲しかった。 もう椎茸が嫌いなんて言わない。人付き合いも上手くやる。 だからデネブが死んだなんて嘘だと言ってくれないだろうか。しかしそんな願いが届くはずの無いのは分かっていた。ただ唇を噛み締めて、後悔と怒りの念を堪えるしかなかった。 モモタロス、デネブ、これまでの放送が真実ならば2人のイマジンがこの世を去った。 それは2体の“怪人”が消え去り、自分達の世界の為になったのかもしれない。 しかし自分や良太郎達にとっては…。 同じく金居や海道、人ならざる者であって、それぞれの世界では驚異的な存在だったのかもしれない。しかしそれでも、誰かにとっては大切な存在だったのだろう。 消え去った2人のイマジンがそうであったように…。 そうしてしばらく沈黙した後、侑斗はスクッと立ち上がった。 「デネブ、モモタロス、金居、海堂…お前らの為にも必ずここを脱出して見せる」 決意を新たにした瞳が輝いている。 「そしてこんな馬鹿な戦いも止めてやる!」 空に昇った太陽に誓うように叫んだ。 侑斗は泣かなかった。溢れ出そうな涙を必死に堪えていた。 今はまだ泣いている時じゃない、ここで起きていることを阻止してからでないと泣くことは許されない。 だがそんな中で幸運だったのは香川と木場の名前が呼ばれなかったことだ。川に落ちたのを発見できないまま、時間だけが過ぎていた。しかし名前を呼ばれなかったということは死んではいないということだ。 デネブ、モモタロス、金居、海堂、4人の仲間を失った。 しかしまだ守るべき人、共に闘う仲間がいる。 ハナ、香川、木場…彼らと協力して必ずやここを脱出してみせる。 そして決意を固めた彼の視線の遥か先には小さな公園が映っていた…。  * * * 「荷物持とうか マナちゃん?」 「大丈夫」 木々が生い茂る林道沿いの道を歩く澤田と真魚。デイパックを持とうと澤田の優しい言葉を拒否する真魚。そこまで重くないので自分でも持てる範囲だったからである。 すると澤田は小さく笑いながら携帯電話で時刻を確認した。変身制限の解除を待っていたのだ。詳細な時間は分からずとも、もう十分な時間は過ぎたはず。 これで全ての装備は使用可能となった。真魚の目にさえ映らなければオルフェノクの力だってある。そして澤田は携帯をしまいながら先へ進もうと目で合図した。 真魚も少しだけ微笑みながら、デイパックを担ぎ直す。 「―――あッ!」 しかし真魚が立ち上がった時、地面に飛び出した小石に躓いてよろけてしまった。 それによって転びはしなかったもの、持っていたデイパックが引っくり返って中身を散らせてしまった。 「ごめん澤田くん すぐ拾うから!」 急いで落ちた支給品を拾い集める真魚。 「急がなくてもいいよ…手伝うから」 すると澤田は帽子の影になった瞳を優しくして声を掛けた。 「…ありがとう」 真魚の返事を聞いて、2人は次々に中身を拾い集めてデイパックへと戻していく。 食料や水、そして1人の命を奪った拳銃。 これといって物は多くないが重みがあるもがある。 特に拳銃を戻したときの真魚の表情は僅かだが強張っていた。 そして最後の一つを拾い上げた澤田。 黒く四角いケース。電車のパスのようなもの。こんなものがなんの役に立つかはわからないが、別に捨てる必要はない。それにもしかしたら変身ツールの可能性も無いわけではない。黒いカブトムシが変身ツールだったのだ、まだパスの方がそれらしく見える。 「…これで最後――」 真魚の僅かながらに見せた拳銃への苦い表情を見ながらも黒いパスを渡した。 しかしそれと同時に言葉を詰まらせ彼女から視線を変えた。 オルフェノクとしての人を超えた感覚が何者かの足音を感じ取り彼を動かしたからである。 「…真魚ちゃん 後ろに隠れて」 「え?…うん」 突然の言葉と警戒態勢に驚きながらも真魚は小さく頷くと、パスを手にしたまま澤田の背後へと身を隠した。 「……」 無言で睨みを強まらせる澤田。足音は前方の茂みの方から聞こえる。 それはどんどんと近づいてきているのもわかる。 「誰か…いるの?」 「…うん」 背後からの真魚の声に、前方を見つめたまま返す澤田。するとその会話と同時に茂みの中から誰かが現れた。それに深く被った帽子の下から鋭い瞳が貫いた。 現れたのは一人の男。 白い上下の服に茶髪の青年、桜井侑斗だった。彼はそこに見えた澤田と真魚に警戒を強める。 侑斗のことなど知らない2人も同じく警戒を強めた。澤田はそっと自分のディパックへと手を滑り込ませる。 しばらく緊張の糸が張り巡らされる。 すると同じように睨みつけていた侑斗の表情が急に解れた。 「おい…あんた…?!」 侑斗は目を大きく見開きながら2人へと指差した。 しかしその指は澤田を通り過ぎ、その背後の真魚へと向けられていた。 「…え?わたし?」 身を隠しながらも困惑する真魚。澤田もそれを見ながら、静かに侑斗を睨みつけている。 「ナオミ…だよな?」 すると侑斗の口から1人の名前が飛び出した。 それは時の列車デンライナーの乗務員、食堂車を受け持つ少女の名前。 もちろんそのことを知るはずも無い2人。 「…???」 更に困惑が増している真魚を見ながら、澤田は侑斗に気付かれないよう後ろ手にダークカブトゼクターを握りしめながら更に睨みを強めた。 「…なんであんたがここにいるんだ?名簿に名前は無かったはずだ…」 そんな澤田の鋭い視線に動じることなく侑斗は続ける。 たしかにナオミの名前は名簿にはなかった。 自分の知った名前はデネブ、ハナ、モモタロス、牙王だけのはず……、それなのに彼女がここにいる。いつもと服装が違うせいか雰囲気も違って見える。それに多少幼くなったようにも見えるが気のせいだろうか。 しかし、同時に一番初めの会場で出会った青年と、金居の「兄弟はいるか?」と言った言葉が蘇る。確かにここには自分と同じ顔の青年が存在しているようだ。ならばナオミにも言えた事かもしれない。唯、顔が同じなだけか、まさか姉妹なのか。 そう考えながらも彼女が手に持っているのものが気になった。 (…真魚ちゃん 知り合いなの?) (ううん…会ったこともない) 澤田と真魚は侑斗には聞こえない音量の声で会話する。 そして首を横に振る真魚を見て、澤田は再び侑斗を睨みつけた。 その応えに澤田は安心していた。 もし本当に知り合いだったら彼女は相手に着いていくかもしれない。それだけは阻止しなくてはならない。2人で共に生き残り、最後に彼女を殺すのは自分なのだから。 絶対に自分から遠ざけるわけにはいかない。 「…悪いけどお前のことは知らないってさ、人違いじゃないか?」 「人違い?パスだって持ってるのにか?」 澤田の言葉に侑斗は真魚の握った黒いケースを指差した。 それは先程拾い上げた電車のパスのようなもの。意味の無いものだと思っていたがここで出てくるとは思わなかった。しかしそれでも用途は不明である。 真魚も握ったパスを不思議な目で見ている 「それが、なんの証拠になるっていうんだ?」 「面倒くさい奴だな…!」 更なる言葉に侑斗は声を荒げた。 自分がゼロノスのベルトとカードを持っていたように、彼女の支給品がライダーパスだったのだろう。持ち主と関連するものが支給される傾向があると見てナオミにパスが支給されているのなら納得できる。 しかしライダーパスが確たる証拠だということがこの男には通じない。 パスがどういうものなのかを知りえないのだろう。それを説明するのが面倒だった。 だが、彼女がナオミなら何故パスのことを言っていないのか。たった今手に入れたのだろうか?それに何故、自分の顔を見て桜井郁斗だとわからないのか? やはり同じ顔なだけだろうか…。とりあえずは話を聞く必要がある。 「行くぞナオミ」 「……え?…!?」 その瞬間、侑斗は澤田を無視して真魚の手を掴んだ。 「いい加減にしろ」 しかし同時に、澤田はダークカブトゼクターを投げつけて侑斗の腕に直撃させた。 「…ぐっ!痛……ッッ!」 衝撃と痛みで思わず手を離してしまった侑斗。真魚も驚きつつも再び澤田の背後へと身を隠す。そして腕を弾いたダークカブトゼクターは空を舞い上がりそのまま優雅に澤田の手の中に納まった。 「彼女は俺が守る」 呟く澤田の腰には既に銀色のベルトが巻かれていた。そうして掴んだダークカブトゼクターを本心を告げながらベルトへとセットする。 「変身」 同時に言葉と共にダークカブトゼクターの角の部分を一度横へと引いた。 [HENSHIN] 瞬間、電子音声が響く中、澤田の身体を光の粒子が覆っていき幾つもの六角形の光が重なり新たな姿へと変貌していく。そして変身を完了した澤田がそこに現れた。 仮面ライダーダークカブト・マスクドフォーム。 黄色い単眼を光らせて侑斗を睨んでいた。 「下がってて…」 ダークカブトへと変身した澤田の声が背後の真魚に飛ぶ。 それに大きく頷いた真魚は後方に広がる森林の中へと駆け出して、その身を大きな木の側へと寄せた。 「まったく…話を聞けって…」 侑斗は呟きながらも痛みに痺れた腕に力を込めてベルトを装着するとそのまま顔の横まで緑のカードを持って行く。 「変身!」 掛け声と共に流れるようにカードをベルト中央に翳す。 ―ALTAIR FORM― 電子音と共に銀のレールが体中を走り黒いスーツに覆われる。 そして緑の鎧が次々に装着され、牛を模した顔と身体を作り上げた。 そこに現れたのは緑色のライダー。時の列車ゼロライナーの持ち主。 仮面ライダーゼロノス・アルタイルフォームが姿を現した ゼロノスへと変身した侑斗はゼロガッシャーを強く握り締める。 そしてデネブとの思い出を振り返りながら、僅かだけ深呼吸をするとそのままゼロガッシャーを肩に担ぎ上げダークカブトを指差した。 「最初に言っておく“俺達”は、かーなーり強い!」 その言葉に深い意味を乗せて戦いの意思を見せ付けた。 必ずやここから脱出してみせる。 それには名簿に無いナオミとライダーーパスの存在が何かヒントになるかもしれない。 しかしこの男が邪魔をしてくる。おそらく理由を知らないからだと考える。 だが男は話を聞くよりも戦うことを優先しているようだ。ならば戦って説得するしかない。 その考えの元、ゼロノスは指差していた手をゼロガッシャーの柄へと添えた。 同時にクナイガンを構えるダークカブト。 2つの視線が緊迫した場を作り上げていく。 対するダークカブトはクナイガンを構えつつ考えていた。 「俺達」とはどういう意味だろうか。 もしかするとこの男以外にも仲間がいて近くに潜んでいるのだろうか。 しかしそれだと、わざわざ言葉に出す必要が無い。 ただのハッタリか、それとも遅れて登場でもしてくるのか。 どちらにしても今この場に敵は1人だけだという結論を即座に導き出した。 「…は!」 次の瞬間ダークカブトはクナイガンから高速の弾丸を連射で撃ちだした。 高熱のエネルギー体である弾丸は容赦なくゼロノスの顔面へと迫っていく。 「ふんッ!」 しかしそれをゼロガッシャーの腹の部分を盾にして防御に成功したゼロノス。 全てを弾き終えたゼロノスはゼロガッシャーを振り上げて駆け出した。 「でやぁッ!!」 そしてそのまま勢いよくゼロガッシャーを振り下ろした。 だが瞬時に反応したダークカブトはクナイガンでゼロガッシャーの巨大な刃を受け止めた。 強烈な金属音と火花を散らしながら2つの刃はぶつかり合う。 「キャストオフ」 しかしそんな攻防を打破するようにダークカブトがゼクターの角を横に引いた。 ―CAST OFF― 同時にダークカブトの鎧が脱皮するかのように全方位へと飛散する。 「…なッ!?」 思いがけない出来事に驚愕の声を上げながら吹き飛ばされるゼロノス。そのまま地面を転がって近くにあった道路標識にぶつかった。 そうして全ての鎧が剥がれると同時にダークカブトは新たな姿を見せた。 ライダーフォーム、高速移動を可能にするその形態。対ワーム用に作られた兵器が真の姿を現した。 「…へぇ やっと本気を見せるってわけか」 それを見たゼロノスが身を起こしながら言い放つと再びゼロガッシャーを構え直す。 「見えるといいがな」 ダークカブトは、そんなゼロノスを見つめながらベルトの横に手を置いた。 「クロックアップ」 ―CLOCK UP― 次の瞬間ダークカブトは姿を消した。 いや、ゼロノスの目に追えないスピードで動き出したのだった。 ほぼ静止したも同然のような世界をダークカブトだけが動いて行く。 通常よりは短くなってしまっているクロックアップの時間。 だがそんなことを澤田は知る由も無い、元々短いのものとして頭に入れている。 そして即座に勝負を決するために3つのボタンを順に押していく。 [1…2…3…RIDER KICK] 電子音声と共に右足に青白い稲妻が走り帯電していく。 「ライダーキック」 囁くように言いながらダークカブトは右足を大きく振り上げた。 ―CLOCK OVER― そして時の呪縛が消え去ると同時に稲妻を帯びたダークカブトの回し蹴りがゼロノスへと振り下ろされていた。 「…な…にぃ…っ!!??」 姿を消したと思った瞬間、目の前に現れて帯電した足を蹴り降ろしてくるダークカブトが映ったゼロノス。咄嗟にゼロガッシャーを盾に構えるも、既に遅くゼロガッシャーもろともライダーキックの直撃を受けてしまった。 「ぐああアァツッッツッ!!」 火花と稲妻を走らせてダークカブトの足がゼロノスを装甲を削っていく。 そうして叫びを上げて森の中まで吹き飛ばされてしまった。 「……しぶといな」 吹き飛ばされ姿の確認できない相手へ呟くダークカブト。オルフェノクの聴力が相手の心音を聞き取っていた。 それに気付いたダークカブトはクナイガンを構えながらゼロノスの飛ばされた森林へと近づいていく。 しかしその時だった――。 ―FULL CHARGE― 森の中から電子音声が聞こえた。 すると次の瞬間、緑の光が走ったかと思うと巨大な木々が次々と倒れてきた。 「なに!?」 それに驚きながらも身をかわすダークカブト。 クロックアップで避けるため腰に手を当てようとするがそこへ倒れた木々が迫り、転がって回避したために失敗に終わってしまう。 「…くっ!」 そうしてクロックアップを使わず全ての巨木を避けきったダークカブト。溜息をつきながらもゼロノスのいたであろう位置へと視線を移した。 しかしそこにはもう気配や心音さえも感じられなかった。おそらくオルフェノクの感覚でも拾いきれない位置まで移動したのだろう。 「…逃げたか」 そう呟きながらダークカブトの変身を解いた澤田。 ダークカブトゼクターはベルトを離れ大空を舞っていく。 「澤田くん」 そこへ隠れていた真魚が声を上げて駆け寄ってきた。それに僅かに微笑んで迎える澤田。 「大丈夫?」 「うん、なんともない」 気遣う目で見る真魚に平気な顔で応える。 「…さっきの人は?」 「逃げたみたいだ」 そう応えた澤田だったが真魚の表情が少しばかりか残念そうな顔をしたのに気がついた。 なにか気がついたことでもあったのだろうか、証拠に心音が速まっているのがわかる。 「……気になる?」 「え…?いや、『名簿に名前が無い』とか言ってたから…それで少し混乱しちゃって…」 どこか慌てたように応えた真魚。澤田は真魚の心音の早まりはその混乱と動揺から来ているのだと判断した。放送もあり、突然知らぬ誰かに連れて行かれそうになったのだ、混乱して当然である。 「……これ、貸してあげる」 「え…?」 すると澤田はおもむろに被っていた紺色の帽子を取り払い真魚の頭へと乗せた。 「これで人違いされなくてすむ」 困惑する真魚に説明と同時に笑って真魚を和ます。 しかしその笑みは自分のためのものだった。 先程の男のように人違いであれ真魚を連れて行こうとする連中が他にもいるかも知れない。 帽子を被ったぐらいで全部は隠せないが、これならすぐにバレはしないだろうし、なにより本当の知り合いと出会っても気付かれないかもしれない。 むしろそっちのほうが目的である。 「……っ…!……あ、ありがとう」 真魚は照れくさそうに紺色のキャップ棒をそそくさと目深に被って感謝の言葉を告げた。 それにただ微笑んでいた澤田。その笑顔の奥で彼はもう一つ気になることがあった。 真魚も言ったが『名簿に名前が無い』という先程の男の言葉。 そんな者が存在するわけがない。スマートブレインが名簿に載せ忘れたなどというミスは考えられない。だとすれば外部から別にここへ来たということだろうか。 それも考えられない、参加者は全員首輪をしている。真魚も同じだ。 わざわざ外部から来て首輪をしてまで参加する者などいようはずもない。 と、なればやはりあの男の人違いに過ぎない。 たまたま知り合いが真魚とそっくりだけだったのだろう。 少しばかり思考を巡らせた澤田は優しく真魚に声を掛けた。 「行こう真魚ちゃん」 「…うん」 頷いた真魚を確認しすると、倒れた木々を避けながら足を進め始めた。 先の電話でスマートレディが言っていた通り放送局に人が集まるのなら行ってみるべきだろう。一度に参加者を減らせるチャンスでもあるが、同時に真魚の知り合いと出会う確率も高い。 だが、たとえどのような人物が迫ろうと必ず真魚は守ってみせる。 最後に自分が殺すために…。 そんな冷酷な思いを胸に澤田は真魚と共に歩んでいく…。 **状態表 【澤田亜希@仮面ライダー555】 【一日目 日中】 【現在地 E-6 公園向こうの平地】 [時間軸]:34話・真理再生前 [状態]:小程度の疲労。体の各部に打撲。ダークカブトに2時間変身不能。 [装備]:カイザギア(全装備付属) [道具]:基本支給品、通話発信可能な携帯電話、不明支給品×3(本人確認済み)    ライダーベルト+ダークカブトゼクター、ディスクアニマル(アカネタカ)    iPod(動画再生機能付き)ファイズアクセル [思考・状況] 基本行動方針:参加者を皆殺しにして自分が完全なオルフェノクであることを証明する。 1:風谷真魚を守る。あくまで、最後に自分の手で殺すために。 2:他の参加者を殺す。 3:なるべくオルフェノク態で戦う事を避ける。そのために一つでも多く変身装備が欲しい。 4:リスクを避けるべく、人の多い場所には近づかない。 5:放送局へ向かう [備考] ※ダークカブトに資格者として認められました。ベルトはカブトのものを流用しています。 ※能力制限等のルールについて、あらかじめ大まかに知らされています。 ※澤田の携帯電話は特別仕様のため、通話の発信機能が生きています。  現在の所、通話可能な相手は主催者(村上社長・スマートレディ)のみです  * * * 真魚は深く被った帽子の下から瞳を潤わせて澤田の背中を見つめていた。 あの時、青年に腕を掴まれたとき、彼の過去の断片が脳裏に浮かんだ。 それは青年と誰かが泣きながらも嬉しそうに抱きついているイメージだった。 その誰かは黒い異型の人物…。そう、駅で自分が撃った銃弾に倒れた人物であった。イメージから察するにあの青年と異型の人物は親友とも呼べる存在だったのだろう。 だとすれば澤田と共に引き金を引いたとしても自分は彼の友の命を奪ったことになる。 澤田に「しかたなかった」と言われたが、やはりそんな言葉で片付けられるほど簡単なものではない。 あの異型の人物に帰るべき“居場所”があったとすれば、それは青年の所だったのかもしれない。同時に青年の帰るべき場所も異型の人物のところだったのかもしれない。 他人の“居場所”を奪っておいて自分だけが帰りたいなどと甘かったのだ。 「帰るべき居場所など無い」そう言った澤田の言葉が改めて胸に突き刺さる。 できることならもう一度あの青年に会って謝りたいとも思うが…。 深い後悔の念と自己嫌悪が彼女を包んでいく。 さらにもう一つ気になることもある 澤田に渡された帽子に触れたとき断片のイメージが流れ込んでくるのがわかった。 しかしそれを寸前で拒否してしまった。見るのが怖かったからかもしれない。 断片的にせよ…何か、全てを否定させるような、そんな気がしてしまった。 「………」 真魚は無言で澤田の背中を見つめながら歩みを進めた。 自由に力を操れていないのはわかっている。 それでもいつか決心がついたらこの帽子に触れよう。 それがどんな結果を生むかはわからないけど…。 **状態表 【風谷真魚@仮面ライダーアギト】 【一日目 日中】 【現在地 E-6 公園向こうの平地】 [時間軸]:31話・サイコキネシス発現後 [状態]:健康。動揺。強い自己嫌悪。 [装備]:コルトパイソンA@クウガ(装弾数5/6、マグナム用神経断裂弾) [道具]:基本支給品一式x2(真魚・天道)     ライダーパス、首輪(天道)     特殊効果弾セット(マグナム用神経断裂弾54、ライフル用神経断裂弾20、     ランチャー用非殺傷ゴム弾5、ランチャー用催涙弾5、ランチャー用発煙弾5、ランチャー用対バリケード弾5) 、澤田のキャップ帽 [思考・状況] 1:澤田についていく。離れたくない。 2:人殺しをした自分が憎い。 3:自分の能力と支給品の銃を嫌悪。 4:能力の事を澤田に知られたくない。 5:澤田と一緒なら、元の世界に戻れる…? 6:自分をナオミと呼んだ青年にもう一度会って謝りたい。 [備考] ※制限もしくは心理的な理由で超能力が不完全にしか発揮できません。  現状では、サイコメトリーで読めるのは断片的なイメージだけです。 ※以下のように事実を誤解しています。 サイコメトリーで見えた灰色のモンスターの正体は天道=カブト。 灰色の怪物(海堂)と赤い怪物(モグラ)は殺し合いに乗っている。 青いライダー(ガタック・ライダーフォーム)に変身して自分を守ったのは澤田。 加賀美(名前は知らない)は自分がサイコキネシスで殺した。 自分をナオミと呼んだ男(侑斗)と黒い異型(デネブ)は親友。 ※決心が付いたら澤田の帽子に触れてイメージを見てみる。  * * * 「…なんなんだ、今のは?」 変身を解いて道路沿いの雑木林の陰に腰を降ろした侑斗は呟いていた。 吹き飛ばされた直後にスプレンデッドエンドを発動させ巨木をなぎ倒し、それによって逃走することには成功した。 だが、気になるのは黒い戦士の能力。「クロックアップ」という電子音声が聞こえたと思ったら既に敵は居なくなっていた。そして気付いた瞬間には眼前に居て回し蹴りの最中だった。 何処かで見たような能力…。 あれは一条がオルタナティブへ変身し、龍の怪人に変身する男と戦っていた時だ。 あの時は「アクセルベント」という電子音声が聞こえたと同時にオルタナティブの姿が見えなくなった。そして次の瞬間には自分達の目の前にいて、敵の砲撃から庇ってくれていた…。 クロックアップ、アクセルベント、仕組みや原理はわからないが似たような能力だろう。 ならば同じような敵と出会った場合でも反撃できるように対策を考えなければ。 (…………) だが、そうなると自分の知恵だけではどうしても対策が浮かばない。やはり戦闘においても脱出においても香川のような人物が必要なのかもしれない。 …現状では対策は思い浮かばない、同じような能力の前では防御に徹するか、逃げることに専念したほうがよさそうだ。 「…しっかし…もう少し男を選べっての」 そして今度は傷ついた身体を見ながら呟いて先程の少女を思い出した。帽子の男は人違いだと言っていたが、どう見てもナオミだった。だが、本来なら自分の顔を見れば気付いたはずだが…。 そんな時、ガオウの事を思い出した。確かに消え去ったはずのガオウがここには存在しているはずだ。これは主催がガオウを蘇らせたか、消滅する前のガオウを連れてきたかどちらかだろう。 時の列車に乗る者としては、前者よりは後者の方が納得できる。 それに木場から聞いた、主催であるスマートブレインはオルフェノクという集団組織であるという情報。死者の蘇生については何も言ってはいなかったが、人を超えた存在であることは木場の姿を見て確認できた。 だとすれば、主催はオルフェノクらを使役し『時を越える力』を持って皆を集めた。そしてナオミは自分と知り合う前の時間から連れて来られた、とも考えられる。 だが、それでも少女がパスを不思議そうに見ていたのが疑問に残る。 本当にナオミなのか、それとも似ているだけか。自分と同じ顔の青年、ナオミの名が乗っていない名簿、などの情報が頭の中を飛び交う。 そして一つの考えを纏めた。 仮にあの少女をナオミだとすれば、主催は時間を越える力を持っており、なおかつ名簿に無い参加者がいることになる。だとすればナオミだけでなく良太郎や、まさか愛理もいるのかもしれない。ならば絶対に見つけ出して守らなければならない。 しかしそれも全ては仮定の話、彼女がナオミでなかったら振り出しに戻ることになる。 あくまで、可能性があるということで考えたほうがいいだろう。 そう考えながらカードを取り出した。残ったゼロノスのカードは緑が4枚、赤が1枚と芳しくない状態である。その上ダメージも大きく残っている。あの少女は帽子の王子様に守られているから安心だとしても、このまま香川と木場、それに愛理たちを捜索は難題だ。 少しでも身体を休めるしかない。しかし眠るわけにもいかない、いつ敵が襲ってくるかもわからない。歩きながらでも徐々に体力を回復させる。 そうして侑斗は傷ついた身体をゆっくりと起き上がらせてデイパックを担ぎ直した。 森の向こうには道路が見えたが、自分の来た道では無いのはなんとなくだがわかった。 「待ってろよ…みんな…」 侑斗は先に見える道路を見つめて呟いた。 『人助けと時の運行を守るって事は違うんだ』 かつて良太郎に言った言葉がリフレインする。 そして今なら思う、それが間違いだと。確かに2つは等しいものではなかった。 だが、時間の運行を無視して集められたはずの人達が集うこの島では例外だ。 皆を助けて脱出する事が時の運行を守ることに繋がる。 しかし全て上手くいくとは限らない。 どのような事態が起きるかはわからない。 全ては波だ。この歪んだ空間にも絶えず流れる時間の波。 それを掴まえさえすれば時は自分に味方してくれるはずだ。 (時間の波を…掴まえて見せる!) 新たな決意を胸に侑斗は小さな一歩を踏み出した。 いるはずの無い参加者を追い求めて。 そしてその近くに自分と瓜二つの少年が居るとも知らずに…。 **状態表 【桜井侑斗@仮面ライダー電王】 【1日目 現時刻:日中】 【現在地:F-6・道路沿い】 【時間軸】:最終回直後 【状態】:深い後悔、強い決意。全身に中程度のダメージ、中程度の疲労、ゼロノスに二時間変身不能。 【装備】:神経断裂弾(1発)、ゼロノスベルト 【道具】:基本支給品×2、ゼロノスカード四枚(内一枚赤カード)、ラウズカード三枚(ダイヤK・ブランク二枚)      ショッカー戦闘員スーツ×2@仮面ライダー、ディスクアニマル(ニビイロヘビ)、戦国時代のディスクアニマル(イワベニシシ)      煤けた首輪、双眼鏡、コーヒーセット、デジタル一眼レフ(CFカード)、望遠レンズ 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いの阻止 1:木場に謝りたい。 2:香川、木場との合流。 3:自分と同じ顔をした少年(桐矢)への疑問。保護が必要ならそうする。 4:ガドル、風のエル(名前は知らない)、北崎を倒す。 5:五代雄介に一条薫の死を伝える。 6:真魚(名前は知らない)は本当にナオミなのか知りたい。 7:可能性は低いが良太郎や愛理を探す。 【備考】 ※変身制限に気づきました。大体の間隔なども把握しています。 ※首輪の損傷具合は不明です。 ※剣世界の事についておおまかな知識を得ましたが、仮面ライダーやBOARDの事など金居が伏せた部分があります。 ※木場からオルフェノク・スマートブレイン社についての情報を得ました。 ※クロックアップ、アクセルベントに近い能力の前では対策ができるまでは防戦、逃亡を優先。 ※あの少女(真魚)は帽子の男(澤田)がいるから安心? |092:[[鬼³]]|投下順|094:[[Fatality-Cross(前編)]]| |092:[[鬼³]]|時系列順|094:[[]Fatality-Cross(前編)]| |088:[[LONG WAY HOME]]|[[澤田亜希]]|000:[[後の作品]]| |088:[[LONG WAY HOME]]|[[風谷真魚]]|000:[[後の作品]]| |078:[[零れ落ちる闇]]|[[桜井侑斗]]|000:[[後の作品]]|
*時の波 「嘘だろ…デネブ…」 陽気にも残酷な悪魔の放送を聞き終えた時、侑斗は地に膝を付いて呟いた。 川に落ちた香川を探して、その身を濡らしながらも懸命に探していた。 しかし一向に見つかる気配も無く今度は森林を駆け巡っていた。 突然木場が香川へと襲い掛かり川へと突き落とした。何故そのような行動を取ったのか…、冷静に考えると見えてきたものがあった。 赤のゼロノスカード。あれは使用者の記憶を誰か1人から消してしまう。 自分しかゼロノスに変身したことは無かったため気付かなかったが、どうやら自分の記憶が他者から消えるわけではないようだ。 ゼロノス・ゼロフォームへと変身した香川。おそらくその影響で木場は香川を忘れた。 そしてライフルを持った香川の写真を見て誤解した。 これならつじつまが合う。実際、木場は自分の事は覚えていた。赤いゼロノスカードが使用者のみに影響を与えることを証明していたということだろう。 しかし、気付くのが遅かった。感情に駆られ“化物”と罵ってしまった。 そのまま香川を探しに行き、戻ったときには木場の姿は無かった。 木場に謝りたい。その思いを胸に抱きながら足を忙しく動かして探索を続けていた。 しかし無情にも訪れた放送の時刻。 新たに呼ばれた脱落者たち、その中に含まれていた知った名前と相棒の名前。 最高のパートナー、未来の自分と契約したイマジン・デネブ。 アンデットと呼ばれる存在であったが命を賭けて闘ってくれて、その死を見届けた金居。 ゼロノスとなった香川と共に闘ってくれた海堂なる人物。 それらが今「死んだ」と告げられた。 信じられない、信じたくない。 そんな想いが侑斗の心を駆け巡る。 持っていた後悔の念が更に増していくのがわかった。 「俺に…未来の俺になんて言えばいいんだよ…」 天を仰ぎ亡き友を思いながら呟く侑斗。 『勝手にくたばるなよデネブ…』、この戦いの始めに香川と出会った小屋で、願った言葉が思い出された。『勝手にくたばるな』、そんなことがこの戦いにおいて実現不可能なのは頭に叩き込まれてきた。しかしそれでも、そんな『勝手』を達成して欲しかった。 もう椎茸が嫌いなんて言わない。人付き合いも上手くやる。 だからデネブが死んだなんて嘘だと言ってくれないだろうか。しかしそんな願いが届くはずの無いのは分かっていた。ただ唇を噛み締めて、後悔と怒りの念を堪えるしかなかった。 モモタロス、デネブ、これまでの放送が真実ならば2人のイマジンがこの世を去った。 それは2体の“怪人”が消え去り、自分達の世界の為になったのかもしれない。 しかし自分や良太郎達にとっては…。 同じく金居や海道、人ならざる者であって、それぞれの世界では驚異的な存在だったのかもしれない。しかしそれでも、誰かにとっては大切な存在だったのだろう。 消え去った2人のイマジンがそうであったように…。 そうしてしばらく沈黙した後、侑斗はスクッと立ち上がった。 「デネブ、モモタロス、金居、海堂…お前らの為にも必ずここを脱出して見せる」 決意を新たにした瞳が輝いている。 「そしてこんな馬鹿な戦いも止めてやる!」 空に昇った太陽に誓うように叫んだ。 侑斗は泣かなかった。溢れ出そうな涙を必死に堪えていた。 今はまだ泣いている時じゃない、ここで起きていることを阻止してからでないと泣くことは許されない。 だがそんな中で幸運だったのは香川と木場の名前が呼ばれなかったことだ。川に落ちたのを発見できないまま、時間だけが過ぎていた。しかし名前を呼ばれなかったということは死んではいないということだ。 デネブ、モモタロス、金居、海堂、4人の仲間を失った。 しかしまだ守るべき人、共に闘う仲間がいる。 ハナ、香川、木場…彼らと協力して必ずやここを脱出してみせる。 そして決意を固めた彼の視線の遥か先には小さな公園が映っていた…。  * * * 「荷物持とうか マナちゃん?」 「大丈夫」 木々が生い茂る林道沿いの道を歩く澤田と真魚。デイパックを持とうと澤田の優しい言葉を拒否する真魚。そこまで重くないので自分でも持てる範囲だったからである。 すると澤田は小さく笑いながら携帯電話で時刻を確認した。変身制限の解除を待っていたのだ。詳細な時間は分からずとも、もう十分な時間は過ぎたはず。 これで全ての装備は使用可能となった。真魚の目にさえ映らなければオルフェノクの力だってある。そして澤田は携帯をしまいながら先へ進もうと目で合図した。 真魚も少しだけ微笑みながら、デイパックを担ぎ直す。 「―――あッ!」 しかし真魚が立ち上がった時、地面に飛び出した小石に躓いてよろけてしまった。 それによって転びはしなかったもの、持っていたデイパックが引っくり返って中身を散らせてしまった。 「ごめん澤田くん すぐ拾うから!」 急いで落ちた支給品を拾い集める真魚。 「急がなくてもいいよ…手伝うから」 すると澤田は帽子の影になった瞳を優しくして声を掛けた。 「…ありがとう」 真魚の返事を聞いて、2人は次々に中身を拾い集めてデイパックへと戻していく。 食料や水、そして1人の命を奪った拳銃。 これといって物は多くないが重みがあるもがある。 特に拳銃を戻したときの真魚の表情は僅かだが強張っていた。 そして最後の一つを拾い上げた澤田。 黒く四角いケース。電車のパスのようなもの。こんなものがなんの役に立つかはわからないが、別に捨てる必要はない。それにもしかしたら変身ツールの可能性も無いわけではない。黒いカブトムシが変身ツールだったのだ、まだパスの方がそれらしく見える。 「…これで最後――」 真魚の僅かながらに見せた拳銃への苦い表情を見ながらも黒いパスを渡した。 しかしそれと同時に言葉を詰まらせ彼女から視線を変えた。 オルフェノクとしての人を超えた感覚が何者かの足音を感じ取り彼を動かしたからである。 「…真魚ちゃん 後ろに隠れて」 「え?…うん」 突然の言葉と警戒態勢に驚きながらも真魚は小さく頷くと、パスを手にしたまま澤田の背後へと身を隠した。 「……」 無言で睨みを強まらせる澤田。足音は前方の茂みの方から聞こえる。 それはどんどんと近づいてきているのもわかる。 「誰か…いるの?」 「…うん」 背後からの真魚の声に、前方を見つめたまま返す澤田。するとその会話と同時に茂みの中から誰かが現れた。それに深く被った帽子の下から鋭い瞳が貫いた。 現れたのは一人の男。 白い上下の服に茶髪の青年、桜井侑斗だった。彼はそこに見えた澤田と真魚に警戒を強める。 侑斗のことなど知らない2人も同じく警戒を強めた。澤田はそっと自分のディパックへと手を滑り込ませる。 しばらく緊張の糸が張り巡らされる。 すると同じように睨みつけていた侑斗の表情が急に解れた。 「おい…あんた…?!」 侑斗は目を大きく見開きながら2人へと指差した。 しかしその指は澤田を通り過ぎ、その背後の真魚へと向けられていた。 「…え?わたし?」 身を隠しながらも困惑する真魚。澤田もそれを見ながら、静かに侑斗を睨みつけている。 「ナオミ…だよな?」 すると侑斗の口から1人の名前が飛び出した。 それは時の列車デンライナーの乗務員、食堂車を受け持つ少女の名前。 もちろんそのことを知るはずも無い2人。 「…???」 更に困惑が増している真魚を見ながら、澤田は侑斗に気付かれないよう後ろ手にダークカブトゼクターを握りしめながら更に睨みを強めた。 「…なんであんたがここにいるんだ?名簿に名前は無かったはずだ…」 そんな澤田の鋭い視線に動じることなく侑斗は続ける。 たしかにナオミの名前は名簿にはなかった。 自分の知った名前はデネブ、ハナ、モモタロス、牙王だけのはず……、それなのに彼女がここにいる。いつもと服装が違うせいか雰囲気も違って見える。それに多少幼くなったようにも見えるが気のせいだろうか。 しかし、同時に一番初めの会場で出会った青年と、金居の「兄弟はいるか?」と言った言葉が蘇る。確かにここには自分と同じ顔の青年が存在しているようだ。ならばナオミにも言えた事かもしれない。唯、顔が同じなだけか、まさか姉妹なのか。 そう考えながらも彼女が手に持っているのものが気になった。 (…真魚ちゃん 知り合いなの?) (ううん…会ったこともない) 澤田と真魚は侑斗には聞こえない音量の声で会話する。 そして首を横に振る真魚を見て、澤田は再び侑斗を睨みつけた。 その応えに澤田は安心していた。 もし本当に知り合いだったら彼女は相手に着いていくかもしれない。それだけは阻止しなくてはならない。2人で共に生き残り、最後に彼女を殺すのは自分なのだから。 絶対に自分から遠ざけるわけにはいかない。 「…悪いけどお前のことは知らないってさ、人違いじゃないか?」 「人違い?パスだって持ってるのにか?」 澤田の言葉に侑斗は真魚の握った黒いケースを指差した。 それは先程拾い上げた電車のパスのようなもの。意味の無いものだと思っていたがここで出てくるとは思わなかった。しかしそれでも用途は不明である。 真魚も握ったパスを不思議な目で見ている 「それが、なんの証拠になるっていうんだ?」 「面倒くさい奴だな…!」 更なる言葉に侑斗は声を荒げた。 自分がゼロノスのベルトとカードを持っていたように、彼女の支給品がライダーパスだったのだろう。持ち主と関連するものが支給される傾向があると見てナオミにパスが支給されているのなら納得できる。 しかしライダーパスが確たる証拠だということがこの男には通じない。 パスがどういうものなのかを知りえないのだろう。それを説明するのが面倒だった。 だが、彼女がナオミなら何故パスのことを言っていないのか。たった今手に入れたのだろうか?それに何故、自分の顔を見て桜井郁斗だとわからないのか? やはり同じ顔なだけだろうか…。とりあえずは話を聞く必要がある。 「行くぞナオミ」 「……え?…!?」 その瞬間、侑斗は澤田を無視して真魚の手を掴んだ。 「いい加減にしろ」 しかし同時に、澤田はダークカブトゼクターを投げつけて侑斗の腕に直撃させた。 「…ぐっ!痛……ッッ!」 衝撃と痛みで思わず手を離してしまった侑斗。真魚も驚きつつも再び澤田の背後へと身を隠す。そして腕を弾いたダークカブトゼクターは空を舞い上がりそのまま優雅に澤田の手の中に納まった。 「彼女は俺が守る」 呟く澤田の腰には既に銀色のベルトが巻かれていた。そうして掴んだダークカブトゼクターを本心を告げながらベルトへとセットする。 「変身」 同時に言葉と共にダークカブトゼクターの角の部分を一度横へと引いた。 [HENSHIN] 瞬間、電子音声が響く中、澤田の身体を光の粒子が覆っていき幾つもの六角形の光が重なり新たな姿へと変貌していく。そして変身を完了した澤田がそこに現れた。 仮面ライダーダークカブト・マスクドフォーム。 黄色い単眼を光らせて侑斗を睨んでいた。 「下がってて…」 ダークカブトへと変身した澤田の声が背後の真魚に飛ぶ。 それに大きく頷いた真魚は後方に広がる森林の中へと駆け出して、その身を大きな木の側へと寄せた。 「まったく…話を聞けって…」 侑斗は呟きながらも痛みに痺れた腕に力を込めてベルトを装着するとそのまま顔の横まで緑のカードを持って行く。 「変身!」 掛け声と共に流れるようにカードをベルト中央に翳す。 ―ALTAIR FORM― 電子音と共に銀のレールが体中を走り黒いスーツに覆われる。 そして緑の鎧が次々に装着され、牛を模した顔と身体を作り上げた。 そこに現れたのは緑色のライダー。時の列車ゼロライナーの持ち主。 仮面ライダーゼロノス・アルタイルフォームが姿を現した ゼロノスへと変身した侑斗はゼロガッシャーを強く握り締める。 そしてデネブとの思い出を振り返りながら、僅かだけ深呼吸をするとそのままゼロガッシャーを肩に担ぎ上げダークカブトを指差した。 「最初に言っておく“俺達”は、かーなーり強い!」 その言葉に深い意味を乗せて戦いの意思を見せ付けた。 必ずやここから脱出してみせる。 それには名簿に無いナオミとライダーーパスの存在が何かヒントになるかもしれない。 しかしこの男が邪魔をしてくる。おそらく理由を知らないからだと考える。 だが男は話を聞くよりも戦うことを優先しているようだ。ならば戦って説得するしかない。 その考えの元、ゼロノスは指差していた手をゼロガッシャーの柄へと添えた。 同時にクナイガンを構えるダークカブト。 2つの視線が緊迫した場を作り上げていく。 対するダークカブトはクナイガンを構えつつ考えていた。 「俺達」とはどういう意味だろうか。 もしかするとこの男以外にも仲間がいて近くに潜んでいるのだろうか。 しかしそれだと、わざわざ言葉に出す必要が無い。 ただのハッタリか、それとも遅れて登場でもしてくるのか。 どちらにしても今この場に敵は1人だけだという結論を即座に導き出した。 「…は!」 次の瞬間ダークカブトはクナイガンから高速の弾丸を連射で撃ちだした。 高熱のエネルギー体である弾丸は容赦なくゼロノスの顔面へと迫っていく。 「ふんッ!」 しかしそれをゼロガッシャーの腹の部分を盾にして防御に成功したゼロノス。 全てを弾き終えたゼロノスはゼロガッシャーを振り上げて駆け出した。 「でやぁッ!!」 そしてそのまま勢いよくゼロガッシャーを振り下ろした。 だが瞬時に反応したダークカブトはクナイガンでゼロガッシャーの巨大な刃を受け止めた。 強烈な金属音と火花を散らしながら2つの刃はぶつかり合う。 「キャストオフ」 しかしそんな攻防を打破するようにダークカブトがゼクターの角を横に引いた。 ―CAST OFF― 同時にダークカブトの鎧が脱皮するかのように全方位へと飛散する。 「…なッ!?」 思いがけない出来事に驚愕の声を上げながら吹き飛ばされるゼロノス。そのまま地面を転がって近くにあった道路標識にぶつかった。 そうして全ての鎧が剥がれると同時にダークカブトは新たな姿を見せた。 ライダーフォーム、高速移動を可能にするその形態。対ワーム用に作られた兵器が真の姿を現した。 「…へぇ やっと本気を見せるってわけか」 それを見たゼロノスが身を起こしながら言い放つと再びゼロガッシャーを構え直す。 「見えるといいがな」 ダークカブトは、そんなゼロノスを見つめながらベルトの横に手を置いた。 「クロックアップ」 ―CLOCK UP― 次の瞬間ダークカブトは姿を消した。 いや、ゼロノスの目に追えないスピードで動き出したのだった。 ほぼ静止したも同然のような世界をダークカブトだけが動いて行く。 通常よりは短くなってしまっているクロックアップの時間。 だがそんなことを澤田は知る由も無い、元々短いのものとして頭に入れている。 そして即座に勝負を決するために3つのボタンを順に押していく。 [1…2…3…RIDER KICK] 電子音声と共に右足に青白い稲妻が走り帯電していく。 「ライダーキック」 囁くように言いながらダークカブトは右足を大きく振り上げた。 ―CLOCK OVER― そして時の呪縛が消え去ると同時に稲妻を帯びたダークカブトの回し蹴りがゼロノスへと振り下ろされていた。 「…な…にぃ…っ!!??」 姿を消したと思った瞬間、目の前に現れて帯電した足を蹴り降ろしてくるダークカブトが映ったゼロノス。咄嗟にゼロガッシャーを盾に構えるも、既に遅くゼロガッシャーもろともライダーキックの直撃を受けてしまった。 「ぐああアァツッッツッ!!」 火花と稲妻を走らせてダークカブトの足がゼロノスを装甲を削っていく。 そうして叫びを上げて森の中まで吹き飛ばされてしまった。 「……しぶといな」 吹き飛ばされ姿の確認できない相手へ呟くダークカブト。オルフェノクの聴力が相手の心音を聞き取っていた。 それに気付いたダークカブトはクナイガンを構えながらゼロノスの飛ばされた森林へと近づいていく。 しかしその時だった――。 ―FULL CHARGE― 森の中から電子音声が聞こえた。 すると次の瞬間、緑の光が走ったかと思うと巨大な木々が次々と倒れてきた。 「なに!?」 それに驚きながらも身をかわすダークカブト。 クロックアップで避けるため腰に手を当てようとするがそこへ倒れた木々が迫り、転がって回避したために失敗に終わってしまう。 「…くっ!」 そうしてクロックアップを使わず全ての巨木を避けきったダークカブト。溜息をつきながらもゼロノスのいたであろう位置へと視線を移した。 しかしそこにはもう気配や心音さえも感じられなかった。おそらくオルフェノクの感覚でも拾いきれない位置まで移動したのだろう。 「…逃げたか」 そう呟きながらダークカブトの変身を解いた澤田。 ダークカブトゼクターはベルトを離れ大空を舞っていく。 「澤田くん」 そこへ隠れていた真魚が声を上げて駆け寄ってきた。それに僅かに微笑んで迎える澤田。 「大丈夫?」 「うん、なんともない」 気遣う目で見る真魚に平気な顔で応える。 「…さっきの人は?」 「逃げたみたいだ」 そう応えた澤田だったが真魚の表情が少しばかりか残念そうな顔をしたのに気がついた。 なにか気がついたことでもあったのだろうか、証拠に心音が速まっているのがわかる。 「……気になる?」 「え…?いや、『名簿に名前が無い』とか言ってたから…それで少し混乱しちゃって…」 どこか慌てたように応えた真魚。澤田は真魚の心音の早まりはその混乱と動揺から来ているのだと判断した。放送もあり、突然知らぬ誰かに連れて行かれそうになったのだ、混乱して当然である。 「……これ、貸してあげる」 「え…?」 すると澤田はおもむろに被っていた紺色の帽子を取り払い真魚の頭へと乗せた。 「これで人違いされなくてすむ」 困惑する真魚に説明と同時に笑って真魚を和ます。 しかしその笑みは自分のためのものだった。 先程の男のように人違いであれ真魚を連れて行こうとする連中が他にもいるかも知れない。 帽子を被ったぐらいで全部は隠せないが、これならすぐにバレはしないだろうし、なにより本当の知り合いと出会っても気付かれないかもしれない。 むしろそっちのほうが目的である。 「……っ…!……あ、ありがとう」 真魚は照れくさそうに紺色のキャップ棒をそそくさと目深に被って感謝の言葉を告げた。 それにただ微笑んでいた澤田。その笑顔の奥で彼はもう一つ気になることがあった。 真魚も言ったが『名簿に名前が無い』という先程の男の言葉。 そんな者が存在するわけがない。スマートブレインが名簿に載せ忘れたなどというミスは考えられない。だとすれば外部から別にここへ来たということだろうか。 それも考えられない、参加者は全員首輪をしている。真魚も同じだ。 わざわざ外部から来て首輪をしてまで参加する者などいようはずもない。 と、なればやはりあの男の人違いに過ぎない。 たまたま知り合いが真魚とそっくりだけだったのだろう。 少しばかり思考を巡らせた澤田は優しく真魚に声を掛けた。 「行こう真魚ちゃん」 「…うん」 頷いた真魚を確認しすると、倒れた木々を避けながら足を進め始めた。 先の電話でスマートレディが言っていた通り放送局に人が集まるのなら行ってみるべきだろう。一度に参加者を減らせるチャンスでもあるが、同時に真魚の知り合いと出会う確率も高い。 だが、たとえどのような人物が迫ろうと必ず真魚は守ってみせる。 最後に自分が殺すために…。 そんな冷酷な思いを胸に澤田は真魚と共に歩んでいく…。 **状態表 【澤田亜希@仮面ライダー555】 【一日目 日中】 【現在地 E-6 公園向こうの平地】 [時間軸]:34話・真理再生前 [状態]:小程度の疲労。体の各部に打撲。ダークカブトに2時間変身不能。 [装備]:カイザギア(全装備付属) [道具]:基本支給品、通話発信可能な携帯電話、不明支給品×3(本人確認済み)    ライダーベルト+ダークカブトゼクター、ディスクアニマル(アカネタカ)    iPod(動画再生機能付き)ファイズアクセル [思考・状況] 基本行動方針:参加者を皆殺しにして自分が完全なオルフェノクであることを証明する。 1:風谷真魚を守る。あくまで、最後に自分の手で殺すために。 2:他の参加者を殺す。 3:なるべくオルフェノク態で戦う事を避ける。そのために一つでも多く変身装備が欲しい。 4:リスクを避けるべく、人の多い場所には近づかない。 5:放送局へ向かう [備考] ※ダークカブトに資格者として認められました。ベルトはカブトのものを流用しています。 ※能力制限等のルールについて、あらかじめ大まかに知らされています。 ※澤田の携帯電話は特別仕様のため、通話の発信機能が生きています。  現在の所、通話可能な相手は主催者(村上社長・スマートレディ)のみです  * * * 真魚は深く被った帽子の下から瞳を潤わせて澤田の背中を見つめていた。 あの時、青年に腕を掴まれたとき、彼の過去の断片が脳裏に浮かんだ。 それは青年と誰かが泣きながらも嬉しそうに抱きついているイメージだった。 その誰かは黒い異型の人物…。そう、駅で自分が撃った銃弾に倒れた人物であった。イメージから察するにあの青年と異型の人物は親友とも呼べる存在だったのだろう。 だとすれば澤田と共に引き金を引いたとしても自分は彼の友の命を奪ったことになる。 澤田に「しかたなかった」と言われたが、やはりそんな言葉で片付けられるほど簡単なものではない。 あの異型の人物に帰るべき“居場所”があったとすれば、それは青年の所だったのかもしれない。同時に青年の帰るべき場所も異型の人物のところだったのかもしれない。 他人の“居場所”を奪っておいて自分だけが帰りたいなどと甘かったのだ。 「帰るべき居場所など無い」そう言った澤田の言葉が改めて胸に突き刺さる。 できることならもう一度あの青年に会って謝りたいとも思うが…。 深い後悔の念と自己嫌悪が彼女を包んでいく。 さらにもう一つ気になることもある 澤田に渡された帽子に触れたとき断片のイメージが流れ込んでくるのがわかった。 しかしそれを寸前で拒否してしまった。見るのが怖かったからかもしれない。 断片的にせよ…何か、全てを否定させるような、そんな気がしてしまった。 「………」 真魚は無言で澤田の背中を見つめながら歩みを進めた。 自由に力を操れていないのはわかっている。 それでもいつか決心がついたらこの帽子に触れよう。 それがどんな結果を生むかはわからないけど…。 **状態表 【風谷真魚@仮面ライダーアギト】 【一日目 日中】 【現在地 E-6 公園向こうの平地】 [時間軸]:31話・サイコキネシス発現後 [状態]:健康。動揺。強い自己嫌悪。 [装備]:コルトパイソンA@クウガ(装弾数5/6、マグナム用神経断裂弾) [道具]:基本支給品一式x2(真魚・天道)     ライダーパス、首輪(天道)     特殊効果弾セット(マグナム用神経断裂弾54、ライフル用神経断裂弾20、     ランチャー用非殺傷ゴム弾5、ランチャー用催涙弾5、ランチャー用発煙弾5、ランチャー用対バリケード弾5) 、澤田のキャップ帽 [思考・状況] 1:澤田についていく。離れたくない。 2:人殺しをした自分が憎い。 3:自分の能力と支給品の銃を嫌悪。 4:能力の事を澤田に知られたくない。 5:澤田と一緒なら、元の世界に戻れる…? 6:自分をナオミと呼んだ青年にもう一度会って謝りたい。 [備考] ※制限もしくは心理的な理由で超能力が不完全にしか発揮できません。  現状では、サイコメトリーで読めるのは断片的なイメージだけです。 ※以下のように事実を誤解しています。 サイコメトリーで見えた灰色のモンスターの正体は天道=カブト。 灰色の怪物(海堂)と赤い怪物(モグラ)は殺し合いに乗っている。 青いライダー(ガタック・ライダーフォーム)に変身して自分を守ったのは澤田。 加賀美(名前は知らない)は自分がサイコキネシスで殺した。 自分をナオミと呼んだ男(侑斗)と黒い異型(デネブ)は親友。 ※決心が付いたら澤田の帽子に触れてイメージを見てみる。  * * * 「…なんなんだ、今のは?」 変身を解いて道路沿いの雑木林の陰に腰を降ろした侑斗は呟いていた。 吹き飛ばされた直後にスプレンデッドエンドを発動させ巨木をなぎ倒し、それによって逃走することには成功した。 だが、気になるのは黒い戦士の能力。「クロックアップ」という電子音声が聞こえたと思ったら既に敵は居なくなっていた。そして気付いた瞬間には眼前に居て回し蹴りの最中だった。 何処かで見たような能力…。 あれは一条がオルタナティブへ変身し、龍の怪人に変身する男と戦っていた時だ。 あの時は「アクセルベント」という電子音声が聞こえたと同時にオルタナティブの姿が見えなくなった。そして次の瞬間には自分達の目の前にいて、敵の砲撃から庇ってくれていた…。 クロックアップ、アクセルベント、仕組みや原理はわからないが似たような能力だろう。 ならば同じような敵と出会った場合でも反撃できるように対策を考えなければ。 (…………) だが、そうなると自分の知恵だけではどうしても対策が浮かばない。やはり戦闘においても脱出においても香川のような人物が必要なのかもしれない。 …現状では対策は思い浮かばない、同じような能力の前では防御に徹するか、逃げることに専念したほうがよさそうだ。 「…しっかし…もう少し男を選べっての」 そして今度は傷ついた身体を見ながら呟いて先程の少女を思い出した。帽子の男は人違いだと言っていたが、どう見てもナオミだった。だが、本来なら自分の顔を見れば気付いたはずだが…。 そんな時、ガオウの事を思い出した。確かに消え去ったはずのガオウがここには存在しているはずだ。これは主催がガオウを蘇らせたか、消滅する前のガオウを連れてきたかどちらかだろう。 時の列車に乗る者としては、前者よりは後者の方が納得できる。 それに木場から聞いた、主催であるスマートブレインはオルフェノクという集団組織であるという情報。死者の蘇生については何も言ってはいなかったが、人を超えた存在であることは木場の姿を見て確認できた。 だとすれば、主催はオルフェノクらを使役し『時を越える力』を持って皆を集めた。そしてナオミは自分と知り合う前の時間から連れて来られた、とも考えられる。 だが、それでも少女がパスを不思議そうに見ていたのが疑問に残る。 本当にナオミなのか、それとも似ているだけか。自分と同じ顔の青年、ナオミの名が乗っていない名簿、などの情報が頭の中を飛び交う。 そして一つの考えを纏めた。 仮にあの少女をナオミだとすれば、主催は時間を越える力を持っており、なおかつ名簿に無い参加者がいることになる。だとすればナオミだけでなく良太郎や、まさか愛理もいるのかもしれない。ならば絶対に見つけ出して守らなければならない。 しかしそれも全ては仮定の話、彼女がナオミでなかったら振り出しに戻ることになる。 あくまで、可能性があるということで考えたほうがいいだろう。 そう考えながらカードを取り出した。残ったゼロノスのカードは緑が4枚、赤が1枚と芳しくない状態である。その上ダメージも大きく残っている。あの少女は帽子の王子様に守られているから安心だとしても、このまま香川と木場、それに愛理たちを捜索は難題だ。 少しでも身体を休めるしかない。しかし眠るわけにもいかない、いつ敵が襲ってくるかもわからない。歩きながらでも徐々に体力を回復させる。 そうして侑斗は傷ついた身体をゆっくりと起き上がらせてデイパックを担ぎ直した。 森の向こうには道路が見えたが、自分の来た道では無いのはなんとなくだがわかった。 「待ってろよ…みんな…」 侑斗は先に見える道路を見つめて呟いた。 『人助けと時の運行を守るって事は違うんだ』 かつて良太郎に言った言葉がリフレインする。 そして今なら思う、それが間違いだと。確かに2つは等しいものではなかった。 だが、時間の運行を無視して集められたはずの人達が集うこの島では例外だ。 皆を助けて脱出する事が時の運行を守ることに繋がる。 しかし全て上手くいくとは限らない。 どのような事態が起きるかはわからない。 全ては波だ。この歪んだ空間にも絶えず流れる時間の波。 それを掴まえさえすれば時は自分に味方してくれるはずだ。 (時間の波を…掴まえて見せる!) 新たな決意を胸に侑斗は小さな一歩を踏み出した。 いるはずの無い参加者を追い求めて。 そしてその近くに自分と瓜二つの少年が居るとも知らずに…。 **状態表 【桜井侑斗@仮面ライダー電王】 【1日目 現時刻:日中】 【現在地:F-6・道路沿い】 【時間軸】:最終回直後 【状態】:深い後悔、強い決意。全身に中程度のダメージ、中程度の疲労、ゼロノスに二時間変身不能。 【装備】:神経断裂弾(1発)、ゼロノスベルト 【道具】:基本支給品×2、ゼロノスカード四枚(内一枚赤カード)、ラウズカード三枚(ダイヤK・ブランク二枚)      ショッカー戦闘員スーツ×2@仮面ライダー、ディスクアニマル(ニビイロヘビ)、戦国時代のディスクアニマル(イワベニシシ)      煤けた首輪、双眼鏡、コーヒーセット、デジタル一眼レフ(CFカード)、望遠レンズ 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いの阻止 1:木場に謝りたい。 2:香川、木場との合流。 3:自分と同じ顔をした少年(桐矢)への疑問。保護が必要ならそうする。 4:ガドル、風のエル(名前は知らない)、北崎を倒す。 5:五代雄介に一条薫の死を伝える。 6:真魚(名前は知らない)は本当にナオミなのか知りたい。 7:可能性は低いが良太郎や愛理を探す。 【備考】 ※変身制限に気づきました。大体の間隔なども把握しています。 ※首輪の損傷具合は不明です。 ※剣世界の事についておおまかな知識を得ましたが、仮面ライダーやBOARDの事など金居が伏せた部分があります。 ※木場からオルフェノク・スマートブレイン社についての情報を得ました。 ※クロックアップ、アクセルベントに近い能力の前では対策ができるまでは防戦、逃亡を優先。 ※あの少女(真魚)は帽子の男(澤田)がいるから安心? |092:[[鬼³]]|投下順|094:[[Fatality-Cross(前編)]]| |092:[[鬼³]]|時系列順|094:[[Fatality-Cross(前編)]]| |088:[[LONG WAY HOME]]|[[澤田亜希]]|000:[[後の作品]]| |088:[[LONG WAY HOME]]|[[風谷真魚]]|000:[[後の作品]]| |078:[[零れ落ちる闇]]|[[桜井侑斗]]|000:[[後の作品]]|

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