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「金色の戦士(前編)」(2009/03/13 (金) 03:41:49) の最新版変更点
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*金色の戦士(前編)
包丁を研ぎ終えた東條悟は、微笑みながら放送を聞いていた。
「さすが、先生だ…ちゃんと死なずに居てくれてる」
東條にとって放送で呼ばれた人数などさほど興味はない。
あるのは唯一、香川英行の名前。
師事した彼の命を奪うことが、英雄への道の通過点なのだ。
「…さてと、今度こそ会えると嬉しいなぁ、ねぇ先生?」
包丁を仕舞い込んで大型のバイクに跨った東條は、誰に問いかけるでもなく呟く。
そうして、大きく排気音を鳴り響かせながら大型バイク凱火は走り出した。
* *
「あれ?海堂のやつ死んじゃった」
放送で告げられた先刻戦った男の名前を聞いても北崎はあっけらかんと応えていた。
そんな北崎に、恐怖の表情を見せないようにする三田村があった。
(本郷猛が死んだ!?)
確かに海堂の死にも驚いたが、それ以上に本郷の名が呼ばれたことに驚いた。
ショッカーを裏切った2体の改造人間、ホッパー1号とホッパー2号。そのホッパー1号こと本郷猛が死んだというのだ。スパイダー、バットを葬り、自らをも死の直前まで追いやった男。
そこまでの強さを持つ男が命を落とすこの戦い。自分が生き残ることなどの皆無なのかもしれない。
更に北崎に目を付けられているから尚更だ。
「ねぇ、もしかして、あのカブキってやつがやったのかな?」
「そんな、カブキさんがそんなことするはず…」
海堂を連れ去ったカブキ。もちろん救出のためだと思っている。
それにアマゾンと京介と一緒に面倒まで見てくれた彼が、海堂を殺すわけがない。
「ふーん、僕の言うことが違ってるって言うんだ?」
「え…?」
三田村のカブキを庇護する言葉を聞いた北崎は、つまらなさそうな顔をして対面に立った。
北崎の覇気を潜めた瞳に三田村の足が一歩後退してしまう。
「僕の言うこと違うかな?」
更に強めて言う北崎は三田村の肩に手を置いた。
瞬間、肩から砂が散り始め衣服とディパックの持ち手を削った。
「…ッ!?…うわ!わわああッ!!」
何が起きたかわからない三田村は慌てて北崎の手を振り払った。
同時に肩部の一部は削られ、デイパックも地面に落としてしまった。
「ねぇ、僕の言ってること正しいよね?」
「あ、あぁ…!」
不気味な笑顔の奥に悪魔の顔を隠した北崎に気づいた三田村は急いで首を縦に振った。
変身もしていないのに、奇妙な能力まで使える北崎。まだまだ未知の部分が多すぎる男、敵に回してはいけない。味方でいてくれる内に打開策を考えなければならない。
すると落としたディパックを拾い上げて、そのまま肩に背負った北崎。それを見ながら三田村は息を呑んで心を落ち着かせた。
「僕がこれを持ってあげる代わりに、君にこれからの行き先を決めさせてあげるよ」
「…え?行き先?」
別に持ってくれと頼んだわけでもない。それに落としたのは北崎のせいだ。
それでも逆らうわけにはいかない。
「そう、できれば新しい玩具や仮面ライダーのいるとこがいいな」
「そんなの知ってるわけ…」
逆らうわけにはいかない。死にたくなかったら…。
「わ…わかった、こっちだ…行こう」
「よろしくね、三田村君」
三田村は笑って声を掛ける北崎に恐る恐る頷くしかなかった。もちろん北崎の言うような場所を知っているわけもない。だが、NOと言えば命がないかもしれない。だから賭けるしかない、これから向かう先に北崎の言う玩具。または、仮面ライダーがいることを…。
そうして不安と恐怖に満ちた精神状態の三田村を先頭に2人は足を進めた。
* *
しばらく歩いた三田村と北崎は、交差点へとたどり着いた。
二車線の道路が四方から交じり合う場所。周りにはちらほらと建物が立ち並んでいる。
それでももう少し先に見える市街地に比べれば少ないはある。隠れながら逃げようと思えば逃げられるだろうか。
(上手くやれば…なんとか…)
「ねぇ、三田村君」
しかし、そんな淡い希望の思いをかき消すように北崎が話しかけてきた。
「な、なんだ?」
心を読まれたのかとひやりとしながらも応える三田村。
「君さ、あの紫のになれる?」
「紫の…あぁ、コブラのこと…」
ショッカーによって与えられた新たな体。改造人間コブラ。仮面とスーツによって人間には到底及ばない力を発揮できる。しかしそれも、この戦いのルールなのか思うようには扱えない。
「…いや、無理なんだ、何か制限みたいなのがあるようで」
「ふーん、僕もさ、オルフェノクになれないんだ。まぁそれくらいハンデが有ったほうがおもしろいけどね」
三田村は『オルフェノク』という単語に疑問を持つ。
自分と同じく姿を変われないとするなら、おそらく同時間に変身していた灰色の怪人のことだろう。
つまり今は、あの『オルフェノク』には変われない。あるのは砂に化す能力だけ。
だったら逃げる隙もどこかに…。
「だからさ、このベルトしか玩具がないんだよ」
すると言いながら北崎は銀のベルトと黒の携帯電話を取り出して呟いた。
瞬間、三田村は即座に考えを改めた。甘かった。まだ戦う術を持っていたのだ。当然といえば当然である。
見れば海堂の持っていたベルトとも似ている。おそらくは同型のもの。
それこそ彼の求める玩具、そして仮面ライダーへと変身させる道具なのだろう。
海堂の変身していた…ファイズだったか…あれのような力を集めることが北崎の目的。
それが深い意味があってやることなのか。それともただ単に戦いを楽しむために集めるのか。
先程の「おもしろい」という言葉と、これまで行動から後者だと判断する。
(やっぱり…逃げられないのか…)
遊ぶようにベルトと携帯電話を持つ北崎に、心中で溜息を付く三田村だった。
と、その時…。
「ねぇ、誰か来たみたい」
北崎が交差点の向こうを見ながら呟いた。その声に即座に反応して視線を同じにする三田村。
すると、交差点の向こうの道から排気音を鳴らしながら1台のバイクがやってきた。
やがてバイクは2人の前で止まり、運転手の青年の瞳が怪しく睨み付けた。
***
東條悟は、特別どこへ行こうと決めていたわけではない。
ある程度の力を持ったものを間引き、英雄になるための「相手」を探していたに過ぎない。
とりあえずは道なりに進んでいった先で、2人組の男達と出くわしたのだ。
「誰か来たみたい」
すると睨み付けていた男のうちの一人の声が聞こえた。
緩くパーマのかかった黒い髪の青年、いや雰囲気だけなら少年と言っても可笑しくない。
そう、一度戦ったことのある男。灰色の怪人と黒い戦士に身を変えた男。
「また君かぁ…まあ、いいけど飽きさせないでよ?」
それを見て、驚くどころか笑みを零す北崎。三田村は敵の出現と北崎の反応に二重に驚いている。
「三田村君、やるね。仮面ライダーのいるとこまで来れたじゃない」
「あ…あぁ、まぁな…」
咄嗟に応えるも空返事にしかならない。目の前の男が仮面ライダーかは知らないが、どうやら北崎が言うにはそうらしい、しかも一度会ってもいるようだ。結果的には賭けに勝ったとも言えよう。
しかし次なる危機が目前に迫っていた。
「遊びで戦うなんてさ…英雄のやることじゃないんだよ」
バイクに跨ったまま2人へと告げた東條は灰色のデッキをサイドミラーにかざした。
瞬間、銀色のベルトが腰部に巻かれる。
「変身」
少しだけ笑みを含んで、戦士へと変わる言葉を発した東條に幾重にも鎧が重なる。
そして犀を模した戦士、仮面ライダーガイへと変身を遂げた。
変身に驚く三田村が、瞬きした瞬間、大きな排気音が響いた。
ガイがバイクのアクセルを全開にして2人へと突進してきたからである。
「…ッ!?」
全速力で轢き殺しにかかってきたバイクを、即座に横っ飛びで回避した三田村。北崎はほんの少し動いただけで回避を済ませてしまう。
2人の間を通ると一気にブレーキを掛けて停車するガイは、路面にタイヤの跡を残しながら振り向いて2人を睨んだ。すると同時に契約モンスターであるメタルゲラスがバイクの車体越しに吼えているのが見えた。
「そのサイ…見るだけでイライラするよ」
微かに映るメタルゲラスを睨みつけて北崎は、ベルトを巻きながら黒い携帯電話、オーガフォンを開く。
手早く0、0、0、と変身コードを入力し一旦オーガフォンを閉じる。
Standing by
「変身」
僅かに怒りを見せて呟くと、オーガフォンをベルトへセットする。
Complete
ベルトから金色のフォンブラットが駆け巡り、黒き王者へと姿を変えさせる。
そうして仮面ライダーオーガへと変身を遂げた北崎は、赤き単眼を光らせ改めてガイを睨んだ。
「三田村君、先に遊ばせてもらうね」
「え…あ…あぁ」
オーガから溢れる不気味な殺気を感じた三田村は頷くだけだった。
だが同時に「先に」という言葉に疑問を感じた。「先に」とは、後に自分の番があるということだろうか…。
バイクの男と遊べというのか、それとも北崎と…?
考えただけでも気分が悪くなった。
すると、困惑する三田村を置いてオーガはガイ目掛けて駆け出した。
同時に再びアクセルを全開にしてバイクの向きをオーガに向けるガイ。
排気音を轟かせ前輪を浮かした大型バイク凱火が、オーガを押しつぶすように襲い掛かった。
瞬間、凱火の前輪がオーガを踏み潰した。
――かのように見えた。
ウィリーの形でオーガに迫った凱火はその身を停止させていた。否、正確にはオーガによって動きを止められていた。上から迫った前輪を片手で受け止めたオーガは、ハンドルを握るガイに視線を合わせた。
瞬間、アクセルを吹かすガイだが高速で回転する前輪はオーガの手との摩擦で、黒い削りカスを飛ばすだけであった。
「タイヤが無くなっちゃうよ」
そう呟いたオーガは片手に力を込めると回転する前輪を無理やり止め、凱火を少し持ち上げて横方向へと振り投げた。
「…ちっ!」
宙を浮く凱火から咄嗟にジャンプして自身への被害を無くすガイ。
主人を無くした凱火は火花を散らしながら路面を滑り、サイドミラー一本を失って停止した。
難なく着地に成功したガイは急いでオーガに視線を向けると、そこには既に冥界剣とも呼ばれるオーガストランザーを構えたオーガがいた。
それを見たガイは素早くデッキからカードを引き左肩のバイザーへとセットする。
STRIKE VENT
電子音が響き、ガイの右手に角型の剣メタルホーンが装備される。
と、同時にオーガストランザーがガイ目掛けて振り下ろされた。
強烈な金属音を響かせて2つの剣がぶつかり合う。
「あんまり好きじゃないけど、それ…僕に頂戴」
「…神崎にでも…言ってよね」
鍔迫り合いの中で言葉を交わす2人。
しかしそれは、片方の剣が吹き飛ぶ合図でもあった。
吹き飛んだ剣、メタルホーンは弧を描いて三田村の足元に突き刺さった。
「ひっ…!」
完全に油断していて気の抜けた声が出てしまった三田村。
あわよくば2人が戦っている隙に逃げ出そうと考えていた矢先だったからである。
突き刺さったメタルホーンが、まるで自分の考えを見透かした北崎の警告にも思えた。
そんな三田村には見向きもせず2人は戦いを続ける。剣を失ったガイは瞬時にバックステップで後退しオーガとの距離をとる。すると同時にオーガの手がベルトに装着された携帯電話に伸びるのが見えた。
その瞬間、ガイは前のオーガとの戦いを思い出す。
今から取るであろう行動は見たことがある。携帯電話のキーを入力することによってアクションを起こす。
ひとつは変身。そしてひとつは…あの剣が巨大に伸びること。
あの時はゾルダがその餌食になっていたが…。
(…それだったら)
考えをまとめたガイはデッキへと手を伸ばし一枚のカードを引き抜いた。
手にしたのは『コンファインベント』、敵による効果を打ち消す力を持ったカード。
これによって前の戦いでもオーガの剣をかき消したのだった。
(…このカードで)
だが、ガイが確認に一瞬カードへ視線を移した…その時だった。
Burst
初耳の電子音と共に光弾がコンファインベントのカードを貫いていった。
「なっ!?」
驚くガイの手からカードが燃え尽きていく。
そんなガイを嘲笑しながらオーガフォンをバーストモードに構えたオーガがいた。
「なんだ、ファイズのと一緒かぁ」
呟くオーガは手早くオーガフォンを元に戻すとミッションメモリーを引き抜き、再びオーガストランザーを
構えた。
Ready
オーガの次なる動作に気づいてガイは急いでデッキへ手を伸ばす。
Exceed Charge
聞き覚えのある電子音が聞こえる中、ファイナルベントのカードを引く。
だが、同時にオーガストランザーはその輝く刀身を伸ばし、ガイへと迫った。
「…間に…合え!」
左肩のバイザーへカードを入れて、後はバイザーを降ろすだけ。
しかしその、降ろすだけの一手が決まらなかった。
刹那、巨大な黄金の剣がガイを挟み込み、空高く押し上げる。
「ぐ…あぁああ!」
挟み込まれて身動きの取れないガイが声を上げる。
だがオーガは、それを待っていたかのように笑うと、そのまま勢いよく剣を振り下ろした。
同じく挟まれたガイも剣と動きを同化させられ、容赦なくコンクリートの路面へと叩きつけられた。
「…ぐっ…が…は」
衝撃によって変身が解けた東條。背中から落ちたせいか、深刻なダメージとは言わないが強烈な痛みが全身を襲った。だがそれ以上に、精神的なダメージがあった。落ちた衝撃によってガイのデッキが吹き飛んだのである。そしてその吹き飛んだ先が、敵の足元であったことである。
「なぁんだ、もう終わりか」
ガイのデッキを拾い上げて呟くオーガは、徐に変身と解除した。
変身を解いた理由に特別な意味はない。ただ単に相手の姿を見て興が削がれた、それだけである。
(やっぱり…楽しんでるだけだ)
そんな北崎を見つめて三田村は思う。
相手の変身が解けると同時に目の前に突き刺さっていた剣が消えた。敵の力の効力が切れたことを表しているのだろう。今ならとどめを差そうと思えば充分にできるのにやろうとしない。
あの男を自分と同じように友達だとか言って連れ回す気だろうか…。
すると、あれこれと思考する三田村の前で新たな動きがあった。
「まだ…終わってないよ」
北崎を睨みながら呟く東條は、新たなデッキを取り出した。
そして近くに転がっていた凱火の折れたサイドミラーを反対の手で拾い上げた。
「あぁ、そっか…もう一個持ってるんだったね」
それを見ても驚きもしない北崎は、手に持ったガイのデッキを軽く振ってみせる。
すると、少しだけ考えを巡らせたのか手を止めた。
「そうだった…三田村君」
突然、三田村の名を呼んだ北崎はガイのデッキを投げ渡した。
「「!!」」
それを見て東條と三田村が驚く。
当然である、両者とも北崎がガイに変身して戦うと思っていたからである。
「それで遊ばせてあげるよ、僕は優しいからさ」
咄嗟にでもうまくキャッチした三田村を怪しく睨む北崎。
そんな視線の意味を理解しながら三田村はガイのデッキを握り締めた。
「…どっちでもいいよ…君たちはどうせ、僕が英雄になるための糧なんだ」
ガイのデッキを持つ三田村に視線を変えながら、破片のサイドミラーにデッキを映す東條。
瞬間、銀色のデッキが東條の腰部に現れる。
するとそれに気づいてか、三田村も倒れた凱火に駆け寄ってサイドミラーにデッキを映す。
同時に東條と同じく銀色のデッキが腰部に出現したのを確かめる。
「「変身!」」
2つの声が響き、2人の戦士を出現させた。
鋭き爪を持った白虎の戦士――仮面ライダータイガ。
全てを貫く角を持った灰犀の戦士――仮面ライダーガイ。
北崎を挟み込むように、2人の仮面ライダーが対峙した。
「頑張ってよ三田村君、使い方わかるでしょ?」
オーガドライバーをディパックに詰めながら言う北崎。
それに無言で頷いたガイは、力強く大地を蹴ってタイガ目掛けて駆け出した。
****
2人の仮面ライダーが睨みあい間合いを取りながら駆け抜ける。先程の交差点から少し離れ、既に北崎からは姿を見えない場所にいる。小さな一軒家や小屋などが疎らに立ち並ぶ中でようやく足を止めた。
そうして視線をぶつけあう中で両者は同時に動いた。
STRIKEVENT
STRIKEVENT
同じ電子音声が響き、両者に武器が与えられる。
タイガには両手に鋭い爪が。ガイには先程、北崎に弾かれた剣が。
それぞれに与えられた武器を構えて攻撃の機を伺う。
そうして仮面の下に覗かせた瞳に敵を映すと、両者同時に地を蹴った。
先に振り下ろされたメタルホーンを左手のデストクローで防御するタイガ。金属音と火花を散らして体に振動を感じながら余った右手の爪でガイを引き裂く。
しかし、身を捻って回避したガイによって爪は空を切るだけに終わる。すると捻った体を一度回転させたガイは、メタルホーンに遠心力を加えて再び振り下ろした。
それに瞬時に反応したタイガ、今度は両手のデストクローを盾にして防御に成功した。
再度散る火花と金属音。だが今度はそれにガイの声が続いた。
「待て!話を聞け!俺は……味方だ!」
その不可解な言葉に、メタルホーンを払いのけて間合いを取るタイガ。
「…どういう意味かな?」
「味方」だと言って近づいて不意打ちを狙うなど幼稚な手だ。
自分に適わないと悟って言い出したことか…いずれにせよ鵜呑みにはできない。
「お前もわかっただろ!あの北崎ってやつは化け物だ!」
ガイの言葉に先程の男の事を思い出すと、少しだけ黙って耳を傾けるタイガ。
「お前一人で戦ったって勝てやしない!」
北崎の恐ろしさを知っているからのガイの言葉は重みを背負っている。
「…それで、一緒にあいつを倒そうっての?君、あいつの味方なんじゃないの」
「…今だけだ」
タイガの問いに渋って声を出すガイ。
「ふーん…それで、2人であいつを倒そうっての?」
「そうだ!今のあいつは戦う力が無い!さっきの黒い奴にもオルフェノクってのにも制限でなれない!」
そう、これこそがガイ…三田村の考えだった。
ガイのデッキを渡されたとき、瞬時に脳裏を駆け巡った考え。
今、北崎が変身できないのなら倒せるかもしれない。それだけが何度も心に囁いた。
実際北崎には制限によって戦う術は無い、あるのは触れるだけ砂化させる能力だけ。
それだけに気をつければ負けることは無い。確実に勝てる。それもこの男と協力できればなお確実だ。
だからこそ北崎には会話が聞こえぬ位置まで戦いの場を移した。それもすぐに実行に移せるように遠からず近からずにあって死角になる場所だ。
「頼む!力を貸してくれ!今しかないんだ!」
これは奇跡に近い千差一隅のチャンスなのだ。これを逃せば北崎を倒す機会は無くなる。
そう考えても可笑しくない、それほどまでに北崎は強敵である。
逆らえずただ玩具のように振り回されるのは御免だ。ここで逃れてみせる。
「ふぅん…」
必死な声のガイにタイガは少しだけ思考を巡らせる。
おそらくは本当のことを言っているのだろう、必死さからもそれが伺える。
あの男を倒すことに否定はしないが罠の可能性も捨てきれない。
「……いいよ、手を貸してあげるよ」
「ほ、本当か!?」
冷ややかな声の賛成に驚いてしまったガイ。
「本当さ、やるなら急ごうよ。僕たちの変身も長く持たないしさ」
「あ、ああ…そうだな!よし、こっちだ!」
変身時間のことまで気にかけるタイガの言葉に協力の確信を持ったガイは、北崎打倒の心を燃やして敵の居場所へ駆け出した。
だが、それを後ろから追いかけるタイガは仮面の下で怪しく微笑む。
北崎を倒せれば、また一歩英雄に近づける。そして幾ら好機とはいえ簡単に敵であった者の協力を信じるとは愚かである。そんなことでは英雄には程遠い。
所詮この男も英雄にはなれない、自分が英雄になるための踏み台なのである。
(あいつを倒したら…次は君だよ)
先を走るガイを見ながらタイガは仮面に隠れた瞳を鈍く光らせた。
* * *
|097:[[Sturm und Drache]]|投下順|099:[[激突! 二人の王]]|
|097:[[Sturm und Drache]]|時系列順|099:[[激突! 二人の王]]|
|083:[[EGO(後編)]]|[[三田村晴彦]]|098:[[金色の戦士(後編)]]|
|083:[[EGO(後編)]]|[[北崎]]|098:[[金色の戦士(後編)]]|
|082:[[東條悟のお料理教室]]|[[東條悟]]|098:[[金色の戦士(後編)]]|
*金色の戦士(前編)
包丁を研ぎ終えた東條悟は、微笑みながら放送を聞いていた。
「さすが、先生だ…ちゃんと死なずに居てくれてる」
東條にとって放送で呼ばれた人数などさほど興味はない。
あるのは唯一、香川英行の名前。
師事した彼の命を奪うことが、英雄への道の通過点なのだ。
「…さてと、今度こそ会えると嬉しいなぁ、ねぇ先生?」
包丁を仕舞い込んで大型のバイクに跨った東條は、誰に問いかけるでもなく呟く。
そうして、大きく排気音を鳴り響かせながら大型バイク凱火は走り出した。
* *
「あれ?海堂のやつ死んじゃった」
放送で告げられた先刻戦った男の名前を聞いても北崎はあっけらかんと応えていた。
そんな北崎に、恐怖の表情を見せないようにする三田村があった。
(本郷猛が死んだ!?)
確かに海堂の死にも驚いたが、それ以上に本郷の名が呼ばれたことに驚いた。
ショッカーを裏切った2体の改造人間、ホッパー1号とホッパー2号。そのホッパー1号こと本郷猛が死んだというのだ。スパイダー、バットを葬り、自らをも死の直前まで追いやった男。
そこまでの強さを持つ男が命を落とすこの戦い。自分が生き残ることなどの皆無なのかもしれない。
更に北崎に目を付けられているから尚更だ。
「ねぇ、もしかして、あのカブキってやつがやったのかな?」
「そんな、カブキさんがそんなことするはず…」
海堂を連れ去ったカブキ。もちろん救出のためだと思っている。
それにアマゾンと京介と一緒に面倒まで見てくれた彼が、海堂を殺すわけがない。
「ふーん、僕の言うことが違ってるって言うんだ?」
「え…?」
三田村のカブキを庇護する言葉を聞いた北崎は、つまらなさそうな顔をして対面に立った。
北崎の覇気を潜めた瞳に三田村の足が一歩後退してしまう。
「僕の言うこと違うかな?」
更に強めて言う北崎は三田村の肩に手を置いた。
瞬間、肩から砂が散り始め衣服とディパックの持ち手を削った。
「…ッ!?…うわ!わわああッ!!」
何が起きたかわからない三田村は慌てて北崎の手を振り払った。
同時に肩部の一部は削られ、デイパックも地面に落としてしまった。
「ねぇ、僕の言ってること正しいよね?」
「あ、あぁ…!」
不気味な笑顔の奥に悪魔の顔を隠した北崎に気づいた三田村は急いで首を縦に振った。
変身もしていないのに、奇妙な能力まで使える北崎。まだまだ未知の部分が多すぎる男、敵に回してはいけない。味方でいてくれる内に打開策を考えなければならない。
すると落としたディパックを拾い上げて、そのまま肩に背負った北崎。それを見ながら三田村は息を呑んで心を落ち着かせた。
「僕がこれを持ってあげる代わりに、君にこれからの行き先を決めさせてあげるよ」
「…え?行き先?」
別に持ってくれと頼んだわけでもない。それに落としたのは北崎のせいだ。
それでも逆らうわけにはいかない。
「そう、できれば新しい玩具や仮面ライダーのいるとこがいいな」
「そんなの知ってるわけ…」
逆らうわけにはいかない。死にたくなかったら…。
「わ…わかった、こっちだ…行こう」
「よろしくね、三田村君」
三田村は笑って声を掛ける北崎に恐る恐る頷くしかなかった。もちろん北崎の言うような場所を知っているわけもない。だが、NOと言えば命がないかもしれない。だから賭けるしかない、これから向かう先に北崎の言う玩具。または、仮面ライダーがいることを…。
そうして不安と恐怖に満ちた精神状態の三田村を先頭に2人は足を進めた。
* *
しばらく歩いた三田村と北崎は、交差点へとたどり着いた。
二車線の道路が四方から交じり合う場所。周りにはちらほらと建物が立ち並んでいる。
それでももう少し先に見える市街地に比べれば少ないはある。隠れながら逃げようと思えば逃げられるだろうか。
(上手くやれば…なんとか…)
「ねぇ、三田村君」
しかし、そんな淡い希望の思いをかき消すように北崎が話しかけてきた。
「な、なんだ?」
心を読まれたのかとひやりとしながらも応える三田村。
「君さ、あの紫のになれる?」
「紫の…あぁ、コブラのこと…」
ショッカーによって与えられた新たな体。改造人間コブラ。仮面とスーツによって人間には到底及ばない力を発揮できる。しかしそれも、この戦いのルールなのか思うようには扱えない。
「…いや、無理なんだ、何か制限みたいなのがあるようで」
「ふーん、僕もさ、オルフェノクになれないんだ。まぁそれくらいハンデが有ったほうがおもしろいけどね」
三田村は『オルフェノク』という単語に疑問を持つ。
自分と同じく姿を変われないとするなら、おそらく同時間に変身していた灰色の怪人のことだろう。
つまり今は、あの『オルフェノク』には変われない。あるのは砂に化す能力だけ。
だったら逃げる隙もどこかに…。
「だからさ、このベルトしか玩具がないんだよ」
すると言いながら北崎は銀のベルトと黒の携帯電話を取り出して呟いた。
瞬間、三田村は即座に考えを改めた。甘かった。まだ戦う術を持っていたのだ。当然といえば当然である。
見れば海堂の持っていたベルトとも似ている。おそらくは同型のもの。
それこそ彼の求める玩具、そして仮面ライダーへと変身させる道具なのだろう。
海堂の変身していた…ファイズだったか…あれのような力を集めることが北崎の目的。
それが深い意味があってやることなのか。それともただ単に戦いを楽しむために集めるのか。
先程の「おもしろい」という言葉と、これまで行動から後者だと判断する。
(やっぱり…逃げられないのか…)
遊ぶようにベルトと携帯電話を持つ北崎に、心中で溜息を付く三田村だった。
と、その時…。
「ねぇ、誰か来たみたい」
北崎が交差点の向こうを見ながら呟いた。その声に即座に反応して視線を同じにする三田村。
すると、交差点の向こうの道から排気音を鳴らしながら1台のバイクがやってきた。
やがてバイクは2人の前で止まり、運転手の青年の瞳が怪しく睨み付けた。
***
東條悟は、特別どこへ行こうと決めていたわけではない。
ある程度の力を持ったものを間引き、英雄になるための「相手」を探していたに過ぎない。
とりあえずは道なりに進んでいった先で、2人組の男達と出くわしたのだ。
「誰か来たみたい」
すると睨み付けていた男のうちの一人の声が聞こえた。
緩くパーマのかかった黒い髪の青年、いや雰囲気だけなら少年と言っても可笑しくない。
そう、一度戦ったことのある男。灰色の怪人と黒い戦士に身を変えた男。
「また君かぁ…まあ、いいけど飽きさせないでよ?」
それを見て、驚くどころか笑みを零す北崎。三田村は敵の出現と北崎の反応に二重に驚いている。
「三田村君、やるね。仮面ライダーのいるとこまで来れたじゃない」
「あ…あぁ、まぁな…」
咄嗟に応えるも空返事にしかならない。目の前の男が仮面ライダーかは知らないが、どうやら北崎が言うにはそうらしい、しかも一度会ってもいるようだ。結果的には賭けに勝ったとも言えよう。
しかし次なる危機が目前に迫っていた。
「遊びで戦うなんてさ…英雄のやることじゃないんだよ」
バイクに跨ったまま2人へと告げた東條は灰色のデッキをサイドミラーにかざした。
瞬間、銀色のベルトが腰部に巻かれる。
「変身」
少しだけ笑みを含んで、戦士へと変わる言葉を発した東條に幾重にも鎧が重なる。
そして犀を模した戦士、仮面ライダーガイへと変身を遂げた。
変身に驚く三田村が、瞬きした瞬間、大きな排気音が響いた。
ガイがバイクのアクセルを全開にして2人へと突進してきたからである。
「…ッ!?」
全速力で轢き殺しにかかってきたバイクを、即座に横っ飛びで回避した三田村。北崎はほんの少し動いただけで回避を済ませてしまう。
2人の間を通ると一気にブレーキを掛けて停車するガイは、路面にタイヤの跡を残しながら振り向いて2人を睨んだ。すると同時に契約モンスターであるメタルゲラスがバイクの車体越しに吼えているのが見えた。
「そのサイ…見るだけでイライラするよ」
微かに映るメタルゲラスを睨みつけて北崎は、ベルトを巻きながら黒い携帯電話、オーガフォンを開く。
手早く0、0、0、と変身コードを入力し一旦オーガフォンを閉じる。
Standing by
「変身」
僅かに怒りを見せて呟くと、オーガフォンをベルトへセットする。
Complete
ベルトから金色のフォンブラットが駆け巡り、黒き王者へと姿を変えさせる。
そうして仮面ライダーオーガへと変身を遂げた北崎は、赤き単眼を光らせ改めてガイを睨んだ。
「三田村君、先に遊ばせてもらうね」
「え…あ…あぁ」
オーガから溢れる不気味な殺気を感じた三田村は頷くだけだった。
だが同時に「先に」という言葉に疑問を感じた。「先に」とは、後に自分の番があるということだろうか…。
バイクの男と遊べというのか、それとも北崎と…?
考えただけでも気分が悪くなった。
すると、困惑する三田村を置いてオーガはガイ目掛けて駆け出した。
同時に再びアクセルを全開にしてバイクの向きをオーガに向けるガイ。
排気音を轟かせ前輪を浮かした大型バイク凱火が、オーガを押しつぶすように襲い掛かった。
瞬間、凱火の前輪がオーガを踏み潰した。
――かのように見えた。
ウィリーの形でオーガに迫った凱火はその身を停止させていた。否、正確にはオーガによって動きを止められていた。上から迫った前輪を片手で受け止めたオーガは、ハンドルを握るガイに視線を合わせた。
瞬間、アクセルを吹かすガイだが高速で回転する前輪はオーガの手との摩擦で、黒い削りカスを飛ばすだけであった。
「タイヤが無くなっちゃうよ」
そう呟いたオーガは片手に力を込めると回転する前輪を無理やり止め、凱火を少し持ち上げて横方向へと振り投げた。
「…ちっ!」
宙を浮く凱火から咄嗟にジャンプして自身への被害を無くすガイ。
主人を無くした凱火は火花を散らしながら路面を滑り、サイドミラー一本を失って停止した。
難なく着地に成功したガイは急いでオーガに視線を向けると、そこには既に冥界剣とも呼ばれるオーガストランザーを構えたオーガがいた。
それを見たガイは素早くデッキからカードを引き左肩のバイザーへとセットする。
STRIKE VENT
電子音が響き、ガイの右手に角型の剣メタルホーンが装備される。
と、同時にオーガストランザーがガイ目掛けて振り下ろされた。
強烈な金属音を響かせて2つの剣がぶつかり合う。
「あんまり好きじゃないけど、それ…僕に頂戴」
「…神崎にでも…言ってよね」
鍔迫り合いの中で言葉を交わす2人。
しかしそれは、片方の剣が吹き飛ぶ合図でもあった。
吹き飛んだ剣、メタルホーンは弧を描いて三田村の足元に突き刺さった。
「ひっ…!」
完全に油断していて気の抜けた声が出てしまった三田村。
あわよくば2人が戦っている隙に逃げ出そうと考えていた矢先だったからである。
突き刺さったメタルホーンが、まるで自分の考えを見透かした北崎の警告にも思えた。
そんな三田村には見向きもせず2人は戦いを続ける。剣を失ったガイは瞬時にバックステップで後退しオーガとの距離をとる。すると同時にオーガの手がベルトに装着された携帯電話に伸びるのが見えた。
その瞬間、ガイは前のオーガとの戦いを思い出す。
今から取るであろう行動は見たことがある。携帯電話のキーを入力することによってアクションを起こす。
ひとつは変身。そしてひとつは…あの剣が巨大に伸びること。
あの時はゾルダがその餌食になっていたが…。
(…それだったら)
考えをまとめたガイはデッキへと手を伸ばし一枚のカードを引き抜いた。
手にしたのは『コンファインベント』、敵による効果を打ち消す力を持ったカード。
これによって前の戦いでもオーガの剣をかき消したのだった。
(…このカードで)
だが、ガイが確認に一瞬カードへ視線を移した…その時だった。
Burst
初耳の電子音と共に光弾がコンファインベントのカードを貫いていった。
「なっ!?」
驚くガイの手からカードが燃え尽きていく。
そんなガイを嘲笑しながらオーガフォンをバーストモードに構えたオーガがいた。
「なんだ、ファイズのと一緒かぁ」
呟くオーガは手早くオーガフォンを元に戻すとミッションメモリーを引き抜き、再びオーガストランザーを
構えた。
Ready
オーガの次なる動作に気づいてガイは急いでデッキへ手を伸ばす。
Exceed Charge
聞き覚えのある電子音が聞こえる中、ファイナルベントのカードを引く。
だが、同時にオーガストランザーはその輝く刀身を伸ばし、ガイへと迫った。
「…間に…合え!」
左肩のバイザーへカードを入れて、後はバイザーを降ろすだけ。
しかしその、降ろすだけの一手が決まらなかった。
刹那、巨大な黄金の剣がガイを挟み込み、空高く押し上げる。
「ぐ…あぁああ!」
挟み込まれて身動きの取れないガイが声を上げる。
だがオーガは、それを待っていたかのように笑うと、そのまま勢いよく剣を振り下ろした。
同じく挟まれたガイも剣と動きを同化させられ、容赦なくコンクリートの路面へと叩きつけられた。
「…ぐっ…が…は」
衝撃によって変身が解けた東條。背中から落ちたせいか、深刻なダメージとは言わないが強烈な痛みが全身を襲った。だがそれ以上に、精神的なダメージがあった。落ちた衝撃によってガイのデッキが吹き飛んだのである。そしてその吹き飛んだ先が、敵の足元であったことである。
「なぁんだ、もう終わりか」
ガイのデッキを拾い上げて呟くオーガは、徐に変身と解除した。
変身を解いた理由に特別な意味はない。ただ単に相手の姿を見て興が削がれた、それだけである。
(やっぱり…楽しんでるだけだ)
そんな北崎を見つめて三田村は思う。
相手の変身が解けると同時に目の前に突き刺さっていた剣が消えた。敵の力の効力が切れたことを表しているのだろう。今ならとどめを差そうと思えば充分にできるのにやろうとしない。
あの男を自分と同じように友達だとか言って連れ回す気だろうか…。
すると、あれこれと思考する三田村の前で新たな動きがあった。
「まだ…終わってないよ」
北崎を睨みながら呟く東條は、新たなデッキを取り出した。
そして近くに転がっていた凱火の折れたサイドミラーを反対の手で拾い上げた。
「あぁ、そっか…もう一個持ってるんだったね」
それを見ても驚きもしない北崎は、手に持ったガイのデッキを軽く振ってみせる。
すると、少しだけ考えを巡らせたのか手を止めた。
「そうだった…三田村君」
突然、三田村の名を呼んだ北崎はガイのデッキを投げ渡した。
「「!!」」
それを見て東條と三田村が驚く。
当然である、両者とも北崎がガイに変身して戦うと思っていたからである。
「それで遊ばせてあげるよ、僕は優しいからさ」
咄嗟にでもうまくキャッチした三田村を怪しく睨む北崎。
そんな視線の意味を理解しながら三田村はガイのデッキを握り締めた。
「…どっちでもいいよ…君たちはどうせ、僕が英雄になるための糧なんだ」
ガイのデッキを持つ三田村に視線を変えながら、破片のサイドミラーにデッキを映す東條。
瞬間、銀色のデッキが東條の腰部に現れる。
するとそれに気づいてか、三田村も倒れた凱火に駆け寄ってサイドミラーにデッキを映す。
同時に東條と同じく銀色のデッキが腰部に出現したのを確かめる。
「「変身!」」
2つの声が響き、2人の戦士を出現させた。
鋭き爪を持った白虎の戦士――仮面ライダータイガ。
全てを貫く角を持った灰犀の戦士――仮面ライダーガイ。
北崎を挟み込むように、2人の仮面ライダーが対峙した。
「頑張ってよ三田村君、使い方わかるでしょ?」
オーガドライバーをディパックに詰めながら言う北崎。
それに無言で頷いたガイは、力強く大地を蹴ってタイガ目掛けて駆け出した。
****
2人の仮面ライダーが睨みあい間合いを取りながら駆け抜ける。先程の交差点から少し離れ、既に北崎からは姿を見えない場所にいる。小さな一軒家や小屋などが疎らに立ち並ぶ中でようやく足を止めた。
そうして視線をぶつけあう中で両者は同時に動いた。
STRIKEVENT
STRIKEVENT
同じ電子音声が響き、両者に武器が与えられる。
タイガには両手に鋭い爪が。ガイには先程、北崎に弾かれた剣が。
それぞれに与えられた武器を構えて攻撃の機を伺う。
そうして仮面の下に覗かせた瞳に敵を映すと、両者同時に地を蹴った。
先に振り下ろされたメタルホーンを左手のデストクローで防御するタイガ。金属音と火花を散らして体に振動を感じながら余った右手の爪でガイを引き裂く。
しかし、身を捻って回避したガイによって爪は空を切るだけに終わる。すると捻った体を一度回転させたガイは、メタルホーンに遠心力を加えて再び振り下ろした。
それに瞬時に反応したタイガ、今度は両手のデストクローを盾にして防御に成功した。
再度散る火花と金属音。だが今度はそれにガイの声が続いた。
「待て!話を聞け!俺は……味方だ!」
その不可解な言葉に、メタルホーンを払いのけて間合いを取るタイガ。
「…どういう意味かな?」
「味方」だと言って近づいて不意打ちを狙うなど幼稚な手だ。
自分に適わないと悟って言い出したことか…いずれにせよ鵜呑みにはできない。
「お前もわかっただろ!あの北崎ってやつは化け物だ!」
ガイの言葉に先程の男の事を思い出すと、少しだけ黙って耳を傾けるタイガ。
「お前一人で戦ったって勝てやしない!」
北崎の恐ろしさを知っているからのガイの言葉は重みを背負っている。
「…それで、一緒にあいつを倒そうっての?君、あいつの味方なんじゃないの」
「…今だけだ」
タイガの問いに渋って声を出すガイ。
「ふーん…それで、2人であいつを倒そうっての?」
「そうだ!今のあいつは戦う力が無い!さっきの黒い奴にもオルフェノクってのにも制限でなれない!」
そう、これこそがガイ…三田村の考えだった。
ガイのデッキを渡されたとき、瞬時に脳裏を駆け巡った考え。
今、北崎が変身できないのなら倒せるかもしれない。それだけが何度も心に囁いた。
実際北崎には制限によって戦う術は無い、あるのは触れるだけ砂化させる能力だけ。
それだけに気をつければ負けることは無い。確実に勝てる。それもこの男と協力できればなお確実だ。
だからこそ北崎には会話が聞こえぬ位置まで戦いの場を移した。それもすぐに実行に移せるように遠からず近からずにあって死角になる場所だ。
「頼む!力を貸してくれ!今しかないんだ!」
これは奇跡に近い千差一隅のチャンスなのだ。これを逃せば北崎を倒す機会は無くなる。
そう考えても可笑しくない、それほどまでに北崎は強敵である。
逆らえずただ玩具のように振り回されるのは御免だ。ここで逃れてみせる。
「ふぅん…」
必死な声のガイにタイガは少しだけ思考を巡らせる。
おそらくは本当のことを言っているのだろう、必死さからもそれが伺える。
あの男を倒すことに否定はしないが罠の可能性も捨てきれない。
「……いいよ、手を貸してあげるよ」
「ほ、本当か!?」
冷ややかな声の賛成に驚いてしまったガイ。
「本当さ、やるなら急ごうよ。僕たちの変身も長く持たないしさ」
「あ、ああ…そうだな!よし、こっちだ!」
変身時間のことまで気にかけるタイガの言葉に協力の確信を持ったガイは、北崎打倒の心を燃やして敵の居場所へ駆け出した。
だが、それを後ろから追いかけるタイガは仮面の下で怪しく微笑む。
北崎を倒せれば、また一歩英雄に近づける。そして幾ら好機とはいえ簡単に敵であった者の協力を信じるとは愚かである。そんなことでは英雄には程遠い。
所詮この男も英雄にはなれない、自分が英雄になるための踏み台なのである。
(あいつを倒したら…次は君だよ)
先を走るガイを見ながらタイガは仮面に隠れた瞳を鈍く光らせた。
* * *
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