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*tears memory  昼下がりの町を疾駆する二つの人影。  五代と光は一つの方角へ走っていた。  ハナと結花が逃げた方角、そして風のエルが飛んでいった方角へ。  変身はついさっき解けてしまった。  風のエルの策にまんまと乗せられてしまい、ナイトとファムの飛行する手段を使い切ってしまったため、走る他なかった。  ハナと結花を狙っているのなら、二人の足を考えても遠くはないはず。  光はそう考えながら駆けていた。  と、前方やや左の建物の陰から何かが飛んでいるのが見えた。 「光さん、あれ!」  五代も気づいて指を刺している。  さっきの怪人が少女を抱えて飛行していた。 「ハナ!」  光がつぶやく間にも風のエルは二人の上空を通り過ぎ、そのまま後方へ向かって飛行している。  さっきファムに変身したばかりだし、アンデッドへの変身もまだ制限時間のはずだ。それは五代も同じ。 「光さん、デッキを!」  五代は光の手からファムのデッキを奪い取り、代わりにナイトのデッキを押しつける。  そして道路のカーブミラー目がけてファムのデッキをかざした。 「待て!」  光は五代の意図を理解すると同時に、彼のデッキを持った手を押さえた。 「光さん!? ハナさんを助けないと――」 「落ち着け! 今からでは変身しても追いつけん! ヤツの武器で撃ち落されるのがオチだ!」 「でも!」  言い合う間に風のエルの姿は小さくなっていた。  遠くに見える放送局の方向へ飛び去っていくのを二人は歯噛みしながら見ているしかなかった。 「それより結花が心配だ。ヤツがハナだけを連れて行ったとなると……」  風のエルが抱えていたのはハナだけだった。では、一緒に逃げた結花は? 「まさか……」 「結花を探すぞ。ヤツの事はそれからだ」  光はナイトのデッキをポケットに押し込みながら走り出す。  しばらく二人で走った後、彼女は路地へ入っていった。 「二手に分かれるぞ。私はこっちを探す」 ◇ ◆ ◇ 「結花さん! 結花さん!」  光が行ったのと別の路地に入り、結花を呼ぶ五代。  これ以上仲間を危険な目に合わせたくなかった。  剣崎やイブキの最後の姿がフラッシュバックする。  最悪のケースだけはせめて免れている事を祈りながら結花の名を呼び続けた。  しばらく走り回っていると、交差点に大きな布が落ちていた。 「これは……」  手に取って見ると、切り裂かれた美しい着物だった。確かハナが持っていた物だ。 「……っ…………っ……」  何か聞こえて横の道に顔を上げると、少女が地面に突っ伏して泣いていた。 「結花さん……」  思わずため息がもれる。心底ほっとした。 「結花さん。大丈夫? ケガはない?」  駆け寄り、声をかける。  結花はゆっくり顔を上げた。目が赤く、ずっと泣きはらしていた事が見て取れた。  体を見ると、汚れてはいるがケガはないようだ。 「光さーん! 結花さんがいました!」  光るがいるであろう方向へ大声を飛ばす。そして結花の顔をのぞきこんだ。 「よかった、無事で。心配したんだよ」 「ごめんなさい……」  小さい声で答える結花。 「ごめんなさい……ハナさんが……あいつに……」 「結花!」  光がやって来て五代に並んで結花の前にしゃがむ。 「私……何も……何もできなくて……ごめんなさい……」  しかし結花はうつむき、涙声で謝罪の言葉を口にした。 「ごめんなさい……」  結花の目から涙が流れる。 「…………」  結花の涙に、五代はある少女の事を思い出した。  夏目実加。  五代がもといた世界での未確認生命体による最初の犠牲者達、そのうち一人の娘だった。  五代は葬儀で彼女が涙を流すのを見ていた。  その前日、クウガに二度目の変身をして未確認生命体第3号と戦ったが白のクウガだったため一方的に打ちのめされ、その場にいた一条――彼もこの殺し合いで命を落とした――も負傷させてしまった。  中途半端に関わろうとするな。彼は五代にそう言った。  相手が殺人も厭わない怪人とはいえ暴力には強い抵抗があり、戦う覚悟ができていないまま変身したため白のクウガのままだった。  決心をつけなければクウガの本当の力を引き出せない事はわかっていたが、暴力を振るう事への抵抗がそれを躊躇わせていた。  しかし実加の涙を見て、未確認を止めなければ彼女のように笑顔を奪われる人が増える――その現実を目の当たりにした事で、五代は未確認との戦いを決意した。  これ以上、誰かの涙は見たくない。みんなに笑顔でいて欲しい。  葬儀の後、未確認第3号に襲われていた一条に対して彼はそう宣言した。  だが今、結花は泣いている。  ハナを目の前で連れさらわれ、自分の無力を悔やんで苦しい思いをしている。  自分がいながら、彼女の笑顔が奪われてしまった。  五代は自分の手に視線を落とした。  彼女のために自分にできる事は。  彼女の笑顔を取り戻すためには、どうすればいいのか。  泣いている結花の肩を優しく抱いて、五代は微笑んだ。 「大丈夫。ハナさんは俺達がきっと救い出すから」  その言葉に、結花は涙に濡れた顔を上げた。 「きっとまだ間に合う。チャンスはあるはずなんだ。だから泣かないで」  優しく語りかける五代。結花の表情は変わらない。 「だが五代……」  と光の声。結花の肩に手を置いたまま、光に顔を向ける。 「光さん。あいつ、放送局の方へ飛んでいきましたよね?」  怪訝そうな表情をする光。 「さっき俺、放送局の鉄塔に人が吊るされてるのを見たんです。  もしかするとあいつ、人をさらって放送局へ連れて行ってるんじゃないかな」  光はそれを聞いて放送局がある方を見た。 「本当か?」 「はい。だから、まだハナさんも生きている可能性あると思うんです」  そう言って、再び結花に向き直る。 「ハナさんは、ケガとかした?」 「い、いいえ……」  その言葉に五代は頷き、 「なら大丈夫。きっと無事に助けてみせるよ。だって俺クウガだし」  にっこり笑い、サムズアップをする五代。  結花の表情は変わらなかったが、五代の指をじっと見ていた。 「よし、行こう。そろそろ俺と光さんの変身も出来る頃だし、デッキの変身も一回残ってるから何とかなるよ、きっと」  五代は立ち上がり、結花に手を差し伸べて立たせる。  まだ悲しい顔をしているが、涙は治まったようだ。 「大丈夫!」  結花に再びサムズアップ。 「五代さん……」  結花は涙を手でぬぐった。その肩に光が手をポンと置いた。 「安心しろ。ハナは私達が助ける」 「光さん……」  光の凛とした表情を見つめる結花。 「ごめんなさい……私、何も出来なくて……」  うつむく結花に、五代は笑いかける。 「大丈夫だって。俺達、やる時はちゃんとやるよ。そして君にもきっと、何かをやる時が来ると思う」  その言葉にはっと顔を上げる結花。  この言葉も五代が夏目美加に言った事だ。  五代は笑顔のままで、 「だから、いつでも自分ができる事をしないとね。俺、全力でハナさんを助けるから」  そう言って、放送局へ歩き出した。 「…………」  二人がついて来ているのを確認して、歩きながら五代は夏目美加の事を考えていた。  クウガとして戦う覚悟を決めたきっかけになった少女。結花を見てそれを思い出した。  ハナはなんとしても救い出さねばならない。  もちろんハナのためだが、結花のためでもある。  彼女はイブキの事で深く傷ついている。この上、ハナまで失えば、彼女の笑顔は永遠に取り戻せないかもしれない。  自分はみんなの笑顔を守るために戦っているのだ。  剣崎、そしてイブキの死を目の当たりにし、彼らを殺したダグバや牙王への、そしてそれを目の前で食い止められなかった自分自身への憎悪が心に渦巻いていた。  それに心を覆われ、自分の戦う理由を見失いかけていた。  その黒い感情はまだ昇華しきれていないが、忘れかけていた大事な事を思い出す事ができた。  笑顔を守るために。  翼の怪物からハナを救い出す事ができれば結花の、そして憎悪を抱える自分自身の心を救う事ができるかもしれない。 (絶対に助ける……!)  両手を握り締め、五代は強く決意を固めた。 (……でも待てよ?)  ふと疑問が浮かび、後ろの結花を見る。 (なんで結花さんは放っといてハナさんだけ連れて行ったんだ?)  首を傾げる。  結花は無傷。連れ去っていかなければ危害も加えず、彼女だけ無視したような感じだ。  結花に並んで歩きながら、光が落ちていた斧をデイパックにしまっているのが見えた。  あれは確かハナが持っていたから、恐らく彼女はこれを使って抵抗したのだ。  もしかすると、結花は恐怖ですくんで抵抗しなかったのかもしれない。だが、だからといって放置するのも不自然な気がする。  ハナに危害を加えず連れ去って行ったのも不可思議ではあるが、それなら二人一緒にさらって行きそうなものだ。 (あの武器持ってるせいで、一人しか抱えられなかったとか?)  有り得るかも知れないが、それならハナを放送局に置いてきて舞い戻り、結花を連れ去りに来そうなものだ。  しかし、けっこう時間は経っているがヤツが来る気配はない。  自分達が結花と合流したからにしても、様子を見に来るくらいはするはずだ。  そうなると、ヤツは結花に興味がないとしか考えられない。 (だとすると、なんで?)  しばらく考えながら歩いていたが答えが出ないため、考えるのを中断してハナの事に集中する事にした。 ◇ ◆ ◇ 「行くぞ」  光は落ちていた斧を拾うと結花の肩をポンと叩いて歩き出し、結花も二人について行った。  前を歩く五代の背中を見ながら斧をデイパックへしまいこむ。 「…………」  五代の雰囲気が少し変わった。  イブキが死んでから精神的に余裕がなくなったのか危なっかしい感じだったが、今の五代はその余裕を取り戻したように見える。  結花の涙を見た事で吹っ切れたのかも知れない。 (ちょうどいい。ハナを救わねばならんからな)  少々不安があった五代が立ち直りつつある事は喜ぶべき事だ。  仲間を失うわけにいかないのは彼女とて同じだ。  五代が言った通り、アンデッド体への変身はそろそろ可能な時間だ。 (だが解せんな……どうしてハナだけさらって結花には手を出さなかった?)  光も五代同様、その点が気になった。  だが、今はそれ所ではないと思い直す。  どうやってハナを救い出すか。光は考えをめぐらせ始めた。 ◇ ◆ ◇  二人にうながされるままにとぼとぼと歩きながら、結花は五代の言った事を反芻していた。 ――君にもきっと、何かをやる時が来ると思う。 ――だから、いつでも自分ができる事をしないとね。  自分も戦う時が来るという事だろうか。 (そんな事言ったって……)  それはつまり、オルフェノクの力を使う事だ。  自分がそれを見られるのを恐れている事を五代はわかっていない。  とはいえ、結局それをしなかったせいでハナがさらわれたのは事実だから彼を責める事はできない。  わかってはいるが、彼女には五代の言葉は自分の気持ちを考えていなさすぎるように思えた。  五代のクウガとして戦う信念、そこに至る過程を知っていればあるいはもっと素直にその言葉を受け止められたかもしれない。  しかしそんな事は知る由もなく、精神的に追い詰められている結花には彼の言葉はひどく重いものに感じられた。 **状態表 【G-3 住宅街のはずれ】【1日目 午後】 【五代雄介@仮面ライダークウガ】 [時間軸]:33話「連携」終了後 [状態]:全身打撲、負傷度大(応急手当済み)、強い自己嫌悪(やや持ち直す)。ナイトに変身不可(2時間)。 [装備]:カードデッキ(ファム)、警棒@現実、コルトパイソン(残弾数5/6:マグナム用通常弾) [道具]:警察手帳(一条薫) [思考・状況] 基本行動方針:絶対に殺し合いを止め、みんなの笑顔を守る 1:鳥の怪人からハナを救出し、結花の笑顔を守る。 2:北條を救出するために、乃木の命令を可能な限りで遂行する。 3:白い未確認生命体(アルビノジョーカー)、ダグバ、ガドル、牙王を倒す。 4:金のクウガになれなかったことに疑問。 5:剣崎の分まで頑張って戦い、みんなの笑顔を守りたい。 6:鳥の怪人はなぜ結花に何もしなかった? 7:屋上の人影が気になる。 【備考】 ※第四回放送まで、ライジングフォームには変身不能 ※ペガサスフォームの超感覚の効果エリアは1マス以内のみです。また、射撃範囲は数百メートル以内に限られます。 ※ドラゴン、ペガサス、タイタンフォームには変身可能。ただし物質変換できるものは鉄の棒、拳銃など「現実に即したもの」のみで、サソードヤイバーやドレイクグリップなどは変換不能。 ※葦原涼の「未確認生命体事件」の終結を聞き、時間軸のずれに疑問を持ちました。 ※葦原涼のギルスへの変身能力について知りません。 【城光@仮面ライダー剣】 [時間軸]:40話、トライアルについて知った後 [状態]:膝などに軽い擦り傷。腹部に裂傷(中程度:応急手当済み)。各部に中程度の打撲。ファムに変身不可(2時間)。 [装備]:カードデッキ(ナイト)、冥府の斧@仮面ライダーアギト [道具]:基本支給品・トランシーバーA・ラウズカード(スペードQ/K) [思考・状況] 基本行動方針:このゲームから脱出する。主催にはバトルファイトを汚した罰を与える。 1:鳥の怪人からハナを救出する。 2:北條奪還のため、まずは『青いバラ』『首輪』の入手、『放送』の指令を遂行。 3:他の参加者とは必要以上に関わる気はない。邪魔ならば排除するが基本的に放置。 4:剣崎の死、北條の言葉、乃木との戦闘から首輪制限下における単独行動の危険性を認識。 5:五代の態度に苛立ちつつ、僅かに興味。 志村に違和感。 6:イブキの代わりに、結花の面倒を見る 7:首輪探知手段の支給という行為に疑問 8:鳥の怪人はなぜ結花に何もしなかった? 【備考】 ※トランシーバーの有効範囲は周囲一マスまでです。 ※以下の様に考えています 青い薔薇は首輪と関係がある ライダーの強化フォームはなんらかの制限が掛かっている。 【長田結花@仮面ライダー555】 [時間軸]本編第41話終了直後(武装警官を一掃する直前) [状態]小程度の負傷、人間への不信感(軽度) 、海堂・イブキの死に対する強い悲しみ。 [装備]変身鬼笛・音笛、音撃管・烈風、ディスクアニマル(アサギワシ) [道具]ライダーブレス(ケタロス:資格者不明)、青い花びら、トランシーバーB [思考・状況] 基本行動方針:木場と合流する 1:ハナを目の前でさらわれた事とイブキの死に深い悲しみ。自分の無力さを嫌悪。 2:「人間ではない」城光に若干の好意。「人間」の「警官」北條には強い警戒心。 3:仲間達に嫌われたくない。オルフェノクであることは極力隠す。でも、いつか何かをする時が……? 4:指令なんて、どうしたら……? 5:五代に対してわずかな悪感情。 ※イブキの亡骸がドラグブラッカーに捕食されたのを目の当たりにしています。 ※トランシーバーの有効範囲は周囲一マスまでです。 |109:[[Traffics(前編)]]|投下順|111:[[憎悪の声は歓喜する(前編)]]| |109:[[Traffics(前編)]]|時系列順|000:[[後の作品]]| |105:[[病い風、昏い道(前編)]]|[[五代雄介]]|113:[[Crisis(前編)]]| |105:[[病い風、昏い道(前編)]]|[[城光]]|113:[[Crisis(前編)]]| |105:[[病い風、昏い道(前編)]]|[[長田結花]]|113:[[Crisis(前編)]]|
*tears memory  昼下がりの町を疾駆する二つの人影。  五代と光は一つの方角へ走っていた。  ハナと結花が逃げた方角、そして風のエルが飛んでいった方角へ。  変身はついさっき解けてしまった。  風のエルの策にまんまと乗せられてしまい、ナイトとファムの飛行する手段を使い切ってしまったため、走る他なかった。  ハナと結花を狙っているのなら、二人の足を考えても遠くはないはず。  光はそう考えながら駆けていた。  と、前方やや左の建物の陰から何かが飛んでいるのが見えた。 「光さん、あれ!」  五代も気づいて指を刺している。  さっきの怪人が少女を抱えて飛行していた。 「ハナ!」  光がつぶやく間にも風のエルは二人の上空を通り過ぎ、そのまま後方へ向かって飛行している。  さっきファムに変身したばかりだし、アンデッドへの変身もまだ制限時間のはずだ。それは五代も同じ。 「光さん、デッキを!」  五代は光の手からファムのデッキを奪い取り、代わりにナイトのデッキを押しつける。  そして道路のカーブミラー目がけてファムのデッキをかざした。 「待て!」  光は五代の意図を理解すると同時に、彼のデッキを持った手を押さえた。 「光さん!? ハナさんを助けないと――」 「落ち着け! 今からでは変身しても追いつけん! ヤツの武器で撃ち落されるのがオチだ!」 「でも!」  言い合う間に風のエルの姿は小さくなっていた。  遠くに見える放送局の方向へ飛び去っていくのを二人は歯噛みしながら見ているしかなかった。 「それより結花が心配だ。ヤツがハナだけを連れて行ったとなると……」  風のエルが抱えていたのはハナだけだった。では、一緒に逃げた結花は? 「まさか……」 「結花を探すぞ。ヤツの事はそれからだ」  光はナイトのデッキをポケットに押し込みながら走り出す。  しばらく二人で走った後、彼女は路地へ入っていった。 「二手に分かれるぞ。私はこっちを探す」 ◇ ◆ ◇ 「結花さん! 結花さん!」  光が行ったのと別の路地に入り、結花を呼ぶ五代。  これ以上仲間を危険な目に合わせたくなかった。  剣崎やイブキの最後の姿がフラッシュバックする。  最悪のケースだけはせめて免れている事を祈りながら結花の名を呼び続けた。  しばらく走り回っていると、交差点に大きな布が落ちていた。 「これは……」  手に取って見ると、切り裂かれた美しい着物だった。確かハナが持っていた物だ。 「……っ…………っ……」  何か聞こえて横の道に顔を上げると、少女が地面に突っ伏して泣いていた。 「結花さん……」  思わずため息がもれる。心底ほっとした。 「結花さん。大丈夫? ケガはない?」  駆け寄り、声をかける。  結花はゆっくり顔を上げた。目が赤く、ずっと泣きはらしていた事が見て取れた。  体を見ると、汚れてはいるがケガはないようだ。 「光さーん! 結花さんがいました!」  光るがいるであろう方向へ大声を飛ばす。そして結花の顔をのぞきこんだ。 「よかった、無事で。心配したんだよ」 「ごめんなさい……」  小さい声で答える結花。 「ごめんなさい……ハナさんが……あいつに……」 「結花!」  光がやって来て五代に並んで結花の前にしゃがむ。 「私……何も……何もできなくて……ごめんなさい……」  しかし結花はうつむき、涙声で謝罪の言葉を口にした。 「ごめんなさい……」  結花の目から涙が流れる。 「…………」  結花の涙に、五代はある少女の事を思い出した。  夏目実加。  五代がもといた世界での未確認生命体による最初の犠牲者達、そのうち一人の娘だった。  五代は葬儀で彼女が涙を流すのを見ていた。  その前日、クウガに二度目の変身をして未確認生命体第3号と戦ったが白のクウガだったため一方的に打ちのめされ、その場にいた一条――彼もこの殺し合いで命を落とした――も負傷させてしまった。  中途半端に関わろうとするな。彼は五代にそう言った。  相手が殺人も厭わない怪人とはいえ暴力には強い抵抗があり、戦う覚悟ができていないまま変身したため白のクウガのままだった。  決心をつけなければクウガの本当の力を引き出せない事はわかっていたが、暴力を振るう事への抵抗がそれを躊躇わせていた。  しかし実加の涙を見て、未確認を止めなければ彼女のように笑顔を奪われる人が増える――その現実を目の当たりにした事で、五代は未確認との戦いを決意した。  これ以上、誰かの涙は見たくない。みんなに笑顔でいて欲しい。  葬儀の後、未確認第3号に襲われていた一条に対して彼はそう宣言した。  だが今、結花は泣いている。  ハナを目の前で連れさらわれ、自分の無力を悔やんで苦しい思いをしている。  自分がいながら、彼女の笑顔が奪われてしまった。  五代は自分の手に視線を落とした。  彼女のために自分にできる事は。  彼女の笑顔を取り戻すためには、どうすればいいのか。  泣いている結花の肩を優しく抱いて、五代は微笑んだ。 「大丈夫。ハナさんは俺達がきっと救い出すから」  その言葉に、結花は涙に濡れた顔を上げた。 「きっとまだ間に合う。チャンスはあるはずなんだ。だから泣かないで」  優しく語りかける五代。結花の表情は変わらない。 「だが五代……」  と光の声。結花の肩に手を置いたまま、光に顔を向ける。 「光さん。あいつ、放送局の方へ飛んでいきましたよね?」  怪訝そうな表情をする光。 「さっき俺、放送局の鉄塔に人が吊るされてるのを見たんです。  もしかするとあいつ、人をさらって放送局へ連れて行ってるんじゃないかな」  光はそれを聞いて放送局がある方を見た。 「本当か?」 「はい。だから、まだハナさんも生きている可能性あると思うんです」  そう言って、再び結花に向き直る。 「ハナさんは、ケガとかした?」 「い、いいえ……」  その言葉に五代は頷き、 「なら大丈夫。きっと無事に助けてみせるよ。だって俺クウガだし」  にっこり笑い、サムズアップをする五代。  結花の表情は変わらなかったが、五代の指をじっと見ていた。 「よし、行こう。そろそろ俺と光さんの変身も出来る頃だし、デッキの変身も一回残ってるから何とかなるよ、きっと」  五代は立ち上がり、結花に手を差し伸べて立たせる。  まだ悲しい顔をしているが、涙は治まったようだ。 「大丈夫!」  結花に再びサムズアップ。 「五代さん……」  結花は涙を手でぬぐった。その肩に光が手をポンと置いた。 「安心しろ。ハナは私達が助ける」 「光さん……」  光の凛とした表情を見つめる結花。 「ごめんなさい……私、何も出来なくて……」  うつむく結花に、五代は笑いかける。 「大丈夫だって。俺達、やる時はちゃんとやるよ。そして君にもきっと、何かをやる時が来ると思う」  その言葉にはっと顔を上げる結花。  この言葉も五代が夏目美加に言った事だ。  五代は笑顔のままで、 「だから、いつでも自分ができる事をしないとね。俺、全力でハナさんを助けるから」  そう言って、放送局へ歩き出した。 「…………」  二人がついて来ているのを確認して、歩きながら五代は夏目美加の事を考えていた。  クウガとして戦う覚悟を決めたきっかけになった少女。結花を見てそれを思い出した。  ハナはなんとしても救い出さねばならない。  もちろんハナのためだが、結花のためでもある。  彼女はイブキの事で深く傷ついている。この上、ハナまで失えば、彼女の笑顔は永遠に取り戻せないかもしれない。  自分はみんなの笑顔を守るために戦っているのだ。  剣崎、そしてイブキの死を目の当たりにし、彼らを殺したダグバや牙王への、そしてそれを目の前で食い止められなかった自分自身への憎悪が心に渦巻いていた。  それに心を覆われ、自分の戦う理由を見失いかけていた。  その黒い感情はまだ昇華しきれていないが、忘れかけていた大事な事を思い出す事ができた。  笑顔を守るために。  翼の怪物からハナを救い出す事ができれば結花の、そして憎悪を抱える自分自身の心を救う事ができるかもしれない。 (絶対に助ける……!)  両手を握り締め、五代は強く決意を固めた。 (……でも待てよ?)  ふと疑問が浮かび、後ろの結花を見る。 (なんで結花さんは放っといてハナさんだけ連れて行ったんだ?)  首を傾げる。  結花は無傷。連れ去っていかなければ危害も加えず、彼女だけ無視したような感じだ。  結花に並んで歩きながら、光が落ちていた斧をデイパックにしまっているのが見えた。  あれは確かハナが持っていたから、恐らく彼女はこれを使って抵抗したのだ。  もしかすると、結花は恐怖ですくんで抵抗しなかったのかもしれない。だが、だからといって放置するのも不自然な気がする。  ハナに危害を加えず連れ去って行ったのも不可思議ではあるが、それなら二人一緒にさらって行きそうなものだ。 (あの武器持ってるせいで、一人しか抱えられなかったとか?)  有り得るかも知れないが、それならハナを放送局に置いてきて舞い戻り、結花を連れ去りに来そうなものだ。  しかし、けっこう時間は経っているがヤツが来る気配はない。  自分達が結花と合流したからにしても、様子を見に来るくらいはするはずだ。  そうなると、ヤツは結花に興味がないとしか考えられない。 (だとすると、なんで?)  しばらく考えながら歩いていたが答えが出ないため、考えるのを中断してハナの事に集中する事にした。 ◇ ◆ ◇ 「行くぞ」  光は落ちていた斧を拾うと結花の肩をポンと叩いて歩き出し、結花も二人について行った。  前を歩く五代の背中を見ながら斧をデイパックへしまいこむ。 「…………」  五代の雰囲気が少し変わった。  イブキが死んでから精神的に余裕がなくなったのか危なっかしい感じだったが、今の五代はその余裕を取り戻したように見える。  結花の涙を見た事で吹っ切れたのかも知れない。 (ちょうどいい。ハナを救わねばならんからな)  少々不安があった五代が立ち直りつつある事は喜ぶべき事だ。  仲間を失うわけにいかないのは彼女とて同じだ。  五代が言った通り、アンデッド体への変身はそろそろ可能な時間だ。 (だが解せんな……どうしてハナだけさらって結花には手を出さなかった?)  光も五代同様、その点が気になった。  だが、今はそれ所ではないと思い直す。  どうやってハナを救い出すか。光は考えをめぐらせ始めた。 ◇ ◆ ◇  二人にうながされるままにとぼとぼと歩きながら、結花は五代の言った事を反芻していた。 ――君にもきっと、何かをやる時が来ると思う。 ――だから、いつでも自分ができる事をしないとね。  自分も戦う時が来るという事だろうか。 (そんな事言ったって……)  それはつまり、オルフェノクの力を使う事だ。  自分がそれを見られるのを恐れている事を五代はわかっていない。  とはいえ、結局それをしなかったせいでハナがさらわれたのは事実だから彼を責める事はできない。  わかってはいるが、彼女には五代の言葉は自分の気持ちを考えていなさすぎるように思えた。  五代のクウガとして戦う信念、そこに至る過程を知っていればあるいはもっと素直にその言葉を受け止められたかもしれない。  しかしそんな事は知る由もなく、精神的に追い詰められている結花には彼の言葉はひどく重いものに感じられた。 **状態表 【G-3 住宅街のはずれ】【1日目 午後】 【五代雄介@仮面ライダークウガ】 [時間軸]:33話「連携」終了後 [状態]:全身打撲、負傷度大(応急手当済み)、強い自己嫌悪(やや持ち直す)。ナイトに変身不可(2時間)。 [装備]:カードデッキ(ファム)、警棒@現実、コルトパイソン(残弾数5/6:マグナム用通常弾) [道具]:警察手帳(一条薫) [思考・状況] 基本行動方針:絶対に殺し合いを止め、みんなの笑顔を守る 1:鳥の怪人からハナを救出し、結花の笑顔を守る。 2:北條を救出するために、乃木の命令を可能な限りで遂行する。 3:白い未確認生命体(アルビノジョーカー)、ダグバ、ガドル、牙王を倒す。 4:金のクウガになれなかったことに疑問。 5:剣崎の分まで頑張って戦い、みんなの笑顔を守りたい。 6:鳥の怪人はなぜ結花に何もしなかった? 7:屋上の人影が気になる。 【備考】 ※第四回放送まで、ライジングフォームには変身不能 ※ペガサスフォームの超感覚の効果エリアは1マス以内のみです。また、射撃範囲は数百メートル以内に限られます。 ※ドラゴン、ペガサス、タイタンフォームには変身可能。ただし物質変換できるものは鉄の棒、拳銃など「現実に即したもの」のみで、サソードヤイバーやドレイクグリップなどは変換不能。 ※葦原涼の「未確認生命体事件」の終結を聞き、時間軸のずれに疑問を持ちました。 ※葦原涼のギルスへの変身能力について知りません。 【城光@仮面ライダー剣】 [時間軸]:40話、トライアルについて知った後 [状態]:膝などに軽い擦り傷。腹部に裂傷(中程度:応急手当済み)。各部に中程度の打撲。ファムに変身不可(2時間)。 [装備]:カードデッキ(ナイト)、冥府の斧@仮面ライダーアギト [道具]:基本支給品・トランシーバーA・ラウズカード(スペードQ/K) [思考・状況] 基本行動方針:このゲームから脱出する。主催にはバトルファイトを汚した罰を与える。 1:鳥の怪人からハナを救出する。 2:北條奪還のため、まずは『青いバラ』『首輪』の入手、『放送』の指令を遂行。 3:他の参加者とは必要以上に関わる気はない。邪魔ならば排除するが基本的に放置。 4:剣崎の死、北條の言葉、乃木との戦闘から首輪制限下における単独行動の危険性を認識。 5:五代の態度に苛立ちつつ、僅かに興味。 志村に違和感。 6:イブキの代わりに、結花の面倒を見る 7:首輪探知手段の支給という行為に疑問 8:鳥の怪人はなぜ結花に何もしなかった? 【備考】 ※トランシーバーの有効範囲は周囲一マスまでです。 ※以下の様に考えています 青い薔薇は首輪と関係がある ライダーの強化フォームはなんらかの制限が掛かっている。 【長田結花@仮面ライダー555】 [時間軸]本編第41話終了直後(武装警官を一掃する直前) [状態]小程度の負傷、人間への不信感(軽度) 、海堂・イブキの死に対する強い悲しみ。 [装備]変身鬼笛・音笛、音撃管・烈風、ディスクアニマル(アサギワシ) [道具]ライダーブレス(ケタロス:資格者不明)、青い花びら、トランシーバーB [思考・状況] 基本行動方針:木場と合流する 1:ハナを目の前でさらわれた事とイブキの死に深い悲しみ。自分の無力さを嫌悪。 2:「人間ではない」城光に若干の好意。「人間」の「警官」北條には強い警戒心。 3:仲間達に嫌われたくない。オルフェノクであることは極力隠す。でも、いつか何かをする時が……? 4:指令なんて、どうしたら……? 5:五代に対してわずかな悪感情。 ※イブキの亡骸がドラグブラッカーに捕食されたのを目の当たりにしています。 ※トランシーバーの有効範囲は周囲一マスまでです。 |109:[[Traffics(前編)]]|投下順|111:[[憎悪の声は歓喜する(前編)]]| |109:[[Traffics(前編)]]|時系列順|106:[[龍哭(前編)]]| |105:[[病い風、昏い道(前編)]]|[[五代雄介]]|113:[[Crisis(前編)]]| |105:[[病い風、昏い道(前編)]]|[[城光]]|113:[[Crisis(前編)]]| |105:[[病い風、昏い道(前編)]]|[[長田結花]]|113:[[Crisis(前編)]]|

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